シナリオ詳細
<英雄譚の始まり>いつか見る蒼穹の町並みへ
オープニング
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境界図書館から移行し、果ての迷宮であった場所に辿り着けば、そこは美しい商店街であった。
プリエの回廊(ギャルリ・ド・プリエ)と呼ばれるこの地の一角にある『アトリエ・コンフィー』こそが、イレギュラーズの新拠点である。
「――初めまして。皆様にお手伝いを申し付けられました。
皆様と共に外に出て参れと当機――私の製造主たる魔法使い様よりご指示を受けております」
イレギュラーズの前に立ち、目を伏せたままにそう告げるのは一言で言うならメイドさんだった。
それも地球や希望ヶ浜の者達であればヴィクトリアンメイドと表現するような、瀟洒なメイドさんだ。
艶のある黒い長髪と顔からは人としての姿形ぐらいしか見受けられない。
肩辺りから下に殆ど露出が無い辺り、製造主の癖が見え隠れする。
「さて、長々と自己紹介などという物をしてしまいました。
そろそろ、今回の依頼を始めたいと思いますが立ち話では皆様の暇にしかなりませんね。
動きながらお話させていただきます」
そう言うや、メイドさんは恭しくカーテシ―を決めて前を歩きだす。
扉を開けて、先に向こう側にて礼をしたままに停止したように微動だにしない。
驚きながらも彼女の方へと向かえば、全員が出た後で再起動したように動きだした。
●
穏やかな風が吹いている。
「本日、皆様にお願いしたいのは魔法使い様のお使いでございまして。
ある女性の下へ宝石を取りに行ってほしい、というお話ではございます」
確かに目を閉じてはいるが、何らかの方法でこちらの位置を把握しているのだろう。
驚くほど寸分たがわず、こちらと歩幅を合わせて彼女は先を行く。
「出来の良い宝石を見定める鑑定眼においては素晴らしい腕利きの方でございます。
ただどこか強かな部分もあるお方なのでございます」
迷いなく歩みを進めた彼女の行く先に1つの店舗が見えた。
「失礼いたします、アンネマリー様。我が主よりの要望の品を取りにまいりました」
「あぁ、そろそろだと思っていたよ……ふむ、扉を閉める音がしないな、誰か連れでもいるのかな?」
聞こえてきた声は若い女性の声だった。
精々が20代の半ば程度であろうか――落ち着き払った女性であることはよく分かる。
店に入った君達の前、カウンターの向こうに女性がいる。
「おおっと、新規さんかな?」
振り返った女性が少し驚いた様子を見せながらそう笑みを浮かべる。
「――テレーゼさん?」
サイズ(p3p000319)は目を思わず見張るものだ。
揺られる空を思わす青色の髪と、澄んだ空色の瞳。
その容姿を見たマルク・シリング(p3p001309)も声に出しそうになるものだ。
「さて、何方の事だろう?」
こてんと首を傾げば髪もゆらりと揺れる。
「申し訳ありません、よく似た人を知っていたので」
「ふむ、そういうこともあるだろう。どこかではこの世に同じ顔は3つあるともいうしね」
そう言って笑む彼女は間違いなく別人だろう。
口調や声色が2人の知るテレーゼとはまるで違う。
先程、ゼロ・クールが言っていた名前は――アンネマリーだったか。
他人の空似か、あるいはこの地が遠い未来に幻想王国となる場所ならば、先祖の可能性もあるだろうか。
「アンネマリー様、ご依頼いたしました例の宝石につきましては」
「あぁ、それならもう届いているよ……君達は同じ目的のお客さんかな?」
ゼロ・クールを見やったアンネマリーの意図に頷いて見せれば、彼女は少しだけ何かを考えた様子を見せ。
「――ふむ、そうだね……君達、腕はあるかな?」
微笑を少しばかり深くしたアンネマリーが言う『腕』がどういう意味かは考えるまでもなかろう。
「実は探ってほしい遺跡があるんだけど、以前にハンターを送ったら誰一人戻ってこなくてね。
そこに行って調査をお願いしたいんだよ。それが駄目なら? 大丈夫、その時は普通に商取引だ――多少、値は張るんだけどね。
それで……目的の場所はここだよ」
笑みを浮かべたままそう言ったアンネマリーに、この人物がどういうタイプか何となく悟らされた。
「――とまぁ、こういう方なのでございます。それでは、参りましょうか、皆様」
ゼロ・クールはカウンターの地図を受け取るとゆったりと礼をして踵を返す。
