シナリオ詳細
<信なる凱旋>燃えよ罪、咲けよ火の花よ
オープニング
●
ディオニージ・コンティノーヴィスは、異端審問官であった。
今でも思い出す初めての仕事。それがディオニージの嗜好を決定づけた。
その日、ディオニージは紫陽花の咲き誇る町に訪れ、魔女を火炙りにした。
その女は人々に敬愛され、信愛され、心の支えになっていた。
聖女、と呼んで差し支えは無かったろう。
だが、個人で信仰を集めるそんな女は、魔女にほかならぬ。
時間を掛けて人々の心を女から離した果てに、彼女を火炙りにした。
自らの墓標となる十字架を背負い、磔にされて炎の只中に取り残される。
そんな状態でさえ、人々を慈しんで見せた女の姿が、今でも脳裏に張り付いている。
十字架の支えが倒壊して炎の海に消えた後、急激に冷めたディオニージはその足で町の住民を根絶やしにした。
彼女は魔女である。魔女に穢された命は、不正義の穢れは全て天に返さなくてはならない。
不正義に彩られた町は地図上から消え去り、歴史の中に消えた。
今から、30年も前の事である。
それから多くの人間を処刑してきた。あらゆる犯罪者を殺してきた。
罪の軽重など存在しない。罪人は罪人だ。
罪を犯す者には生きている価値など存在しない。
けれど、いつか、どこかにあの時の女のように、罪人とは思えぬ輝きを持つ者がいるのなら。
そういう者を貶め、穢し、殺すその刹那の快感だけが、俺を満足させてくれるのだ。
それに比べれば度し難いことに、今の国は甘っちょろい。
だからこそ、かつての峻厳なりし天義を取り戻さねばならん。
「罪人よ、死に絶えろ。どうせ貴様らには俺の渇きを癒すことなど出来まいよ」
そうして今日もディオニージ・コンティノーヴィスは断頭の刃を振り下ろす。
「いつ見ても、異端審問官様の趣味は品がないわね」
その声にディオニージは不快感に眉をひそめた。
「オルタンシア、貴様も用済みだ、失せろ」
「あはっ♪ 言われずとも帰るわ、気持ち悪い。
それよりも、よ。貴方、最近ここでずっと遊んでいるわね。そろそろ仕事をしたらどう?」
声だけで笑うオルタンシアを睨んでやれば、その後ろに立つ2体の騎士に気付いた。
「……ふん、約束通り神の国の定着は進めている」
「ふぅん? 本当に? 作り出したゼノグラシアンを戯れに殺し続けてるだけでしょうに」
「どう進めるかは俺の一存だ」
「あっそう。まぁ、興味もないからいいけれど、ちょうどあの方から貰ってきた騎士がいるの。
これはあの方のお力の一部、上手く使いなさいな」
それだけ言って、オルタンシアはその場から姿を消し、騎士だけが残された。
●
聖都『フォン・ルーベルグ』にもほど近き信仰者たちの町へと姿を見せたのは騎士を従える処刑人であった。
「人は皆、生まれ落ちての罪人よ。
あらゆる者は罪科と共に生まれ、幾つかの罪を増やして死んでいく。
貴様らを焼き、神聖なる姿に変える焔こそがその証である。
罪科に塗れた罪人よ、罪を曝け出すがいい」
赤き騎士たちにより炎の獣へと変貌させられていく人々。
それをディオニージは冷笑と共に見つめていた。
地面へと軽く突き立てられたエクセキューショナーズソードには十字架を模した聖痕が浮かんでいるか。
「いよいよ動き出しましたか。随分と長い間、休んでおられたようですね」
戦場に辿り着いた桜咲 珠緒(p3p004426)は白衣の騎士ディオニージ・コンティノーヴィスを見据え、魔力を高めていく。
「今度は逃がさないわ! 行こう、珠緒さん――ボク達で今度こそ止めるんだ!」
珠緒の隣に立ち、藤野 蛍(p3p003861)が愛しき人の隣に立ち、聖剣を握れば。
「ディオニージ、その断罪を今度こそ止める!」
バンダナの下、ルーキス・ファウン(p3p008870)は少しばかり表情を険しくして愛刀を抜いた。
「貴方の正義は認められないわ」
愛馬に跨り姿を見せるレイリー=シュタイン(p3p007270の姿もあろうか。
「――また会ったか。良かろう、罪人よ。今度は余興ではすまぬと知れ」
ゆっくりと、ディオニージが剣を構えた。
●
「姫様」
「なぁに?」
テラス席にて優雅に涼んでいたオルタンシアにその腹心と言える致命者は声をかける。
「コンティノーヴィス卿が遂行者であるなど、大嘘でしょう」
「あはっ♪」
皆まで言わず、オルタンシアは笑みをこぼす。
ドリンクに乗せられたアイスがどろりと溶けて黒のジュースを少しずつ染めている。
グラスに刻まれる聖痕はオルタンシアの胸元にもある遂行者としての証。
それはディオニージの剣に刻まれた物と全くの同質の物である。
「当然よね。どこの世界に自分を貶め殺そうとした嗜虐主義の変態に手を貸す奴がいるの。
汝は罪人なり、その死をもって罪科を悔い改めよ――だったかしら? それなら今度はお前の番ってだけよね」
