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シナリオ詳細

<アンゲリオンの跫音>交わらざる親子

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 第一の預言に曰く『雷は大地を焼き、穀物を全て奪い去るでしょう』と。
 白亜の都『フォン・ルーベルグ』の近郊は空を覆う分厚い雲から降り注ぐ雷霆による被害を受けていた。
 それは『世界再建』を謳い、『預言の遂行』を行わんとする冠位傲慢の使徒――『遂行者』達の行動に他ならない。
 預言に曰く、神の鉄槌とも嘯く雷霆の影で遂行者たちは蠢動する。
「久しぶりだな、父よ。国に弓引くに留まらず、遂行者の手を取るとは」
 雷霆轟くフォン・ルーベング郊外、黒衣を纏い、灰色の聖騎士が剣を構えていた。
 名をシルヴェストル・ベルジュラック(p3n000319)というその青年騎士は、普段であれば幻想との国境近くの領地を離れることなどそうはない。
「――相も変わらず、死にそうな顔だな愚息よ」
「……その理由の半分は、貴方のせいだ」
 そう言って笑った父――ナルシスへシルヴェストルは険しい表情を向けた。
 シルヴェストルの目元にこびり付いた黒は化粧をしても拭いきれぬ。
 その原因の半分はナルシスという家から出た不正義のせいであり、もう一つは当主としての執務に原因があった。
「ここまで来たということは、聖遺物の奪還が目的ですか?」
 細剣を構えるシフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)やすずな(p3p005307)を見て、ナルシスが小さく笑う。
「……ベルジュラックの万年筆でしたか」
 リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は数時間前に見せて貰った聖遺物の事を思い起こす。
「……ベルジュラック家から出た聖人が動かし続けた万年筆、ですよね」
 ユーフォニー(p3p010323)が続ければ、ナルシスの片眉がピクリと動く。
「……ふむ、既に知られているのだな。俺がようやっと取り返した一族の宝を――小僧が愚かにも国に返還した我らの誇りを!」
 眼を見開いたナルシスの全身から禍々しい闘気が溢れ出す。
「――なれば、問答は不要。そこを退け、地の英雄。邪魔立てするなら悉くを破壊して返してもらう」
 そう言ってナルシスは一歩を踏み出し、雷霆が怒りを表すかのように迸る。
「――汝、畏れよ、これこそは神の足音なり。
 ――汝、恐れよ、これこそは人の歴史なり」
 滔々と紡ぐ聖句のような何かと共に、ナルシスが携える聖書の写本は光を放つ。
 その閃光が辺りを包み込み再び収まる頃、戦場にそれらは姿を見せた。
 姿を見せるのは多様なる魔物――けれどそれらはそれその物に非ず。
 写本が内側に書き記されしコピー体とでも言うべき代物だ。
「まずは我が一族の宝を返してもらおう。その後、貴様の首を掲げ、領国に舞い戻らせてもらおうか」
 そう告げるナルシスは、明確なる殺意をこちらに向けていた。


