PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<蠢く蠍>僭称者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●偽の蠍
 イレギュラーズたちの活躍により、なんとか歯止めはかかっているが、幻想の治安は低下の一途をたどっていた。
 夕暮れ時になると、人々は戸締りを始める。
 外出するものもごく少ない。
「なんだ、テメェ、どこ見てほっつき歩いてんだ!」
 往来で、ごろつきと男がぶつかった。ぶつかった男は大げさに絡むが、もう一人も黙っていなかった。
「あぁ!? 俺が誰だか知ってんのか?」
「あぁ? 知らねぇよ、どこの誰だか知らねぇが……」
 ごろつきの顔色が、みるみるうちに変わる。
「?」
「ひ、ひいー! あんた、もしかして砂蠍か!? ……許してくれ! 許してくれ!」
 震え出し、男は命乞いをしはじめた。
(砂蠍? 幻想ではびこっている盗賊団の名前か……)
 男は心当たりはなかったが、乗っておくことにする。
「ああ、そうだよ。分かってんだろうな!?」
 勢いに乗った男は、ごろつきを殴りはじめる。許してくれ、と言いながら、反撃はなかった。周りのものも、助けにこようとはしない。

 面白かった。
 <砂蠍>だと名乗るだけで、人は恐怖した。強くなった気になる。

 砂蠍だと名乗ると、事はあっけないほどに簡単に済んだ。男はこれに味をしめ、自分は砂蠍だと吹聴して回る。

 ただ、一つ、悲しいのは、この男の名を、ここの人々が誰も知らないことだった。
「俺は……誰なんだろうな」
 彼の名は剣闘士ペオ。
 鉄帝のインチキ試合で勝ち上がり、そして、おなじ速さで転げ落ちた男だ(依頼:仕組まれたトーナメント参照)。
 大けがを負い剣闘士を辞し、今は幻想に流れてごろつきとなった。

●粛清
「ああ? 俺たちの名前を騙りやがるものがいるのか!? そーりゃ大変だ」
 盗賊団<砂蠍>、木蛇のヤカルは大げさに叫んだ。
 我が物顔で酒場に陣取っているのは、本物の砂蠍の面々だった。……床には、歯向かった店員の死体が転がしてあった。
「勧誘してやってもいいが、その、なんだっけ? ナントカってやつ」
「へえ。ペオって名前の男です。なんでも、鉄帝の元剣闘士らしいですね。俺たちの中に、鉄帝トーナメントのファンがいやしてね。さして有名な奴でもないらしいですが」
「ん? そいつはどうしたんだ? そのトーナメント好きな奴は。そいつが話しゃあいいじゃねぇか」
「この前、親分が斬って捨てました。ほら、逃走にもたついてたので……」
 盗賊団はどっと笑った。
「ペオ、ペオねえ。知らねえな。興味もねえ。んじゃ、俺たちの名誉のために、いっちょ狩っとくかァ!」
「へえ!」
 部下たちはどっと盛り上がる。
「マクドラン、てめぇも笑えよ。いけるか?」
「……」
「いけるよなあ!? できねえってことはないさ。前のチャレンジで、むざむざ、大事な部下を無様に殺したんだからな(依頼:<蠢く蠍>世代交代)。
まあお前も別に罪悪感とかはないと思うが、知らん奴殺すくらいなんともないさ? あはは、まあ、ガンバレ」
 ヤカルはおどけた調子で言った。そしてポンポンと肩を叩く。
「若いうちは何事も挑戦だ、ウン」

●捕縛依頼
「簡単な依頼なのです!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は自信ありげに言ってから、たぶん、と後ろにつけ足した。
「ここのところ、砂蠍を名乗る男が出没しているのです。その人物は、元鉄帝の流れ者なのです。砂蠍なんて知りはしないし、偽物であることは調べがついているのです。大した強さじゃないのは間違いないのです。
だから……行って、ちゃちゃっと捕縛するだけ! ……に、なるはずなのです。うん……何事もなければ……」