それっきり、オルタンシアはグラスを手のスナップでくるりと回して遊ばせた。
- <信なる凱旋>燃えよ罪、咲けよ火の花よ完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年09月16日 23時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「今度こそ決着をつけてやるわよ! 珠緒さん、いきましょう!」
真っすぐに敵に視線を向けた『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)は隣に立つ大切な人を見る。
「えぇ、もちろんです蛍さん……ですが、その前に」
応じた『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は視線をあげてディオニージを見た。
「『人は皆、生まれ落ちての罪人』――性悪説と呼ばれるその思想は、『だから善になるべく努めましょう』なのです。
少なくとも『だから皆断罪されるべき』ではないのです」
「度し難い。なるべく努めねばならぬ……つまりは、努めねば善ならんと自ら証明している。
その証拠に、みよ。この有様を、愚かな罪人たちの懺悔の声を!」
両手を広げディオニージが笑ってみせる。
当然、珠緒とて理解されるなどと期待はしていない。出来るような知性があれば、この惨状は起こるまい。
「いいえ! 生まれることも生きることも、罪なんかじゃなく命の輝きなのよ!
人は生まれながらにして善であるって信じられない者に、人々を救えはしないわ!」
そう続ける蛍が握る聖剣は自ずと力が入っていた。
会敵の刹那、開幕を告げたのはディオニージが軽く地面へと突き立てた剣を引き抜くその仕草である。
刹那、珠緒は剣を振るった
絶叫をあげる人々へと振るわれた一閃は神域の気迫と共に斬光を引いて道を切り開く。
「蛍さん!」
それだけでも充分だ。珠緒の声に合わせて、蛍が飛び出した。
「これ以上誰の命も奪わせはしない!」
その声は蛍自身を鼓舞する言葉でもあった。
己が決意を種火に燃え上がらせた一閃は熱を帯びて戦場を奔り、焔を纏いし騎士を絡め取る。
騎士達は自らを絡め取らんとする炎を振り払わんとしてそれを諦めるや視線を蛍へと向ける。
だが、動き出さんとする騎士よりも速く動いたのは『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)である。
空に舞い走り出したドラネコの視野も確保しつつ、テレパスを市民へと向ける。
「……きっと、助けますから!」
気絶する人々が視界に微かに映り、小さく呟けばそのまま上げた視線に元凶たる騎士が映る。
万華鏡の術式が硝子のように美しく、硝子のように煌いて輝きを引いた。
2体の騎士を諸共に映し込んだ術式は現実に重なり合った硝子を映し出すように敵を切り刻む。
「……これが楽しいんですか? これが貴方の正義なんですか?」
1つ息を吐くままにユーフォニーはディオニージへと問うた。
「不正義を理由にすれば、殺戮も迫害も認められるんですか?」
地獄のような光景を、楽しそうに笑みを浮かべている男へ胸に抱いた感情は明確な怒り。
「人は罪をもって生まれる罪人ならば、その赦しのための試練こそが生きるということだ。
であるのに新たに罪を重ねるのならばそれは人でなし。
人でない物に殺戮も迫害もない――害虫を殺すのにせめて、楽しみぐらい見出せねばな」
黒く澱み切った瞳でディオニージは笑った。
「酷い有様だな。最早一刻の猶予も無いか」
周囲を見渡した『導きの双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)はバンダナの下で眉を顰め、ディオニージに視線を向けた。
素早く抜いた愛刀を手に、熱はそのまま、落ち着くように息を漏らす。
「すまない、苦しませるつもりはないが、眠ってくれ!」
それに続くルーキスも圧倒的な速度で飛び出した。
最速で赤騎士の下へと迫るその眼前に飛び出してきたのは炎に包まれた民衆の1人。
くるりと手の中で愛刀をひっくり返し、勢いを殺さぬままに柄頭で鳩尾を殴りつける。
蹲ったその人物がそのままばたりと倒れこむのを見て、そのまま走り抜けた。
飛び込むままに入れた一閃は騎士の振るう槍に受け止められようか。
「ヴァイス☆ドラッヘ只今参上! 大罪を犯す者を討ちに来たわ!」
愛槍を握り締めた『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)はそれを掲げ愛馬を走らせる。
「罪を犯さない人はいない。それは私も同じよ!
