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シナリオ詳細

<信なる凱旋>日常を返せ

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 ある少年の話をしよう。
 ただ少しだけ器用な、けれどごく普通の少年だった。
 ごく普通の父と母を持ち、友達がいて、村の学校に通っていた。
 そんなある日、全ては奪われ、失われた。
 世界中どこにでも起きたような巨大な災厄に飲まれ、村は消えたのだ。
 復興と称して役人たちが訪れ建物を直し雇用を生み人を流れ込ませることで表向きの復興は済んだものの、少年にとっての過去はもはや戻ってなどこない。
 けれど、少年は耐えた。
 大人たちが言うからだ。
 未来を見なさい。過去に縛られるな。死んだ人は帰ってこない。死んだご両親は喜ばない。
 現実を、世界を、真実を知らぬ子供にとって、大人たちのそんな言葉を信じるしかなかった。
 信じて、耐えた。
 けれど心のどこかではずっとこう思っていた。
 誰も、何も、僕に返してくれてなどしない。

「父を返せ。母を返せ。友達を返せ。学校を返せ。……日常を返せ!」
 吠えるように叫んだ少年の心は、願いは、ある聖騎士との出会いによって昇華する。
「取り戻してみせるよ。君の父も、母も、日常のなにもかもを」
 聖騎士グラキエルが魅せたのは、全てが回帰する光景であった。
 神の国が下ろした帳は世界を上書きし、予言を遂行するための権能。
「けれどそれを、この聖骸布は少しだけ書き換えることができる。
 神ルスト・シファー様が世界を書き換えたその時に、僕の村は帰ってくるのさ。
 そう、僕は……選ばれたんだ!
 僕はイルハン――遂行者イルハン!」


「そうか、あのとき流れ込んできた感情は……事実に基づいていたのか」
 天目 錬(p3p008364)は情報屋から受け取った資料を手に、めを細める。
「遂行者イルハン。星灯聖典に所属する遂行者で、聖騎士グラキエルから多くの聖骸布を下賜されたネームドだ」
 情報屋は続けた。
「彼がそうまで世界の書き換えを望むのは……神の予言の遂行を進めるのは、かつての日常を取り戻したいがためということなんだろう」
「だとしても、許されることじゃない。俺の領地を襲ったことも、今からしようとしていることもな」
 錬の言葉に、情報屋は『そうだ』と小さく頷いた。

 天義西部に位置する町、エルムヘイブ。
 それは古代エルムの木々に囲まれた田舎町であり、その木材を特産品とする。
 自然派美しく、森や湖が広がる光景は観光名所としても知られていた。
 そんな町に、遂行者イルハンは襲撃をしかけるというのである。
「ただ襲撃をしかけるだけじゃない。『預言の騎士』と星灯聖典の信徒たちを引き連れ町を制圧し、帳を定着させようという狙いだ」
「俺の町を襲ったときと同じように……か」
 錬は呟き、先を促す。
「星灯聖典のことは知ってる。聖骸布を下賜された聖騎士グラキエルの信徒たちだ。
 聖骸布によって常人離れした力を手に入れていて、町の防衛力くらい簡単に突破してしまうだろう。
 特にイルハンは多くの聖骸布を下賜されているために俺でも手を焼くくらいだ。
 戦闘は激しいものになるだろうな。けれど……」
 視線を向ける錬。情報屋は頷いた。
「『予言の騎士』、だな? これはルスト派が新たに投入してきた騎士だ。おそらくルストの権能によって生み出された存在だろう。
 馬に乗った姿で現れ、強力な戦闘力を持つとされている。
 今回投入されているのは『白騎士』と呼ばれるバッファータイプだ。周囲の存在を強化する力をもっているという」
「聖骸布でパワーアップされてる上に更に騎士の力で強化って……徹底してるな」
 錬はやれやれと首を振りつつ、しかし勇ましく椅子から立ち上がる。
「それでも止めるさ。たとえそれが、少年の夢を踏みにじることになったとしても……」

GMコメント

●シチュエーション
 天義の田舎町エルムヘイブに襲撃をしかけた遂行者イルハンと白騎士の集団。
 これを撃退するべく、ローレットへ依頼が舞い込みました。

 シナリオスタート時点てあなたは一足先にエルムヘイブに到着し、内側からの迎撃準備を行うことができます。
 住民の避難は完了し、場合によっては町の防衛戦力を借りることも可能でしょう。
 罠をしかけたり侵攻ルートを制限するためのバリケードをつくるなどの工夫も役に立つはずです。
 なお、住民は町の奥にある公民館のような建物に集まって避難することになるでしょう。