GMコメント

●目標
 ユーリカはそう述べているが、ヤカルら率いる砂蠍の襲撃とかち合うこととなる。

 元剣闘士にして砂蠍を名乗る男、ペオの捕縛(ある意味救出)、および砂蠍の撃退(撤退か、全滅)。
 砂蠍およびヤカル、マクドランの討伐はできなくもありませんが、難易度は難しいです。
 ペオの死亡、もしくは砂蠍の撃退の失敗で依頼は失敗となります。

●登場
<砂蠍>
・木蛇のヤカル
 二本の曲刀を操って戦う。
 弱いものは味方であっても文字通り「斬って捨てる」。

 行動不能になった部下を口封じに殺すこともある。
 新生・砂蠍の一員で、非常に強敵。
 射程は至近のみ。
 仲間を巻き込んでも構わず攻撃をする。また、仲間も盾にする。

 開始時点、情報屋はヤカルの登場は想定できていないが、先の依頼の捕縛の成功により名前はローレットに知れている。戦い方を知っていても良い。

・マクドラン
 砂蠍に併合された元山賊団の親分の息子。
 毒を仕込んだ剣と弓を扱う。
 戦いに離れているが、ヤカルほど強くはない。
 ヤカルにたいして良い感情は抱いていないが、もともとカタギでもない。イレギュラーズたちに寝返ることはない。
 今回はどこか虚ろで、威勢はない。命令に従い粛々と戦う。
 主に、弓でペオの殺害を試みる。

・その他の部下たち13名 … 強さはまちまち。戦いに熟練したものとそうでない者との差が激しく、連携は微妙。ヤカルに畏怖をしている。

<捕縛ターゲット>
・ペオ……インチキ八百長試合で一時は栄光を手にするも、その後は実力不足によりすぐ転落した。剣が握れないことはないが、戦う力は一般人よりまし程度となっている。

●時間と場所
 襲撃が行われるのは深夜、裏路地の、ペオの隠れ棲んでいる空き民家。
 ペオは眠りこけている。

 人口密度は少なく、時間帯もあって人通りはない。
 ただ、砂蠍の行動いかんでは民間人が巻き込まれる恐れはある。

●状況
 ペオを捕縛しに行ったイレギュラーズたちと、砂蠍がかちあうことになる。

ヤカルたちの行動
・今回の目標は砂蠍の名の誇示と、騙りへの見せしめ。

・イレギュラーズたちに気がつけば、民家の周囲に潜み、それから一斉に襲撃を仕掛けようとする。イレギュラーズが敗れればそのまま略奪行為を行うが、撤退時は素早く周りに対してはなにもしない。

・イレギュラーズに気が付かなければ、民家に乗り込んでペオを殺害し、それから周囲に対して略奪を繰り返しながら逃走する腹づもりである。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <蠢く蠍>僭称者完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年10月16日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
銀城 黒羽(p3p000505)
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
Morgux(p3p004514)
暴牛
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
有馬 次郎(p3p005171)
鉄壁防御騎士
飛騨・沙愛那(p3p005488)
小さき首狩り白兎

