PandoraPartyProject

シナリオ詳細

夏の終わり、君と

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鱗は呼ぶ
 静かな水の奥底で、赤羽・大地 (p3p004151)は手首を掲げた。
 ぎらりと輝くのは鱗、ヒトでない証。気持ち、広がっているような、気がする。いずれは泡となって消えゆくのだったか。それは苦痛を伴うのだろうか。もしそのとき、首を突っ込んだ自分は、まあいいとしても、共にある赤羽のたましいは、どうなってしまうのだろうか。
 考えても詮無いことと、大地は首を振った。脚で水をかき、水面を目指す。

●水着準優勝おめでとう!
 なんて声が、水面から顔を出した大地を出迎えた。
 今日の大地は、とてもきれいだ。白で統一された水着は、性別不明にも似た危うさが有り、紅に染まっていく長い髪とよく調和している。二の腕の飾りから流れ落ちていくシースルーが、水分で張り付いて、美しい曲線を描く腕から手にかけての悩ましさを強調しているし、スカート風のパレオときたら、セイレーンか人魚姫かという装いだ。歌でも歌ったら、ころりと魅了にかけることだってできそうだ。小さく控えめな、アクアマリンが愛らしい。
「ふーん、えっちじゃン?」
「うっさい、黙れよ赤羽」
 肩を落とした大地は、同じ体へ住まう赤羽へ悪態をついた。
「そういわれてもヨ、えっちなもんはえっちじゃん? 大地クンだって初読の一次感想は大事にしろって言うだロ」
「それは読書の話だ。俺についての感想じゃない」
 やれやれと大地は首を振り、海を泳ぐ。プールと違って、違和感があるのは浮力のせいだ。たしか淡水に比べて海水のほうが密度が大きかった気がする。おおよそ2.5%。誤差にしては大きかろう。浮力は流体の密度に対して比例していくのだったか。
「まーた小難しいこと考えてんナ」
「性分だ」
 大地は苦笑し、浜辺へたどり着いた。バナナボートが浮かんでいるのが見える。たしかダイビングもできるのだったか。

●8月のある一日
「よオ」
「こんにちは」
 あなたは大地から声をかけられ、静かに、あるいは元気に、快活に、穏やかに、おとなしく、おどおどしながら、挨拶を返した。そこはもうあなたのスタンスへ任せよう。
「海、楽しんでる?」
 大地から微笑みかけられたあなたは、うなずきかえした。
 すこし泳ぎ疲れたから、冷たいスイーツでも楽しみに行こうと思っていたところだ。そう返すと、大地はうれしげにうなずいた。
「甘いものはいいよな。俺も行こうかな」
「おっと大地クン。護衛の仕事はいいのカ?」
 そうだった、この海へは、護衛できているのだった。最近各国の動向があやしく、各地で遂行者なる存在が暗躍しているという。シレンツィオへいくほどではないけれど、夏は楽しみたい。そんな層が、ここ海洋のビーチへワンサカ集まっているのだ。
「イレギュラーズに来てもらうってのが主な目的みたいだから、深く気にしなくていいよ」
 いまでは混沌中に名を轟かせたイレギュラーズ、その存在だけでワルイ輩には抑止力となるのだ。だからあなたは居てくれるだけでいいし、いっしょに海を楽しむ分にはなんの問題もない。そう大地は解説した。
「生真面目な君は護衛を続けてくれればいい。俺は、どうしようかな」
 あなたもまた思案顔になった。
 せっかく来たのだ。遊びたいし楽しみたい。そのくらいの欲はもっている。ショッピングやスイーツを楽しむのもありか。はたまた? あなたは楽しく悩みだした。

GMコメント

みどりです! 遅くなってごめんなさい!