●エネミー
・『回帰悲願』イルハン
 かつて失われた日常を取り戻せると信じ星灯聖典に忠誠を誓う豊穣出身の少年。
 黒髪のショートヘアにラフに着崩した和服を好む。
 聖骸布を多く下賜されているため超人的な戦闘能力を持ち、空想を一時的に具現化するという子供ならではの戦闘方法をとる。
 天目 錬の領地を自らと同じ運命を辿らせようと襲った際に防衛されたことで、因縁が生まれている。

・白騎士アンナフル
 バフ能力に優れており存在しているだけで戦場内の味方全員を強化することができる。
 固体戦闘能力もそれなりに高く、白き槍を装備し高い格闘能力を持っている。

・星灯聖典信徒×複数
 かなり多くの星灯聖典の信徒たちが襲撃に参加しています。
 彼らの下賜されている聖骸布は僅かなので戦闘能力もそこまで高くありませんが、数が大いうえ白騎士による強化もあってかなり厄介です。

  • <信なる凱旋>日常を返せ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月04日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
シュテルン(p3p006791)
ブルースターは枯れ果てて
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
たったひとつの純愛
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

リプレイ


 屋根から屋根へと飛び回り、走る。
 『こそどろ』エマ(p3p000257)はいくつかの路地を飛び越えたところで、皆の合流地点へと着地した。
 町の地形を理解しておくための作業なのだが、地図を見るのではなく上から飛び回って見るあたりがエマ流なのである。
「大体分かりましたよ」
「町の地理がか?」
「そっちもですけど」
 腕組みをしてこたえる『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)に、エマが手を翳す。
「ルスト派の狙いですよ。飛び飛びで見てたのでイマイチ分からなかったんですけど、あの人たち……世界を書き換えようとしていたんですね。まあそうしたい気持ちは分からなくもないですけど?」
 えひひ、と特徴的な引きつり笑いをするエマ。
 一方の昴は『私はよくわからんがな』と返しつつ、設置を終えたバリケードのひとつを見た。
 この町はそう大きくも無ければ広くも無い。
 密集した民家と細い路地でできており、それらを塞ぐことは難しくなかった。要するに、敵の侵入経路を限定するのが容易だったと言うことである。
「敵が来る前に民間人の避難が終わっていて、戦闘に備えられるのは僥倖だな」
「おかげでフル改造できたからな」
 ぱしぱしと手を払って言う『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)。
 彼らの施した仕掛けは、敵を細く長く分断することだ。一部の敵を奇襲ゾーンにおびき寄せて奇襲が得意な面々で潰し、残ったチームを広い戦闘エリアに誘導しこれもまた集中的な奇襲で数を減らす。
 まずは敵が持っている数の利を殺すのが目的なのだ。
(失ったものを取り戻す。それそのものは悪くないが……星灯聖典、グラキエスは明らかに詐術を用いて遂行者に仕立て上げている
 まやかしが帳の内側でしか出来ない以上はそれは「失ったものを取り戻す」のではなく「誰かから奪う」側に、アンタが失わせる側に回るんだ)
 錬の目が鋭くなる。
「与えられた物とはいえ武器を持つ以上はその覚悟をしてから来るんだな! 没収して教育してやるぜ!」
 かかってこいとばかりに、錬は気合いを入れるのだった。

