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シナリオ詳細

<泡渦カタラータ>幻に身を、現に足を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●微睡みの邪魔者には甘き死を
 幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の大討伐を経て、ギルド・ローレットは『幻想』のみならず、複数の国家に名を馳せることとなった。
 『海洋』もその例に漏れず……というより、以前よりローレットと懇意ではあったのだが。大討伐の後、かの国でとある減少が観測された。
「それが近海に発生した『大渦』だ。ローレットからも調査に行った連中がいるが、どうやら何者か……魔種が発生に関わってるらしい」
 魔種。楽団の中心を形成していた、『混沌』に仇なす勢力である。終焉<ラスト・ラスト>の者達が本格的に活動を始めた、というのは強ち大言壮語の類ではなかったようだ。
 資料片手に説明を進めるのは『博愛声義』垂水 公直(p3n000021)。いつもの冗談めかした雰囲気はなりを潜め、事務的な口調だ。表情はゆるく笑みをつくっているが、目が笑っていない。
「で、中心になってるのはサーカス事件で逃げ延びた『チェネレントラ』と死体漁りを趣味とする『ヴィマル』とかいう魔種らしい。で、チェネレントラは『色欲』、他の魔種は『嫉妬』に由来しているんだそうだ。他の、ってのはヴィマルだけじゃない。大渦周辺には、複数の魔種が居るってことだ」
 大渦の解決に、海中での戦闘は大なり小なり絡んでくる。そのうえで魔種だ。地上に軸足を置く者達はどうしても不利となるだろうが……そこはローレットだ。
「有志がすでに練達と渡りをつけて、『海中戦闘用スーツ・ナウス』を調達してきた。気兼ねなく戦えるから安心してくれ。……既に察してると思うけど、俺の手元にある情報は魔種に関してだ。ついでに、『大渦』の内部の海中にある古代都市……あそこに一体、面倒なのが湧いててな」
 海中戦闘は先述のスーツがあるとして、それを抜きにしても危険ということだろうか。話は続く。
「識別名称『ドリームウォーカー』ウバタマ。こう書くらしい」
 と、公直は『烏羽玉』と……彼の元の世界の言葉で書いてみせた。「俺の国ではとても黒い、って意味でも使われる」、と彼は説明してくれた。
「名前通り、なのかね。もとは海種だったんだろうけど、なんて説明すればいいのか……鳥と魚の中間みたいな格好らしい。足びれは人魚のものに近く、上半身は半裸の女だ。だけど、両腕がな。ヒレが何重にも重なって羽根のように見えるらしい、それで移動するわけだが、速度が普通じゃないってことで」
 ついでに、そのヒレ……ウロコ状のそれを飛ばす遠隔攻撃もできる、と。上下左右前後の感覚に乏しい海中では、厄介な攻撃となるだろう。
「で、ウバタマの真価はそれじゃないんだ。その黒い体は半分が『幻』で出来ている、と言われている。……厄介なのは、『幻』と『実体』の境界が曖昧で、しかもそれぞれの肉体は傷の付き方が違うんだと」
 これはあくまで噂だが、と公直は前置きする。
 ウバタマの『実体』側の肉体は、一般的な生物と同じ。切れば傷つき、精神力に波及する攻撃を受ければ魔力を失う。実体側の攻撃は、肉体を傷つけることに特化しているという。
 問題は『幻』側。肉体を傷つける攻撃は精神力で肩代わりし、精神力に波及する攻撃だけが、『幻』側の肉体を傷付けられるという。そちら側からの攻撃は、魔力を奪うだろう、という。
「そして、時折ウバタマは『幻』と『実体』どちらかに肉体をすべて預けることもするという。当然、そんなことをすれば君たちからも十分分かるだろう。……『実体』にウェートを置いている時が一番ラクだろうが、攻撃もその分苛烈になると思って構わない」
 簡単な相手ではないし、対処は一筋縄ではいくまい。
 だが、倒せぬ相手では『まったくない』。夢と現の間で移ろうそれを、如何に殺すか。それがこの戦いの肝となるだろう。
「最後に、恐らく君達は重々承知だろうが……相手は純然たる魔種だ。『原罪の呼び声』を受けた純種が耐えきれなかった場合の可能性も十分に考えた上で、依頼を受けてくれ」
 頼む、と彼は頭を下げた。こころなしか、飄々とした普段の彼とは声音が違う気がした。