やること
1)夏を満喫する

このシナリオでは、水着を描写することができます。
該当のイラストのURL、または詳細をプレイングへ書き込んでください。
名声は海洋へ入ります。

下記から選択肢を選んでください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


行動選択
 以下の選択肢の中から行動を選択して下さい。

【1】海
海で遊びまくります。そのまま泳いでもいいし、バナナボートやダイビングで遊んでもよし。ビーチチェアでドリンクを頼んで、のんびり会話を楽しみながら、肌を焼くのもありですね! 釣り? もちろんできますとも。

【2】浜
練達製エアコンの効いた、スイーツバイキングがおすすめです。ゼリーを中心に、映えるひんやりスイーツが目白押し。ショッピングモールでは、夏物バーゲンセールもやってますよ。新作の秋物もお目見えしているようです。

【3】警備
初志貫徹なあなたはこれです。人が集まる所、悪人有り。夏のビーチにはわるいやつもたくさん入り込んでいます。過度なナンパ。スリ。恐喝。あなたの力で、ビーチの平和を守りましょう。戦闘が発生する可能性があります。

  • 夏の終わり、君と完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC1人)参加者一覧(8人)

赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
シャーラッシュ=ホー(p3p009832)
納骨堂の神
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)
青薔薇救護隊
雪風(p3p010891)
幸運艦
ピリア(p3p010939)
欠けない月

リプレイ


『納骨堂の神』シャーラッシュ=ホー(p3p009832)は、浜辺で風に吹かれていた。
 日差しは暑いが、風の中には秋の気配がある。幾千幾万の波の上を通ってやってくる風は、湿気をはらんでおり潮の匂いがする。片手に黒い日傘、そして黒スーツを着た姿は、これから葬式にでもいくかのようだ。が、小脇に抱えた白い花束がそうではないと告げている。
 こちらへ走ってくる足音がした。何人かが団子になって戯れている。ホーはゆっくりとそちらを振り向いた。
「準優勝、おめでとうございます」
「おめでとさん、大地!」
『バカンスお嬢様』レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)と『生イカが好き』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)が先頭を走るその人へ手を伸ばしている。
「くすぐったい、くすぐったいってば!」
「おいよせやめロ!」
 口ぶりとは裏腹に、きゃらきゃらと笑っているのは『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)。白い肢体を彩る水着が、ひっぱられてずりおちそうだ。柔らかい笑みを浮かべている『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)の手が大地の腕の飾りをかする。
「良き運を得た人に触れると御加護があるそうです」
「…そう聞くよ…。…僕たちにも…幸運を分けてよ…」
『玉響』レイン・レイン(p3p010586)がぐっと利き手を伸ばす。大地が避ける。アッシュもレインも笑みをにじませながらの追いかけっこだ。誰も本気で大地をふんづかまえてやろうとは思っていない。ただそのなめらかな肌に触れてみたいだけの、ちょっとした欲求。
「あ、もう海なの~! あれは、ホーさん!?」
『欠けない月』ピリア(p3p010939)が目ざとく黒い姿を見つける。「そうね」と『双影の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)が相槌を打つ。追いかけっこの後ろをついてきた『幸運艦』雪風(p3p010891)が、ホーへ頭を下げた。御縁は大事にしたい、雪風なりの気遣いだった。
 追いかけっ子はホーを終着点として終わりを迎えた。ホーが大地へ白い花束を差し出す。
「どうぞ」
「ありがとうございます、ホーさん」
「気が利くナ、ホー、カサブランカとハ」
 たしか祝福を意味するのだったか、白い花に埋もれるように顔を寄せる大地へ、ホーは一礼をした。
「お会いできてうれしくおもいます。もしよろしければ、私も按手会へ参加しても?」
「ホーさんなら、はい」
「いいゼ、こいヨ」
 ひょいと頭を差し出し、撫でられ待ちの大地に、ホーは微笑を浮かべる。そして長く骨ばった手をその頭へ置いた。あたたかい。生命の息吹が伝わってくる。自分にはもったいないほどだ。ホーはていねいに大地の頭を撫でると、一歩下がってまた礼をした。
「それでは私は失礼します。今日という佳き日、大地殿におかれましては、存分にお楽しみください」
「ホーもいっしょにいかないカ?」
「私は散歩でもします。一人には慣れていますし、気楽です」
「そうですか」
 すこし寂しそうな大地の手をホーがとった。そのまま両手で包むように握る。
「あなたの喜ぶ姿を見れた。それを胸に焼き付けて、私は余韻を楽しむとします」
「わかりました。来てくれてありがとうございます、ホーさん」
 大地もぎゅっと、その手を握り返した。