●
ゼロ・クールに案内され、イレギュラーズが訪れたのは小さな遺跡だった。
林の合間、せり出した入り口は石かセラミックのように硬質な素材で出来ているように見えた。
螺旋の階段を降りて進んでいけば、やがて開けた場所が見えてくる。
目が慣れてきて見えたのは空間が膨張しているような錯覚を帯びる広いドーム状の空間だ。
足元を見れば、幾何学模様と共に縦横のラインが部屋を駆け抜けている。
「ほう、来訪者か。外の腰抜け共とは違うようだ――さては異邦人だな?」
声がする。視線をあげた先、ソレはそこにいた。
ぼんやりと闇に浮かぶ2つの紅は瞳であろう。
紅の光のおかげで辛うじて髑髏面のようなものも見えようか。
「――よもや、この地に参るとは」
それは一人の男だ。漆黒に身を包んでいるのかあるいは闇その物こそが肉体とでも言うのか。
「われは終焉より来る者。異邦人よ、少しばかり手を合わせてみせろ」
そう言って、男は恐らく立ち上がる。
髑髏面が紅い輝きを放ち、黄昏色の炎が男の手に剣があることを示していた。
「皆様、宝珠の位置が確認できました」
ゼロ・クールが不意に語る。
「闇で出来た恐るべき者の後ろに、闇に呑まれております」
淡々と語る彼女の言葉は落ち着き払っている。
ならば――最早、やることなど決まったようなもの。
- <英雄譚の始まり>いつか見る蒼穹の町並みへ完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年08月30日 23時00分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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(テレーゼさんの祖先と思われる、アンネマリー……)
ゼロ・クールを眺めながら『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は依頼人の事を思い起こす。
風貌だけ見ればよく似た人物であるアンネマリーと自身の知る女性とは声を聞けば明確に別人と分かる。
(アンネマリーの事を調べた所で混沌にいるテレーゼさんに利益があるとは思えないが……
少なくとも言えるのは、友好的に仲良くなれば不利益な事にならないという事だな、勘だが)
「さて、皆様。見えて参りました。あちらがアンネマリー様のおっしゃっていた遺跡にございます」
林の合間、せり出した入り口が見えてくる。
鉄帝やアーカーシュに見たような材質は石かセラミックのように硬質な素材で出来ているように見えた。
「あっ、待ってくれ。えっと……ゼロ・クールさん」
遺跡の中へとそのまま足を進めんとしていたゼロ・クールへとサイズはこえをかけるものだ。
「念のために準備をしておこう」
そう言ってから、サイズはその場で即興なれど舵を試みる。
「では一度、バイタルチェック……小休止を挟みましょう」
サイズに応じたゼロ・クールに続き、一同は各々の小休憩を始めた。
(幻想建国前を再現したIFの世界。どんな繋がりがあるんだろう)
佇む遺跡を見上げ『ウィザード』マルク・シリング(p3p001309)は思う。
どこかアーカーシュにも近い雰囲気のある遺跡の形状は独立島での活動を思い起こさせる。
ここまでの道のりは幻想と比べてもなお随分と自然の多さを感じさせた。
その辺りはやはり国家として成立して以降のインフラ整備が関係してくるのだろう。
(……そういえば、ここは幻想で例えるとどの辺りなんだろう)
何となく、ゼロ・クールの持っていた地図を預かり眺めみる。
「ふふっ、遺跡調査と言えばこの私の出番だろう。
こちらの遺跡がどうなっているのか、学者の端くれとしても冒険家としても血が騒ぐね」
同じように遺跡を見上げ、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は笑みをこぼす。
先史文明の遺跡、それもアーカーシュともどこか似た雰囲気を感じさせるとあれば、血が騒がずにはいられまい。
(仕事が終わった後、ゆっくりと遺跡を調査して、元の世界のアーカーシュや鉄帝の遺跡と比較調査を行うのもいいな)
今後の事を考えながら、向かう先へと思いを馳せる。
「ここは滅びに近くて、混沌と由来が同じだけど違う可能性に進む……んだよな? 不思議な世界だな。これから知っていきたいと思うよ」