●海中の幻は笑う
 その頃、海中の古代遺跡にて。
 ウバタマは、海上の大渦を見て、周囲の喧騒を見て、妬ましげに目を細めた。女性とも男性ともつかぬハイトーンの声は、泡のように消えていく。
「楽しそうなことね。妬ましいったらない……アタシはこんなに辛くて苦しいのに。溶けて消えたいくらいだわ」
 そう言って、ウバタマは海中の影に溶け消えるように現実から逃げていく。次に実体を現した時、ソレは明確な敵意を手にして敵へと襲いかかるだろう。確かな予感だけが、その肉体を支えていた。

GMコメント

 そんなわけで、渦の中ですら現実を見たくない黒いヤツを殺しに行きましょう。

●達成条件
 『ドリームウォーカー』ウバタマの撃破

●ウバタマ
 魔種(元は海種と思われる)。性別不明(言動と外見は女性寄り)。幻(影世界)に肉体の一部を置くという特性を持つ。
・幻実境界(パッシブ):『幻(影世界)』と『実体(現実世界)』とを単独で横断する能力。攻撃命中時、確率でいずれかの肉体にヒットする。戦闘開始時のウェートは50:50。
 ○実体:通常の戦闘ルールに準拠。HPダメージ、MアタックX、ダメージ系BSは通常処理。
 ○幻:通常の戦闘ルールと『HP』『AP』を読み替える。通常ダメージはAPダメージ扱い、MアタックXはHPダメージ。ただし、BSのHP/AP処理は従来どおり。
 →境界変動(特付・副):幻に肉体を置くウェートが「0/50/100」のいずれかに変化する。変化率に応じ、ウバタマの攻撃力は「200%/100%/50%」に変化。
(実体100%なら確実にHPダメージを与えられるが、その分ウバタマの攻撃力は倍加するということです。Mアタックもこれに反比例します)
 幻100%時のガード/ブロック不可。
・影の羽符(物超遠ラ:窒息・崩れ・Mアタック小・防無)
・波翼の乱舞(神中域:出血・致命・呪い)
・運命欲得の集い(神特レ・レンジ2までの自分除く全対象:ダメージ0・不運・不吉・態勢不利・足止)
・強奪する抱擁(神至範:Mアタック大・呪殺・必殺。CT補正中)
・EX 幻への誘い(実体0%でのみ発動・神特レ(自分を除くレンジ3以内):Mアタック特大・ダメージ補正小・???・???)
・EX 現実からの拒絶(実体100%でのみ発動・物至ラ・溜1:呪縛・恍惚・CT補正大・???)
・クリミナル・オファー(パッシブ。純種に対し反転を促します)

●戦場
 海中内・海底遺跡付近。
 戦闘は『海中戦闘用スーツ・ナウス』があるため不利にはなりませんが、海中行動型スキルが有ればより有利に働きます。
 戦闘不能後にさらに攻撃を受け、スーツが破損する可能性を本シナリオでは排除しません。
 その結果は……言わずもがなでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <泡渦カタラータ>幻に身を、現に足をLv:7以上完了
  • GM名三白累
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年10月23日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マグナ=レッドシザーズ(p3p000240)
緋色の鉄槌
シグ・ローデッド(p3p000483)
Knowl-Edge
カイト・シャルラハ(p3p000684)
水神の加護
エト・ケトラ(p3p000814)
「国の」盾を説く者
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
ライネル・ゼメキス(p3p002044)
風来の博徒
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
リジア(p3p002864)
破壊の護手

