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シナリオ詳細

突撃! となりの凶悪犯。或いは、極悪人・ジェフリーを捕まえよう…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●シージ・スキャンパーとエントマ・ヴィーヴィー
 シージ・スキャンパーは小説家である。
 黒い帽子に丸眼鏡、白い肌をしたいかにもひ弱な女性である。
 ひ弱な外見の通り、運動神経は悪く、体力も無い。過酷なラサを生きるには、些か実力不足の感が強い女性だ。
 なれど、シージ・スキャンパーの好奇心は旺盛だった。
 足りない体力、運動神経、危機察知に必要な直感。そう言ったすべてを一旦脇に置いておく程度には好奇心が旺盛だった。
「ってわけで、本日はこの砂漠の遺跡にやって来ました。ラサの各地で強盗、誘拐、殺人その他、数々の犯罪に手を染めた凶悪犯がここに隠れているそうです」
 遺跡の外れ。声を潜めてシージは言った。
 その瞳は、好奇心で爛々と輝いている。
 期待しているのだ。潜伏している凶悪犯罪者との遭遇を。
「凶悪犯の名はジェフリー。つい先日も近くの都市でひと仕事したばかりだよ。なんで今、けっこうな大金を抱えてるんじゃないかな」
 そして、好奇心に目を光らせているのはシージだけではない。エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)もまた、凶悪犯罪者との遭遇を期待する者の1人である。
 とはいえ、それなりに広い遺跡の中からジェフリーを発見・逮捕するのはなかなか苦労しそうであった。なにしろ、人の住まない遺跡とはいえ、都市からも近い場所にあるのだ。
 旅の途中で、宿代わりに立ち寄る者や、遺跡に眠る財宝や骨董品の類を探す採掘者たちの姿もある。遺跡の路地裏となれば人の気配も少ないが、大通りに関して言うなら布を広げて食料品や酒を売っている旅商人の姿があった。
「ねぇ、悪いんですけど、本当に手間をかけてしまって申し訳ないんですけどね。件の犯罪者を見つけたら、生け捕りに貰えないですか? モノホンの極悪人、それも捕まったら死刑は確実って人に取材とかしてみたいんですよ」
 つまり、これから死に行く者に「今どんな気持ち?」と質問したいというわけだ。シージ・スキャンパーの倫理観は少しおかしい。きっと、常識だとか、倫理観だとか、そう言う人が生まれながらにして持っていて、大切に育んで行くべきものを“小説の悪魔”に売り払ってしまったのだろう。
「そして、私はその様子を撮影したいってわけよ。いやぁ、もう、いい感じに再生回数が稼げると思わない?」
 カメラを構えてエントマが言う。
 捕らえられた極悪人と、それを取材するシージの姿を動画に納め、自身の動画配信番組“エントマChannel”のコンテンツにしようと考えているのだ。
 確かに件の罪人とやらは死刑になって当然のことをしでかしている。これまでに数々の罪を重ね、放置しておけばこれから先もさらに多くの罪を重ねることは明白であった。
 だからと言って、その扱いはなんぼなんでもあんまりでは無いか。
 そう思わずにはいられない。
「いい? 虎穴に入らずんば虎児を得ずって言葉があるのよ」
「然り。エントマさんはいいことを言いました。危険かもしれませんが、ここはひとつ、勇気を持って虎穴に入っていきましょう」
 当人たちは、なんとも思っていないようだが。
 むしろ乗り気であるようだが。
「でも、ただ捕まえるんじゃ面白くないよね?」
「おや、エントマさん? なにかいい考えが?」
 にぃ、と猫みたいな笑みを浮かべるエントマである。
 嫌な予感がするではないか。
 シージの方は、心なしかわくわくとした様子であるが。
「競争しよう。誰が一番最初に、ジェフリーを捕まえるか、勝負しよう!」
「なるほど、それは楽しそうですねぇ!!」
 どうにもよくない流れになった。