でもね、それでも私はいま生きていることを恥じてはいないわ!」
「――そうか。実に愚かだ。罪を自覚していながらも、生き恥を晒し続けることを選ぶとはな!」
「久しぶりね処刑人!絶対ここで討つ! お前の罪こそ晒しなさいよ! 処刑人!」
白竜の降り立つ戦場、レイリーは真っすぐにディオニージへと槍を突きつけて宣言すれば。
「ふん――出来るモノならば!」
笑ったディオニージの剣がするりと伸びる。
確実なる死を齎すべく振るわれる処刑剣の軌跡に対応するようにして、レイリーは槍を振るう。
鎧に、盾に入る傷など、知った事ではないとばかりに堅実な守りはたしかにそこにある。
(動きが活発化してるわねぇ……早々に撃破して平穏を取り戻したいところだけど)
白一色の儀礼短剣を手に『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は術式を展開していく。
視線の先には長剣とも大剣ともつかぬ処刑人の剣を握る男。
「……無辜の民を巻き込むの、やめて欲しいのだけれどね。可哀そうだし」
「ふん――下らぬ。このざまを見ろ。これはその無辜の民とやらの罪に違いあるまいよ」
なぎ倒された無辜の民衆を顎で示したディオニージの言葉を無視して、ヴァイスは1つ息を入れた。
(ううん。まぁ、できることをやっていきましょうか)
展開された数多の術式に揺蕩う神気は鮮やかな光を帯びる。
「さて、と。少し眠っていてもらうわよ?」
そんな言葉と共に放たれた閃光は多数の民衆を瞬きの内に沈めていく。
「この場から離れてください! できるだけ遠くに! 敵は僕達ローレットが倒します!」
周囲を炎から守る結界術式を展開しながらそう叫ぶのは『ウィザード』マルク・シリング(p3p001309)だった。
「ふん――どこへ逃げるというのだ? 罪から逃れて何になる。
お前達の抱えている罪が曝け出されているのだ――それから逃れることなど出来ぬと知れ」
冷たい殺気と共にディオニージが嗤う。
「ディオジーニ、貴方は正義の名を借りた殺人鬼だ。
遂行者であるかどうかは関係ない。
法に照らし、人道に照らし、貴方は断罪されるべき存在だ」
(……オルタンシア。これだけは、どうやら彼女と同意見らしい)
静かに何となくそう思いながら、マルクはワールドリンカーの魔弾を浮かべあがらせる。
「は、はははは! くはははは! 面白いことを吠えるな。魔導師!