 シェアキム六世の下へ預言が齎されるよりも少し前。
 リースリットとユーフォニーは天義国に在るモノを見せてほしいと要請していた。
「……間違いない、これが我が家が預かっていた聖遺物だ」
 それは羽ペンだった。良く見れば装飾の一部にベルジュラックの紋章が使われているのが見える。
「これはどういった由来の物なんですか?」
 そうユーフォニーが問いかけると、シルヴェストルはしばらく考えた様子を見せた。
「ナルシスの話によれば、ベルジュラック家が武門に数えられるようになる前の物とのことですが」
 そう問いかけたシフォリィにシルヴェストルがこくりと頷くのが見て取れた。
「随分と昔のことだが、その人物は天文学者であり詩人であり……武人でもあったそうだ」
「……多才な方ですね」
 思わずすずなが言えば、シルヴェストルは短く頷くばかり。
「彼は敬虔な信徒であり、天文学者でもあった。
 人々に学問を教える傍らで様々な学術を本の形にして出版していた。
 そんなある時、近隣で病が流行してね、農作物は死に絶え、疫病が蔓延した。
 彼は詩曲を作ってはそれを売り、稼いだ富を民衆のための医療費や食費に当て続けた。
 手が折れれば足で、足が使い物にならなくなれば口で……自らがその病に罹って死んでしまうまで、文字通りずっと」
 そう言われてみると、その万年筆には沢山の傷痕がある。
「……だが、それをある当時の当主は売り払った。
 聖遺物に認定されたとはいえ、所詮は書けなくなった万年筆だ。
 それによって当時の当主は処断され、家は閉門となった。
 その後、私の高祖父の父の代に功が合って武門に返り咲くことになったが」
「……そのような代物を、国に返したのですか」
 リースリットが思わず言うのも仕方のないことであろうか。
「そうだな……だが、そもそも一度は手放した物だ。
 ならば取り返した後は国に献上する方が正しい判断だとも思わないか?」
 それは現実的な観点から見れば、確かに道理の1つでもあるのだろう――受け入れられるかは別として。
 ようやく取り返した家の宝をみすみす手放したと激怒する者。
 一度は手放した以上、取り返した後に秘匿し続けるのは罪だと国へ返却する者。
 両者の対立は明らかだった。

GMコメント

そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

●オーダー
【1】『鷹将』ナルシス・ベルジュラックの撃退

●フィールドデータ
 聖都『フォン・ルーベング』の郊外です。
 美しい白亜の都のほど近く、その実、宝物殿へ直線で行ける位置にあります。

 空から天災の雷が降り注いでいます。
 直撃すれば【火炎】系列相当の大やけどを負う他、【感電】したり【麻痺】したりするでしょう。
 また、直撃せずとも【足止】や地面が【崩れ】ることも考慮しておいた方が良さそうです。

●エネミーデータ
・『鷹将』ナルシス・ベルジュラック
 シルヴェストルの実父。ベルジュラック領の先代当主であり、遂行者の一角。
 傲慢の名にふさわしい野心的な性格をしています。
 聖都に返還されたベルジュラック家の家宝である聖遺物を奪還もとい奪取するべく現れました。

 高い水準での剣技と魔術を駆使する物神両面型。
 ある意味で騎士らしく攻守ともにバランスが良いタイプと思われます。
 現時点では【反】や一部の【必中】、【邪道】などの攻撃を持っていると判明しています。

・『致命者』オスカー
 槍を携える人間種の男、見る限り20代前半頃のようです。
『致命者』と呼ばれるワールドイーターや影の天使を連れて歩く者達の1人。

 中距離戦闘を主体とし、HP、物攻、命中、防技に長けています。
 中単の他、中貫、中範などの範囲攻撃も可能性があります。
【乱れ】系列や【足止め】系列による撹乱が予測されます。

・影の騎士×5
 いわゆる影の天使です。
 聖騎士風の装いをした剣と盾を装備した人間種風。
 主にタンクのような役割を担います。

 やや重装備でHP、物攻、防技、命中などが高く、反面、回避や反応が若干低め。

 主に【足止め】系列や【乱れ】系列、【怒り】付与などを行います。

・影の銃士×5
 いわゆる影の天使です。
 聖銃士風の装いをしたマスケット銃とサーベルを装備した飛行種風。
 マスケット銃による遠距離支援、サーベルによる近接戦闘を駆使した遊撃手です。

 騎士に比べてHPや防技は低めですが、反面、回避や反応、EXAが高め。

【毒】系列のBSを与える毒性の銃弾を用いる他、
【凍結】系列や【出血】系列、【致命】などの攻撃を行います。


・『怪王種』グリフォン×2
 いわゆるグリフォンが怪王種化した存在を写本の力で保存、コピーしたワールドイーターです。
 HP、神攻、抵抗、反応が高め。
 図体が大きいため、多少回避が低めです。

 魔眼には【石化】や【呪い】、【呪殺】の効果を持ち、咆哮には【混乱】を誘う独特な響きがあります。
 また、強靭な脚や魔力を帯びた羽の弾丸による【出血】系列のBSにも注意が必要です。