GMコメント

●ミッション
凶悪犯・ジェフリーを捕まえる

●ターゲット
・ジェフリー
ラサの各地で数々の犯罪行為に手を染めた凶悪犯。
強盗、誘拐、殺人、放火とまぁやりたい放題にやった模様。
現在は、近くの都市で強盗した大金を持って、遺跡に潜伏しているようだ。
曰く、素手で皮膚や肉を千切り取れるぐらいに握力が強いらしい。

・シージ・スキャンパー
黒い帽子に丸眼鏡、白い肌の小説家。
運動神経は悪く、体力は無いが、好奇心は旺盛。
今回、新作のネタにするため本物の凶悪犯に取材がしたいらしい。
代表作『馬車とドラゴン』は一部でカルト的な人気を誇る。
 
●フィールド
ラサの砂漠の小さな遺跡。
定住している者はいないが、旅の途中で宿代わりに使う者や、遺跡の発掘作業に勤しむ者の姿が散見される。
遺跡の表通りには、旅商人たちが露店を開いている。販売しているのは酒や食糧。採掘者や、旅人をターゲットとしているのだろう。
対して、遺跡の路地裏は人気が少ない。


動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】エントマに誘われた
「凶悪犯を捕まえようよ!」。そんな風にエントマから誘われました。

【2】露店に用事があって来た
露店での買い物や、商売を行うために遺跡を訪れました。ジェフリーが潜伏しているという情報を得ており、商人たちは少しピリピリしています。

【3】採掘現場に用意があった
採掘現場に用事があってきました。ジェフリーが潜伏しているという情報を得ており、採掘者たちは殺気立っています。


慌ただしい1日
遺跡での過ごし方です。

【1】ジェフリーを探す
エントマやシージに協力し、ジェフリーの行方を捜します。

【2】表通りで行動する
露店の並ぶ表通りで、商人や旅人たちと関わります。商人たちは、ジェフリーを警戒しているようです。

【3】発掘作業に従事する
発掘作業に従事しています。採掘者たちは殺気立っています。

  • 突撃! となりの凶悪犯。或いは、極悪人・ジェフリーを捕まえよう…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月07日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
メリッサ エンフィールド(p3p010291)
純真無垢
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ

●極悪人を追って
 晴れた日の午後。
 砂漠の遺跡のはじっこの方。旅人向けに作られている安っぽい飲食店である。
 飲食店と言っても、その作りは至極単純なものだ。屋台のような調理スペースがあるだけの名前の無い店。客席と言えば、屋台の周辺に幾つか広げられている大きな布がそれである。
 布の上には2人の女性。エントマ・ヴィーヴィーとシージ・スキャンパーである。
 2人の手元には生姜とミルク、紅茶を混ぜた飲み物が握られていた。チャイという砂漠で愛飲されている紅茶である。
スパイシーな香りを楽しむ2人の前に、ストンと誰かが腰を降ろした。
「来たよ……隣は……?」
『玉響』レイン・レイン(p3p010586)である。エントマから差し出されたティーカップを受け取ると、どこか眠たそうな視線をシージに向ける。
「シージさんだよ。今回は、私とシージさんの合同企画なんだ。題して“突撃! 隣の極悪人”だよ!」
 死刑確実の極悪人を捕まえて「今、どんな気持ち?」「なんで犯罪に手を染めたの?」とインタビューを慣行するのだ。そして、その様子を映像に残して配信すると言う“悪魔のような”企画である。
 まぁ、控えめに言って趣味と性格が悪すぎる。
「ん……つまり、探すんだね……わかった」
「なるほど! そう言う事なら、このメリッサ、協力は惜しみません!」
 会話に割り込んで来たのは、背の低い翼種の少女だ。『純真無垢』メリッサ エンフィールド(p3p010291)という。彼女は平たい胸を叩いて、荒い鼻息を吐き出した。
「つってもよぉ、いくら凶悪人でもそんなもん流したら大炎上だろ」
 3人目は『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)。
 用意されていたチャイのカップを手に取ると、変な生き物を視るような目をエントマとシージへと向けた。
「炎上上等! 炎上が怖くて、配信者がやれるかっ!」
「そーです、そーです! すべては創作のため! 悪魔に魂を売りましょう。悪い人には、生贄になってもらいましょう!」
 2人揃って様子がおかしい。
 いつもこんな感じではあるが、なるほどつまりは“トラブルメーカー”と言うやつなのだと、ペッカートは内心で舌打ちを零した。
 トラブルメーカーに付き合うと、ろくな目に逢わないからである。
「いいじゃねぇかよ。おたくらのスジモン活用法はユニークかつ強欲で最高だ!」
 4人目。
 次にやって来たのは『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)だ。キドーは笑って、チャイのカップを持ち上げた。
「おたくら、気に入ったぜ! 負けねぇぞ!」
 カップ同士を打ち付けて、カチャンと軽い音を鳴らした。
 乾杯。
 そして、全員がカップの中身を一気に喉へと流し込む。
「……熱い」
 熱々のチャイを一気飲みしたのだから、それは当然、熱いだろう。喉を片手で押さえたレインが、へたりと布の上に体を横たえた。

