PandoraPartyProject

シナリオ詳細

西瓜は唸り、転がり回る。或いは、夏と言えば西瓜でしょう…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●先生、西瓜が転がっています
「これ……は?」
 目の前に広がる……否、転がる光景をレイン・レイン(p3p010586)は理解できない。
 理解したところで、意味なんて無いのかもしれないが。
 広い砂漠。燦々と降り注ぐ太陽の下、元気いっぱいに転がり回る西瓜があった。
「あー、これは……これは、何だろうね」
 この状況を作り出した張本人……エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)にも、その光景の意味は理解できないらしい。
 じゃあきっと、誰にも理解できないだろう。
「顔……が、あるけど?」
「ありますよ。顔。彫ったから。都合56個の西瓜に1つひとつ丁寧に顔を彫りましたが、何か?」
 転がる西瓜には顔があった。
 正確に言うと、目と鼻と口の位置だけ西瓜の皮を削っている。例えるなら、ジャック・オー・ランタンというどこか遠い国、或いは別の世界に存在するそれに近い。
 もっとも、ジャック・オー・ランタンは“南瓜”である。
「西と南……って、知ってる?」
「あ、アホだと思ってる? 知ってるよ、それぐらい。知ってて、大した差じゃないかな、って」
 その結果が、転がり回る西瓜の群れだ。
 地の底から響くような唸り声を発しながら、タンブルウィードよろしく砂漠を転がり回っている。レインの目には、その様が“血に飢えた獣が獲物を探している”ように見えた。
「そう言えば……聞いたことが、ある。時として西瓜は、人の血を吸う怪物に……なるって」
「西瓜がぁ?」
「そう……西瓜が」
 つまり、目の前で転がる56個の西瓜たちは魔物と言うことになる。
 それも、人を襲う類の魔物だ。
「放置しておくのはまずいかな? 放置しておいても、そのうち干からびると思うけど」
「誰かが……襲われたら……大変」
「まぁ、そりゃそうだ。人的被害を出しちゃ、エントマChannelがBANされちゃう」
 エントマChannelとは、エントマの配信する動画番組のタイトルだ。
 その体当たり的かつ王道から外れた配信スタイルや企画内容もあり、主に練達でマニアックな人気を博している。
「…………」
「なに?」
 レインのじっとりとした視線を受けて、エントマはそう問うた。
 レインは何も答えない。
 答えないが、目が口ほどに物を言っていた。
 つまり……“死人が出ていないだけで、エントマChannelは既に被害者を出している”と。
「じゃあ、割ろうか」
「うん……割ろう」
 用意したのは“檜の棒”だ。エントマとレインは、棒を手に取り、砂漠の方へと歩き始めた。
「ところで……どうして、丸太が……あるの?」
「血を吸う怪物には丸太が効くんだって」

GMコメント

●ミッション
西瓜を全滅させる

●ターゲット
・西瓜×56
血を吸う怪物と化した西瓜。
ジャック・オー・ランタンのような顔が彫り込まれている。
呻き声を発しながら、砂漠を転がっている。
どうやら、何かの企画に使うためにエントマが発注、顔を彫り込んだらしい。
まさか、こんなことになるなんて……。

●フィールド
ラサの砂漠。日中。
乾いた風が吹いている。
周囲にはサボテンが疎らに生えており、時折、タンブルウィードが転がって来る。
西瓜たちは獲物を探して、砂漠を転がり回っている。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】西瓜に襲われた
砂漠で西瓜に襲われました。許してはおけません。

【2】レインやエントマに呼ばれた
「西瓜割りをしよう」と誘われました。知っている西瓜割りと何かが違います。

【3】応援に駆け付けた
誘われてはいませんが、面白そうなことをやっていると聞いて近くの街から駆け付けました。


VS西瓜
西瓜相手の立ち回りです。

【1】ガンガンいこうぜ
檜の棒は持ったか? 西瓜を叩き割る準備はOK? いざ、西瓜割り!