「海なの~!!」
 波へ向かって突撃するピリアを、マリオンが止めた。
「準備運動してからでは?」
「あ、そうそう。そうだったの~」
 せーの、いっちに、いっちに、腕を前に上げて背伸びの運動~。ふたりで波打ち際、手足を伸ばして体操。ピリアの格好は白のタンキニ。ホワイトオパールの髪を後ろで結い上げているせいか、アクティブに見える。動く度に白のアウターがひらひらして、ピリアがもつ豊かなヒレとともに日光を反射しているのも、そう見える要因だろうか。
 マリオンは白いラッシュガードに、競泳用のメンズ水着。黒と紺のシックなスタイル。今日は秋空の青と冬空の青を瞳に宿したオッドアイ。男性体だ。小さなピリアと比べると、マリオンは上背がある。
「海に来るのは久しぶりだね。」
「そうなの~。レインさんの水着もみれたしラッキーなの♪。みんなの水着、とってもかわいい!」
 それじゃ、とピリアはマリオンへ顔を向けた。
「すいえーきょうしつをはじめるの!」
「はい!」
 むん! と、ふたりで拳を天へつきあげる。
「うみちゃんはどうする?」
「だいじょうぶなの」
 カラクサ・フロシキウサギのうみちゃんのために、ピリアは自分の日傘をビーチパラソルにしてあげた。水入れを用意し、おやつも用意してあげた。
「砂浜だから、穴をほって遊んだりもできるの! 遠くには行かないでね、うみちゃん?」
 心得たとばかりに首を縦に振るうみちゃん。
「それではご指導よろしく、ピリア先生。」
「ん~、ピリア、口でおしえるのじょうずじゃないから、じっさいにやってみせるの!」
 マリオンへ配慮し、ピリアはゆっくりと海へ入っていく。いつもならざぶんと飛び込むところだけれど、それは初心者にはまだ早かろう。まずは水に慣れてもらわなくては。
 ピリアはマリオンの手を取り、体を海へ浮かばせるコツを教えた。といってもやってみなければできないから、まずは顔を水へつけるところから。マリオンはのみこみが早く、水への恐怖心も小さかった。
「あしをバタバタ~そうそう、そのちょうしなの~。てをはなすね」
「ゴボゴボ(OK)」
 すぐに泳げるようになったマリオンに、ピリアは小さな手でいっぱい拍手をした。
「すごいのー! がんばったの! マリオンさんひゃくてんなの~!」
「うんうん、教える時に褒める事を忘れないピリアは、きっと優しいお母さんになるね。」
「ごほうびにイルカさんをよんであげるの~。いっしょに遊ぶの!」
「え、イルカ? うわ、竜宮イルカじゃないイルカって、初めて見るよ。」
 背中に乗っても大丈夫だとピリアから言われ、マリオンはイルカへ乗る。とたんに、レースが始まった。お気の岩まで、どちらが先に着くか。レディー、ゴー!