「極悪人を捕まえるだと? まったく、何やってるんだか……」
 遠目からエントマたちの様子を眺める者がいた。『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)だ。片手に持った林檎を齧って、エントマたちの会話に耳を傾けている。
「あぁ、アレだな。ジェフリーとかって名前の手配犯だろう? ここらで噂になっているぞ」
 ラダの零した言葉を拾って、呵々と笑うのは捩じれた角を頭の横から生やした女性だ。
名をヘイズル・アマルティアという砂漠の果てより来た旅人である。
「それよりラダ。追加の商品は持って来てくれたか? ここの遺跡だと、西瓜が転がるように売れるぞ」
「まぁ、持ってきているが……撤退しなくていいのか?」
 極悪人が潜んでいるうえ、エントマまでやって来たのだ。先日、仕入れた西瓜の売買をヘイズルに任せて見たのだが、そろそろ撤収時では無いかとラダは思った。

「それで……私に犯罪者を捕まえるのを手伝えと?」
 買い物袋を腕に抱えた『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が、実に苦い顔をして言う。
「正しくは、探すのを……だね! どこにいるか分かんないし」
「絶対、いいネタになるんですよ。お願いします」
 エントマとシージの顔を交互に見やって、モカは深い溜め息を零した。
 遺跡のオアシスには懇意にしている商人もいる。死刑確実の犯罪者が潜んでいると言うのなら、捕縛を手伝うのも吝かではない。
「まぁ、構わないが……」
 エントマやシージを放置して、知り合いの商人に迷惑をかけることになるのも御免被る。そうなれば、誰かが面倒を請け負う必要があるわけで……となれば、自分が出張るのが一番、面倒が少ないだろうか。
 一瞬のうちにそこまで思考を回したモカは、2人の要請を受けることにしたのである。
「しゃー! 人手確保!」
「この勢いで、ジェフリーも確保しちゃいましょう!」
 きゃっきゃと上機嫌に喜ぶ2人を見ながら、モカは重たい溜め息を零す。
「やれやれ、裏の世界を知らない面倒なお嬢さんだな」
 死刑確定の極悪人を捕縛するのが、そんなに簡単なわけはないのだ。そんなことを伝えたところで、きっと理解は出来ないだろうが。