・『狂王種』ロックス×4
 巨大な鳥型の魔物です。絶望の青時代の海洋に存在していた狂王種の1種。
 正確にはそれを写本の能力で保存、コピーしたワールドイーターです
 常に飛行状態にあります。

 強靭な脚や魔力を帯びた羽の弾丸による【出血】系列のBSの他、
 羽ばたきにより風を吹かせ【乱れ】系列や【足止】系列のBSを引き起こします。

●友軍データ
・『沃野の餓狼』シルヴェストル・ベルジュラック
 天義の銀人貴族であり聖騎士です。
 反応が高めの物理アタッカー、加えて単体回復も可能です。
 聖騎士らしく自分で身を守れますし、十分に信頼できる友軍です。
 とはいえ、ほっておくと流石に多勢に無勢、普通に負けます。

●参考データ
・ベルジュラックの万年筆
 聖都に保管されている聖遺物の1つ。
 ベルジュラック家が武門となる前、疫病を救うために命を削りながら多くの詩曲・学術書を著したとある人物の遺品です。
 ペンは剣よりも強しを体現するように、多くの人の命を救ったことでその人物は列聖されました。

 その後、ある当主の代に『文化財としては価値があっても書けない筆は所詮ただのゴミ』だとして売却されました。
 ナルシスの代になって漸く買い戻しましたが、シルヴェストルの手で聖都に返還されました。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <アンゲリオンの跫音>交わらざる親子完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年08月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
すずな(p3p005307)
信ず刄
一条 夢心地(p3p008344)
殿
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

サポートNPC一覧(1人)