「今年の夏って、本当に何もしてないんですよね」
 と、つぶやくのはレイア。たっぷりとした大きな胸を包む黒ビキニ。ゴシックな薔薇が縁を彩る黒いパレオ。ドレスを着ているかのようなレイアに対し、夏全開のワモン。今日はいつものガトリングはお休み。ハイビスカス柄のアロハを着こなし、どこで売っているのか逆に聞きたくなる星型のサングラス。ビーチチェアへ体を預け、となりには飲みかけのトロピカルドリンク……と見せかけてジュース。まだ未成年だからね。
「んー、とろぴかーるだぜー。レイアもこっちこいよ」
「え、いいんですか?」
「いいにきまってるだろ。ふぅー」
 大きく息を吐き、椅子の上で伸びをするワモン。
「たまには仕事を休んで休暇を楽しむんだよ、それが仕事を長く続ける秘訣ってやつだ」
「じつはこっそり、役得とか思ってません?」
「もちろん思ってるぜ。ここんところ、いろいろ慌ただしいし、世界滅びかけてるけど、休めるときにはのんびり羽休めしなきゃな」
「滅亡……」
 レイアが顔を曇らせた。結婚もしたし、家のことばかり考えていたけれど、もっとこの世界のあちこちへ行けばよかっただろうか。
「あれって、やっぱり本当なんでしょうか」
「そりゃ本当だろ、ざんげが言ってんだから」
 でも、とワモンは音を立ててジュースを吸った。
「オイラ達がいるからな。ドンと任せとけよ」
 だてに特異運命座標名乗ってねーぜ、とワモンはウェイトレスを呼んだ。
「トロピカルイカ墨ジュースおかわりたのむぜー。レイアもどうだ?」
「イカ墨は遠慮します。ふつうのありますか?」
 ビーチチェアに寝そべり、ふたりでジュースをちゅうちゅう。
「うっし」
 ワモンが立ち上がった。
「水分補給もしたし、海で遊ぶか」
「いいんでしょうか。警備できたのに」
 少々不安げなレイアへ、ワモンはにかっと笑った。
「水中警備だ、水中警備! 溺れるやつはけっこーいるからなー。そういったやつの救助って名目だぜ!」
「なるほどですわ!」
 それなら泳いでもいい。と、レイアも椅子から降りる。義足がキチリと音を立てた。
「ん? おまえ、およげねーのか?」
「いえ、泳げますわ。経験は少ないですけど……」
「ならオイラの背にのりな!」
「ええっ!?」
 ふたたび及び腰になったレイアへ、ワモンは背を見せてキランと歯を光らせた。
「デルモンテ家名物、アザラシロデオが火を吹く時がきたようだな」
「なんですのそれ」
「やればわかる!」
 レイアの手をひっぱり、ワモンは駆け出した。というか、砂浜をシャーってすべっていった。レイアの悲鳴、それから、歓声。ワモンの背でさんざん揺られているうちに、もやもやした気分はどこかへ吹き飛んでいった。


 雪風は自分の格好をちらちら見ては、ハの字眉。
「折角の海での依頼だからと水着を薦められて買ってはみたものの…。普段とあまり変わらない気がしますね? 無意識に着慣れているものを買った結果でしょうか…」
 とはいうものの、セーラースタイルの水着は、どこかストイックな雪風によく似合っていた。ネイビーは海軍に通ず。その点においても、雪風に似合いの色と言えるだろう。その格好で雪風はくるりと回ってみた。スカートがまあるく膨らんで、風に踊る。
「すてきだよ…。僕は…そう思うな…」
 レインが雪風を眺めてそうつぶやく。淡い藤色と白が調和する水着は、儚げなレインの印象をさらに儚くしていた。すこしだぼっとしたアウターが、レインの華奢な立ち姿をさらに細く見せている。日差しから身を守るためか、はたまた歩くのがめんどうなのか、パラソルを手にしたまま宙へ腰掛けたまま、レインは雪風を称賛した。
「…そうですね。これも自分の気の持ちようですね。いつもと違う服なのは確かです。最近は色々とありましたので……気分転換も兼ねてビシバシと警備していきますよ! 見守ってくださいね、レインさん」
 レインがふるふると首を振った。
「僕も…迷ったけど…警備にいくことにしたよ…。店員さんのお任せ水着…折角だから色んな人に見てもらいたいし…色んなお店も見てみたい…」
 ん、とひとつうなずき、レインは顔を上げる。
「警備の事…ちゃんと忘れない様に気をつける…」
「はい、よろしくお願いします」
 とはいえ、やることはシンプル。レインが広域俯瞰で雪風へ報告し、雪風はそれを受けて現地へ走る。
「10時…男の人が…女の人に絡んでる…よっぱらいだね…」
「了解。許すまじです」
 美しい少女が浜辺を走る。そのうしろを、レインがすいっと空を泳いでついていく。現場についてみると、酔いが回って気が大きくなった男たちと、気の強そうな女二人組が声を荒らげていた。罵詈雑言はヒートアップ、今にも殴り合いに発展しそうだ。だが、そこへ。
 空砲の破裂音が響き、人々はぎょっとして顔を向けた。視線の先にたっていたのは、にこにこしている雪風。笑っているのだが、圧がすごい。
「ビーチの平和を荒らしてはいけませんよ?」
 ほっそりとした、小さな少女が片手にもつ、鉄臭い大口径魔力砲の威圧感。雪風はそれの砲身をつかみ、ハンマーみたいに持ってみせた。顔はにこにこしたままだ。
「あのさ…ごめんなさいしたほうがよくないかな…さもないとフルスイングが待ってるよ…」
 レインがぼそぼそっと耳打ちする。へたりこんだ男たちに、レインは苦笑を見せてポケットから飴玉をとりだした。透明で、ほのかな香りを放つきれいな飴玉を。
「改心したかな…いいこにはこれをあげる…」
 レインは男たちの頭を撫でると、飴ちゃんを口の中へ入れた。なつかしい甘みに、毒気を抜かれた男たちが、二人組へ詫びて散っていった。