【2】囮は任せろ
西瓜を誘き寄せる役割です。多少の危険が伴いますが、皆さんならきっとやれるでしょう。

【3】様子を見る
遊撃隊です。状況に応じて、役割が変わります。あと、塩を預けられています。

  • 西瓜は唸り、転がり回る。或いは、夏と言えば西瓜でしょう…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月16日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
襞々 もつ(p3p007352)
ザクロ
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
変わる切欠
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
クアトロ・フォルマッジ(p3p009684)
葡萄の沼の探求者
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ

●西瓜の割れる日
 乾いた地面を、無数の西瓜が転がっていた。
 目と鼻と口の部分をくり貫かれた、ジャック・オー・ランタンにも似た西瓜だ。
「西瓜……西瓜」
 『繋げた優しさ』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)が西瓜を指さし叫んでいる。声は少し震えているし、目には涙も浮いていた。
「そうだね、西瓜だね」
 『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)が“分かっているよ”と頷いた。ジョシュアを慰めるように、その背中を手で撫でている。
「襲ってきましたよ」
「西瓜だからね」
「この間の仔馬の様子を見に行こうと思ったのに変な西瓜に襲われました」
 砂漠を旅している途中で、ジョシュアは西瓜に襲われた。自分の意思で転がり回って、人を襲う狂暴な西瓜だ。
「わけがわかりません」
 ジョシュアは自分の腕を指さす。西瓜に噛まれたのだろう。白い肌から血が流れている。
 そう、西瓜は生き血を啜るのだ。
「ひどい西瓜だね。ジョシュアさんはどうするのが正解だと思う?」
「仔馬の居るオアシスに転がって行きかねないので始末しておこうと思います」
「じゃあ……西瓜割りだね!!」
 やられたら、やり返さなければいけない。
 復讐を遂げねば、虐げられたプライドは、傷つけられた恨みは晴れない。だから、ヴェル―リアはジョシュアの手に檜の棒を手渡した。
 これで西瓜を叩き割るのだ……そんな意図はしっかりジョシュアに伝わっただろう。ジョシュアは頷き、檜の棒を強く握った。

「……なんですかこれ」
 転げまわる西瓜に襲われ、困惑しているのは何もジョシュアだけじゃない。『同一奇譚』襞々 もつ(p3p007352)は足で西瓜を踏みつけながら、訝し気な視線をそれに注いでいる。
 人を襲う西瓜は1体だけじゃない。1体という表現が正しいかはともかくとして……そこかしこに、そして、それなりに広範囲にわたって西瓜は散らばっている。
「なんだ、月の王国の残党か?」
 血を吸われたらしいジョシュアと、もつの足元の西瓜を交互に見やりながら『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)は目を丸くする。
「人に襲いかかる西瓜……ええと……確か豊穣には吸血西瓜を栽培して特産品にしている地域があったって命君が言ってたわね」
『葡萄の沼の探求者』クアトロ・フォルマッジ(p3p009684)が顎に指を添え、そう言った。どうやら吸血西瓜は他所の国にもいるようで、おまけにそちらでは特産品として売り出しているらしい。
「知っているのか、フォルマッジ!?」
 そうなれば、ラダは目の色を変える。
 商機を逃すようでは、ラサで商人はやっていられない。
「えっと。肉汁タップリで美味しそうですね?」
 とはいえ、まずは3人の旅を中断する原因となった吸血西瓜を残らず殲滅しなければならない。もつは「よいしょ」とミートハンマーを振り上げて、足元の西瓜に力いっぱい叩きつけるのであった。
 
 グシャ

 “西瓜割りをしよう”と誘われたはずだ。少なくとも、『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)の記憶では、それ以外に何も聞いていない。
 西瓜割りをしよう、と誘われたのだから、当然“西瓜割り”をするものだと思っていた。なぜ砂漠で? という疑問はあったが、とはいえ“西瓜割り”をするものだと信じて疑っていなかった。
「いや西瓜割りじゃないよねコレ」
 信じた雲雀が悪いのだ。
 彼はまだ、エントマというトラブルメーカーのことをよく知らない。
「とりあえず様子を伺……」
「これ……持って、て」
「え……塩? 塩補給係!?」
 『玉響』レイン・レイン(p3p010586)から手渡されたのは塩だった。手の平ほどの大きさのある岩塩だ。
「日陰のパラソルと……飲み物も準備……」
「あ、あぁ……救護テントみたいなものか。ここは死守しないとね。ところで、君はどうするつもり?」
「スイカ割り……する……」
 ずるずると丸太を引き摺りながら、レインは西瓜の方へと向かう。
 雲雀は何とも言えないような奇妙な気持ちで、その背中を見送った。