リプレイ

●幻惑レセプション
 チェネレントラ、と名乗る魔種がいる。
 シルク・ド・マントゥール殲滅の戦いに於いて姿を消し、今まさに海洋に現れた『道化師』である。
 この場でも、その相手を目の当たりにした者は多かろうが――
(オレに、オレたちにもっと力があれば、こうはなってなかった。……だから、今度こそは仕留めてやる)
 『緋色の鉄槌』マグナ=レッドシザーズ(p3p000240ほどに、彼女に対しての雪辱を強く意識する者はこの場にはおるまい。責任感が強いからこそ、過去の失敗が生み出した今を受け止めるのに、人一倍エネルギーを使ってしまうのだろう。……それもまた道理だ。
「……半端でなく、どちらかに染まっていればいいものを」
「……現実を見たく無さに自ら幻になりますか……それならそれで大人しくしといて下さいよ全く……」
 『生誕の刻天使』リジア(p3p002864)と『傷だらけのコンダクター』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)が口々に漏らす不満を耳にして、マグナはあらためて、自らが対峙すべき相手のことを思い浮かべた。
 魔種ウバタマ。海底の古代都市周辺を根城に、イレギュラーズを待ち構える油断ならぬ敵。現と幻のあわいを行き交う、因縁を結ぶべき相手のことを。
「随分と面白いのが出てきたわね」
『それ以上に油断ならないようだがな』
 『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)……少女スペルヴィアと魔具サングィスのコンビは、海の何処かに潜む敵を探しつつ、与えられた情報を再度整理する。
 そして、自分達が取るべき作戦も。強敵を相手にした時、重視すべきは『如何に作戦通りに動けるか』である。想定が狂っても、仮定が誤っていても、作戦は失敗する。
「全く……気分屋と言うのも、はた迷惑な物だ。……私も人の事は言えんがな」
 『KnowlEdge』シグ・ローデッド(p3p000483)は、自身の研究者肌を脇に置きつつ相手の在り方に小さくぼやく。気持ちは、分からないでもない。研究者というのは『揺らぎ』に大いに翻弄される類の人間なのだから、相性が悪いのは当然、ということになる。

「――ああ、ああ。誰かの気配、他人の気配、イレギュラーズの、気配。私の居場所に土足で入ってきて恥じ入ることもしない厚顔が妬ましい、余裕を感じる顔が妬ましい。そして、ええ。『ここに来てまで私じゃない誰かを見ている』だなんて、妬ましくて吐き気がしそう」
 イレギュラーズは、確かにその声を聞いた。
「なんでもかんでも妬ましい、か。払うチップがないなら賭けにもならないんだが、お前もそうなのか?」
 現れたウバタマを前に、『風来の博徒』ライネル・ゼメキス(p3p002044)は戸惑いひとつ見せず問いかける。仲間達は油断なく彼女を包囲し、戦闘態勢へと移行する。
「賭けに興じる余裕があるなんて、素敵な態度。あなた達に払ってあげるものなんてないわ」
(本当に翼で泳いでる……器用なんだな)
 『大空緋翔』カイト・シャルラハ(p3p000684)は相手の存在感に圧されつつ、相手の動きになかば魅了されるように、僅かな間見入ってしまった。彼も翼を持ちながら器用に泳いで見せるたぐいではあるが、目の前の魔種は程度が違う。性能が違う、と本能が告げている。或いはその劣等感こそが狂気によって引きずり出された感情なのかもしれないが。
「貴女が何を思ってここに居るのかは関係ないの。わたくし達はやれることをやるだけ」
 『パラディススの魔女』エト・ケトラ(p3p000814)の、いっそ義務的とすら思える言葉が波間に反響する。相手に思うところはある。かけるべき言葉もある。
 だがそれは今、開陳すべきものではないのだ。
「心地よい情熱、敵意、誠意。あなたからはとても良い声が聞けそうな――でも、駄目ね」
 夢見心地の声。ウバタマの目は墨を流したような姿からは見えない。だが、粘性の殺意は確かにひとりを刺し貫いた。

 さて。この報告書を読むであろう君達に問う。
 嫉妬は、それだけで人を殺すだろうか?

