PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<信なる凱旋>proelium in insula

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●小島での戦い
 ブルーパピリアは海洋王国に存在する小さな島である。その小ささは村一つ分にすら届かず、しかしごく僅かな人間が漁をすることで暮らしていた。そういう小さく静かな島であった。
 いや、それはもう過去形だ。
 影の天使たちによる襲撃を受けたこの島はたちまち制圧され、触媒を用いた帳が下ろされてしまったのだ。
 住民たちは皆殺しにされ、僅かながらも豊かであった食物は全て枯れ果てている。
 この地獄のような島の中心に、黒き鎧を纏った騎士は立っていた。
 巨大な、鉄塊ともいえるような剣を肩に担いで立つその姿からは廃滅病の気配が漂っている。
「――」
 騎士は呼吸をするようにゆっくりと上向くと、周囲に漂う廃滅病の気配を身体の中へと蓄え始める。
 おぞましい計画を実行に移すために。

「ファミリアーを使って最後に掴んだ情報は、島周辺に展開する防衛戦力の船と、中央の島に陣取る漆黒の騎士の姿だ。つまり、連中は『廃滅病』を騎士に溜め込み天義へとばらまこうと計画していることになる」
 時は現在、天義は混迷のさなかにあった。
 シェアキム六世に齎されたという神託から始まった一連の『正しき歴史』とやらは、この世界にイレギュラーズがいなければ起こっていたであろう天義の滅亡や鉄帝からの侵略戦争、豊穣の滅びや海洋が廃滅病に包まれる未来など散々たるものである。
 それを現実に塗り替えようと動くのがルスト派の遂行者たち。彼らはこの現実に帳を下ろすことで現実を上書きし、自らが主張する正しき歴史を主張するのだ。
 今回もそんな事件の一つである。
「現在天義や隣国の海洋には『預言の騎士』なる存在があちこちに派遣されていることは知っているか? 第一から第四までの騎士はルストの権能によって作られた騎士たちで、それぞれが特別な能力を持っている。
 このブルーパピリア島に帳をおろし、活動している黒騎士もそのひとつだ」
 黒騎士の能力は廃滅病の力を身体のなかに蓄えること。もし蓄えきってしまえば帳から姿を消し、今度はそれを天義へとばらまくに違いない。
「現在帳の下ろされたブルーパピリア島とその周辺海域には『廃滅病』の気配が漂っている。この領域に入るだけでステータスダウンやHPの継続的な減少といった効果をうけることになるだろう。海洋海軍でもそうそう手を出せない状態だ。そこで……海洋王国からローレットに依頼が舞い込んだってわけさ」
 情報屋の男はそう語ると、ブルーパピリア島とその周辺海域のマップを広げて見せた。

 ブルーパピリア島周辺には三つの船が待ち構えるようにして配置されている。
 これは影の天使や影の艦隊(マリグナント・フリート)たちによって構成された防衛部隊だ。
「自前の船があるなら、三方向からの同時攻撃で敵を分断しつつ戦うのがいいだろうな。もし誰も船を持ってなくても海軍が船を貸してくれるらしいから、そこは安心してくれ。
 彼らを倒し突破した先……このブルーパピリア島に黒騎士はいる。
 黒騎士が廃滅病の力を蓄えきってしまうまえに倒さなきゃあならないからな。そういう意味じゃ、こいつは時間制限付きのミッションと言えるだろう」
 情報屋はそこまで説明すると、マップを丸めてあなたへと手渡した。
「こいつを取り逃せば天義に廃滅病がばらまかれちまうことになる。一体どれだけの被害がでるかわかったもんじゃない。必ず、黒騎士をぶっ倒してくれ。頼んだぜ」

GMコメント

●シチュエーション
 三隻の船に守られたブルーパピリア島へと船戦をしかけ、突破した先の小島で黒騎士との決着をつけましょう。
 時間をかけすぎれば黒騎士は廃滅病の力をたくわえきってこの場から消えてしまいます。そうなるまえに、黒騎士を倒すのです!