あぁ――そう言えば、以前に一度あったな?」
マルクの言葉に傲慢に笑ってみせたは暫し目を細めて言う。
「――あぁ、そうか。思い出した。あの暗殺者めが俺を殺そうとした日だな」
苦い思い出を感じながら、それは露骨な挑発に他ならない。
落ち着けるために深呼吸をして、マルクは改めてワールドリンカーの魔力を展開していく。
僅かに残った民衆が瞬く間に魔力の泥の内に沈んでいく。
『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)はマルクの張り巡らせた結界に合わせ、術式を展開していく。
2人分の張り巡らせた展開は温かな守りを作り出す。
「ン。イレギュラーズ 来タ。モウ大丈夫」
逃げ惑う人々にそう声をかけてから、今度こそ、フリークライは敵を見た。
「我 フリック。我 フリークライ。我 墓守。
不正義トサレタ者達 弔ワレルコトモ許サレナカッタノダロウ。
死シテ罪ヲ償エドコロカ死ンデモ許サレズ」
「当然よ。罪人だ、弔われるなど罪人にはあまりにも贅沢な事だろう」
「死ネバ ミンナ 星。
ミンナ 花。
ミンナ 命。
ダトイウノニ」
視線の先で、男は笑っている。
「――汝 罪ヲ裁ク者ニ相応カラズ」
弔われる者も、安らかな眠りに着くことも出来なかった人々を想像しながら、フリークライは思う。
静かな答えは、人間としての感情で言うのなら怒りにも近かったのかもしれない。
戦火は広がり続けている。
零れだした炎の騎士による人々への呪いは炎の獣を作り出す。
けれどそれ自体は左程の問題ではない。
戦いは既に前半戦の佳境と言えるだろうか。
無力なまま痛みに喘ぎ、怯えるように暴れる人々をフリークライは受け止めた。
緒戦の範囲攻撃で殆どが意識を失って倒れていたこともあり、それで充分だともいえた。
「ン フリック 支エル。問題ナシ」
殆ど最前線のやや後方、フリークライはそこにいた。
そこにいるだけで圧倒的な安心感を感じさせ、状態異常を振り払う戦術の基点の1つであり続ける。
齎された熾天の宝冠が傷を受けたばかりの仲間を癒し抱擁の内に満たしていく。
「これ以上、犠牲者を出してなるものか!」
「神の祝福を犠牲とはな」
ルーキスは奔る。鼻で笑うような赤き騎士の声を遮るように、剣を撃ち抜いた。
「これのどこが、祝福だ!」
栄光へと繋がる一閃から始める連撃は渾身の力を籠める破砕の理。
幾重も重なる斬撃が確かに炎を纏いし騎士の身体から黒い靄を溢れださせていく。
「あなたは一体何なの?」
白薔薇は踊り、ヴァイスは数多の毒手を撃ち込みながらそれへと疑問を抱く。
人のなりをこそしているが、人ではない。炎を齎す預言の騎士。
それは終焉の獣にも似た存在を生み出すのだという。
振り払った毒手の数多が燃え上がる――が。
決して全てを呑むなど不可能な手数、幾重もの毒は確かに預言の騎士に刻み付けられていく。
●
「ようやく、届きましたね」
珠緒は静かに告げた。
眼前に迫るはディオニージ。赤き騎士は既に無い――あとはこの男のみ。
「望みが叶わず果てることで、踏みにじってきた方々の苦しみを知るとよいのです」
踏み込むまま、振り払った斬撃は桜花の輝きを抱いて広域に広がる閃光。
誰もを魅了する輝きは、それに見合わぬ呪いを帯びていた。
「まさかな、このように速くあの騎士達が潰れるとは!」
舌を打ったディオニージは、それでも剣を構えて油断はできない。
「今度は、逃がさない」
続く蛍は真っすぐにその目をディオニージに向けながら、油断はしていなかった。
その眼は不屈の覚悟が灯り、必護の誓いは胸に絶えぬ熱を抱く。
退かず、屈せず、諦めず――自分自身を奮い立たせる。
逃がさないと、燃えるような思いは身体の痛みを修復していく。
「命はみんな等しく自由で、それでこその世界であって欲しい。これが私の正義です」
相容れるはずのない男の言葉を振り返り、ユーフォニーは真っすぐな瞳で自らの正義を語る。
「等しく自由? はっ――甘っちょろいことだ」
嘲るように、男が笑う。
「……そうかもしれません。でも――」
今、この眼に見える景色よりは何倍もずっといいとそう思えるから、世界を見る目は変わらない。
「そうだ、これ以上の惨劇を繰り返させたりするものか!」
続くように飛びこむルーキスは振るわれる男の剣を掻い潜り、渾身の踏み込みと共に斬撃を撃つ。
「忌々しい!」
舌を打ったディオニージの剣を打ち上げ、痛撃の一閃が強かに腹部を貫いた。
「ここは私の戦場/舞台。騎士/偶像として最後まで役目を果たすわ。
そして、私が斃れない限り、仲間達は倒れないのよ!