●妄執トリクルダウン
 ウバタマは陣形をとったイレギュラーズの動向など気にもせず、真っ直ぐにマグナへと間合いを詰めた。揺らめく体の存在律が変化したようには見えぬ。その必要すらなしと考えられたか。
「いきなり、来るか……!」
 焦りの色を強くし、彼は至近距離用の魔術を練り上げる。自らに到達する直前で魔術はウバタマに突き刺さり、リジアが生み出した羽もまた、その姿を抉る。だが、リジアの一撃は何も起きなかったかのように溶け消え、魔種の動きを止めはしない。……幻に吸われたか。
 ウバタマの指がマグナに触れると、彼は目を見開き、顔を隠すように腕で必死に遮る。運命を引き歪められた恐怖が狂気と混じり合い、その正気をかき乱しているのだ。
「仲間に手を出したいなら、先に俺を倒してからにしな!」
 相手の動きには僅かに遅れたが、それでもカイトは動揺ひとつ見せずにウバタマとマグナの間に割って入り、これ以上好きにさせぬとばかりに気を吐く。ウバタマが彼に興味を示したようには見えなかったが、その言葉通り、彼を差し置いて他の者達を傷つけることは叶わぬように思われた。
 ウバタマの動きに合わせ、再度包囲を試みた一同はそのまま、各々の力でもって彼女を制すべく動き出す。
 クローネの悪意は迷いなく実体を削り取り、ライネルの魔力から発された不吉な囁きはウバタマの動きを制限こそしなかったものの、僅かながらの手応えを見せる。
「見た目からじゃどっちが傷ついたか分からないじゃないですか……紛らわしい……」
「あれで狙いを逸らされるとか、勘弁して欲しいな」
 攻撃が当たっても、手応えが薄い。順当に敵を追い詰めているという実感がまるで湧かない。両者とも、眼前の存在の驚異は十二分に理解できたといったところか。
「先ずは固定化させねばならんな。幻に逃げ込まれても面倒である」
 シグの言葉に合わせ、ウバタマの周囲に魔法陣が浮かび上がる。水中にあって幻想的な輝きを宿すそれは、シグの常識でウバタマの異能を上書きし、その力の行使を制限せんとする。
 だが、内側から殻が剥がれるように魔法陣は砕け散り、シグの攻撃が当たったことを示すのは、ウバタマの身から僅かに漏れた闇……血のように揺らめくそれだけだった。
「確かに当たったように見えたのだけど」
『抵抗されたということだろう。そう何度も続くとは思えんが』
 スペルヴィアは眉根を寄せつつ、サングィスに魔力を流し込んで相手を穿つ。シグの術の帰趨を冷静に見守った『彼』は、相手の抵抗力は想定の範囲内である、と結論付ける。
「今、わたくしが治療を……!」
 エトは音叉杖を掲げ、マグナを覆う邪気を払わんとする。狙われたのが或いは自分であれば、あの程度をものともしなかっただろうが。今更口にしても詮無き可能性だ。
 彼女の治癒術は――優秀だったが、しかしマグナの身を祓うには至らなかった。何のことはない、祈りに必然は無い、というだけだ。
 そして、ウバタマはマグナや他の面々が動き出すより早く、指を伸ばした。カイトに、そしてその背後のマグナに。
「あなたは『誰』をみているのかしら。あなたは『魔種』という外側だけ、在り方だけを見ているのかしら。それとも、違う誰か? わたしはそれがとっても、妬ましいの」
 地の底から響くような声は2人の魔力と体力を削り取っていく。その一撃がすべてを決すほど、彼ら2人は弱くはなかったけれど。忘れてはならない、『2人とも純種だったのだ』。
 耳障りのよい誘いが耳に届く。鉋がけされるように正気が削り取られていく。今の自分が自分ではないかのような錯覚に陥る。
 自らの暴力性を信じたく、なる。
「魔種に、好き勝手されてたまる、か……!」
 だが、両者は踏み留まった。彼らの魂は今ここで狂うことを許しはしなかったのである。
「俺はまだ……コイツラと笑って青空の下に帰るんだ!」
「そう。縋るものがあるだなんて妬ましいわね」
 水の中に沈み始めたマグナと、覚悟を持ってなおも立つカイトを見たウバタマの目は、見る間に敵意に濁っていく。

 それじゃあ、周りがまっさらになれば。
 どこかを、だれかを、見ている余裕なんてなくなってしまえば。
 妬ましくならない程度にわたしを見てくれるのかしら?