シルヴェストル・ベルジュラック(p3n000319)
沃野の餓狼

リプレイ


「万年筆ですか。なぜそこまで執着するかは未だわかりませんが……」
 雷鳴響く戦場、数多の魔物を呼び起こし立つ遂行者へと『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は真っすぐに視線を向けた。
「プライドの話だ、と言ったら?」
「それならそれで、人間らしいとは思いますが……そういうわけでもないのでしょう」
 静かに視線をあげたナルシスの言葉にシフォリィはすらりと愛剣を抜いて答えるものだ。
 その答えにナルシスは果たしてどう思ったか。
「貴方は……たしか、以前にもお会いしましたね。あの時の彼は居ませんが、代わりに踊ってもらいましょうか」
「あー……そうみたいだな。なら、しゃあねぇ、美人さんに誘われて踊らねえのも男じゃないな」
 ふと視線を巡らせ男へ言えば、からりと笑った男が槍を構えた。
「尊い物と言っても壊れた道具、命をかけて世に仇なすほどじゃあ無いと思うけどねぇ
 そりゃ売るのはやりすぎですケド……聖人とやらが聞いたら哀れみの詞でも綴るでしょうよ、アナタ」
「はっ。売った時点で聖人の覚悟を踏み躙ったというわけだ。ならば、世に仇なしてでも取り返さねばなるまいよ」
 夢幻の魔剣を少しばかり地面に刺してポーズをとっていた『夢の女王』リカ・サキュバス(p3p001254)が言えば、ナルシスはそう笑って答えた。
「先祖に伝わる万年筆を取り戻す……そこだけ聞けば、動機は理解できなくもない。
 けれど貴方はこう言った。当主としての地位と力を奪いに行く、と」
 ワールドリンカーに魔力を通しながら『ウィザード』マルク・シリング(p3p001309)は真っすぐにナルシスへと向き合っていた。
「あぁ、言ったな」
「ならば、貴方は自身が放逐された歴史を無かったことにし、返り咲きを狙う権力の亡者だ!」
 突きつけるように言えば、ナルシスの瞳に微かな殺意が覗く。
「国への反逆にも等しきことをしたのは事実。それを理由に俺が放逐されたのも事実。
 力で奪われた物を奪い返すことに、権力の亡者も何もありはしないだろうよ」
 静かに告げた男の手元の剣に魔力が籠められていくのをマルクは確かに感じていた。
「万年筆の持ち主であった方は、何よりも民の為に尽くされた方だったのでしょう
 それを巡って末裔が争い、果ては国に弓引き民に剣を向ける……
 聖遺物の取り扱いよりも何よりも、その仕儀にこそ貴家のご先祖様は嘆かれていらっしゃるのでは?」
 感情の揺らぎと敵意の発生を感じ取りながら、『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は真っすぐにそう問いかける。
「我 フリック。我 フリークライ。我 墓守。
 死 護ル者。死者 心 護ル者。
 万年筆遺シタ 聖人 浮カバレズ」
 それは『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)もまた、似た思いを抱く者だ。
「彼 人々 病&飢餓カラ救ッタ。
 ダトイウノニ ソノ遺物巡リ ナルシス 飢餓モタラス側 ツイテイル。
 遺物尊ベテモ 聖遺物ト成シタ 聖人 志 尊ベナイ者ヨ。
 君ニハ 遺品 相応シクナイ」
「はっ、否定のしようもないな……だが、それでもだ。先祖に嘆かれようと、俺は為さねばならぬ」
 ナルシスの双眸には確かな野心が浮かんでいる。
「助太刀致します、シルヴェストルさん。
 貴方の実力は承知しておりますが、相手が相手ですので。
 他の相手は皆様が受け持ってくれます。
 お互いに協力し、御父上――ナルシス卿の相手をしましょう!」
 仲間達が敵の注意を引く中、『簪の君』すずな(p3p005307)はシルヴェストルの方へと近づいていた。
「……あぁ、助かる。油断の出来る相手ではないのも確かだ。
 力量的には寧ろ、俺の方が微力なれど助太刀する側の気もするが」
 長剣を握る聖騎士はそう言って頷いた。
「麿も家宝の蒔絵硯箱を帝のひょっこりマンシールと交換して、パパンにめちゃんこ怒られたことあるからの。
 シルヴェストルの気持ちはよおおおおく分かるぞえ。今さら返せとか言われても困っちゃうよNE★」
 同じようにシルヴェストルへ声をかけた『殿』一条 夢心地(p3p008344)は冗談めかした雰囲気を崩さない。
「だーーいじょうぶ! 麿に任せておくのじゃ」
 気質もあろうが、少しばかり緊張のようなものを感じ取ったが故の事だ。
「ふ、ありがたい。どうやら、肩に力も入っていたようだ」
 事実、夢心地の言葉を受けたシルヴェストルはそう言って微かに笑みを浮かべた。
「気を張りすぎても疲れてしまうからの!」
 うんうんと頷いてから、夢心地はリトルワイバーンに跨り空へと舞い上がった。
「どちらの気持ちも理解はできます。
 魔種とか遂行者とかそれ以前に、大事なものだからこそ、親子だからこそちゃんと話し合えませんか?」
 そう『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)は真っすぐにナルシスへと視線を向けた。
「無いな。俺と奴は水と油、見ている道の果てが違う。
 例え魔種となって居らずとも、冠位傲慢の軍門に下っておらずとも、こうなっていたのは変わらんよ」
 そう、静かに言ったナルシスは、いよいよとばかりに魔物達へ号令を告げた。


