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シナリオ詳細

<アンゲリオンの跫音>蒼を纏いし狂気

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
 ――主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ。

 この神託は天義国内を混乱させ、様々な事態を引き起こす。
 殉教者の森に進軍していた致命者。
 エル・トゥルルにおける聖遺物の汚染。
 天義の巨大都市テセラ・ニバスを侵食した『リンバス・シティ』の顕現……。
 遂行者を名乗る者達はこの神託に従い、歴史の修正を行うべく影の集団を率いて活動している。
 各地へと影の一隊を差し向け、触媒となる聖遺物を設置、帳を下ろす。
 ルスト・シファー(冠位傲慢)の力を得て、『神の国』を築く為に。

 天義の騎士達もこの事態に手をこまねいてはいない。
 ――『純粋なる黒衣』を纏え。此処に聖戦の意を示さん。
 神が為に行なう断罪の時に被る穢れ(返り血)より、敬虔なる者の身を守るための、何もにも染まらぬ色……それが黒衣。
 黒衣を纏った騎士は国の困難に前に歩みを進める。

 騎士達と遂行者達の戦いが続く中、新たに謎の神託が……。
 ――第一の預言、天災となる雷は大地を焼き穀物を全て奪い去らんとするでしょう。
 ――第二の預言、死を齎す者が蠢き、焔は意志を持ち進む。『刻印』の無き者を滅ぼすでしょう。
 ――第三の預言、水は苦くなり、それらは徐々に意志を持ち大きな波となり大地を呑み喰らう事でしょう。
 これらの神託は遂行者の『行動』を予見したもの。
 神託を手に、神の代弁者たる『黒衣』の騎士とイレギュラーズは遂行者を退けんと剣を手にする。


 動き出した遂行者達。
 これまでも世界各地で暗躍していたが、ここにきて本格的に預言を果たそうという動きが見られる。
「覇竜での一件が終わったこともあり、今度はこちらに注力する必要があります」
 聖都フォン・ルーベルグ近隣へと集まったイレギュラーズに対し、『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)は移動しつつ手早く説明を行う。
「第二の預言を覚えていますか?」
「『死を齎す者が蠢き、焔は意志を持ち進む。『刻印』の無き者を滅ぼすでしょう』……ですわね」
 最初に問いかけてきたアクアベルの言葉に、リドニア・アルフェーネ(p3p010574)が少し唸って答える。
 直に、聖都の街中で遂行者の一人、ナーワルが大手を振って戦力を増強しようとしている。
「遂行者は『聖痕』を刻むことで、仲間を増やす心づもりのようです。隙あらば、皆さんも取り込む気でいます。……くれぐれもご注意を」
 まずは、馬車で移動していた天義の要人2人を捕縛すべく襲撃をかける。
 ナーワルの率いる混成隊は護衛の聖騎士と従者を気絶させ、要人全てをナーワルが炎の枷で縛り付けているという。
「さらに、この場へと現れたルニア・アルフェーネがナーワルへと自ら戦力とするよう要望し、ナーワルもこれを了承します」
 ただでさえ、ナーワルが率いてきた終焉獣、戦車に量産型戦車といった混成隊も協力だが、そこにルニアという女性……。
 どうやら、ルニアは何らかの理由ですでに魔種と化しているらしい。
 下手な戦力が無数加わる以上に厄介な状況だ。
「今回の目的はナーワルの活動を食い止め、撃退することです」
 これ以上聖都で動き続けられると、ナーワルが新たな標的を自身の陣営へと引き入れかねない。
 アクアベルは手早く敵情報についてこの場のメンバー達へと伝達して。
「厳しい状態ですが、ここで遂行者の所業を許すわけにはいきません」
 放置すれば、遂行者達はどこまでも勢力を拡大し、預言を遂行しようとする。
 今回の事件の阻止はその為の一手なのだとアクアベルは説明を締めくくったのだった。