●絶海コーリング
「幻に逃げ込むとばかり思っていたが……なるほど、どうして」
 シグは、いつの間にかウバタマの姿がはっきりと輪郭を作っていることに気付く。何度目か、常識が彼女を圧し潰した瞬間にそれを理解した彼は、相手が逃げられない状況を作った事に快哉を叫び……しかし苛烈になっていく攻撃に唇を噛んだ。
「現に出てきたところで、何も変わらなかったな。どっちもどっちだ」
 リジアはウバタマの実体を視界に収め、光翼によって的確にその綻びを穿っていく。イレギュラーズにあってなお強力な一撃は魔種にとっても無視できぬダメージであろうが、ウバタマはまるで気にしたふうでもない。
「どれだけの犠牲を払ってそんな力を得たのかしら。妬ましいほどに優秀だわ」
 ボロボロになったカイトを振り払うように突き放すと、ウバタマはリジアを視界に収めた。
 シグによって一切の能力を奪われたその身が宿すのは、実体のみに身をおくことで引き出された圧倒的な暴力、そして自在に海中を往く機動力だ。
 近付きさえすれば倒せる。その自信に満ちた表情はしかし、繰り返し身に突き刺さる悪意を以て遮られた。
「近付かれるのは勘弁願いたいね。今更節約なんて言っちゃいられないし」
「……こんな危険な場所に長居するのは御免ですよ……こちとら現実主義の幻想の存在なんでな……」
 ライネルとクローネは各々の魔力のあらんかぎりを尽くし、繰り返しウバタマを穿っていく。幻が肩代わりすることがないなら、ありったけを叩きつけなければ、と。
「ああ、妬ましい。まだ生きて帰れるだなんて気安く考えるその思考は、頭を潰せばなくなるのかしら」
 ウバタマが苛立ち混じりにクローネのもとへと向かおうとしたその時、背後から強烈な敵意が立ち上る。反射的に彼女が振り返ると、満身創痍であったことが嘘だったかのように、カイトが自分を睨みつけてくるではないか。
「まだ行っていいとは、言ってないぜ。もう少し相手してくれよ。怖いのか?」
 安っぽいが、しかし的確な挑発だった――そのやり取りを見たイレギュラーズは一様にそう述べる。
 だからこそ、守りに徹した彼をしてなお、なんの技術も持たぬウバタマの猛攻が再び血の中へ沈めたことは驚愕に値するものだった。
「未練たらしく幻に足を突っ込んでいるときより余程それらしい。現の姿のままでいればいいのに」
 カイトがさらなる一撃を受けるより早く、リジアは魔種の前に立ちはだかり、前進を遮った。動かなくなった仲間達を見て、彼女は忌々しげに舌を打つ。
 治癒術士3名がかりの治療を一発の攻撃力が上回った、などという非常識ではなく。わずかな間に連続して叩き込まれた攻撃の総量に、対応が間に合わなかったというべきだろう。
 ウバタマを止めるべく前進したリジアを無視するように、魔種の『翼』がうち振るわれ、シグを中心にして波が蠢き、複数のイレギュラーズを巻き込んでいく。
「固定化が解けたか。ならもう一度」
「わたしの在り方を、誰かが決めるだなんて。そんな傲慢を当たり前に口にできるなんて、どれだけ恵まれているのかしら」
 シグの言葉を聞きとがめ、ウバタマがぎらりと毒のある視線を向けた。妬ましい、という言葉は続かない。その言葉が惜しいほどの憎悪がその瞳には籠もっている。
「姿が揺らめいた……幻に逃げる気かしら」
『この状況で逃げは悪手だろう』
 思考の速度をもって為された会話は、そこから一つの結論を吐き出した。現を捨てた姿に変じた相手が持つ警戒すべき能力。自らをかき抱くような動作は、異常なまでの自己愛を内包しているようにも見え。
「負う傷が小さくて済むなら、今のうちに治療を! 2人を回収してウバタマからできるだけ離して……声は聞こえているでしょう、皆で帰るのよ!」
 エトは相手の動きに警戒しつつ、同時にこれを好機と見た。瞬きの後に魔力が尽きかねないのなら、その前に全員の傷を癒やしきる。仲間が動くまいと、魔種になど反転させまいと声を掛け続ける。仲間がここにおり、まだ諦めてないと伝えるために。
「幻を見ているだけで、満足なのか? そんなはずはない。現実を見るべきだ」
 リジアが苦々しげに言葉を吐き出すが、それを無視するかのように、魔種は動き出す。
 翼を開いたそれを中心に、思念の波が殺到する。物理的な衝撃は僅かだが、根源的な魔力が際限なく海に溶けていくような幻覚を、一同は味わった。
 彼らにとって幸運であったのは、相手の攻撃の予兆から発露までの間に互いを庇い合う余裕があったことである。
 魔力を要さず戦える者が矢面に立ったことで、継戦能力を維持することが適ったのである。
 ……彼らにとって不幸であったのは、そこまで奮戦してもなおウバタマは苛立ちこそすれ、疲弊しているようには感じられなかったことであろう。