●西瓜を割らねば帰れない
 西瓜とはいえ吸血種の魔物である。
 となれば、弱点があるというのも世の常だ。例えば、レインが引き摺っている檜の丸太がそれである。
 なぜ、丸太でないといけないのか。その理由は定かでは無いが、かつて伝説の吸血種ハンターが丸太を担いで、血を吸う化け物に立ち向かったという逸話に端を発しているらしい。
「眉唾ものね。もしかして、丸太や棒を使わなくても、叩き割ったら倒せるんじゃないかしら?」
 檜の棒を素振りしながら、クアトロは言った。現に、もつのハンマーで砕かれた吸血西瓜は、そのまま砂漠の染みになって絶えている。
 もっとも、あんなものでぶん殴られれば西瓜でなくとも、大地の染みになるだろうが。
「それにしてもこの草木一本生えぬ砂漠の最中で檜の丸太を必要とするとは贅沢な」
 レインの引き摺る丸太を見やってラダは呟く。
 ラサでは丸太……というか、木材は貴重品なのだ。木材資源の枯渇した過酷な土地……それがラダだ。だというのに、やれ反乱だ暴動だとなれば、愚か者たちは積極的に木を燃やす。
「全滅させる他ない」
 木材の無駄使いは重罪だ。
 檜の棒を手に取ると、ラダは姿勢を低くする。
「来る……よ」
 レインが言った。タイミングがいいのか悪いのか、ラダとレインのいる方へ、まっすぐ転がって来る西瓜が1つ……いや、1体。
 悪辣な笑みを浮かべ、地の底から響くような声で唸りながら、2人に襲い掛かって来る。
「あぁ。あー……持ち上がっていないようだが?」
「うん。この木……重くて持ち上がらないけど……割るっていう……強い気持ちが、大事」
「そうか。だが、ここは譲ってもらおう」
 何しろ相手は、貴重な木材を無駄にする怨敵である。
 ラダは姿勢を低くすると、檜の棒を横に一閃。
 ぱこぉん! と、軽快な音がして西瓜は砕けた。飛び散る赤い果汁はまるで鮮血のよう。水分まで無駄に消費するのか、とラダはますます西瓜に対して憤る。
「ついでに近くの街へスイカジュースを売りに行き一儲けさせてもらおうじゃないか!」
 吸血西瓜の明日はどっちだ。

「ふぅん? 出だしは良好、といったところかな」
 西瓜割りの風景を、パラソルの下から雲雀はぼんやり眺めている。
 今のところ、戦況はイレギュラーズの有利に進んでいるようだ。
「でも……」
 空を見上げて、雲雀は少しだけ表情を暗くした。
 太陽が出ている。
 気温が高い。
 イレギュラーズが十全に動き回れる時間は、そう長くないかもしれない。
 そうなった時が、雲雀とそして岩塩の出番だ。
 いつでも動き出せるように、と気を引き締めて、岩塩を強く握るのだった。

 西瓜の知能がいかほどのものかは分からない。
 そもそも、知能があるのかさえも定かではない。
 だが“人を襲う存在”として、最低限の思考能力は備えているように思えた。例えば、西瓜が率先して狙うのは、戦えないエントマや、一見するとか弱い女性のように見えるヴェルーリアであるためだ。
「わっ! こっち来た! こっちにしか来ない! なんで!」
 砂漠を這うように逃げ惑いながら、エントマが悲鳴をあげた。
「集めてるんだから、それはそうなるよ」
 当然でしょう、とヴェルーリアは言う。西瓜を呼び集めているのは、彼女のようだ。
「はぁっ!? 死ぬ気なの!?」
「そんなわけないでしょ。目隠しをしなくていいとはいえ、狂暴な西瓜だよ」
 油断をすれば、先ほどのジョシュアのように傷を負う。
 きっとこのまま西瓜を放置してしまえば、より大きな被害を被る者も出て来るはずである。ならば、ここで止めねばならない。西瓜を殲滅せねばならない。
「割ったら食べてあげないとね」
 エントマを庇うように前へ出て、ヴェルーリアが両手を広げた。
 西瓜の目には……視力があるのかは不明だが……彼女は愚かな獲物のように見えただろう。それが大きな勘違いだと理解するのは、己が砕ける瞬間だ。
 遅すぎる。
 過酷な砂漠を生き抜くには、あまりにも西瓜は短絡的に過ぎた。
「仔馬たちのおやつにしてあげます」
「えぇ、頑張って倒しましょ」
 西瓜の牙が、ヴェルーリアの肩を貫く、その寸前。
 死角から駆け込んで来たジョシュアとクアトロ。2人の放つ容赦も遠慮も無い一撃が、西瓜を上下から打った。
 グシャ、と。
 厚い皮に罅が走って、西瓜は潰れた。
 目や口から赤い果汁が溢れ出し、まるで脳漿のように果肉を飛び散らせ、吸血西瓜は砂上に堕ちた。
「天誅!」
 ジョシュアは檜の棒を振るう。
 血振るい……否、果汁振るいである。