 誰よりも速く、圧倒的な速度で動いたのはシフォリィである。
「随分と踊りのキレがいいもんで!」
 連続して放つ炎乱の刺突は激しく燃え上がり、美しく乱れ狂う。
 咲き乱れる炎乱の果てに紛れ込ませた術式が展開する頃には、オスカーから驚いたような口笛が聞こえてくる。
「貴方の戦い方は以前に見ているので、動かしませんよ」
 剣を払って残心しながら、ふとシフォリィは息を吐く。
(……こちらの手の内も見られているので、油断も出来ませんが)
「なるほど、それで俺の相手はお前達か」
「まあ、そういう事です。海洋の時同様、お相手願いますよ――ナルシス卿!
 今回は多少なりとも真面目にやって頂けるのでしょうか!」
 すずなはシルヴェストルと共にナルシスへと肉薄する。
 熱を帯びた剣圧を向けられたナルシスが短く笑ってみせる。
「前と違って此方は二人。手慰みで突破出来るものではありませんからね……!」
「――は、貴様らを手慰み程度で突破できると思ったことはないな」
 そのままの流れて振り抜いた三段突きは、合わされた剣によって致命傷には至らない。
 反撃の斬撃を受け流しながら、すずなは注意深く男の様子を見据えていた。
「こういうのは上を取った方が強いのはじょーしきじゃからの!」
 夢心地はワイバーンを駆り、空へと舞い上がっている。
 空を舞う怪鳥たちの視線が幾つか夢心地の方を向いた。
 すらりと抜いた太刀、優美なる輝きを放つ愛刀に集束する闘志が剣身を包み込む。
「これぞ夢心地ビーム!」
 まるで第二の落雷とばかりに放たれたビームが真っすぐに戦場を駆ける。
 撃ち抜かれた怪鳥たちがバランスを崩し、あるいは地面へと落ちて行く。
 2度、3度と放たれるビームが怪鳥やグリフォンといった獲物たちを焼きつけていく。
「私の頭が足りて無いだけかもなんですが……ナルシスさん、教えてください」
 万華鏡の内側、ユーフォニーはナルシスへとそう問いかける。
「堂々と真摯に無碍にも出来ぬな。物によるが聞いてやろう、その美しい万華鏡の輝きに免じてな」
「ありがとうございます……どうせ歴史を修復するなら他の聖遺物から神の国を降ろして『万年筆がずっと手元にあった歴史』にするのは違うんですか?」
 真っすぐに向けた視線の先、ナルシスは何とも言えぬ顔で沈黙をしている。
 続きでも促されているように思えて、ユーフォニーは続けた。
「ナルシスさんは遂行者なのに『今の歴史の万年筆』に拘ってます。
 シルヴェストルさんへの鬱憤晴らしはともかく、『今の歴史の万年筆』を取りにくる必要はあるんでしょうか」
「ふ――自分で言ったではないか」
 ナルシスはまるで耐え切れぬというように笑った。
「この愚息への意趣返しだよ。それ以上の意味は特にないな。
 何より、そんなもしもを作ってもつまらぬ」
「『幻想は腐敗した果実、滅びるべきだ、魔種の温床だ』……でしたか。
 否定はしません。長き歴史は腐敗を生む。何より我が国には冠位色欲が潜んでいる。
 必ず討ち払わねばならない敵です……それで、ナルシス卿。貴方は何をしているのです?」