「いつの間にか、夏がもう終わりつつあるのですね。うう。なんだかずっと忙しなくて遊んだ覚えがありません……」
 アッシュは大地にそうこぼした。
「あー、だよな。世間がピリピリしてる。依頼も難しいものばかりだし」
「だから今日は息抜きってことデ」
「そうですね!」
 アッシュは拳を握った。
「せっかくです。今日ばかりは。今日ばかりは夏を満喫するのです。すこし息抜きをして、明日からまたがんばるのです」
「その意気その意気、がんばろーゼ」
「ああ、今日ばかりはな。楽しもう」
 の、はずだったのだが。
 アッシュも大地も、大真面目に警備していた。
「どうして」
「なんでだろうナ」
「……ほんと、なんでだろう」
 根が真面目なのかもしれない。
 水着を着たアッシュは、銀髪が映える白ビキニ。フリルたっぷりのパレオが、歩くたびに揺れる様子はまさしく海月。首元の飾りも海月をもしたもの。よく似合っている。その首元からホイッスルを下げ、アッシュは浜辺を歩いていく。
「ぴぴーっ!」
 ホイッスルを鳴らしたアッシュは、物怖じせずにチャラい男へ向かっていく。
「其処の方、相手が拒否感を示したら潔く身を引くのです。過度なナンパはお互いに苦くつらい思いを残すだけです。トライアンドエラーの精神で切り替えてください」
 しぶしぶナンパをやめたチャラ男。乱暴な声でアッシュへ暴言を吐くと、河岸を変えようとしている。ついでなのと怒鳴られた意趣返しに、アッシュは一言。
「でも、何回もナンパして回るのは迷惑なので適度なところであきらめてくださいね」
 なにかが胸へ刺さったのか、チャラ男はくずおれた。アッシュはまっすぐに歩いては、よっぱらいへ水を渡し、迷子の子供を親元へ返していく。
 一方、大地は。
「今の怒号はいただけないな」
 ストリートの人気店、待機列に業を煮やして怒鳴りつけた男に、大地は顔を向けた。そんな大地へ赤羽がささやきかける。
「なァ、大地。折角綺麗なナリをしてるんダ、麗しの人魚姫よろしク、アレに刺激的な夏の思い出を届けてやらねぇカ?」
「見た目はまだしも、声で男だとバレるだろ。そううまくいくか?」
「確かに声帯はそう簡単に弄れんガ、魅せ方は幾らでもあるもんサ。とにかク、俺の言う通りやってみナ」
「あ、ああ……」
 後ろからそっとわめきつづけている男へ近寄り、大地は耳元へ声を流し込む。
「お前達も、染まってしまえ。赤く紅く朱く、血の海に沈め。 二度と死ねない俺の代わりに、皆、狂い死んでしまえ……」
 おどろおどろしい内容にもかかわらず、ボイスは甘く溶けゆくかのような、ええ声。すっかり魅了された男が大地を振り向く。
「俺と一緒にホテルへいかn……!」
「牡丹一華」
「ギャー!」
 吹っ飛んでいく男に、だーれも同情はしなかった。怒鳴られていた店員が、感謝を大地へ告げる。
「災難だったな、大丈夫か? 良かったら、俺にもレモネードを売ってくれないか。俺も丁度、喉が渇いちゃったし」
 爽やかな笑顔をみせる大地にのぼせあがった店員が、さっそくレモネードを用意しようとする。それを押し留め、大地はきちんと列へ並んだ。
「横入りを止めたやつが横入りするのはどうかと思うし」
「大地クン、やっぱ根が真面目だナ」
「うっさい」