 前半は船戦、後半は島でのボス戦闘となります。

●フィールド
 三隻の船で守られた島です。
 一隻で突っ込んでいくと確実に囲まれてボコられるので、できればこちらも三隻に分かれてそれぞれ攻撃をしかけていったほうがいいでしょう。

●エネミー
・『影の艦隊(マリグナント・フリート)』×多数
 『影で出来た人間』の姿をしているほか、全員が『戦艦の大砲や高射砲のような、近代的な装備』で武装しています。
 それぞれが船の防衛戦力として配置されており、激しい砲撃戦が予想されます。

・影の天使
 剣や槍などで武装した人型の兵士系モンスターです。
 主に皆影でできた天使のような姿をしています。

・黒騎士
 巨大な剣を装備した騎士です。見た目通りに攻撃力が高く、なぎ払うような範囲攻撃も可能です。
 制限時間もあるため、ある程度作戦を立てて挑まなければ結構な痛手を負うことになるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <信なる凱旋>proelium in insula完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
マリオン・エイム(p3p010866)
晴夜の魔法(砲)戦士

リプレイ


 出張店舗船ステラビアンカII号。船と言うより海上のキッチンと言った方が正しいこの船に、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)はゆっくりと揺られていた。
「廃滅病を土産に持って帰ろうって悪趣味なやつがここにもいるとはなぁ。
 どうせなら旨い地酒やら新鮮な海の幸やらも広めてくれねぇモンかね。天義からの観光客が減っちまう」
「そういうことなら私が受け持つが?」
 冗談だと知りながら、運転席で『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が肩をすくめてみせる。
 笑って手を振る縁。
「廃滅病の厄介さは、こちとら身を持ってよく知ってるんでね。
 だからこそアルバニアに対して、それなりに敬意もある。もう一回やり合いたいとは思わんが。
 廃滅病は海洋の歴史のひとつで、俺たちが打ち破った絶望の証だ。
 そいつを、急に出てきたやつが好き勝手使おうってのは、海洋に喧嘩を売ってると取られても文句は言えねぇな」
 次の言葉は、どうやら冗談ではないらしい。
 『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)がベンチに座って頬を膨らませている。
「もう見飽きたんですけど……こいつら各所でぽこじゃか沸いてますけどもしかしてなんか……思ったよりずっと大変なことになってるんですかね……?」
「世界規模の窮地だぞ」
「そうなんですか? ……まぁ、やることは毎回一緒なんでやるんですが。
 あんまり僕の得意なことじゃないんですけどねぇ、時間との闘いって。黒騎士、結構強いですし」
 ベークのテンションは相変わらずだ。それは廃滅病が猛威を振るっていた時からマイペースな彼なのである。
 モカはこくりと頷き、船の舵をきった。
 そして、宣言するように言い放つ。
「平和に暮らしていたブルーパピリア島の住民たちを虐殺し、狂信している『正しき歴史』を我々世界の全人類に押し付ける奴らを許すわけにはいかない。
 我々にとっては『皆が喜び、誰も悲しまない歴史』こそが正しき歴史だ!」

 モカの船に続く形で自らの海賊船ツナ缶号を進ませる『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)。
 彼も彼で、絶望の青とその踏破には思い入れがあるのだ。
「せっかく消えた廃滅病をコピーして天義にばらまこうとするなんて、悪い事だしやり方もひどい! 絶対止めないとね!」
「うん……皆を、守らないと……」
 船の手すりから身を乗り出して『玉響』レイン・レイン(p3p010586)が言う。
「ところで、船、沈めるの……?」
「沈めるよ。どかんって」
 魔法を打ち出す仕草をする『双影の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)。
 けどぱっとみ沈まなそうな気がしてきたなあとマリオンは思った。幽霊船のような元から穴だらけで穴など気にしない船なら兎も角、『マリオン一人分のHPよりもろい船』に易々と乗ってる状態が想像できなくなってきたのだ。敵に同じ事をされたら沈むのか? という仮説も含めて。よしんば沈めたとしても相手はマリグナント・フリート。水中戦闘も普通にこなしてくる可能性が充分にあった。
「ま、もし水中戦になったらその時はその時だね」
「うん。いずれにせよ……戦わなきゃ、だから」