 聖都の街中、白昼堂々と襲撃してきた戦車。そして終焉獣。
 キャアアアアアアアアッ!!
 住民から上がる叫び声。
 人々は突然襲ってきたそれらに恐怖する。
 まず、鋼鉄で覆われた戦車。
 次に、真っ黒な影を思わせる見た目をした巨大な耳2体と指2体。
 さらに、醜悪な見た目をした量産型天使。
 それらは住民には目もくれず、襲撃した馬車にのみ襲い掛かる。
「なっ……!」
「無礼な、何者だ!?」
 馬車に乗っていたのは、天義の要人である高齢の男性神官2人。
 その彼らの前へ、黒い鎧を纏った女性が現れ、兜をとる。
「ナーワルと申しますわ。以後、お見知りおきを」
 彼女は口元を吊り上げる。
 すでに、護衛の聖騎士達は地に伏している。
 それだけ戦車の力が強大であったということだろう。
 従者らも御者台や近場の地面で伏してしまっている。
 それは、終焉獣や量産型天使によるところが大きい。
「貴様ら……!」
 要人とはいえ、神官である2人だ。
 多少の神聖術は心得ており、それで敵……ナーワルを排除しようとするのだが……。
 その術は蒼い靄の中に消えていく。
「そんな馬鹿な……うっ……」
 気を失う要人達。
 靄を操っていたのは、この場から離れようとする人の流れに反するようにして歩いてきた修道服姿の女性。
「あ、ああ……」
 恍惚とした表情をして、その女性はナーワルへと近づいてくる。
 ――ヨウヤクミツケタ……。
 恐ろしいまでに膨れ上がった力に、ナーワルもすぐ気づく。
 ルニア・アルフェーネと名乗った女性はすでに人を辞めてしまっている。
「これは……ふふっ」
 非常に利用しがいのある餌が飛び込んできたものだと、ナーワルは笑いを止められずにいた。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 <アンゲリオンの跫音>のシナリオをお届けします。
 こちらは、リドニア・アルフェーネ(p3p010574)さんの関係者依頼です。
 遂行者達が本格的に動き始めました。
 新たに降りた神託を手に、遂行者達の撃退を願います。

●概要
 聖都フォン・ルーベルグの街中で遂行者ナーワルは堂々とルニアと合わせて天義要人をスカウトしようとしています。
 彼女達は敵対するローレットが現れるのも織り込み済みのようで、綜結教会の戦力を使いつつ迎撃してきます。
 強大な力を持つルニアを抑えるのは非常に厳しい状況ですが、せめて天義要人は保護し、これ以上の被害を出さぬようナーワルを撃退したいところです。

●敵:ナーワル混成隊
〇遂行者:ナーワル
 黒鉄の鎧で身を包んでいた女性遂行者の正体。
 20歳、修道服を纏った旅人女性。リドニア・アルフェーネ(p3p010574)さんの関係者です。
 アドラステイアにて、下層の子供達にファルマコンの教えを説く一方で、潜水部隊を率いてスパイ活動を行わせていました。
 その正体は「碧熾の魔導書(ブレイジング・ブルー)」と呼ばれる魔導術式が形を成した物とのこと。
 自ら未完成だと自覚しており、完成の為に「他者の痛み」と「恐怖」、「憎しみ」を集めています。
 戦いでは、炎を使いこなし、砲弾やモリ、散弾といった殺傷力の高い武器に転じて使う他、閃光、溶岩、雷火、闇炎と炎をベースとした多数の術も行使してきます。

〇ルニア・アルフェーネ
 リドニアさんの姉。既に魔種と化しており、強大な力を有しています。
 自ら『聖痕』を刻まれるよう志願し、リドニアと共に活動することに。
 ナーワルの正体も知っており、その力を取り込もうと近づいています。
 身体から蒼い靄を発し、底冷えのするような空気を展開して全てを自らの力に変えます。
 蒼い靄は様々な攻撃に利用できるようですが、その全容は不明です。

〇ワールドイーター(終焉獣)
・醜聞の耳×2体
 全長3mほど。右耳と左耳が一対ですが、こちらも実力として個体差はありません。
 自重を活かした押し潰し、甲高い耳鳴りを中心に攻撃します。蹂躙の足と同様、こちらも左右揃うことで強力な攻撃を行うようです。
 聞き耳を立てて音を聞くようにして周囲を吸い込むように浸食することもあります。