●潜伏するジェフリー
 地面を蟻が這っていた。
 運んでいるのは、どうやらクッキーの欠片のようだ。
「んんー? こっちが怪しい気がします!」
 蟻の列を追っているのはメリッサだ。頭にはちょこんとハンチングを被っている辺り、気分は探偵のつもりなのかもしれない。
 薄暗い裏通り。日陰には、ぐったりと披露した旅人や、休憩中の採掘作業員たちの姿がある。蟻の列を追って、地面を這うように歩くメリッサの様子を、誰もが“奇妙なもの”でも見るみたいな目で観察していた。
 深淵を覗く時、深淵もまたお前を覗いているのだ。
 と、そんな言葉があるけれど。
 蟻の列を観察する時も同様に、お前もまた何かに観察されているのだと知るがいい。
 さて、そんなメリッサであるが、すぐに行き止まりに辿り着く。
 裏通りの奥、瓦礫の山の隙間の中へ蟻の列が潜り込んで行ったからだ。
「あれ、怪しいのは気のせいでしたかね?」
「……怪しい……のは、僕たちの方……かも」
 メリッサの背後で声がした。
 声の主はレインである。指先に1匹の蠅を止まらせたレインは、ゆっくりとした動作で周囲に視線を巡らす。
 旅人の視線が、作業員の視線が、通行人の視線が、2人に向けられていた。
 こんな寂れた遺跡に何の用事だろうか。
 金髪の子供は、何を探しているのだろうか。
 保護者は何をやっているのか。
 そんな視線だ。目が口ほどに物を言っているのである。
「あれ? そんなにおかしなことをしているように見えますか?」
「見える……かも? 見えない……かも?」
「どっちでしょう?」
「……さぁ?」
 なんて、言って。
 小首を傾げたレインの指先から蠅が飛び立つ。
 ぶぅん、と耳障りな翅音を響かせながら、瓦礫の隙間に蠅が飛び込んで行った。

「そもそも、もう数日も遺跡に潜伏しているんだ。そう簡単に見つかるような隠れ方をしているとは思えない」
 ずらりと並んだ西瓜の1つを手に取りながら、モカが小さな溜め息を零す。本日、何度目の溜め息だろうか。
 エントマにせよシージにせよ、あまりにも短絡的過ぎる。
「だが、食糧なり買い出しは要るだろ。金で腹は膨れないからな」
 西瓜を選ぶモカの様子を観察しながら、言葉を返すのはラダである。
「聞き込みでもするのがいいかな。情報料でもふんだくられそうだけど」
「まぁ、その時はその時だ。価値のある情報になら金を払うのも吝かではない……ところで、西瓜なんて買ってどうするんだ?」
 モカが選んだ小さな西瓜を指さしながらラダは問う。
 なるほど、流石は商人だ。いい勘をしていると言わざるを得ない。
「西瓜で酒でも造ろうかと思ってね。ラダの方は、何かいい商売は思いつかないのかな?」
「……スライムで冷やして売るという手は考えたが」
 残念ながら、遺跡に辿り着く前にスライムは蒸発してしまった。
 熱い砂漠で、冷えた西瓜を売るというのは、なかなかどうして大変な苦労が伴うのである。
「それより、買い物が終わったなら付き合ってくれないか? 知り合いの商人がいると言っていただろう?」
「あぁ、聞き込みか。紹介するのは構わないが」
 と、そのようなわけで、モカとラダは連れだって露店通りに繰り出した。

 危機管理がなっていない。
 裏通りを駆けずり回るエントマとシージを、少し高い場所から見下ろし、ペッカートは嘲笑の気配が滲む笑みを零した。
 頬杖を突いて見下ろす先には、右へ左へ奔走し、遺跡の中や物陰を覗き込む2人の姿がある。どっちが先に……正しくは、誰が先にジェフリーを捕まえるのか競っているのだ。
「まぁ競争にはあんま興味ないけどよ」
 生け捕りにした後が気になる。
 ペッカートが、2人に手を貸す理由と言えばそんなところだ。
 強盗、誘拐、殺人、放火、悪いことなら何でもござれの極悪人。捕縛されたジェフリーが、一体、どんな顔をするのか。どんな言葉を口にするのか。
 今まで彼が殺めた者たちのように、見苦しく命乞いをするのか。
 それとも、年貢の納め時と悟って、神妙にお縄に着くのだろうか。
 或いは、死刑台に登るよりはと、自分で舌でも噛み千切るのか。
 もしもジェフリーが、悪魔に魂を売り渡してでも生きたいと願うのであれば、少しぐらい“親切”にしてやってもいい。
 なんて、事を考えながらペッカートは視線を背後へと向ける。
「捕まえるのは半殺しまでならオッケーか? そいつ命乞いするタイプかなぁ?」
 ペッカートの視線の先には、こそこそと何処かへ向かうキドーの姿があったのだった。