「敵の船が見えてきたぞ!」
 イズマが船の操縦を行いながら叫ぶ。
「廃滅病を再発させるどころか持ち出すなど、許せやしない!
 しかも島の住民は皆殺し、食物も全部枯れたなんて……最悪だ。
 ……壊し尽くされた後にしか来れなかった事が、悔しい……」
 強く歯噛みする錬。それだけ天義の魔の手は広く、早く、そして強力だということなのだろう。
 同じく船を操縦する『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が嫌な顔をした。
「廃滅病か。あの海洋決戦の折に召喚された身としては他人事ではないな。
 それ以前に島民を皆殺しとはな。形振り構っていられないのか、何にせよこれ以上の悪行を許す訳には行かない」
「ああ、その通りだ」
 イズマと顔を見合わせ、錬は頷いた。
「止めるぞ、ここで!」

 広い広い海。
 眼前には敵の船。
 ぶつかり合うは、今。


 ブルーパピリア島を囲む形で巡回する三つの船。それぞれが合流せぬよう三方向からそれぞれ分かれ、攻撃を仕掛けるというのが今回の作戦である。
「戦略での基本、常に相手より有利な位置、有利な戦力で叩く!」
 船を直接寄せにかかるモカ。
 マリグナント・フリートが高射砲や大砲を次々と放ち船へ攻撃を仕掛けてくる中で、モカはベークをとりあえず前に出して盾にした。
「あっ、ちょっと! 盾にするのやめてもらっても――」
「コレが一番効果がある」
「それはそうですけど!」
 激しい爆発にさらされるベーク。
 一通り攻撃を凌いだところで、モカは助走を付けて跳躍。
「黒豹疾駆撃!」
 空中で繰り出す連続のキックが気功によって誘導弾へと変わり、マリグナント・フリートたちの間で炸裂する。
 あとはベークを放り込んでやればOKだ。
「ああ!? 僕をデコイかなにかみたいに!」
 船から投射されたベークがぼてっと横っ腹を敵の甲板にぶつけて転がったところで、周囲の敵の視線が一斉に集まった。
 ウワッと声をあげて起き上がったベークはその場で毒の香りを散布。
 マリグナントフリートの一体がそれを喰らって泡を吹き倒れるのを眺めながら、縁もまた敵の船へとロープ伝いに飛び乗っていった。
「さあて、タダ乗りさせて貰う分程度の働きはするんで安心してくれや」
 飛び乗る際に魔術を行使し『歪曲のテスタメント』を発動。マリグナントフリートの一体を狙撃しつつ、相手の船に乗り込んだ。
「わざわざ海洋まで来てくれてありがとうよ。遠慮しねぇで、しっかり海を満喫していってくれや」
 石化の呪いを解こうともがくマリグナントフリートを軽く無視して、縁は抜いた刀に魔法を乗せた。
 抜刀。と同時に放たれる『黒顎魔王』の魔術。マリグナントフリートの身体が易々と切断され、ごろりと甲板に転がった。
 ここで恐ろしいのは敵の反撃である。マリグナントフリートの一体が機関銃を突き出し砲撃。
 激しい銃撃が浴びせられるも、それを縁は刀をひらりと抜いて踊らせることで銃弾を次々に撃ち落としていった。
 無論全弾回避というわけにはいかないが、耐えきれないダメージではない。
 こりゃあ島の連中がやられるわけだと内心で思いながら、第二の黒顎魔王を放つ縁であった。

 イズマはモカの船と挟むようにしてマリグナントフリートの船を押さえ込んでいた。
 艦隊中央。丁度どちらかの援護に向かおうとしたマリグナントフリートの動きを阻止した形だ。
 イズマは細剣メロディア・コンダクターを抜刀。そのシャランという音は変換され、まるで楽団が演奏を始めるかのような豪華な音となって奏でられる。
 走る足音はピアノの音色。甲板を飛ぶその跳躍は、風をきってバイオリンを奏でさせる。
「まずは一撃!」
 殲光砲魔神がイズマから放たれるのと、マリグナントフリートたちから砲撃が放たれるのはほぼ同時だった。
 衝撃は凄まじくイズマの身体は吹き飛ばされるが、一方でマリグナントフリートは纏めて何機も吹き飛ばされている。
 その間、援護に入ろうと迫ってきた船めがけて錬の船が思い切り激突した。
「さあて、始めるか!」
 錬が甲板をドンと叩いたと同時に式符・殻繰が発動。作り出された絡繰兵士がマリグナントフリートたちめがけて一斉に射撃を開始する。
 対して砲撃が浴びせられ、錬はその中を駆け抜けるようにして式符・陰陽鏡を発動。
 天に掲げられた魔鏡から光線が発射され、マリグナントフリートを右から左へと薙ぐように攻撃した。
 これは相手を破壊し尽くすための光線ではない。浴びせた相手の武装を混乱させるための光線だ。
 実際マリグナントフリートたちは砲撃ができずに困惑した様子を見せ、その間に錬は式符・相克斧を発動。斧を握りこんで相手の船へと飛び乗った。
 反撃に失敗したマリグナントフリートたちを次々と斧でたたき切っていく錬。

