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シナリオ詳細

I'm AFRAID

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Flash Back
 誰かが叫んでいる。
 うるさいなあ、やめてよね。ただでさえ頭がガンガンするのに、響いて、よけい痛くて、やめてほしい。やめてったら。
「マリカ!」
 クウハ (p3p010695)に肩をつかまれ、マリカ・ハウ (p3p009233)はようやく、叫んでいるのが己だと気づいた。
「しっかりしろ! どうした!」
 マリカはふるえている。がくがくと巣から落ちた雛みたいにふるえている。
 チカリ。頭の中光った。あれは、幻想種の……。
「いやあああああああああ!」
 マリカは目を閉じ、つかのまの暗闇へ逃げ込む。怖い。怖くてたまらない。蓋をしていた記憶がびくびくとうごめいている。血を流した心がまたも茨に包まれる。赤に沈む世界。紅。
「いやあ! いやあああ! いやあっ!」
「おちつけ! オマエの『お友達』が暴走してる! 落ち着くんだ!」
「あああああ! あがっ! があああああああああ!」
 マリカは蒼白なまま限界まで口を開き、えづきながら叫んでいる。マリカのお友達ことアンデッドの軍勢が、ぼこぼこと大地を割って生まれ出ては、逃げ惑う小柄な少女へ向かって襲いかかる。幻想種だろうか。ぼさぼさの黒髪と、薄汚れた身体。裸足。痩せこけた身体に纒うのは、茶黒い染みで汚れた薄いボロ切れ一枚。浮浪児にしか見えない。
 クウハはたしかに知っている。名前くらいは。

●Why?
「旅にでるって?」
 クウハは林檎をもてあそびながら問うた。
「うん」
 言い出したマリカはというと、普段のハイテンションが嘘のように静かだ。
「なにしに?」
 クウハの質問に、マリカはぽつんとつぶやく。
 ……お墓参り。マリカちゃんと血がつながった人たちのね、お墓があるはずなの。それを探すの。
「探してどうする」
「わかんない」
「そっか」
 クウハは器用に林檎の皮をむくと、八つ切りにして皿に並べた。マリカはそれを受け取り、ひとつだけかじった。
 そうしてマリカとクウハは旅にでた。雲をつかむような話。行くあてなどないにひとしい。それでも、ふたりは辛抱強く各地を歩き回った。
 深緑から遠く離れた幻想の農村、そこでふたりは一夜の宿をとった。宿といっても民家の二階で、空き部屋があるから使っていい、という程度だったけれど、ふたりにはじゅうぶんだった。
 唯一寝具と呼べそうな粗末な寝床をマリカに貸し、クウハは壁へ背を預けて座りこんだ。疲れのせいでとろとろといくぶんか眠り、そして目を開けたときにはマリカはいなかった。
「おい?」
 荷物は置いたままだ。ならば遠くへは行っていない。
 クウハは階段を駆け下り、外へ飛び出た。マリカがいたのは村の外れだった。墓地とよぶには質素なそこに、小柄な浮浪児がつったっていた。マリカはその前でワナワナふるえていた。
「……アフレイド」
 マリカの声が聞こえた。
「ああ、あ゛あ゛あ゛ああああ!」
 マリカはうずくまった。背を向けているから、表情はわからない。けれど、クウハは本能で、マリカが危険な状態だと気づいた。しっかりしろと肩を掴む。それを見た小柄な少女は、おびえるようにあとずさっていく。彼女を追うように、ぽこぽこと地面が膨らんでいく。
 ぐわり。
 やがて最初のアンデッドが姿を表した。そいつは明確に、少女を、アフレイドを、狙っている。
「たすけて」
 そんな声がアフレイドの口からもれた。うるうるした大きな瞳が、クウハを、クウハの後ろを見ている。クウハはすばやくあたりを見まわした。まるで、そう、それこそ死人のような顔色で、村人がふらふらとこちらへ近づいてくる。
「たすけて、たすけて! たすけてえええ!」
 弾かれたようにアフレイドは駆け出した。その後をアンデッドの群れが追っていく。
「たすけて! おねがい! おねがい!」
 村人が肉盾となってアフレイドとアンデッドの間に立ちふさがる。アンデッドは躊躇せず村人を傷つけた。鮮血が弾ける。
「おい、止まれ! 止まれってんだよ! そこのアフレイドってガキも村人操ってんじゃねーぞ!?」
 クウハは叫んだ。そして、偶然にも居合わせていたあなたへ顔を向けた。
「アンデッドを倒せ! このままじゃ村人が全滅しちまう!」
「ダメよ!」
 クウハの真下から声が飛ぶ。マリカだ。
「ダメよ! 殺して! あの女を、アフレイドを殺して! そいつは災厄の化身なの! 生かしておいてもろくなことにならない!」
 とるべき道はふたつある。
 あなたは……。