・拒絶の指×2体
 全長1~1.5mほど。
 地面を叩きつけて揺らすことがある他、指先を叩きつけたり、爪でひっかりたりしてきます。
 場合によっては身を盾とし、仲間を守ろうと立ち回ります。爪で空間を引き裂いて浸食を進めることも……。

〇多脚戦車AIT-1×1体
 蒸気式精霊制御型無人戦車。見た目以上にオーバースペックな挙動をし、戦車と思えぬ運動性に機動性、さらに攻撃性能を有します。
 連装の大口径主砲、連装機銃、近接防御兵器としての榴散弾地雷がベースの武装です。

〇量産型天使×4体
 つぎはぎだらけの邪悪で歪な生物。
 非常に醜悪な見た目ですが、遠目に見れば天使にも見えます。
 知性はほぼ存在しませんが、力任せに刃を振るったり、見た者を畏怖させるオーラを放ったりなどするようです。

●NPC:天義要人2名+聖騎士4名+従者4名
 国のお偉いさんです。高位の神官で何れも高齢の男性です。
 宗教国家である天義において、部門を直轄する程度の権力を与えられています。
 現場へと到着した地点で聖騎士、従者は戦闘不能となり気絶。
 要人らはルニアと合わせてナーワルが術で縛り付け、『聖痕』を刻んでから連れ去ろうとしています。

●『歴史修復への誘い』
 当シナリオでは遂行者による聖痕が刻まれる可能性があります。
 聖痕が刻まれた場合には命の保証は致しかねますので予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

 それでは、よろしくお願いします。

  • <アンゲリオンの跫音>蒼を纏いし狂気完了
  • 利用する者とされる者、その思惑は
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年08月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC1人)参加者一覧(8人)

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
たったひとつの純愛
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

リプレイ


 聖都の街中、イレギュラーズが現地へと急ぐ。
「魔種に、遂行者に、保護に……!」
「遂行者、それに、聖痕を刻まれた魔種……」
 『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)、『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は事前情報から、対処すべき事案の多さに頭を抱えてしまう。
「遂行者とその配下多数に加えて魔種までいるのか」
 要人やその護衛の保護も必要。
 『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)も状況はだいぶ厳しいとみる。
 加えて、メンバーが気にかけていたのは……。
「聖痕とは一体何なの?」
「刻印ねえ、私のお腹のこれと何が違うんだか」
 力を得るだけのものだとは思わないとのセレナの呟きを受け、『夢の女王』リカ・サキュバス(p3p001254)は自らの腹部に刻まれたものとの差異を考えて。
「聖痕……烙印と似たようなものを感じますが」
 『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は、人為的に付与されたそれに心を屈服させるならばまだしも、人の意志さえも捻じ曲げるのはどうにも許しがたいとのこと。
「第一預言と言うのは起きるものであって、あくせく起こすんじゃあ傲慢も高が知れるわよねぇ?」
 こうした手段を行使する遂行者らに、リカは呆れていた。
「……でも、それだけでも脅威だし、充分気を付けないと」
 敵の狙いは、天義要人。
 真っ当な人にまで聖痕を刻ませるにはいかない。
 セレナは守って見せると力強く拳を握る。