「やれやれ、妄執に囚われているというかなんというか浅ましいと言うべき?」
 『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)は民家の屋根に腰掛け、ふうと小さく息をついた。
 言葉がさしているのはイルハンのことか、それとも星灯聖典全般へのことか。おそらく両方だろう。
「けどまぁ同情こそすれ看過する謂れはないよねぇ? それじゃあ、お仕事と征こうか」
 すっくと立ち上がるアイリス。隣で魔導書の表面を撫でていた『『蒼熾の魔導書』後継者』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)もまた立ち上がる。
「たとえ何であれ、私たちの邪魔をするだけならだれであろうと容赦は致しませんわ。全てぶっ飛ばして差し上げましてよ」
 スッと翳した手の指先に、青い魔力を灯すリドニア。
 その様子を、日傘を差していた『玉響』レイン・レイン(p3p010586)がちらりと見てから、無言で遠くを見つめた。
 それは、星灯聖典たちが攻めてくるであろう方角だ。
 誰かのことを、本当の意味で分かってあげることはできないのかもしれない。まして、こうして出会った、敵対したばかりの相手のことなど。
 けれど、思うことはある。君のそれは、ただの……。
「そろそろ時間だ」
 ベルナルドが声をかけてくる。レインはこくりと頷き、屋根からぴょんと地面へと飛び降りた。
 途中でふわりと傘で風をとらえてからゆっくり着地するとベルナルドが頷きで返す。
(汚い大人の餌食になるのはいつだって子供だ。あのイルハンという子供も、そうやって利用された一人だろう。
 だが、頭ごなしに自分の行いを否定されてもイルハンは反発するに違いない。
 自分で考えて、自分で過ちに気付けるよう考える時間を与えてやりたい……それができれば、あるいは……)
 町の中でも特に広い、噴水のあるエリアへとたどり着いた。
 中央広場と呼ばれるその場所は、公民館にやや近い。ここが防衛ラインであり、ここが主な戦場だ。
 『星を掴むもの』シュテルン(p3p006791)がワイバーンをそばに控えさせ、いつでも戦闘に加われるようにと空にあがろうとしていた。
「星灯聖典……星がつく聖典、なのに……悲しい聖典……なのかな」
(星と言えば思い浮かぶのは私の家……ううん、きっと関係ない、よね。私のお父様(お爺様)は沢山悪い事をしてきた人、だけど……)
 そんな風に考えるシュテルンの一方で、ファミリアーを通して町の外を観察していたレインが声をあげた。
「来るよ」
 ざわり、と緊張がはしる。
 頷き合うイレギュラーズたちは、それぞれの配置につくのだった。


 星灯聖典の部隊を実質的に率いているのはイルハンでも白騎士でもなく、このファルマという男だった。過去大きな商店グループを持ち財を築いた彼は、内部で起きた様々なトラブルによってグループを追われその立場と財を失った。それを取り戻すために星灯聖典へ参加したが、彼の統率力はどうやら役に立つようで、こうして『元一般人』の集団を統率し指揮している。
「イルハン様と白騎士様はあとから来るということだ。我々は先行して危険の有無を確かめる。いいな?」
 ファルマが呼びかけると、武器を手にした男女が威勢良く返事をする。
 彼らはつい最近まで武器もマトモに振るったことのない一般市民だが、それぞれが取り戻したいもののために星灯聖典に入信していた。それによって聖骸布を下賜され、その辺の兵士程度なら撃退できる程度の力を手に入れたのだが……。
「力を持っても油断はするな。この町の防衛戦力は把握済みとはいえ――」
「いたぞ! 兵士だ!」
 部隊のなかにいた一人の男が叫んだ。サムハンという名の男で、失った家族を取り戻すために参加した元農夫である。
 彼の叫びの通り、一人の兵士が路地の向こうへと逃げ去っていく。
「追いかけましょう!」
「俺たちならやれる!」
 そう叫ぶ仲間たちにファルマは頷いて、走り出す。
 バリケードの多い町だが、兵士が逃げるルートも限られているはず。足の速さやスタミナも聖骸布で向上しているせいか、簡単に兵士を袋小路へ追い詰めることができた。
「よくも俺たちを迫害してくれたな!」
 仲間の一人が叫ぶ。天義の兵に土地を追われたことのある者だ。
「私達には何も返してくれなかったくせに!」
 先の大災厄で家族を失った女性だ。
 彼らは憎しみも露わに兵士へ遅いかかろう――としたその瞬間。兵士の姿がフッとかき消えた。
「――幻影!? まずい!」
 ファルマが叫ぶその瞬間、屋根の上からエマとベルナルドが飛び降りてきた。
「ひひ、ご苦労様です」
「悪いが、罠を張らせて貰った」
 そう語るベルナルドが言うとおり、袋小路の出口に隠された罠が姿を見せる。
 更には町の兵たちが通路を塞ぐようにどこからともなく現れ、槍を突きつけていた。
 どうやら進む途中にあったバリケードのいずれかが幻影であったのだろう。そこに彼らは隠れていたというわけだ。
「ハメられたか……」
「その通り」
 屋根の上から声がする。リドニアの声だ。
 彼女は蒼穹の魔導書――新たなるブレイジング・ブルーの表紙をサッとひとなでしてから天に手を翳し、『覇道領域』の魔術を展開した。
 青き衝撃の雨がファルマたちへと降り注ぐ。
 部隊が半壊するに充分な範囲攻撃だ。そこへエマが笑いながら星灯聖典の信徒たちを斬り伏せていく。
 ベルナルドもそれに付き合い、拳に纏わせた魔力で殴り倒した。
「退くならば良し。まだ諦めずに前へ進むのならば咎人とみなす。咎人共に情状酌量の余地は無し斬滅あるのみ天なんてね?
 これでも多少は同情しているから手加減はしているのだよ?」
 スッと壁から透過してアイリスが姿を見せる。
 ファルマが剣を抜いて斬りかかるが、アイリスはそれをいとも簡単に回避すると、ファルマを黒い刀で斬り付けた。
「他者を巻き込んででも尚まだ望むか……まぁそうなるよねぇ。忠告はしたからね? はぁ、世は無常だ」