 叩いて、砕いて、叩いて、砕いて。
 西瓜の数は着実に数を減らしていた。だが、数が減るにしたがって、西瓜の破壊にかかる時間が増している。
 学習しているのだ。
 ジョシュアが駆け出すのと同時に、西瓜はくるりと踵を……踵など無いが……返して逃走を開始。ジョシュアが息を切らしたところで、反転して一気に襲い掛かる。
 不意打ちを受けたジョシュアは、慌てて檜の棒を掲げて西瓜の牙をガードした。ギリ、と檜の棒が軋んで、木っ端が散った。
「く……なんて邪悪で、瑞々しいんでしょう」
 足を止めてしまったことが悔やまれる。
 気づけば、ジョシュアの周囲は5体の西瓜に囲まれていた。
 最初からこれを狙っていたのだ。西瓜の思惑に嵌められた形だ。
 ジョシュアとてイレギュラーズの一員として、多くの戦いを経験している。人も魔物も、数えきれないほどに倒した。戦った。
 だが、西瓜を相手にするのは初めてだ。
 西瓜の思考が理解できない。その結果が、今の窮地だ。
 おまけに暑い。砂漠の熱が、ジョシュアの体力を容赦なく奪う。

 ジョシュアの窮地を救うのは雲雀だ。
「なるほど、こういう時のための俺ってこと!? 封殺して時間稼げってこと!?」
 疲労し、西瓜に囲まれたジョシュアを目にした瞬間、雲雀はすぐに自分の役割に気が付いた。呪術書を開き、祝詞を唱え……にわかに空が曇り始める。
 否、雲ではない。闇だ。
 ジョシュアの頭上、ごく一部だけを闇が覆った。その中に1つ、赤く光る星が見える。
「西瓜の星は“凶”と出たぞ」
 闇より、地上へ、赤が一条。
 西瓜を貫き、爆ぜさせる。
「あ……助かりました」
「構わない。熱中症の症状が出ている。一旦、下がって塩分補給を」
 ジョシュアを庇うように、雲雀が前へ。長く前線で戦い続けていたのだから、疲労するのも当然だ。そうしながら、雲雀はジョシュアの手に岩塩を握らせた。
「それから、これも……塩をかけて食べると美味いよ」
 ついでに、今しがた倒したばかりの吸血西瓜も手渡した。
 塩だけじゃなくて、水分もちゃんと摂取しましょうね。暑いからね。

 ぶォん、もつはまるで人間台風だ。
 両足を軸に、ミートハンマーを振り回す。人の頭ほどの大きさがある巨大なミートハンマーだ。人はそれを戦鎚と言うのではないかと思うが、主な目的が“肉を叩いて柔らかくすること”であるのなら、サイズを問わずミートハンマーと呼ぶことに何の問題も無いだろう。
 本当に?
 近づいて来る吸血西瓜を、片っ端に叩いて砕く。
 重さ×遠心力×食欲=破壊力の法則を活用したのだと考えれば、なるほど悪くない手のように思える。
 問題は、思ったよりも西瓜の数を減らせていないことと、中心でグルグル回転しているもつの三半規管に多大なダメージが蓄積していることか。
「……いや多くないですか???」
 次第に、もつの回転速度が落ちて来る。
 回転の力は偉大にして、絶大だが、永遠ではない。永遠などこの世に存在しない。形あるものはやがて壊れるし、人の命もいつかは終わる。それと同じように、回転もいずれ必ず止まるものなのである。
「目が回ってきました」
 ぱたり、と。
 ついにもつは力尽き、砂上に倒れた。その目はぐるぐると回っている。いや、もつの目がぐるぐるしているのはいつものことか。
 口の端から唾液を零し、嘔吐感を必死にこらえるもつの姿は絶好の獲物に見えただろう。
 低く唸る吸血西瓜が、一斉にもつへ襲い掛かった。
 けれど、しかし……。
「食べ物が人を襲うなんて、あべこべじゃない?」
 スパン! と、一閃。
 檜の棒が、西瓜の眼窩を貫いた。
 クアトロだ。
 連打、連打、檜の棒による連打。
 赤い髪を風に躍らせ、縦横無尽に棒を振るう。棒術の心得があるのか、それとも見様見真似だろうか。
 ともかく、1つ確かなことがあるのなら……。
 あっという間に西瓜が5つ、粉々に砕かれ砂上に散ったという結果だけ。
「起きられる?」
「起きてます」
「いえ……倒れているわよ?」
 重症かもしれない。
 溜め息を零したクアトロは、もつを引き摺り休憩所へと運んでいった。