 リースリットは緋炎を鮮やかに輝かせながら、ナルシスへと視線を向けた。
 撃つべき数多の影を貫くばかりの輝きはそこにある。
「貴方自身が魔種になった。聖騎士シリウスの例もある、万歩譲ってそれは良いとします
 ですが貴方は、冠位傲慢の軍門に降り何をしているかと思えば……貴家の誇り、ですか?
 貴族として騎士として民を守る事。列聖された由縁、それこそがベルジュラック家の誇りではないのですか?
 家族にも民にも背を向けあまつさえ剣を向ける……今一度問います。
 ナルシス卿、貴家の『誇り』は何処に行ったのです」
「誇り、か」
 短くナルシスが笑みをこぼす。
「ファーレルの娘、その誇りとやらで、実際に民が守れるか?
 倦んだ腫瘍さえも取り除けぬ誇りとやらで、民が守れると思うか?」
 精霊の光が影の天使たちを蹂躙するその向こう側で、ナルシスが目を細めたのが見える。
「模倣とは言え揺さぶれる獣の悪意くらいはあるでしょう?」
 リカは空に舞う怪鳥と同じ地平に立ち咆哮を上げるグリフォンを見やり、小さく笑む。
「魅せてあげるわ、ビリっとするくらいならリカちゃんだってできるのよ♪」
 いっそ楽しそうに笑ってみせたリカは笑みをこぼすままにロックスに視線を向ける。
 空を舞う大いなる怪鳥へと視線が合えば、後はもう引きずり込むだけだ。
 艶っぽく微笑むままにウインクを一つ。
 魅了とまでいかずとも、掻き乱される心はリカへの視線を釘付けにするには充分であろう。
 鳴き声と形容するにはあまりにも騒々しい声と共に、怪鳥が地上へと降りてくる。
「さて、後は……その魔眼と目が合ったらとんでもない事になっちゃうの? ああ……目を合わせたわね?」
 巡らせた視線の先、そこにあるグリフォンと視線が絡み合う。
(逆に魅了してやるわ、おバカさん?)
 魅入られたグリフォンの雄叫びは、ある種の嫉妬の色があった。
「流石に数が多いね……」
 引っ張られて降下していく怪鳥たちとグリフォンを見つつも、マルクは視線を下げる。
 聖騎士やら聖銃士やらを思わす影の天使たちだけでもイレギュラーズより人数は多い。
(可能な限り、敵が多く巻き込める場所を――)
 起動されたワールドリンカー、撃鉄は起こり戦場にキューブが浮かぶ。
 螺旋状にグルグルといくつものキューブが舞い踊るなか、打ち出した魔弾は戦場を走り抜けた。
 戦場を駆け巡る魔弾の行末は数多の敵を貫いて描かれる。
 魔弾は敵の内側を駆け巡り、その内側を冒していく。
 収束する頃には、彼らの身体は終焉の宿命に彩られている。
「天ノ雷 何スルモノゾ」
 フリークライは降り注ぐ雷霆とそれによる以上の全てを振り払うように静かにそこに立っている。
 雷を受けた箇所の痛みをその端から鮮やかに修正していく。
 空を見上げる。
 分厚い雲が灰色の空を作り出していた。
「見エタ」
 小さな呟きを漏らす刹那、光が戦場を包み込む。
 それは雷光に非ず。
 暖かさに満ちた光は天使の梯子を降ろす。
 それは帳を生むものにはなく、戦場を駆ける者達を祝福する光に他ならない。