「先行した部隊が壊滅しました。罠にかかったようです」
 広域俯瞰やファミリアーを起動していた部下からの報告に、イルハンはハアとため息をついた。
 これだから大人は信用できないのだ。ヤル気ばかり見せて行動が伴わない。優しい顔ばかりして何もしてくれない。そんな連中ばっかりだ。
「もういいよ。僕と白騎士に随伴して。広域俯瞰とエネミーサーチを誰か起動して奇襲に備えて。じゃあいくよ」
 一度はめた罠が二度通じると思っていないらしく、ベルナルドやエマたちはそれ以上の奇襲をしかけてはこなかった。
 結果襲撃を受けること無く彼らは噴水のある中央広場へと攻め入ることに成功……したのだが。
「先手必勝!」
 イルハンが大量の剣を想像錬成し、八人並んだ人々めがけて発射。
 錬が身構え、壁を瞬間鍛造することで防御するが他の面々は直撃をうけ崩壊――崩壊?
「違う! あれは人じゃない!」
 ローブを被った八人分の人影は、その殆どが人形であった。
 後衛に下げていた星灯聖典の信徒たちが慌てた様子で剣や槍を構えるが、もう遅い。
 ワイバーンによって空へ飛び上がったシュテルンがヴァイス&ヴァーチュを発動。
「私に出来る事……沢山頑張る、します!」
「ぐわっ!?」
 直撃をうけた信徒の一人が吹き飛び石畳の上を転がった。
 シュテルンのワイバーンに相乗りしていた昴と、屋根を簡易飛行で飛び越えたレインがそれぞれバックアタックを開始。
 昴のダブルラリアットが信徒たちを纏めてなぎ払い、レインの掲げた桜色の傘が海月の舞い踊る幻影を広域に生み出す。海月たちはバチバチと魔力放電を行い、それをうけた人々は狂気に陥りなかにはそのまま転倒し頭を打って気絶する者まで現れる始末だ。
 さすがに敵を甘く見すぎていたか。イルハンは白騎士を振り仰ぐ。
 こくりと頷いた白騎士は剣を抜き、乗っていた馬からひらりと飛び降りた。
 そこへ屋根伝いにエマやアイリスたちが駆けつける。
 イルハンは吠えるように叫んだ。
「総員迎撃! 白騎士と僕の盾になれ!」