 キャアアアアアアアアッ!!
 住民の叫び声が聞こえた先に一行が向かうと、事前情報の通り、天義要人の乗る馬車が襲われていた。
 実行犯は遂行者ナーワルとその手勢である終焉獣に戦車、量産型天使。
 それらに加え、自らも聖痕をと進み出ていたのは、魔種となったシスターだった。
「遂行者に魔種が合わさり最悪に見えるー!」
 その状況に、『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)はテンションを上げて。
「あ、てかまとめてフェスるん? 私ちゃんもまぜろー! うははー!」
 突然現れた秋奈に警戒するナーワル達。
 近場にいた住民らが逃げていく中、イレギュラーズが次々に駆け込んでくるのだが。
「なんか足りねーな。ちゃんりか! ぺぇぺぇ揉ませぐはぁ!」
 秋奈をリカが刹那押さえつける間も、遂行者らはこちらの出方を窺っていたようだ。
「彼らがリドニアさんの……しかし、魔種であり、遂行者とは……」
 まず、ナーワルは魔導術式が人の形をなしたものらしく、かつてはアドラステイアのティーチャーとして。今は遂行者として各地で暗躍している。
「生きた術式というからどんなものかと思えば……」
 そのナーワルに『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)が強い関心を抱く。
 不老不死を求める魔術師である彼は豊満な体のナーワルを、「多分に趣味的で無駄が多い」と評する。
(有体に言えば人間臭い。完璧でなく完成を目指すならそういうものか?)
 機能美と造形美。どちらを求めるかなど、その慣性系は追求する者によるということだろう。
 さて、そのナーワル……術式を求める『『蒼熾の魔導書』後継者』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)だが。
「……姉様。そこまで、そこまで追い詰められていたのですか」
 彼女は新たに敵対する者として立ち塞がった実の姉、ルニア・アルフェーネに呼び掛ける。
「魔種になるまで……そんなにも、私が憎いですか。血を分けた姉妹ではあるのに」
「ええ、壊してしまいたいくらい」
 もはや正気でないルニアの瞳は、身体に纏う蒼い靄と合わせて悪寒すら抱かせる。
「これまた厄介な相手だね……」
 『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は両者とも一筋縄でいかぬ相手だと心得る。
「な……」
「狼藉者め」
 すでに護衛が倒れ、震えるばかりの天義要人2人。
 彼らを守るのは、依頼として絶対。
「やることは多いですし、状況も厳しいですが、全部救けて、大団円にするためにここにいるんです」
「さて、とっととクソったれ本を燃やしてお助けといきます。か」
 涼花に同意するリカは指揮官ナーワルを敵視し、要人救出に意気込む。
「……ナーワル。始める前に1分だけ煙草吸わせてくれません?」
 だが、リドニアはどうせやるのだからと、ナーワルに一服だけするよう促す。
「どうぞ」
 住民の避難が進む中、静観するナーワル達。
 要人に近づくのは難しいが、メンバーもこの一時を最大限活用し、戦闘準備を整える。
「リドニアさんが戦うのであれば、何も言うべきではありませんね」
 因縁の多いリドニアが決意したなら、マリエッタも彼女と共に戦うのみ。
「あれの目指す完成という方向性……」
 セレマも自身の目指すところの完璧に倣うところがあると興味を惹かれていたが、仕事は仕事。
「仕事は完璧にやり遂げるものだ」
「できっこなくても、できるようにやるしかない」
 ここまでくれば、もはや後には引けないことを涼花は強く自覚して。
「今できる全霊をもって、守り抜きましょう!」
「みんな守ってぱぱっとやっつけて、ウチらイレギュラーズは止められないっての思い知らせてやるぜ」
 聖痕を刻まれて勝手に躯体がどこかに行こうと最後までやれるってこと、私に信じさせてほしいと秋奈は同じイレギュラーズへとに呼び掛ける。
「私ちゃんらになら、きっと、それができるはずだから」
 そんな仲間達のやる気を耳にしていたリドニアは一服したモノを処理し、強く足を踏み出す。
「ーー殺す」
「やれるものでしたら、どうぞ」
 くすっと笑うナーワルはこちらを煽りつつ、こちらに部隊を差し向けてくるのである。