GMコメント

みどりです! ご指名ありがとうございます。
TOPに立っているのが、アフレイドちゃんです。かわいいですね。なお、アンデッド=マリカさんの「お友達」です。

このシナリオのストーリーラインは2本あります。
どちらにするか、相談で意見をすりあわせてください。全員の意見が一致していることが望ましいですが、別れた場合は多数決です。

やること
A)『お友達』を撃破し、村人を守り、アフレイドを保護する ※名声が上がります。
B)『お友達』に加勢し、村人ごと、アフレイドを撃破する ※悪名があがります

●エネミー
Aの場合 『お友達』☓40
 タフなゾンビ、回避反応に優れたスケルトン、神秘攻撃を使うゴーストの三種混成団です。ゾンビは名乗り口上を、スケルトンは識別物理近扇を、ゴーストは単体神秘【混乱】【懊悩】および、自域識別HP回復・BS解除を使ってきます。
 アフレイドを優先して狙います。

Bの場合 村人☓30
 平均的なステータスで、スキやクワなどで武装しており、物理至単移を使ってきます。
アフレイド
「お友達」に襲われ、恐慌に陥っています。非常に回避が高いことは判明していますが、それ以外の能力、スキルは不明です。

●戦場
墓場
 村の外れにある、石の墓標が並んでいる場所です。足場はいいとは言えません。回避と機動に若干のペナルティが入ります。

●マリカさんのハンドアウト
 スタート時、あなたは錯乱状態に有り、行動不能です。仲間からの声掛けによって、戦線へ復帰することができます。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』になる場合があります。
 その場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


行動指針
選択してください。

【1】A「お友達」を倒す
村人を助け、アフレイドを保護します。

【2】B「お友達」へ加勢
村人ごと、アフレイドを撃破します。

  • I'm AFRAID完了
  • 飛行があると楽
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年08月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
武器商人(p3p001107)
闇之雲
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
※参加確定済み※
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい
※参加確定済み※
玄野 壱和(p3p010806)
ねこ

リプレイ


 ちがう。
 ちがうちがうちがう。
 ぼくはこんな事をしたかったんじゃない。

 ぼくはぼくが居ていい理由が欲しかった。
 ……ヒトの心の搾りかすだなんて認めたくなかった。
 だからボクはヒトに拠り所を求めたんだ。
 孤独がこわくて。怪物の自分がこわくて。
 このまま何も得られず死ぬのがこわくて。
 こわくてこわくてこわくてこわくて。