 その一方で、アクセルの海賊船ツナ缶号もまたマリグナントフリートの船と激突していた。
 空を飛んで『雲海鯨の歌』を振りかざすアクセル。
「いくよ! 音楽会の始まりだよ!」
 まるでオーケストラの指揮をするかのように杖を振ると五線譜状の魔術体が出現。マリグナントフリートたちめがけて一斉に放たれる。
 そのまた一方でマリオンとレインは海に潜る形で船に接近。それを感知したであろうマリグナントフリートもまた海へともぐり次々に魚雷を発射した。
 迫る魚雷群の連続爆発。マリオンはそれをなんとか防御しつつ、糸切傀儡の魔術砲撃を行った。
 海中で放たれる投網の如き糸がマリグナントフリートへ絡みつき、体勢を崩したところに更なる強烈な魔術砲撃を浴びせていく。
 レインは海中をフワッと泳いで魚雷の一発を回避すると、畳んでいた傘をライフルのように構えてマリグナントフリートへ狙いを付けた。
「よく……狙って……」
 砲撃。
 まるで巨大な海月が水流を放ち海を突っ切ったかのようにマリグナントフリートへと突っ込んでいき、そして彼らの間で爆発した。
 その間に空中で飛行しているアクセルは高射砲による射撃を受けまくっていた。
「これは一筋縄じゃいかなそうだね」
 右へ左へヒュンヒュンと飛びながら相手の射撃をなんとか回避するが、遅れてとんできた追尾ミサイルの直撃を受けて墜落。
 すたんと相手の船の甲板に着地する。
 回復か、攻撃か。いや、ここは――攻撃のチャンスだ。
「えい!」
 杖に魔法をこめ、回転斬りの要領でぐるんと回転するアクセル。
 放たれた魔法がマリグナントフリートたちを焼いて切断する。
 遅れてレインが傘を広げた簡易飛行によってぴょんと甲板へと上がってくると、二発目の魔法をその場で発動させた。
 アクセルの範囲攻撃をなんとか凌いだマリグナントフリートに追撃の範囲攻撃。今度こそ攻撃を食らい、爆発し崩れていくマリグナントフリートの影たち。
 一方で、海中に残っていたマリグナントフリートはマリオンの凄まじい魔術砲撃によって吹き飛んでいった。
 ロープを使ってよじ登ってきたマリオンが『任務完了』とばかりにVサインをして見せるので、アクセルは頷いて自分の船へと舞い戻るのだった。