処刑人、あなたの断罪は私達には届かないわ!」
レイリーは高らかに宣誓すると共に槍を掲げた。
それは自らを鼓舞し、男を絡め取るための言葉だ。
掲げた槍の先から溢れだした魔力は神秘の欠片となり、大地へと落ちる。
雫は波紋を呼び、瞬くうちに広がり、受けたばかりの傷を癒していくだろう。
「さて、と。残りはあなただけね」
ヴァイスは小さく息を吐いてから再び術式を展開していく。
虹色の箱庭は美しく展開していく。
それは断罪の光景を塗り替える純白の結界。
儀礼剣より打ち出す数多の魔弾は複雑な軌道を描いて突き進む。
気づいたらしきディオニージが剣を立ててソレを受け止めた。
そこへマルクは飛び込んだ。
(もしかしたらこの男が……)
脳裏に浮かんだある魔種の女。
振り払う極光の斬剣の軌跡が男の剣と撃ちあった。
剣身に見える聖痕は、確かに彼女の物に見えた。
●
戦いは後半戦に至っていた。
「罪深いな、実に罪深い――そうだった。お前たち罪人が、この国を堕落させたのだ」
数歩後ずさり、歯ぎしりしながらディオニージが忌々し気にこちらを睨む。
その身体に刻まれた数多の傷は彼が戦闘不能に近いことを示している。
「――死ぬがいい、罪人ども。その首全てを地面に落としてやる」
剣を立てるようにしてディオニージが叫ぶ。
聖痕の刻まれた剣に濃い魔力が集束していく。
ゆっくりと構えて――振り下ろす。
濃い闇のような魔力を帯びた斬撃が戦場を駆け抜ける。
「そんなもので、私は倒れないわ!」
戦場を塗り替えた断罪の魔力を振り払い、真っ先に声をあげたのはレイリーに他ならない。
攻撃の基点であり、爆心地に違いないその地にあった騎士/アイドルは健在たるその姿を示して声をあげた。
白竜の兜の内側、真摯に向けたレイリーの視線は、真っすぐにディオニージを射抜いている。
半分砕けてしまった兜は、結果としてその揺るがぬ眼光をディオニージに突きつけた。
「――何故だ? なぜ貴様ら全員が生きている!?
くそ、連中の技術で強化されたとやらではなかったか! 忌々しい紫陽花女め!」
目を瞠った男が激情を露わにした。
「ごめんなさいね、ここでおしまいよ」
ヴァイスはそれを突きつけるように緩やかに笑みを浮かべてやった。
展開されし結界が終わらぬ遊興の舞台を戦場に広げていく。
ディオニージの表情が、明確に引きつっていた。
その刹那、ヴァイスは自分の持つ暗器の限りをディオニージへと向けた。
白薔薇の笑みはいっそ妖しく、美しき純白の裏には無数の毒手が潜んでいる。
圧倒的な手数と手札の全てをディオニージめがけて撃ち込んでいく。
「貴方は覚えていないだろうね。
オルタンシアは、かつて貴方が断罪した犠牲者であったことも。
その妹がエリーズと名を変えて生きていた事も」
撃鉄を起こし、マルクは真っすぐに敵を見た。
握りしめた魔剣の輝きが旭のような熱を帯びて迸る。
「あぁ、覚えが無いな、罪を斬った相手の顔なぞ憶えてないわ!」
振り抜かれた敵の大剣と真っ向から斬り結ぶ。
これ以上をさせないために、その断罪の一切を正面から否定するために。
跳ね上げた一閃の刹那、ほころびを見せた魔力は暴走し、光となってディオニージを貫いた。
「問題ナシ フリック イル限リ 大丈夫」
フリークライは齎された猛威を全て呑み込むように、大地の魔力を循環させていく。
齎された絶望的な一閃を振り払う、エンテレケイア。
優しい風光が慈愛の息吹が多数の仲間の傷を一掃する。
「――逃がさない、ここで終わらせるわ」
蛍は刹那に藤桜の剣を構えた。
希望を照らす光輝のように聖剣が桜色に輝く。
飽和した魔力が藤色の燐光となって花弁のように散れば。
咲き誇る藤桜の剣、巨大な剣身となった聖剣が天へと伸びていく。
踏み込みと共に放たれた極限まで洗練された一閃は鮮やかに輝いた。
それは見る者を見惚れるほど美しく、鮮やかで。
齎された輝きに導かれるようにディオニージが視線を下ろす。
そして、それは。愛する者へと繋ぐ蛍の道標。
静かに珠緒はディオニージを見た。
忌々しいと顔を歪める男に『反省』やら『後悔』やらを抱かせるのは、きっと不可能だ。
でもそれでいいのだろう。ただ、死に望むその刹那にこの男の絶望というのは待っているのだ。
「藤桜剣――抜刀」
踏み込み、紡ぐ血の攻勢術式。
「おまえはそこで、かわいてゆけ」
桜色の和装の下から伸びた術式刀が鮮血の色を放ち閃光となって敵を薙いだ。