●金の匂いがしたんです
 西瓜に顔を彫っただけのはずなのに、まさかこんな事態になるとは思わなかった。
 後にエントマはそう語る。
 吸血西瓜とイレギュラーズの戦い……否、西瓜割りは終盤戦に差し掛かっていた。雲雀やヴェルーリアによるサポートがあるとはいえ、熱い砂漠での戦闘だ。イレギュラーズにも疲れが見える。
 加えて、残りの西瓜はどれも手練ればかりのようだ。
「手強いね……」
 そう呟いてエントマは姿勢を低くした。檜の棒を握ったまま、ゆっくりと砂の上に伏せる。
 西瓜から視線を外さずに、物音を立てないよう慎重に、じりじりとその場を離れていく。
 逃げるつもりだ。
 何故なら、今回の件の原因はエントマである。このまま無事に西瓜の殲滅が完了すれば、次に行われるのは糾弾である。
 誰の? 
 決まっている、エントマの。
 だから、逃げるのだ。
「全部割って、たくさん食べるよ!」
 畳みかけるのなら、一気呵成に。
 ヴェルーリアの号令に従い、もつとクアトロ、ジョシュアと雲雀が一斉に前進を開始した。
 檜の棒が真っ赤に燃える。
 西瓜を割れと轟き叫ぶ。
 目的を同じくする戦闘集団。1つの群れは、1つの意思に統率されて、尋常ならざる戦果を発揮する。つまり、ヴェルーリアが攻勢を指揮した瞬間に、趨勢は決したようなものだ。
 西瓜は全滅する。
「時間が無い」
 逃げなくては。
 そっと、腰を浮かせたエントマだったが……。
「後少しだよ……エントマ。……これ……エントマもやるよね」
 エントマの首元に、檜の棒が添えられた。
 レインだ。
 感情の読めない呆とした目で、エントマの顔を見つめている。
 エントマは、そっと手を挙げた。
 降参の意思を示すように。
「なるほど……妙なことになっているかと思ったが、またお前の仕業だったか、エントマ」
 さらに、逃げ道を塞ぐようにラダも隣へやって来た。
 のんびりしているレインだけなら、ともすれば撒いて逃げられたかもしれない。だが、ラダは無理だ。砂漠を走って逃げたところで、ラダからは逃げられない。
「……ぶい」
「なるほど、レインさんの策略かぁ」
 ラダを応援に呼んだのはレインだ。
 エントマが“逃げ”を打つことは、想定の範囲内だったようだ。
「さぁ……西瓜割り……しよ」
「その後は洗いざらい、吐いてもらう。とくに丸太と西瓜の仕入れ先についてだ」
「ちょ、痛い! 痛い! 背中、突っつかないで!?」
 レインとラダに背中を突かれ、エントマは戦場の方へ歩かされる。
 檜の棒が、ミートハンマーが、縦横無尽に振り回される破壊の渦のただ中へ。
「いやぁぁ!!」
 エントマは、その身を投じたのである。

「……惨いな」
「自業自得、だと思いますけど」
 エントマの断末魔(死んではいない)を聞きながら、雲雀とジョシュアが顔を見合わす。
 エントマのせいで、とんだ休日になったことは間違いない。
 得たものと言えば、幾らかの西瓜と岩塩だけ。
「まぁ、無事に片付いたからいいんだけどね」
 なんて。
 西瓜をひと口、齧り取り、雲雀はため息を零す。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

夏になると、この言葉を思い出しますね。
西瓜は食えど、食われるな。

心に刻んで生きましょう。

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