 誰かぼくをたすけてよ。ぼくを受け容れてよ。
 ぼくをヒトだってみとめてよ。
 こわくてこわくてこわれちゃうよ。


「どういう状況だ、これは……? だが、とにかく止めないといけない事だけは解る!」
 突如として上がった惨劇の幕。『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はそこここで咲く血の花に顔をしかめた。
(暴走している割には、アンデッドは統率が取れているな。まるで、あのアフレイドって子を狙えって命令されているみたいだ)
 アフレイドが逃げ回れば逃げ回るほど、被害が広がっていく。けれども、急いで事に当たった所で、よけいに事態はややこしくなるだろう。賢明なイズマはそのことを熟知していた。となりにいる『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)へ視線を投げかける。
「無害なガキとは言えないだろうが、マリカの過去に関係する奴なら殺すべきじゃないだろう。少なくとも、今はまだ」
 それがクウハの結論だった。
「そうだね。事情はすごく複雑そうだし、生きてるヒトを操って盾にするのは悪いことでしかないけど・・・だからといって女の子を止めるために操られてる村人をそのまま蹴散らすのはよくないよね」
『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)もうなずきを返す。
「どういう形であれ決着をつけるのは大事なことだけど、この部分がノイズになると思うから、まずはこの場を納めないとね」
 いついかなるときも、アクセルは前向きだ。力強いはばたきが戦場に鳴り響く。
「然様か! 作用か? 其れが貴様らの答えか! 上場する抑止は満遍なく蛆を肥やす! カオス! ケイオスとした光景! 無辜なる混沌と世界は称されるが、成程、死すらも戯れると謂うべきか。後景、後継はいずこ? 前も後ろもなくぐじゃぐじゃ、マーブルはどれほど混ぜ込んだところで、嗚呼、不可分にはならないというのに!」
 長広舌をふるう『せんせー』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)は、マリカの側へ忍び寄り、七色に光る冒涜的な顔面で死者と村人を威圧する。対して、かったるそうにためいきをついたのは『惑わす怪猫』玄野 壱和(p3p010806)。
「はぁ……、オレとしてはあの薄汚ぇガキをぶち殺した方が早ぇと思うガ……。ま、ロジャーズの姐御がそう言うなら仕方無ェ」
 ツキハネ、と壱和は呼んだ。それは白い翼に変じ、風を起こすかのようにはばたく。空中で静止したまま、壱和はグリム・リーパーをかまえる。
「やれるだけの事はやってやりますヨ」
 飛び立った壱和の後方から、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は戦場を俯瞰する。逃げ惑うアフレイドは、哀れな孤児にしか見えない。
(災厄の化身か……マリカさんの言ってることはたぶん嘘ではないだろう。でも、あの少女が助けを求める声に現状偽りは感じられない。しょうがなく災厄になったか、自覚がないか……)
 二重人格である可能性も捨てきれないが、と、賢明なる生物兵器は、思慮する。
「とりあえず保護だな」
 そう心に決め、ウェールもまた戦場を空へ移す。
『闇之雲』武器商人(p3p001107)が優しいまなざしのまま手を伸ばし、渦中の人、『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)のうなだれた顔をあげさせる。
「ねぇおまえ、どうしたい?」
 マリカはへたりこんだまま震えていた。動けない。怖い。こわい。恐怖が心を支配し、肉体をむしばんでいる。こみあげてくるすっぱいものをこらえきれず、マリカは大地へへばりつき、嘔吐した。
「マリカ!」
 クウハが名を呼ぶも、マリカは内臓を絞り出すかのように嘔吐を続けた。重度のストレスからくる拒絶反応。マリカの心が、魂が、助けを求めている。
「はー、かわいそうぶってんなヨ。オレはアンタとあのガキの間に何があったかなんて知らねぇし知ったこっちゃネェ。だが少なくとも今」
 壱和が唇をなめた。
「この場ではアンタが主役なんダ。アンタの一声でオレ達はどうともなるしどうとでも動いてやル。でないと、単なる脇役があのガキごと喰っちまうゼ?」
 それはいやなんだろ? 壱和はマリカを挑発した。どうにかしてこの女に決心させなくてはならない。壱和はそれに感づいていた。
「――貴様。マリカ!」
 ロジャーズが叫んだ。恐慌あふれる戦場だが、ロジャーズの声は遠吠えに似てよく聞こえる。
「肉と魂の関係性は『貴様』が最も認識している筈よ。認めているとは思うのだが、いあ! 私は貴様の意思を尊重したい……物語性を秘めた貴様よ、如何か愉しく踊らされるが好い」
 図抜けた痩身の長身が、大きく腕を広げる。
「私も踊るのだがな! もしや貴様、貴様自身では決める事が出来ないとでも?」
 ひくひくと、震えているマリカ。イズマがそっとマリカの背を叩いた。
「落ち着こう、マリカさん。大丈夫、怖くない。皆がついてるよ。ほら深呼吸するんだ、吸って、吐いて」
 荒い呼吸が少しおとなしくなる。武器商人はやさしく言葉を紡ぐ。
「ねぇ、ほら。こっちを見て? キミが心を落ち着ければ事態はきっと善い方向へ向かう」
 マリカがようやく顔をあげる。吐しゃ物で汚れた顔を、武器商人はどこからともなくとりだしたハンカチでぬぐってやった。
「大丈夫。我が猫……クウハはキミを助けるだろう。おまえに強制されるわけでなく、自分の意志で。これ以上頼りになる味方など居なかろ? だから大丈夫」
 どうしたい? 武器商人が問いを重ねる。それは鎮痛剤モルヒネのように甘やかだった。
「……って」
 それっきり黙り込んだマリカ。武器商人は、イズマは、クウハは、辛抱強く続きを待った。
「救って。あの子を。救って。私を」
 武器商人が満足そうにうなずく。乗り越える決意をしたのだ、この娘は。たとえそれが長く険しい道になろうとも、マリカは、進むことを選び取った。
「いいとも我が近縁種(はらから)。強欲にて大変結構。それこそ我(アタシ)の眷属らしい。どちらも選びたいなら、我が権能はおまえに応えよう」
”それを、おまえが望むなら”
 イズマがマリカの手を取る。立ち上がったマリカへ、クウハが肩を貸す。青ざめた顔のまま、マリカは、甘き死を召喚した。