「ぉぉぉ!!」
傷口を抑え、男が数歩後ずさる。
「正義の果てにはみんなの希望があって欲しい……こんな地獄絵図の先に希望があると思えない」
それは綺麗ごとでしかないのかもしれない。
正義はきっと、命の数だけあるのだとも分かっている――それでも。
「だけど! 貴方だけは許せない!」
ユーフォニーは静かに全霊の魔力を敵へと籠めた。
「傷つけ、殺める事の重みを忘れたひとを、私は、絶対に――!」
世界が砕け散る刹那に煌く万華鏡のように、爆ぜた魔力の波動がディオニージ一帯を抉り取った。
「お前は言ったな、これが『断罪』だと」
砕け散った大地を飛び込み、ルーキスはディオニージの眼前へと踊り込む。
「ふざけるな! お前は己の欲望を満たす為、『正義』という言葉を都合よく使っているだけだ。
『次』など、お前には無い。この場で終わらせる!」
振るう剣閃は苛烈に、師より授かりし砕の太刀。
鬼の力を宿した斬撃に残る気力の全てを注ぐぐらいの気持ちで、ルーキスは太刀を巡らせる。
「だから――どうした」
崩れ落ちる、寸前にディオニージが声をあげる。
「そんなものは、全員だろうが。
この国が語る『正義』とやらが都合のいいものでなかったことなど、万に一つもありはしない。
俺の行いがなんであれな――天義が俺を不正義だと狩れなかったのは、同じ穴の狢に過ぎないがゆえだ。
それを今更になって、今更になって――反吐が出る。滅べ、天義よ」
せせら笑うように、男は天義という国への呪詛を吐いた。
忌々しいとばかりに口を開き続けるその首筋へ、ルーキスの太刀筋が一閃したのは、その直後だった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ディオニージと赤騎士の撃破順や聖痕の描かれた順番。場合によってはディオニージの炎の獣化も想定しておりましたが……そこ含めてお見事という他ありません。
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
早速始めましょう
●オーダー
【1】『冷厳なる』ディオニージ・コンティノーヴィスの撃破
【2】預言の赤騎士の撃破
●フィールドデータ
聖都『フォン・ルーベルグ』近郊の都市です。
本来であれば穏やかな町並みですが、現在は多くの人々が次々に炎に包まれる地獄絵図が広がっています。
●エネミーデータ
・『冷厳なる』ディオニージ・コンティノーヴィス
魔種です。『遂行者』の1人だと少なくとも本人は思っています。
かつては古き天義こそを良しとする異端審問官であり聖騎士でした。
ですがそれも『不正義』を看板にあらゆる拷問、尋問を正当化しやすいからにすぎません。
本性は身勝手で冷淡、非情、過酷、傲慢、冷徹を地で行く男です。
度の過ぎた加虐主義者であり、生来の性格破綻者です。
その性的嗜好の根幹に根差すのは『冤罪のままに最期まで罪を認めずに果てた』女であると言います。
獲物はエクセキューショナーズソードの一種。
大きさは寧ろ長大剣の類という方が近く、その剣身には十字架のような聖痕が刻まれています。
近接戦闘の他、広域へとギロチンの刃を思わせる何かを落とす魔術を用います。
近接戦闘では単体攻撃主体、中~遠距離戦闘では広域攻撃が主体となります。
主に【凍結】系列、【出血】系列、【足止め】系列、【麻痺】、【致命】などのBSや【邪道】攻撃を用います。
・預言の赤騎士×2
焔で出来た馬に乗る焔を纏った赤い騎士です。
人々の姿を炎の獣へと変化させ、滅びのアークを纏わせた『終焉獣まがい』の存在へと至らしめます。
武器は炎で出来た槍。
武器の形状から射程は近接~中距離、【単体】の他、【貫通】や【扇】などの射程を持つと思われます。
主に【火炎】系列や【致命】、【呪い】のBSを付与してきます。
・侵された人々×10~???
赤騎士によって終焉獣もどきに変えられてしまった人々。外見は炎に包まれた人間です。
雑魚ですが、赤騎士が撃破されるまでターン開始時に2体増えていきます。
戦闘方法は囲んで殴ってくるぐらいでしょう。
赤騎士が撃破されると元に戻ります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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