 リドニアの姉ルニアを加えたナーワル一隊はイレギュラーズを迎え撃つ。
 敵味方の中でもっとも速く動き出したのは、セレマだ。
(ボクの役目は戦車と天使への蓋だ)
 まさに瞬きの早さで歩を進めるセレマは胸が高まるような正確さで微笑みかけなければと狙う相手を注視する。
 身の毛がよだつ見た目をした4体の量産型天使達。
 滅茶苦茶に刃を振るうそれらは見る者に恐れを抱かせるオーラを放つ。
 それらも十分厄介だが、それ以上に、多脚戦車AIT-1は脅威だ。
 街中にも拘らず縦横無尽に動き回り、高火力の火砲を飛ばしてくる。
 戦車の攻撃を、セレマは己の不死性と完全性で受けきってみせた。
「雑魚の足止めとは言ってくれるなよ」
 セレマもまた、この戦車を動き回らせることがこちらにとって不利になることを承知している。
 だからこそ、ここで縛り対処するのが一番いいと、囮になることを了承していたのだ。
 同じく、引き付けを行うリドニアは瞬間加速装置を使ってセレナと同じタイミングで飛び出しており、ナーワルに狙いを定めていた。
(一番避けたい事態は碧熾の魔導書を姉様が取り込むこと)
 ナーワルが姉ルニアを利用する事も面倒だが、リドニアはそれ以上にルニアがナーワルという術式の力を得てしまう事の方を懸念していたのだろう。
(仮にも継承候補だった者に渡る事は、その魔導書を最適に使われる恐れがある)
 それは何としても避けたいリドニアは刹那空間に溶け込み、ナーワルの体を凶手で傷つける。
「…………」
 思った以上に慎重なナーワルは傷つきながらも炎を舞わせ、モリの形へと変えてリドニアを薙ぎ払ってくる。
(あの腐ったニオイの魔種も個人的にシバいてやりたいところですケド……)
 ちらりとリカが見やったルニアは動かず、楽しそうにこの戦いを見たまま。
 ただ、既に抑え役となっているセレマが一番危なっかしそうな手品の多さをナーワルは有している。
 それ故にリカはナーワルを押さえつけようと魔眼で見つめれば、相手も巨大な耳や指の形をした終焉獣を差し向けてくる。
 ならば好都合と、リカは夢魔術の奥義でナーワル、続いて終焉獣らを誘惑し、強く自らへと気を引こうとする。
「とりま指と耳ちゃんがやばたんなんだわ。そっちからかまちょ!」
 壁となりうる拒絶の指、そして、耳鳴りを発して動きを止める醜聞の耳。
 それら終焉獣は現実を侵食する可能性がある恐ろしい相手だ。
 仲間がうまく担当する敵を抑えているなら、秋奈も討伐を優先させて両手の刀で連撃を浴びせかける。
「敵を抑えて要人達を守りつつ敵を討伐していく。あはは、ウチらの定番コースじゃん!」
 戦いの中でも敵探知を働かせる秋奈は要人側へと敵が近づかないかを注意しながら、立ち回っていた。
 そんな戦場で立ち回る仲間達を、涼花は自らの歌、携える形見のギターをかき鳴らして支援する。
 涼花が曲にのせた言霊が力となって仲間達の力となり、さらに音色によって仲間達の守りを高めていく。
(そうだ、大事なことがもう一つ)
 涼花は上空に飛ばすファミリアーの小鳥を通し、仲間全員の位置を逐一把握していた。
「回復は任せて!」
 ヴェルーリアもサポーターに留まらぬよう全力でメンバーを回復する。
 自身を戦いに最適化させ、宝冠の力を得た彼女は仲間達に温かい光で照らす。
 回復、攻撃のオールラウンダーとなるマリエッタも、ここは幻想を纏って攻撃に出て。
 リドニアやリカの支援は怠らぬよう気を回しつつ、マリエッタは血でできた無数の武器を発して邪魔な指から排除に当たる。
 既に実戦武技の構えをとっていたセレナも自らを戦いに適した状態としていて。
 一気に狙った指へと接近したセレナはそいつを魔空間に呑み込み、結界を刃へと凝縮して敵に突き入れる。
(守る戦いは苦手だが、攻める事で守るならば話は別だ)
 現状、ナーワルらは要人らを捕縛するよりもイレギュラーズの迎撃に力を入れている。
 ならば、昴もとにかくせめて敵の数を減らそうと考える。
 破砕と混合の闘氣を全身に覆っていた昴は闘志を全開にし、指に正義の拳を叩き込む。
 耐えていた指が自分に爪を振るってきたことで、昴は思い通りだと気を良くしていたようだ。
「ふうん……」
 聖痕を刻まれた彼女は愉悦の笑みを浮かべつつ、戦いの成り行きを見守っていた。