 ジェフリーの人生を一言で言い現わすなら「強奪」であろう。
 まず、ジェフリーという名前はスラムに転がっていた傭兵の遺体から奪ったものだ。傭兵の身に着けていた外套に書かれていた名がジェフリーだった。
 子供のころから、金を盗んで、青年期には旅商人の命を奪った。最初から坂を転がり落ちていくみたいな人生で、ジェフリーは諧謔混じりに自分の生き方を「ロックン・ロール」と呼んでいる。
 暴力を友とし、強盗を是とし、時には殺人や放火さえも「生きる手立て」として利用する。そんな自分の首に値段が付いたことに驚きは無いし、捕まれば死刑が確定であることについても、まぁ当然の結末だ、と納得している。
 納得しているからといって、捕まるのは御免だし、死にたいわけでも無いのである。ジェフリーの人生はクソッタレと罵りたくなるほどに惨めなものではあるが、とはいえ死ぬよりほんの少しだけマシであると思っているのだ。
 故に、逃げた。
 商館に忍び込み、溜め込んでいた大金を奪って、夜の砂漠をひた走り、とある遺跡に逃げ込んだ。都市からほど近い遺跡ではある。誰かに見つかる心配もある。だが、水も食糧も持たないまま、過酷な砂漠を逃げ惑うよりは、幾らか生きる目があった。
「いつも……いつでも、上手くいくなんて保証はどこにもない。そんなこたぁ、分かってたんだ」
 琥珀色の酒を飲み干し、ジェフリーは言う。
 つい先ほど、ジェフリーの元を訪ねて来たゴブリンに貰ったものだ。ジェフリーが見つけて、身を隠していた地下墓地にゴブリン……キドーは、さも当然のような顔をしてやってきた。蛇の道は蛇と言う奴だろう。キドーの顔をひと目見た瞬間に、ジェフリーは彼が“同類”であることを理解した。
 同類だからと、慣れ合うわけにはいかないし、仲良くできるわけでも無い。そういう類の生き方をしていることは自覚している。だから、ジェフリーは警戒を解かないままにキドーへ「出て行け」と言った。
 もちろん、キドーはジェフリーの言葉を無視したが。
 酒でも飲もうと、どこかからかっぱらって来たのか、少しいい値段のする酒の瓶を手渡して来たが。
「生きるためなら何でもやるぜ、俺ぁよ。例え火の中、水の中、草の中、泥の中、どこを這いずることになっても、死ぬよりマシに決まってらぁよ」
 それでも、死ぬときは死ぬのが世の常だが。
 死ぬならせめて、もうどうしようもないと言うぐらいまで生き足掻いてから死にたいのだ。どうしようもなく抗ったうえで死ぬのなら、きっと「やってやったぜ」と笑って死ねる気がしたからだ。
 酒で軽くなった舌が良く回る。キドーに向かって身の上話などしたところで、意味が無いことは分かっている。
「っつーかよぉ、お前、何しに来たんだよ?」
 そう問いながら、ジェフリーは懐に手を入れた。ナイフを掴んだのである。ジェフリーの耳が、接近して来る誰かの足音を拾ったからだ。
 キドーはくっくと肩を震わせ、まるで長年の友人にそうするみたいに、ジェフリーの肩を抱いた。
「俺ァこれでもめざせスジモンマスターしてんだよ」
「あ“ぁ”?」
「鍛えた技で勝ちまくり、スタッフ(なかま)を増やして次の町へを繰り返してんだわ」
 キドーの言葉の裏を探る。
 つまり、ジェフリーを仲間に誘っているのである。
「ダイスの目が狂ってよぉ、俺が生き延びる目が出るってことでいいのか?」
 キドーは笑うばかりで何も答えない。
 ジェフリーの視線が、地下墓地の入り口へと向いた。
 そこに居たのは1人の悪魔だ。捩じれた黒い角を持った、いかにも弑逆的な容姿の悪魔であった。あぁ、ちくしょうめ。官憲だけじゃなく、悪魔まで俺を追って来るのか。
 世界を呪いたくなるほどに、悲しい悲しい現実である。
「んだよ。血みどろの喧嘩でもしてんだろうって期待したのによ」
 なんて。
 つまらなそうな顔をして、悪魔が舌打ちを零す。