「最後の夏、ですねえ」
 ホーは海を眺めている。のたりのたりと波が打ち寄せ、砂と絡まり、引いていく。今日のビーチコーミングは、いい結果に終わった。シーグラスがたくさん、カニのハサミもとれた。平たいのはイカの甲で、ひらべったいのはくらげの死体。そしてそして、小さな渦巻きは、サザエの蓋。
「以前どこかで〝海洋の通貨はサザエの蓋〟という情報を教えていただいたことがありますが、本当なのでしょうか?」
 真実は不明だが、王冠を集めるにも似た喜びを感じて、ホーはそぞろ歩きを続けた。
 そうしていると、ゆっくりと、ゆっくりと日が傾いていって、気がつくと空は赤く染まっていた。
 アッシュが引き上げていく人々へ手を振りながら、こちらへやってくる。
「ふう、歩き回るだけだったはずなのに、けっこう仕事をしてしまいました。なにか飲み物ありませんか?」
「トロピカルイカ墨ジュース」
「イカ墨はけっこうです。ふつうのをください」
 アッシュはワモンの申し出を一刀両断すると、レイアの手から果物たっぷりの青いジュースを受け取った。
「あ、おいしい」
「でしょう? 私も気に入って、おかわりを頼んでしまいました」
 一休みしませんかと、レイアに誘われたアッシュが、ビーチチェアへ横になる。そこからはスケートのように水の上を行く雪風がよく見えた。片足を上げ、白鳥のように優雅に滑ったかと思うと、勢いを乗せて三回転半ジャンプ。夕焼けを背にする雪風は、まるで絵画のようだ。のびのびと水上滑走を楽しむ雪風をいたわるように、空が夜へ馴染んでいく。
「皆の水着姿…キラキラ…で…見るの、楽しい…。いつもより皆…生命力に溢れてる…」
 レインが目をしばたかせた。
「ピリアも…傘なんだね…。水着…あくてぃぶあんどえれがんす…でいい…。大地の水着も綺麗…何だか…大人…」
「ありがとうなの~! レインさんのひらひらリボンとか、とってもかわいい~♪」
「うん…お気に入りなんだ…。見て見て…」
 モデルのように歩きだしたレインへ、ピリアはマリオンといっしょに拍手をした。すっかり日も落ちて、夜風が砂浜を撫でている。ホーがふと足元へ目をやる。セミの死骸が落ちていた。
「秋はもうすぐそこですね」
 そして海の底へセミを返してやる。
 遠く遠くへ思いを馳せながら、大地は利き手を胸の前へあげた。そのまま目を閉じる。
「彼岸に渡れずに居るきみよ、今、此の岸から橋を渡そう」
「ほレ、死者はもう帰る時間だゼ?」
 水面へ淡く光る地獄花が浮かぶ。それにのって、浮遊霊が空へ昇っていく。夏の最後のきらめきのように。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おまたせしましたー!!

夏、終わっちゃいましたね。すみませんすみません。

おまかせいただき、どうもありがとうございました!

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