 戦車と天使を抑えていたセレマは合間を見て、要人へと近づく。
 彼らへと聞こえる程度の声で何かを話しかけていて。
「……ボクはハッタリには自信がある方だ」
「むう……」
 要人らもそれしか手段がないと、セレマの提案を受け入れていたようだ。
 そのやりとりも僅かの間。セレマはすぐに閃光を輝かせて抑える戦車の体力を削っていく。
「……その力、見せてもらいましょうか」
「いいのですか?」
 ナーワルの代わりに、今度はルニアが前に出る。
 リドニアもナーワルを追おうとするが、ルニアはそれを許さない。
「やっと、この力を発揮できますわ」
 蒼い靄を解き放つ姉に、リドニアも警戒を強める。
(姉様が扱うあの蒼い靄が何なのか……)
 少なくとも、碧熾、蒼熾といった魔導書ではないとリドニアは確信する。
 いや、それどころか、あんな魔導書など見たことがない。
 リドニアはルニアの体を跳ね、攻撃を叩き込むが、ほとんど手応えを感じない。
「ならば、手の内は全部見せてもらいますわよ!」
 魔種となった姉をこの場では仕留められない。
 リドニアはできる限り相手の力を引き出せるよう切り替えていた。
 また、ナーワルには、リカが追いすがって。
「ねえ、お嬢さん……痛い目に合わせてくれるんじゃあなかったの? いひひ……♪」
「よほど相手にしてほしいようですね」
 負けじと微笑むナーワルも炎を小さな散弾状にしてリカへと浴びせかけてくる。
 この場は致命者の相手に注力すべく、リカは魔剣で豊満な敵の体を切り裂いていく。
 血管や魔術回路の集まると思われる腕や胸部、などを重点的に攻撃するリカだが、相手は術式が体を得たモノ。涼しい顔をしてナーワルはなおも炎を自在に操って更なる攻撃を仕掛けてきていた。

 他メンバーは効果的に立ち回る。
 ボロボロになった指へと迫るセレナは一気に断月の魔剣を振り下ろし、袈裟懸けにその体を切り裂いて霧散させた。
 秋奈ももう1体の指に居合で斬りかかり、相手を不調にきたしてからなおも斬撃を食らわせて切り傷を増やす。
 他の敵を庇わぬほど弱った指に、昴は渾身の必殺対城技を浴びせかける。
 昴の強力な一撃を受けた指はその全身を崩していった。
 前線の仲間は、涼花が支える。
 とりわけ、強敵を抑えるリドニアやリカの疲弊は大きい。
 涼花はファミリアーでその様子をすぐに察し、聖体頌歌を響かせ、さらに
歌で宝冠を具現化せて仲間の傷を一気に塞ぐ。
 その涼花をマリエッタが時に回復役となって支える。
 次なる討伐対象、量産型天使への攻撃もできる限り絶やさず、マリエッタは魔力で形作った神滅の血鎌を振り下ろし、天使の体を真っ二つに切り裂いていた。
 その間、秋奈が要人へと他の量産型天使達が近づくのに気づいて。
「聖痕やらかすよ!」
 仲間に呼びかけながら、秋奈も自ら天使の進路を妨害する。
「纏めて相手してやんよ! 私ちゃん以外がな!」
 秋奈が言うように、すかさずセレマが飛び出す。
 何を思ったか神気閃光を発し、要人達の意識を奪ってしまったのだ。
「「!!」」
「これで仕事が楽になったな。あとはお前達だけだ」
 死体を思わせる要人の姿はセレマの使う幻影。
「味なマネをしてくれますね」
 セレマの策に感嘆するナーワルはリカに抑えられたまま。
 そのナーワルから指示らしいものをもらえず、まごつく天使もイレギュラーズの攻撃で傷が増えている。
 それらへとセレナが魔空間で包み込んで圧搾して仕留め、マリエッタも血の武器で別の1体の全方位を囲んでくし刺しにして動きを完全に停止させる。
 更に昴が膂力と闘氣で天使を圧倒する。
 発するオーラの上から拳を打ち込み、昴はそいつを地面に叩き伏せていた。