周囲を見やり、ここまでの道のりを想って『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は言う。
あまりにも穏やかな景色からは『滅びが近い』という印象はあまりなかった。
「なんで魔法使いな宝石商がハンター雇ってまで遺跡探索を依頼するんだ? しかも一度失敗してるってのにな」
メイドの方へと近づいて『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)は何となく声をかける。
「何故、との話については失敗しているからこそかと。
見つからなかったのではなく、探索者が戻ってこなかったとの話でございますから」
ゼロ・クールの返答はどこか淡々とした印象を受ける。
「ふーん。ところで、ここには何が在るんだ?」
「存じ上げません……しかし、推測は可能となります。
アンネマリー様の遺跡探索は宝石を見つけるための手段にございますから。
宝珠、あるいはそれに類推するものがあるのかと」
「宝珠? レガシー……じゃなくてゼロ・クールを作るのか。どんな子を作るんだろうな?」
「返答は出来かねます。私は人形でございますので、アンネマリー様のお考えまでは演算できません」
カイトの返答に対して、メイドさんはふるふると頭を振りながら静かに答えた。
「まぁ、それもしかたないか! だったらメイドさんは宝石好きか? キラキラしてるの見るとやっぱ目を引かれるよな!」
「宝石が好きか、どうか……私にはそのような好悪は設定されてないようでございます」
少しばかり考えたような沈黙の後、メイドさんはそう答えた。
(まさか今まで何もなかった境界で進展があるとはねぇ。
しかも見知った顔の違う側面とは、パラレルワールドに近いのかな。
これはこれで探索のし甲斐があるから良しとしましょう)
周囲の状況を眺めみる『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)はふと依頼人を思い出しながら。
「で、初仕事はメイドさんとこの奥にあるだろう宝石を回収すればいい、と。
んー記号だと呼び難いからメイディでいい? ほらメイドさんだから」
「たしかに、メイドさんじゃアレだな、SK001……シキ、とか?」
「皆様のお好きなようにお呼びくださいませ」
ルーキスとカイトが言えば、メイドさんはそう答えるのみ。
「え? ゼロ・クールは名前じゃなくて種族名みたいなものなんですか? てっきりレガシーの方かと思ってました……」
少し驚いた様子を見せているのは『純真無垢』メリッサ エンフィールド(p3p010291)だ。
「レガシーというのは……マスターから入力されております。同じようなものとお考え頂いて構いません」
メイドさんはそう言って。
「それでしたら私からは……」
メリッサはメイドさんを見上げ、よくよく観察する。
外見からは落ち着いた女性というふうぐらいしかほとんどわからないが――やはり目立つのは髪の毛だろう。
「素敵な髪の色に合わせた宝石の名前から『オニキス』とかどうでしょう?」
「なるほど……その名前も記録しておきます」
艶やかな黒髪は宝石のように見えて、そう首をかしげながら提案すれば、こくりとメイドさんは頷いた。
「ゼロ・クールさんは名前が無いんだ。『MD-SK001番』が型式というやつなんですかね?」
「えぇ、それで問題ありません」
『氷雪剣舞』セシル・アーネット(p3p010940)の問いかけにメイドさんが頷いた。
「うーんそうですね、じゃあ僕からは『セリカ』はどうでしょう?
こうSerikaって書きます。君の型式からとりました」
「――セリカ、ありがとうございます。その名前も記録しておきます」
もう一度、メイドさんが頷く。
「皆が色んな名前を出してくれるから迷ってしまうかもしれませんが、君が決めていいんですよ。
どれでも大丈夫です、だってみんな心がこもった素敵な名前ですから」
「私にはそれを決定する機能は設定されておりません。皆様のお好きなようにお呼びくださいませ」
その様子にセシルが重ねて言えば、メイドさんは暫し沈黙の後に短く答えた。
「名付けは生みの親の願いが込められてこそだと俺は思う。だから最終的には君の製造主が付けるのがいいと思う」