 星灯聖典のもつ数の利を削るという作戦は成功した。
 よって、大量の肉盾によって削り殺されるという心配も同時に減ったわけである。
 エマの強烈な突進が白騎士へと迫る。白騎士は槍によって攻撃を受けるが、そのままくるりと白騎士の背後に回り込んだエマがメッサーの柄でおもいきり殴りつけることで白騎士の体勢が僅かに崩れる。
 振り向き槍を振り抜いた白騎士だったが、エマはその時には既にバックステップをかけ槍の範囲外へと逃げていた。
 あまりにもすばしっこく、捕らえづらい。逃げ足の速さなら誰にも負けないエマなのである。
 それは間合いのとりあいでも言えることだ。
 そこへ、ベルナルドが拳に極彩色の魔力を纏って迫る。
「白騎士の守りを払え! 俺たちの勝利条件は白騎士の撃破だ!」
 ベルナルドの言うとおり、こちらの勝利条件は白騎士の撃破にある。というのも、イルハンは死ぬまで戦わなければならない理由がなく、白騎士を失ってまで作戦を続ける理由もまたないからだ。自ずと相手は撤退していくだろう。その際に星灯聖典の一部はそのまま捕縛できるかもしれない。
 白騎士を殴りつけながら、ベルナルドはイルハンへと視線を向ける。
「イルハン。人の一生は掛け替えの無い物だ。
 君の周りの大人達はそれを知っているから未来を向くよう助言した。
 今の君の行いを、彼らが知ったらどう思うかな」
「ッ――五月蝿い」
 言葉を払いのけるようにして、イルハンの想像錬成によって大量の槍が天空に浮かび上がる。その全てがくるりとこちらを向き、次々に突っ込んできた。
 ベルナルドは跳躍と転がりをもってそれを回避。中でもシュテルンは回避の間に合わなかった仲間に対して治癒の魔法を展開した。
(星に囚われた人々もどうにか出来たら良かった、のに……。でも信仰が簡単に解けないのは理解してる、から……)
 そんな治癒をうけながらイルハンに突進する昴。
 彼の拳がイルハンの想像錬成した盾を粉砕する。
「お前、本当に遂行者か?」
「遂行者だよ。見かけで判断するのかい? 行動で判断して欲しいね」
 昴の連続したパンチが連続して想像錬成される盾によって防がれる。が、最後の一発がイルハンに命中。
 イルハンはガード姿勢のまま軽く吹き飛ばされた。
「イルハン様!」
 星灯聖典の信徒が盾になろうと立ち塞がるが、それをレインが払いのける。
 一度畳んだ傘を剣のように構えると、横一文字に切り裂くように振り抜く。
 するとイルハンを中心としたエリアに海月の幻影がパッと浮かび、先ほどの魔力放電を引き起こしたのだ。
「ぐわっ!?」
 信徒たちが膝をついてくるしみ始める。
 どうやらイルハンにも致命の効果が入ったらしく、顔をしかめているのが分かった。
「言葉の、本当の事なんて……本人にしか分からない。
 君の言う大人達だってそう……そのグラキエルだってそう。
 奪われた悲しみは…僕には分からない……。
 けど、それは、周りに八つ当たりしてもいい事なの……?
 君は周りに何かあげた事はあるの……?」
 レインの言葉に、イルハンはより顔を深くしかめる。返せる言葉がないのだろうか。
 それでも、戦うしかなくなってしまったのだろうか。
「――式符・相克斧」
 錬は斧を瞬間鍛造するとイルハンへと突っ込んだ。対抗して剣を想像錬成するイルハン。斧と剣がぶつかり合い、激しい火花を散らす。
 かと思えば、想像錬成された鎖が錬の足や腕へと巻き付いてその動きを封じてきた。
(子供らしく戦い方が柔軟だな。けど、対応力でなら負けないぜ!)
「式符・陰陽鏡!」
 瞬間鍛造した魔鏡の光を発射。飛び退き距離をとろうとしたイルハンへと浴びせかけられる。
 その隙に、アイリスとリドニアは動いていた。
 狙いはイルハン――ではなく、白騎士だ。
 抜刀と同時に走り抜けるアイリス。黒き弾丸となった彼女の剣が白騎士の槍を強烈に跳ね上げる。
 そのまま盾での防御を諦めた白騎士は槍をあえて手放し、アイリスへと短剣を繰り出した。
 短剣がアイリスの身体を切り裂くその瞬間に……しかし、アイリスはニヤリと笑っていた。
 なぜなら、その一手が『詰み』の一手であったからだ。
「第八百二十一式拘束術式、解除。干渉虚数解方陣、展開。蒼熾の魔導書、起動――!」
 ブレイジング・ブルーの力を解放したリドニアは、近距離からその力を白騎士へと叩き込む。槍を手放していたことで防御も疎かとなった白騎士はその直撃を受け、吹き飛び、そしてまるで泥のように溶けて散ったのだった。
「白騎士が――」
 チッと舌打ちをするイルハン。
「もういい! 撤退だ、撤退するよ!」
 残った信徒たちに呼びかけると、自らも飛行装置を想像錬成して飛び去っていく。
 慌てて撤退を始める信徒たちをある程度は見送りつつ、戦いはイレギュラーズたちの勝利に終わったのだった。

 全てが終わり、町の住民たちが避難した建物から出てくる。
(人々の不安や悲しみ、怒り……信仰する度に増えてくなんて本末転倒だね……。
 人々は救いを求めて信仰に縋るのに……。
 これは人々の悲鳴すら、利用されてしまう、のかな……。
 どうか、私の祈りでだけでも、人々に救いがありますように……どうか、どうか……)
 シュテルンは救われなかった人々を想い、祈りを捧げるのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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