●ダイスの目が狂った結果
 ジェフリーの前に現れたのは、大剣を構えた少女であった。
 見た目こそ幼い金髪ロリだが、なかなか腕が立つようだ。年齢、体格に対して構えがしっかりしているし、その眼は“正義感”に燃える者特有の光がある。
 淀んだ自分の目とは違う。少しだけ羨ましくなった。
「ジェフリーさんですね。身柄を拘束させてもらいます!」
 メリッサは威嚇するように大剣の切っ先を突き出して見せる。抵抗もせず、ジェフリーは両手を頭の横へ。
(キドーの奴ぁ、一回捕まれって言ってたが……本当に大丈夫なんだろうな?)
 手足を縄で縛られながら、ジェフリーは内心で冷や汗を流す。
 メリッサがジェフリーを拘束している間、もう1人のどこかぼうっとした少年……レインは、ボードを用意していた。白濁した不透明ガラスの嵌められたボードである。
 それから、ボイスチェンジャーらしき魔道具。
「なんだ、そりゃ? おい、変な紙袋を持って来るんじゃねぇ!」
 思わず、ジェフリーは問うた。
「? 何って……取材の、準備?」
「あなたに黙秘権はありませんのであしからず! しっかり罪を償ってもらいます!」
 メリッサとレインが何を言っているのか。これから、自分はどうなるのか。ジェフリーには何も分からない。

 それから暫く、ジェフリーの前に現れたのはエントマとシージの2人である。
「じゃあ、取材と行きましょう。カメラ回しとくんで」
「はいはい。インタビューは任せてください!」
 上機嫌に撮影の準備を始めるエントマとシージ。スナッフフィルムではあるまいな、と嫌な予感がするジェフリー。
 だが、取材が始まるその寸前「待った待った!」とキドーが間に割り込んで来た。
「ん? キドーさん?」
 エントマが目を丸くする。
「やいやい、ルンペルシュティルツのマスコットキャラに無断で仕事させようたぁいい度胸してんじゃねぇか!」
「はぁ? ジェフリーが、マスコットキャラ?」
「……どういう……こと?」
 何言ってんだ? と、そんな視線がキドーに突き刺さる。だが、キドーの口は止まらない。
「ジェフリーくんはうちのマスコットキャラ役に内定したんだよ! 名前は“ゴクチュウ”ってんだ」
 捕まっているが。
 その名前はもう、捕まった後な感が強いが。
「キドーよぉ。もうちょいマシな名前はねぇのか?」
「じゃあ……シャバーモはどうだ?」
 そう言ってキドーはジェフリーの頭に鼠の耳の形をしたカチューシャを被せる。
「どうしても取材してぇってんなら、ギャラの方を払ってくれや」
 そう言いながら、キドーはジェフリーを拘束している縄をナイフで切り捨てた。
「あー! せっかく縛ったのに! なんてことするんですか!」
 メリッサが抗議の声を上げたが、生憎とキドーに弁では勝てない。奉仕活動の一環であると言われて、不満そうに引き下がった。

「そう言うことか……まったく、呆れた真似をする」
 物陰から取材の様子を見守りながら、モカはそう呟いた。一方、ラダの方はと言えば、少し困った顔をしている。
「まぁ……そう言うこともあるだろう、な。うん」
 犯罪者を雇うことに対して、あれこれと文句を言える立場にないのである。ラダのところにも、元盗賊のスタッフがいるので。
「世に悪人の種は尽きまじ、ってなぁ! 長生きするぜ、アイツら!」
 ペッカートは腹を抱えて笑っているが。
 とにもかくにも、とりあえず「ジェフリーを捕まえる」という目的は達成されたのだ。
 ならば、これで仕事は終わり。
 後は喜劇の観客となるべく、ペッカートは瓦礫に腰を降ろしたのである。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
無事にジェフリーは捕縛されました。
その後、ルンペルシュティルツに引き渡されました。

この度はご参加いただきありがとうございました。
また、別の依頼でお会いしましょう。

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