「なるほど……では帰還後、そのようにお伝えいたします」
イズマの言葉にメイドさんはこくりと頷いてそう答えた。
「……これぐらいでいいか」
作業に集中していたサイズは顔を上げた。
完成したのはトレイ型の盾、銀製のそれはあたたかな日差しにギラリと輝いて見せる。
「その盾をを使って身を守ってほしいんだ……少しでも足しになればいいんだが」
「なるほど、合理的です。感謝いたします」
そう言って恭しくカーテシ―を決めるメイドさんに、サイズは少しばかり歯痒いさを見せた。
「本当なら武器も作ってあげたかったんだが、時間も余裕もなさそうだ」
「戦闘に関しては基礎情報程度しか設定されておりませんが、自衛程度は可能となって居りますのでお気になさらず」
そう言ってメイドさんは頷いた。
●
小休止を終え妙遺跡の中へと入ったイレギュラーズは螺旋の階段を降りて広々とした空間に足を踏み込んだ。
まるで待ち受けていたかのような髑髏面の騎士は戦意を露わに立ち上がる。
向けられた敵意に反応するように、セシルは一気に動き出した。
「セリカさんは少し下がっていてください!」
弾かれるように振り払ったセシリウスが雪の瞬きを戦場へ打ち出した。
出鱈目にも思える斬撃の軌跡、どこからか炸裂したように黒い闇の向こうで瞬きは連鎖する。
「かなり多いみたいだな……でもとりさんの敵じゃないな!」
カイトは余裕さえみせてそう笑うと、自らに加護を降ろす。
大きく羽ばたきを起こせば、緋色の鳥が暗き空洞へと飛翔する。
数多の鳥は無数にも見える終焉の闇を撃ち抜き蝕んでいく。
「さぁ、テメェら纏めて遊ぼうじゃねえか!」
高らかに赤き翼は熱狂を呼ぶ。
夥しい数の終焉の獣が、闇が蠢き立つ。
「――これまでの腰抜け共とは格が違うか」
ずんと重さの感じる声で闇衣の騎士が言うのが確かに聞こえた。
その声を聞きながら、イズマは動いた。
敢えて魔力で光源を作り出し、闇衣の騎士へと肉薄すればそのままに斬撃を撃つ。
「――リゾルート!」
振るう連撃は強かに打ち据え、数多の終焉獣を含めて戦場を刺し貫く。
覚悟を乗せた斬撃は鋭く曲がることなく数多を貫く。
そのまま投げつけたスプラッシュボールは確かに闇衣の騎士に触れて破裂する――がそれだけだ。
全てを呑む闇はそれさえも呑み干した。
戦場に轟いたのは咆哮。
闇が動く――否、闇のように見える獣達が動き出す。
「じっくり探索、と行きたいところだけど、流石にそう簡単には行かないようだね」
ゼフィラは愛銃に魔弾を籠め術式を展開する。
視線の先、そこにいるはずのカイトの姿が掻き消えている。
たしかにそこにいるはずなのにまるで見えないのは、その周囲に取り巻いた終焉獣のせいだろう。
打ち出された魔弾は扇状に広がり、闇を払うように鮮やかな炎を灯す。
燃え上がる終焉の獣とは対照的に、闇に包まれた騎士はその光さえも呑みこむかのようだった。
「緋色の鳥とは得体の知れぬ――褒美だ、首を置いていけ」
数多の終焉獣を躱し続けたカイトの脳裏に響く声、黄昏の炎が緋色の身体に走る。
極まった回避力を以って獣の猛攻をすらりと躱し続けたカイトの身体に初めて傷が入った。
予備動作の分かりにくさが変幻自在にも見える剣技に思わせてくる。
「へへっ、この程度で落とせるかよ!」
笑ってみせるまま、カイトは闇のような髑髏を見る。
「敵はそっちだけじゃないぞ!」
自らの周囲へ氷の結界を張り巡らせたまま、そう高らかに告げたサイズはカルマブラッドを一閃する。
鮮血の色を抱く業の斬撃は獣の顎の如き斬光を引いて戦場を駆け抜ける。
二方より迫る獣の顎は闇衣の騎士を食いつぶさんとその見えぬ身体に食らいついた。
ほどけ行く顎、ダメージが通ったのかさえ胡乱なる闇の騎士の紅の瞳が僅かな明滅を起こす。
「うーん視認難とは厄介な」
そう唸るルーキスは暗視がある分、まだマシと言えた。
深い闇に包まれた髑髏面以外の終焉獣の姿はよく見える。
こちらももやもやとした闇ではあるものの、まだ辛うじて形状が理解できる。
星灯の書に魔力を籠めれば、夜の摩典はその光を強めていく。
「数が判らないならまとめて叩くだけのことさ」
愛銃に注ぎ込んだそれらの魔力は戦場を駆け抜け数多の終焉獣を撃ち抜いていく。
動きを絡め取る凶兆の星は致命的な失敗を呼び込むだろう。
「そうですね、この数なら――!」
メリッサは杖に魔力を籠めていく。