 気が付けば、私は死体たち(ハウ)の女王(マリカ)になった。
 それで女王は家臣に命じるの。今日からずっと毎日ハロウィンパーティだって。
 つらい現実から逃れたくて、もう思い出さなくてもいいように。
 今日もハロウィン、明日もハロウィン。


「……ユミのひきしおとならば、イてカるイカリ」
 壱和は大鎌を天へ掲げ、空をかき混ぜるようにまわした。分厚い雲が渦を巻き、そこから光が落ちてくる。仲間の可能性を信じ、すこしだけ運命へ干渉した壱和は、よびだした「ねこ」を従えたまま、夜風に吹かれている。
「先に言っとくが、『お友達』ドモの対処はやるけども村人を守る気なんてサラサラねぇからそっちでどーにかしろよナ」
 あとは頼んだゼ。壱和が手にした鎌が、銅鉾へ変じていく。
「その代わリ」
 壱和は薄く笑った。
「援護はまかせとけヨ。給料分は働くからナ」
「頼りにしてるよ」
 アクセルが神気をまとう。白い火花がアクセルの体を彩り、神々しいまでの威厳をかもしだしている。
「『お友達』はマリカにとって大事な存在だから、やっつけてしまわないように気を付けないとね」
 神の恩寵たる閃光を放ち、アクセルがお友達を止めようとする。だが、アンデッドたちはひたすらにアフレイドを目指している。
(うーん、防御もしないってのは、どういうことなんだろう。そんなにあのアフレイドって子が、マリカにとって危険ってことなのかなあ?)
 ついっと空を滑り、アクセルはさらに上空へ上った。そこからはアフレイドの姿がよく見える。
(・・・攻撃を仕掛けてくるなら、わるい子かなとおもったけれど、逃げるばっかりでなんにもしてこない。そんなに脅威にはおもえないんだけど)
 やっぱりマリカの過去がからんでいるのかな。アクセルは思案しつつ攻撃を続けていく。
 いたいたしい呼び声が、ファミリアの鴉を通してウェールへ伝わってくる。
 おねがい、たすけてよ、ぼくを、おねがい、こわれちゃうよ。
 ウェールはぎりりと歯を食いしばった。
(なんてつらそうなんだ……心がかきむしられる)
 狼札をとりだしたウェールは、それをマシンガンへ変えた。銀の時雨がお友達へ降り注ぐ。アンデッドたちに痛覚はない。だからこそ念入りに。腕がもげ、ふとももへ大穴があいても、アンデッドはアフレイドを狙い続けている。必然的に村人の抵抗も激しくなっている。そこへ飛び込んだのがイズマだ。
 混乱の中へ、ねじこむように入り込んだイズマは、メロディア・コンダクターをかまえたまま体をひねり、鋭くターンする。レガートな身のこなしから発される、マルカート。波打つメロディが波状攻撃となってアンデッドと村人、双方を吹き飛ばす。泥にまかれた双方の足取りは重い。
「マリカさんの『お友達』か……。なぜアフレイドさんを狙う? マリカさんを、何から護ろうとしているんだ?」
 問いへの答えはない。だがイズマもそれを求めてはいない。思考を整理するために言語化したにすぎない。音楽を愛好するイズマは、言葉が持つ音の響きの重要性もまた理解していた。
 武器商人の背には、淡く輝く6枚羽。ちりちりと鈴の音のような音を鳴らし、羽を震わせ、権能をかわいい猫へ分け与える。歪んでいた金銀の惑星環が、真なるものへ変わっていく。
「殺意に漲ってる所悪いが、オマエ達にアイツは殺させねェ。マリカがオマエらに話があるってよ! 主人への反抗期は俺を殺してからにするんだな」
 武器商人とクウハ、二重の呼び声にからめとられないものなどいない。アフレイドばかりを追っていたアンデッドが歩みを止める。
 武器商人がつと手をあげた。天と地が白い光でつながれる。神気をも制御してのけるそのモノは、まっすぐにアンデッドを指さした。それだけでいい。地上へ降りてきた神なる気は、狙いをたがえずほとばしった。