 機動性も火力も高い戦車だが、ここまでセレマに効果的なダメージを与えられない。
 改めて、そちらの対処に戻るセレマは仲間と攻勢に出て、魔空間に閉じ込めた相手を一気に圧搾して機能停止してしまう。
 戦車をうまく倒したことで、セレナは残る耳に名乗りを上げて抑える。
(要人の息があるのはもう察しているはず)
 セレマの策は見事だったが、それでも一時的なもの。
 残る醜聞の耳が空間を侵食すれば、要人らも危ない。
「仕留め切らないと!」
 断月の魔剣で一気に攻め込むセレナだが、あと一息足りない。
 しかし、セレナの一撃でどす黒い体液を流す耳に、秋奈は嬉々として飛び込む。
「ゆーて私ちゃんしか勝たんっしょ! ぶっとべー!」
 居合剣に続き、秋奈は必殺の連撃で耳を断ち切り、虚空へと消し去った。
 戦いも正念場といったところ。
 涼花が誰も倒れぬよう汗を流して演奏を続ける傍で、ヴェルーリアも慈愛の息吹を吹かせ、メンバーを支える。
 状況もあって、ナーワルに向かってくる仲間も増えたことで、リカが危険と判断する必殺攻撃を持つ耳を抑え、血祭にあげる。
 赤い血の華こそ咲かなかったが、ともあれ残るはナーワルと新たな配下ルニアのみ。
 ただ、底冷えするようなルニアの魔力に、リドニアは一気に追い込まれて。
「フフ、全てを奪ってあげますわ」
 パンドラを砕き、姉の靄を振り払うリドニアの危機を察し、昴が前に出て打撃を与えていく。
 それでも、ルニアは涼しい顔をして、疲弊する昴の体力を奪い取っていく。
「…………!」
 意識が途切れかけた昴だが、気を強く持って戦意を昂らせていた。
(明日、みんなで笑えるように……)
 仲間達が倒れかける様子に涼花は顔を顰めながらも、冷静になって仲間を立て直すべく演奏を繰り返す。
「何が蒼い霧よ、こちとらピンクの瘴気よ! たっぷり吸いやがれこんちくしょうめ!」
 リカは呼吸を止めて靄を吸わぬようにし、倒れたままの要人の守りに当たる。
「いいですわ……」
 求める力が得られ、彼女はこれ以上なく恍惚とした表情で立ち回る。
「分かるわ。そうした負の感情も力になること」
 憎しみ、恐怖、他者の痛み。
 セレナもまたナーワルの求める力の源と同じそれらを力に変えて。
「でもこの剣を担うのは守るため――捩じ伏せてやるっ!!」
 タイミングを合わせ、セレマが強い光で灼いたナーワルをセレナが断ち切らんとする。
「残念ですが、私の力は以前より高まっているのです」
 炎を舞わせて傷を軽微にし、自らを癒すナーワルは、次なる攻撃として闇の炎を発してくる。
 攻撃、回復と動いていたマリエッタが標的となり、その身を焦がす。
 想像以上の炎の威力に苦しむマリエッタは、続けざまに放たれた雷火に撃たれてパンドラを砕いてしまう。
「ぷちょへんざー!」
 苦境の中でも笑顔を浮かべる秋奈も突如噴き出す溶岩に呑まれて意識が途切れかけるが、そのままナーワル目掛けて連撃を浴びせかけた。
 確かな手応え。
 ナーワルの傷口から僅かに魔力が漏れ出す。
「まあ、いいでしょう……さあ」
「ええ、お供しますわ」
 ルニアの手を取ったナーワルは激しく燃え上がらせた炎で閃光を発する。
 その一瞬の間に、ナーワル、ルニアは聖都の街中から姿を消してしまったのだった。


 徐々に元に戻りつつある街中で、イレギュラーズは事後処理を進める。
 守り切った要人らも意識を取り戻し、同じく目覚めた聖騎士、従者を叱りつけながらも、イレギュラーズに礼を告げ、謝礼を渡してから元の用事の為馬車で去っていく。
「……人というのは、やはり弱いものなんですね」
 マリエッタは、解決したこの事件を振り返って思う。
「姉様。ナーワル。運命って、神様って何なんでしょうね」
 リドニアは2人が去った方向を見つめ、人が……いや、存在せし者全てが抗えぬ因果のようなものを感じながら、ナーワルの……遂行者達の従う神について思案するのである。

成否

成功

MVP

セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年

状態異常

リドニア・アルフェーネ(p3p010574)[重傷]
たったひとつの純愛
三鬼 昴(p3p010722)[重傷]
修羅の如く

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは要人を敢えて気を失わせることで救出したあなたへ。
 聖痕を付与した相手を利用したいナーワルと術式をわがものとしたいルニア。
 この2人の思惑がこの後がどうなっていくのか気になるところです。
 ご参加、ありがとうございました!

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