呪文を紡ぎ、術式が戦場に浮かび上がる。
「点で捉えきれないなら、面で巻き込んでしまいましょう!」
呼び起こされた熱砂の嵐がメリッサの願いを受けるように飛び出した。
ゆっくりと移動したそれが数多の終焉獣を取り囲み、呑みこんでいく。
巻き込まれた終焉獣は当然の如くその動きを封じ込められていった。
「僕達を異邦人と呼んだ君は、この世界の存在なのか?」
マルクはブラウベルクの剣を撃ち込みながらも闇衣の騎士へと問いを投げた。
(そうだとするなら、R.O.O.の終焉獣は、もしかしてこの世界から生まれたのかもしれない)
そんな推測の元の問いかけである。
「答えてやる義理もないな。我らは終焉の使徒、終わりと共に来る者だ」
髑髏面はどこまでも落ち着いた声であった。
凄まじい速度で打ち出された黄昏色の剣が旭光為す魔力の剣とせめぎ合う。
合わされた黄昏色の剣の向こう側の闇は鮮やかな閃光をも呑みこんでいる。
●
「終焉から来た、か……終焉ってどんな所なんだ?」
愛剣に魔力を集束させ、イズマは問う。
至近距離、常にその場所に立ち続けることで存在感を示し続けた男に髑髏面が視線を向けた。
「終焉とは終焉なり。全てに滅びを」
胡乱ともごまかしとも取れる言葉を受け止め、イズマはメロディア・コンダクターを振るう。
その音色は凄絶なる地獄の熱を思わす熱さを帯びる。
死ぬことさえも安楽ならぬ演奏は確かに闇を撃つ。
「任せたまえ、たとえ暗闇でも照らして見せよう」
ゼフィラは愛銃に再び魔弾を籠めた。
銃口を向ける先は未だなお夥しい数の闇――ではなく天井。
銃声もなく放たれた魔弾は温かな光を引いて天井へと炸裂し、同時に魔法陣を構築する。
降り注ぐは天より注ぐ光、吹くは慈愛の息吹。
傷を癒す慈しみの光と共に温かな風が受け止めた数多の呪いを解きほぐす。
「面白い」
髑髏の向こう側、腹の底に響くような声がした。
「腑抜けばかりでつまらぬと思っていたところだが……興が乗ってきた。
このような場で終わらすのも惜しい、またの機会を待つとしよう」
ゆらりと髑髏面が空に浮かび上がり、髑髏を中心に濃い闇が渦を巻き始めた。
「さてちょっと頑張ろうかな」
ルーキスは闇の只中に迫るように前へ。
「攻撃型の魔術師は面倒くさいってことを教えてあげよう」
その手に構築するは高純度の魔力。宝石は輝き、仮初の剣を形どる。
眩いばかりの魔力を抱き、振り抜いた一閃が闇を裂くように髑髏の下を穿つ。
衝突の一瞬、敢えて過剰に魔力を注ぎ込み、炸裂した一撃は確かに闇の身体を抉り取った。
「逃がしませんよ!」
メリッサはそこを突くように杖を構えた。
愛杖の先端に練り上げた魔力は糸を作り出すと、そのまま杖を振り抜いた。
魔力糸は闇の身体を絡め取らんと走り抜ける。
錦糸にも似たけれど頑健なる魔力の糸は闇衣の騎士の退路を封じんと駆け巡る。
(音が聞こえない、というより、何もない……?)
セシルは闇衣の騎士の動きを確かめながら思う。
黄昏色の剣と紅の瞳で闇衣の騎士の居場所は分かるが、それだけだ。
肉体が無いが如く、闇衣の騎士からは『音』が聞こえない。
「でも、剣と眼があれば場所は分かるよ!」
仲間達の動きも見えれば、それで充分だ。
飛び込んだまま、セシルは剣を振るう。
愛剣で紡ぐ葉舞踏の如き斬撃。
他者を魅了せんばかりの災厄の一閃でもって闇を斬る。
「逃げんじゃねえ! 俺に喰われろ!」
逃がさぬとばかりに飛び出したカイトの槍が髑髏を撃ち抜く――よりも前に、ぐにゃりと歪む。
放たれた槍は暗闇を裂いて天井へと迫る。
「……逃げられたか」
思わず舌を打ったカイトの視界には、穏やかなドーム状の空間が広がっている。
暗視の闇の中で良く見えるのは、敵がいなくなったことの証拠と言えよう。
「あれ……だよな?」
カイトはそのまま視線を下ろす。
暗視の視界の眼下、メイドさんが確認していた宝珠は祭壇のような場所に安置されていた。
●
「ブラウベルクとか、オランジュべネとか、エーレンフェルトとか……そういう言葉に、聞き覚えはありませんか?」
「さて? 聞いた覚えもないね。それは一体なんだい?」
宝珠をアンネマリーに届けに来るのと合わせ、マルクは彼女へと声をかけていた。
テレーゼの先祖と思しき人物ということもあり、ルーツの話は土産話になると考えてのことだった。
「テレーゼ様……僕の知り合いに関係のある場所なんです」