 それから先のことは憶えていない。きっと今以上に酷いあり様だった。
 そんな私を村のみんなは見かねたんでしょうね。
 自分が、死体に、なってるっていうのに、優しいみんな……。


 こわいよこわいよ、こわいのはいや。こわいのはいや。いやだいやだいやだ。
 アフレイドが泣きながら走っている。そして、突然現れた真っ黒な壁にぶつかった。ぎょっとしたアフレイドは、涙で汚れた視界の中、七色に光る曖昧模糊とした無貌を見た。壁に思えたものは、存外に柔らかく、にくにくしかった。
「顔色が悪いな」
 それはアフレイドのぼさぼさした髪をてぐしですいてくれた。あぶらっけのぬけたぱさぱさした髪を、細長い指がとかしていく。
「私のお仲間は、優しいらしい。Ia、まったく、斯様な『なりそこない』にも心を注ぐほどに、心を砕くほどに。其れゆえ、物語は止揚し新たな次元へ到達する。喜べ。救済の時はきた」
 短く空気を吸いこむアフレイドの体は固い。緊張と不安とで凝り固まった小さな体。それは、ロジャーズは、長い腕を伸ばし、ゆるやかにアフレイドの背へ回す。
「私が怖いか?」
 何も問題はない。ロジャーズは言い聞かせるように口にした。
「気が済むまで殴れ。かまわない。もちろんかまわないとも。怯えた魂は牢獄に自らとらわれる。恐怖に苛まされ、いつかくる首吊り縄への階段を幻視する。だがそんなものはどこにもないのだ。貴様、獄中人よ。そろそろ正気を取り戻してはどうだ。そろりそろりとあたりを見回すことから始めてはどうだ。蹌踉、蹌踉として、静かに、いたわるように、目立たぬように。最初は其れで良い。なにごとも、段階を経て発達する。怯え逃げ回るばかりの貴様にとって、世界は雑然としたままだ。人魚姫のように声を奪われ、足を切り刻まれる。だが喜べ、漸く貴様にも、勇気のナイフが与えられる。それでもって貴様を脅かすものを解剖せよ」
 ロジャーズがアフレイドを包んだ。すっぽりと。おだやかな闇は母の胎内のように心地いい。
 ……ああ。
 アフレイドが深くいきをこぼした。闇の中は、静穏と安らぎに満ちていた。騒々しい光も、にぎにぎしい音もない。アフレイドは気づくと涙を流していた。あたたかなしじま。アフレイドは膝を抱えて丸くなる。
 ……もう、逃げなくていいんだね。
 ロジャーズが応える。
 そうとも。
 ……もう、怖がらなくていいんだね。
 そうとも。
 ……もう、ぼくは、おびえる必要はないんだね。
 そのとおりだ。私が貴様をかばう。私が痛みを駆逐する。甘えるがいい。乳飲み子が母をねだるがごとく。私がここにいるかぎり、貴様の安全を保障しよう。
 ロジャーズが立ち上がった。アフレイドを包んでいた闇がするりとほどけ、こんこんと眠る少女の姿があらわれた。別人のように落ち着いた顔。やせこけた骨ばった体は哀れですらある。同時に、操られていた村人が意識を取り戻した。まわりでうなりつづけるアンデッドを見つけて、腰を抜かしている。
「だいじょうぶだ。もう無力化してある。襲ってこないから心配しなくていい」
 それより、怪我をしているよと、イズマは血を流す村人を抱き起した。おそらく操られていた時は、意識がなかったのだろう。どうして自分がこんな傷を負っているか分からないようだった。イズマは大きな家を借り、湯を沸かし、清潔な布を集めるよう指示すると、かんたんなトリアージを行い、重い怪我人から手術をしていく。
 アクセルも怪我人へ大天使の祝福を施し、回復へ手を貸した。適切に治療された村人たちは、ふたりへ厚くお礼をのべ、ささやかな気持ちとして、礼品をさしだした。アクセルがふきだす。
「いいって。なんかね、痛そうだったり、つらそうだったり、そういう人を見ると、オイラも痛みを感じるんだ。だから元気で、健やかで、笑っていて。そしたらオイラも、うれしいからさ」
 壱和はというと、銅鉾を鎌に戻し、こきりと首を鳴らした。
「あー、マジで疲れタ。どさくさに紛れて村人の1匹でも喰ってやろうかと思ったがそんな気力もねぇヤ」
 ふうわりと壱和の体が空へ上っていく。