「魔力を奪ったくらいで勝ち誇るつもりなら、その考えごとぶち抜いてあげますよ……こっちはそれどころじゃないものを奪われたんだからな……」
 エトを庇ったクローネは、失った魔力を物ともせずにウバタマへと一撃を打ち込む。感情の揺らぎは見えないが、言葉に籠もった怒りは偽りではないだろう。
「残念ながら、帰りを待つ者がいるのでな。……ここで食われてやるわけには行かん」
 それに、とシグは仲間を見る。仲間だった者の帰りを待つ者だって当然、いる。倒れたら終わりで良いわけがない。断じてそれは、許されないのだ。
「ああ、殺して殺して倒して殺して、それでも萎えないだなんてなんて強い決意なのかしら……じゃあいらっしゃい。わたしはここを動きたくはないの」
 ウバタマはイレギュラーズの決意を柳に風と受け流し、返礼とばかりに濃密な殺意を撒き散らす。
 戦って勝つにも、敗北を認め逃げるにしても。容易く迅速に、とはまず適うまい。
 彼らに、安寧を得る選択肢はない。


 リジアは、分厚い海水に覆われた海底から空を見上げた。数十秒後、彼女は波間から顔を出し、ありのままの空を見ていた。
 ……撤退の間際に試行した『その行為』の結末を彼女は思い出す。波間を己の羽で崩し、ウバタマに現の光景を見せようとして。しかし、膨大な水圧はその一瞬さえも許してはくれなかった。
 まるで今回の戦いのようだ。
 あらゆる手を使ってありったけを叩き込んで、効果があるように見えたのに。一瞬の後に、全て押し潰され押し流されてしまった。
 呆然と波に揺られ、一同は敗走ののちに帰路に就く。
 かの魔種は『ここにありたい』とのたまった。畢竟、彼女との再戦を望むのであれば小細工を弄さずとも相見えることはできる、ということ。
 その機会は、そう待たずに訪れるであろう。それが彼らであるかは、未だ確定していない未来の出来事だが。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

マグナ=レッドシザーズ(p3p000240) [重傷]
緋色の鉄槌
カイト・シャルラハ(p3p000684) [重傷]
水神の加護
サングィス・スペルヴィア(p3p001291) [重傷]
宿主
リジア(p3p002864) [重傷]
破壊の護手

あとがき

 お疲れ様でした。
 封印で攻撃範囲を制限してブロックで選択肢を削るというのは、機能した場合は効果的な戦法だったとは思います。事実、リプレイ内でも機能していたことが窺えます。
 惜しむらくは戦力とはまた別のところで各自のポテンシャルが発揮しきれていなかったことぐらいです。
 次はうまくいくんじゃないでしょうか。
 ひとまず、傷を癒して次に備えてください。

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