 船を一度合流させ、島へと上陸する。
 ブルーパピリア島は三隻程度の船で守れるほど小さな島である。住民もそう多くはない。集落規模といって差し支えないほどだ。
 そしてその中から黒騎士を見つけ出すことは、どうやら決して難しくないことであったらしい。
 どころか。
「貴様らが……イレギュラーズ、か……」
 上陸したイレギュラーズたちを出迎えるような形で、影の天使たちを引き連れて自ら現れたのである。
「戦力を纏めれば迎え撃てると思ったか? ま、影の天使をちまちまぶつけるよりは的確な判断だな……」
 イズマは苦笑し、足についた海水を払った。
 実際、影の天使をちまちまと投入してくれた方がこちらは楽だったし余裕もできた。が、こうして一片に来られては影の天使が邪魔過ぎる。
 イズマは近くの錬たちに小声で呼びかけた。
「範囲攻撃で取り巻きを削る。黒騎士を狙う隙ができたら突っ込んでくれ」
 それに最初に答えたのはベークだった。
「なら、防御は僕と十夜さんが交代で行ったほうがいいですね。相手の攻撃範囲が広いですから、纏まって近くにいたらかえって不利ですし」
「了解、そういう作戦でいくか」
 対して黒騎士はいうと、まるで言葉を覚えたての怪物のようにうごうごと何かを呟いたかと思うと、手にしていた大剣を大きく構えた。
「イレギュラーズ、殲滅、する」
「できるものなら、ね!」
 最初に飛び出したのはアクセルだ。といっても彼が攻撃を引き受けにかかったのでも、先制攻撃をしかけるつもりだったわけでもない。彼が飛び出すことで注意を引き、その間に縁が黒騎士めがけて突進をしかけたのである。
 間に割り込むように影の天使が槍を構え陣取るが、そこへマリオンが砲撃を仕掛ける。
「時間制限もあるんだから、なりふり構ってる暇すらもありません! ばつ!」
 破式魔砲が叩き込まれ、間に割り込もうとした影の天使が吹き飛ばされる。たったの一撃でだ。しかも余った衝撃は黒騎士へと迫る。黒騎士はそれを剣で防御し、その間に至近距離まで迫った縁はワダツミを抜刀した。
 ガキン――と刀と剣がぶつかり合う。
 両手で持つにも重そうな剣だが、黒騎士はそれを軽々と振り回し縁に連続攻撃を見舞った。
 なんとか防御に回る縁だが、それを支えるのがアクセルの回復魔法である。
「あと十秒! ――交代だよ、ベーク!」
「はい!」
 縁が飛び退くと同時に突進をしかけるベーク。まるで無防備な彼の身体を剣で吹き飛ばす黒騎士。甘い香りがまき散らされ、ベークの身体がごろごろと砂地を転がっていく。
「急がないといけないですからね、ちょっと頑張ります」
 自己治癒能力の高さならベークはかなりのものだ。縁よりももう少し耐えることができるだろう。
 その間に、モカが『胡蜂乱舞脚』を黒騎士めがけて解き放った。
 スズメバチの群れの如く、残像が見えるほどの高速で敵集団の中を移動しながら、連続で敵の頭・眼・腕・脚・他急所を蹴突する――というその売り文句そのままに影の天使たちをなぎ倒しながら迫ったモカは黒騎士の足を狙って強烈な蹴りを放った。
「廃滅病の外部への持ち出しは禁止だ。ここで廃滅病ごと消えてもらおうか!」
 がくりと体勢を崩す黒騎士。回避能力の低下を見て取った錬は鍛造しておいた絡繰兵士を突撃させ、影の天使たちめがけて式符・陰陽鏡による砲撃を放つ。
「「そこだ!」」
 一人になった黒騎士へと、錬の斧が――と同時にモカの跳び蹴りが炸裂する。
「ぐお……!」
 思わず直撃を受けた黒騎士が吹き飛び、今度は彼が地面を転がった。
 レインが『マグナス・オーケストリオン』の術式を完成させる。
「今――」
 畳んだ傘をバッと振り抜くと、空中に生まれた色鮮やかな海月の群れが機関銃の如き猛烈さで黒騎士へと次々に叩き込まれていった。
 咄嗟に起き上がった黒騎士がその攻撃に晒される。イズマはチャンスとばかりに剣をとり、近距離まで思い切り距離を詰める。
 そして突き出した剣によって、『顕現・八大地獄』を発動させた。
「廃滅病は全部置いていけ。絶対にここから出すものか!」
「ぐおおおおおおお!?」
 激しい苦痛に苛まれる黒騎士。
 だがそれでも倒れるまいと剣を振り抜くが、それを止めるのは今度は縁の役目だ。
 振り抜いた剣をがきんと刀でとめると、アクセルが杖を翳し、錬が斧を、モカが足を、ベークが拳を、イズマが剣を、レインとマリオンが魔法の籠もった腕を振りかざし、一斉にそれぞれの力を黒騎士へと叩き込んだ。
「おおおおおおおお!」
 断末魔の叫びをあげ、崩壊していく黒騎士の肉体。それに連動していたのだろうか。周囲の影の天使たちの身体も泥のように溶けて消えていく。
 それだけではない。島を覆っていた帳さえも消え、青い空が見えた。
「これは……?」
「黒騎士自体が触媒になっていたんだろう。倒せば当然、このようになる」
 モカが呟き、パキリと割れて落ちた刻印のされた板を拾いあげる。
「ともかく、これで依頼完了……ってわけだ。さっさと引き上げて、次の仕事にいこうかね」
 縁がやれやれと首を振る。イズマも頷き、きびすを返した。
 砂浜には八人の足跡と、さざ波の音だけが残った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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