「悪ぃがおててつないでのハッピーエンドはどうもハナに合わねぇんダ。お先に失礼するゼ」
 じゃあナ、と壱和は「ねこ」たちと共に、場を後にする。去り際、ちらりとマリカを見ていたのは、彼なりの気遣いだろうか。ねこは気まぐれで、ねこはそれが許されている。ねこはいつだって自由だ。だから壱和を縛るものは何もない。
「この子は、死なずに済んだんだな」
 眠り続けるアフレイドを見つめていたウェールが、安心したように吐息をもらした。
「なあ」
 ウェールはマリカを振り向いた。
「俺は生物兵器だからと一度人類に処分されかけた事があった。色々あって元がついて、今では混沌を救う為に頑張っている」
 マリカは泣きはらした目のまま聞いている。
「罪が無くなることはないが、ヒトは変われる。俺の歩んできた道が、それを教えてくれる。あの子も、マリカさんも、変われるといいな」
 ウェールがアフレイドの頬を、やわらかくぽってりした肉球でなでる。まだ涙の痕が残る頬は、子供らしい丸みがなく、血の気も薄い。
 すんと鼻を鳴らすマリカへ、イズマがあたたかなスープを差し出した。
「まずはこれを飲んでくれ。あたたかいものは気分を上向かせるから。そのうえで……話せる範囲でいい。アフレイドさんはいったい何者だ? 教えてくれないか」
 私は、とマリカは口を開いた。瞳は物思いに沈んでおり、新たな涙が、スープへぽたんと落ちて輪を描いた。
「数えきれないほどの罪を犯してきた。だから今更かもしれない。けど、これ以上ヒトを苦しませる必要はない」
 マリカはスープを一気に飲み干し、いまだ土へ帰らないアンデッドたちの前へ進み出た。
「みんなに、同じ轍を踏ませたくない。そんなになってまでなお、私を守ろうとしてくれたみんなに」
 お父さん、お母さん、みんな。マリカが声を絞り出した。
「お願い、もう私みたいな子を、うみださないで」
 マリカの小さな体は、いまにも消え去ろうとするろうそくの火のようだ。そのからだを、クウハが横合いから抱きしめた。
「俺は知らない」
 クウハは断言した。
「アンデッドを従える理由も過去も、おまえの事など、何も知らない。だが、それがなんだ? 例え過去に何があろうと、俺が『お友達』である事は変わらない」
 涙のたまった瞳を、マリカはクウハへ向けた。クウハは真面目な顔のまま続ける。
「俺が一緒に背負ってやる。怖いものから護ってやる。その為にこうして傍にいるんだ。怯える必要がどこにある? 俺を『お友達』と呼んだのはオマエだろ? オマエは俺を好き勝手に振り回して笑っていりゃいいんだよ」
 くしゃくしゃとマリカの頭を撫で繰り回し、クウハは笑みを見せる。マリカの大好きな顔だ。つられたように、マリカもまた、くしゃりと笑った。涙の粒が、ころんと目じりから落ちていった。
 そしてマリカは語り始めた。


 他でもない。みんな私がこわした。
 “わたし”が招き入れたのは羊の皮を被った狼。
 お腹を空かせた女の子だと思って村に招き入れたの。

 あれは病床に伏せた晩のこと。
 “フレイ”は私にこわくないよと呼びかけて手を握ってくれた。
 冷たい手の心地よさが私を安心のゆりかごに包んでくれた。

 でも、勘違いだった。

 翌朝目覚めると、あの子はいなかった。
 代わりに村は血の海になっていた。
 ひとを救う研究に打ち込んでいた父の姿も、かぼちゃ畑を世話する母の姿も、もうそこにはなかった。

成否

成功

MVP

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚

状態異常

マリカ・ハウ(p3p009233)[重傷]
冥府への導き手

あとがき

おつかれさまでしたー!

アフレイドちゃん、生き延びました。今後どうなるんでしょうね? そしてマリカさんの今後もまた、非常に気になるところです!
MVPは最優先でアフレイドを保護したあなたへ。

またのご利用をお待ちしております。

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