 激戦は続いていた。
 お互いに射程が一致している分、身動きがとりやすいシフォリィとオスカーの戦いはシフォリィの圧倒的な有利であった。
 運悪く封殺できなかったときでも、オスカーはシフォリィとの戦いを優先している。
「全く、美人と踊れるってんだから損はなかったけどよ、幾ら何でも手の内バレてりゃ荷が重いっての」
 そう愚痴るオスカーがそれでもシフォリィと戦い続けているのは何故か。
(……なるほど、ナルシスを抑えられては困るから、ですか)
 ある可能性と言えばそれぐらいだろうか。
 そんなことを思いながら、シフォリィは再び鮮やかなる炎の乱舞を披露する。
 連撃が重なる中、槍で受け、或いは躱し続けていたオスカーへと遂に刺突が入る。
 ボロボロの身体は滅びのアークを垂れ流し、黒い靄となって綻び出す。
 マルクはその様子を確かに見据えていた。
「確実に終わらせる!」
 踏み込み放つはブラウベルクの剣。
 暁闇を切り開く旭光の魔剣はまさに闇その物とでも言うべきオスカーの身体を塗り替え、青々とした空を思わす輝きの果てを見せる。
「あぁ~~~負けだわこれ。悪いね、大将」
 からからと笑う、オスカーの身体はそのままボロボロと砕け散った。
「本物だろうと模倣だろうと、魂もろとも魅了するのが夢魔の女王でしょう?」
 リカは色のある笑みを浮かべるまま、その手に握る魔剣に魔力を籠める。
 放ち穿つはある聖剣の奥義を模した魔王の権能。
 天雷降り注ぐ大地において、空へと昇る魔の雷光がグリフォンの心臓を抉り取る。
「まだやりますか?」
 すずなとシルヴェストル、ナルシスの戦いは順調に進んでいる。
 真っすぐに構えたすずなは常に警戒を残している。
「ふむ、意外と耐えるな。もう少し本気で相手をしようか――」
 感心したように言って、ナルシスが一歩踏み込み剣が振り抜かれた。
 切っ先の行末はすずなと思わせ急に揺れた。
 シルヴェストルの首を獲らんとするそれを、すずなは剣で叩き、その間に割り込んで見せる。
「そう簡単には落とさせません!」
 そう告げるのとほぼ同時、不自然な軌道を描いたナルシスの剣がすずなを確かに貫かんと駆け抜ける。
「――『それ』は一度見ました。早々喰いませんよ……!」
「はっ、そうでなくては面白くない!」
 どこか頼もしそうに笑ってナルシスが剣を払い、そこにシルヴェストルの太刀が入る。
「ナルシス 君ノ 攻撃ハ 全テ 無意味」
 フリークライはすずなとシルヴェストルの方へと視線を向けた。
 降り注ぐ熾天の冠、穢されし天使の口付けがナルシスの剣戟を受けて傷の増えつつある2人を瞬く間に癒していく。
(ン 宝物殿 強行突破 シナイ?)
 その様子を見ながら、フリークライはそちらについても不思議に思い始めていた。
 戦場全体が見えてないようなタイプではないと、ここまでの戦いで思っていた。
(モシカシテ 言ウホドニ 聖遺物 欲シクナイ?)
 そんなまさかを脳裏に浮かべているところに、雷鳴がとどろいた。
 夢心地は空からその瞬間を待っていた。
 ナルシスの足元、そこを雷霆が撃ち抜いたのである。
「これも運否天賦、ナルシス・ベルジュラック、ツキが無かったの!」
 刹那、夢心地は地上に向けてワイバーンを一気に降下させていく。
 雷光を避けるようにしてジグザグに移動しながら走るワイバーンからギリギリのところで飛び降り、愛刀の一閃がナルシスの肩を撃つ。
「……止めだ。興が削がれた」
 バランスを崩したところを立て直したナルシスがふと息を零す。
「兵の損害もそこそこあるか……お前たちの勝利だ、つかの間の勝利を喜ぶがいい、愚息よ」
 舌を打ち、ナルシスはそう言ってそれっきり闘志を無くし、ぱたんと書物を閉じる。
「神の国なら、ナルシスさんの世界は色づくんですか?」
 今井さんが銃を構えて警戒するままに、ユーフォニーは問いかけた。
「万華鏡の娘、お前の世界は色づいているのだろうな。羨ましいことだ……全く」
 はぐらかすように答えたナルシスは、言外に否定しているように聞こえていた。
「あぁ――そうだ。ファーレルの娘よ。
『幻想は腐敗した果実、滅びるべきだ、魔種の温床だ』がな、俺はもう1つ思うところがある」
 油断なく構えるリースリットへと、不意にナルシスがそう言った。
「『この世界』には、腐敗した果実が多すぎると思わないか、ファーレルの娘よ」
 以前に会った時に撤退する寸前の目くらましのように、光を放ち始めた写本の向こう側、男は言う。
「……」
 それがどういう意味を示しているのか、推測するよりも前に閃光が戦場を包み、ナルシスの姿は消えていた。
(……まさか、そう言う意味なのですか? ナルシス卿)
 そもそもだ、何故ナルシス=ベルジュラックは放逐されたのか――それは国への謀反を目論んでいたからだ。
「幻想は腐敗した果実、魔種の温床……そして『天義』も腐敗した果実、魔種の温床だと?」
 国を打倒してでも魔種を取り除くため、自らが魔種になってしまったのだとしたら、それは随分と本末転倒なお話だ。
「あるいは、その逆……反転したが故に、国家を打倒してでも魔種を取り除く、という思考になってしまったのか。
 どちらにせよ、それなら領主の地位に就くことに執着するのにも納得がいく」
 天義という国から魔種という腫瘍を取り除くには、写本の力程度では当然の如く戦力が足るはずもないのだから。

成否

成功

MVP

すずな(p3p005307)
信ず刄

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
MVPはナルシスを抑え続けたすずなさんへ。

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