「ふむ、そのテレーゼという子、以前にも聞いたね。それは誰なんだい?」
首をかしげるアンネマリーに少し躊躇をしつつもマルクは説明すれば。
「なるほど、遠い未来に生まれる私の子孫ってことか。なら私が知らないのも仕方のないことだろうね」
零すように笑ってから、アンネマリーは此方を見やり。
「その町はまだこの世界に存在しない。前身になる小集落ぐらいはあるかもしれないけどね。
気になるのなら、探しに行ってみるといい。せっかくなら、うちのゼロ・クールでも連れて行くと良いさ」
(この世界は幻想王国が出来る前の時代だ、それならまだ存在すらしてない可能性はたしかにある……)
まだ見ぬその地に、マルクはなんとなしに想いを馳せた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
いよいよ始まりました境界編の第一弾。
瀟洒なメイド型アンドロイド風お姉さんと一緒に行く小旅行です。
●オーダー
【1】『終焉獣』闇衣の騎士の撃退
【2】終焉獣の可能な限りの撃破
【3】宝珠の確保
●フィールドデータ
空中島や鉄帝国などの先史文明のそれを思わせる遺跡です。
空間が膨張しているのか、明らかに降りてきた段数よりも広い空間が一つ広がっています。
辺りは非常に暗く、暗視や光源が必要となります。
ゼロ・クール曰く、闇に呑まれて見えませんが、室内に宝珠があることは確かなようです。
●エネミーデータ
・『終焉獣』闇衣の騎士
文字通り、闇の身体をした騎士風の男。
髑髏の面に赤い瞳が映り、他には黄昏色の炎を纏った剣が辛うじて見えるだけです。
あまりにも暗い闇に包まれており、最大限に光源を用いることが出来ても予備動作の把握がしにくくなっています。
恐らくですが、暗視でも姿を捉えることは難しいでしょう。
ある程度の交戦後に満足したら闇に紛れて撤退します。
混沌で皆さんが出会った終焉獣とは異なり、明確な知性を持ちます。
寧ろROOでの最終決戦で遭遇したような指揮官級とでも呼ぶべき存在――なのかもしれません。
手札については全くの不明。
剣が黄昏色の炎を纏っていることから【火炎】系列を用いる可能性は高いと思われます。
・終焉獣×???
動物や蝙蝠の姿をした終焉獣、雑魚敵です。
数は分かりません――もしかすると、空間が暗いのもそのせいかもしれませんね。
闇衣の騎士が撤退すると同時に撤退します。
●友軍データ
・『MD-SK001番』ゼロ・クール
艶やかな黒い長髪のメイドさん。
ヴィクトリアンメイド風味あふれるロングカートと丈の長い衣装を身に纏い、露出は肩から上だけと製造者の癖が滲んでいます。
魔法使いと呼ばれる職人たちの手で作られたしもべ人形で、存在としては秘宝種に近いでしょう。
常に冷静、穏やかで主様の為に力を尽くす従者であれと魔法(プログラミング)が施されています。
その性質上、名前はなくまた必要のない『感情』もありません。
故にゼロ・クール(心なし)です。
シナリオ中は皆さんを仮の主君と定義しています。
戦闘のみならず、話しかけたり心を通わせてあげましょう。
皆さんのことを可能な限りで手伝ってくれます。
あるいは、彼のクレカのように名前を付けてあげるのもいいかもしれません。
超常めいた空間把握能力を持ちますが、戦闘能力は低く、戦闘経験もさっぱりです。
エネミーの位置の把握などはある程度してくれるでしょう。
ある程度は自分の身を守れますが、庇ってあげた方が良いかもしれません。
・アンネマリー
空色の髪と瞳をした20代と思しき女性です。
今回の依頼人であり、魔法使いと呼ばれる職人の1人。
その一方で宝石商でもあります。
外見はテレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)とよく似ています。
名前の通り、同一人物ではありません。
他人の空似かもしれませんし、『プーレルジール』が幻想王国が生まれる前の幻想のある地域だと考えるともしかするとテレーゼのご先祖様……かもしれませんね。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
非常に断片的で不明点が多くなっています。不測の事態を警戒して下さい。
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