リプレイ

●簡単な依頼
「むぅ、砂蠍を騙り、傍若無人に振舞うなんて悪い人です! 悪い事するなら反省させなきゃ駄目なのです!」
『小さき首狩り白兎』飛騨・沙愛那(p3p005488) は元気よく巨大な包丁を構えるが、思い直したように柄を握りなおす。
「首を狩るのは……依頼に反するので痛い目に遭ってもらうのです!」
 砂蠍をはじめ、何者かの思惑が渦巻いているのを感じる。
『孤兎』コゼット(p3p002755)は、ぱたりと耳を伏せた。
「剣闘士の次は盗賊ねぇ。ペオの野郎、節操がなさ過ぎるんじゃねえのか?」
『暴牛』Morgux(p3p004514)は静かに闇を睨んだ。
「蠍の名を語る偽物か。まぁ、コヤツが一体、何をしでかしているのか、分からんけどな」
『鉄壁防御騎士』有馬 次郎(p3p005171)は思慮深く顎に手を当てる。
「それ以前に、どうしようもないが。それにしても、どうにもならんか」
「ま、経緯はよくわからんが、嘘つき野郎をとっつかまえてやりゃいいんだな!」
『暴猛たる巨牛』ルウ・ジャガーノート(p3p000937) は単純明快に言い切ると、獲物をぶんと担ぎ上げる。
「偽蠍……無謀というかなんというか」
「蠍の名を騙る馬鹿な奴、いつかは現れるとは思っていたがどんな怖いもの知らずだよ」
『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719) と『ただの人間』銀城 黒羽(p3p000505) は顔を見合わせる。
 今の情勢を考えれば、男の行動は無謀というほかないだろう。
「騙るにしても賊の名前はないんじゃないかな」
「だよな」
「危ないよ。命あっての物種っていうだろう?」
 次郎はふっと息を吐いた。
「どの道、捕まえておくのみだ」
「そうだな。早くとっ捕まえて仕事を終わらすか」
 モルグスが頷く。
「しかし、このまま放っておけば住民たちもいい迷惑だし、本物の蠍がコイツを消しに来る可能性もあるからな」
 黒羽の言葉で、イレギュラーズに僅かに緊張が走る。
 本当に簡単な依頼とは思えない。
「……ただ、俺の知る蠍はこういう馬鹿は容赦なく殺しに来るんだよなぁ……」
「ああ、本物が来そうな気もするけどな」
「そうっすね、その時は……」
『双色の血玉髄』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285) の触腕が人知れずぴくぴくと暗闇を泳いだ。
「さっさと片付けますか。死なせねぇように頑張らねぇと」
 黒羽の呟きが夜の闇に吸い込まれていった。

●僭称者を迎えに、闇へと足を踏み入れる
「ユリーカは楽勝だとか言ってたが、嫌な予感がするぜ……」
 ジャガーノートは、他の仲間と同様に戦いの予感を感じていた。
「用心するに越したことはない」
 次郎はアイギス・レプリカをしっかりと構え、暗闇を進んでいく。
 静かだ。
 不意に、沙愛那とヴェノムがかすかな物音を察知して立ち止まった。
「武器の音がします」
「近くにいるみたいっすね」
「気が付いたか? 殺意と愉快……そんな気配だ」
 黒羽は、周りの感情を察知する。
「悪、意……」
 コゼットがつぶやいた。ノイズが耳に入ってくる。覚えのある悪意は、不意に一斉にこちらを向いた。
「気付かれた、かも知れない……」
「向かってくる気は……ないみたいっすね」
 敵との距離は、かなり近い。しかし相手はまだ襲い掛かってはこない。おそらくは待ち伏せする算段なのだろう。
「簡単な依頼だって、聞いてたのに、な……」
「そうもいかないみたいだな」
 次郎が首を横に振った。

●突入
「砂蠍が家の中を、襲撃しようと、動いたら、逆にこっちから、奇襲しかける、よ」
 気が付かれぬよう、コゼットが一隊を離脱する。仲間は静かに頷いた。
 相手が待ち伏せをするというなら、砂蠍の包囲、その外側から挟撃する狙いだ。
「おそらくは、襲ってくるとするとペオを連れて出た時、だと思うっすけど」
 しかし、いつ気を変えて奇襲されるか分からない。
 ヴェノムもまた物陰に身をひそめる。
 黒羽は建物に入ると、扉の傍で攻撃に備える。
「おーおー……よく寝てやがるぜ」
 ジャガーノートはぐっすりと寝ている男を見下ろした。
「だ、誰だ……?」
 男は寝ぼけて立ち上がったが、対して強くはなさそうだ。
「おらっ! 大人しくお縄につきやがれってんだ!」
「はっ、え? お、俺を誰だと思ってるんだ。俺は……蠍だぞ!」
「あ、お前、蠍か。……じゃあ、捕まえておくか」
 次郎はペオの言葉を取り合わず、威降に渡されたロープを取り出す。
「蠍の名を騙っているってことは、俺達の敵ってことになるけどな」
「ぐ……」
「ま、本物が来る前でよかったな……」
 ハッタリは効かないらしいと気が付いたペオ。武器を手にしようとするが、沙愛那が思い切りパンチを食らわせる。
「ぐはっ……!?」
「砂蠍なんて悪い人達の名前を騙って悪い事なんてしない様に! メッ! だよ!」
「借りるぞ」
「あらよっと!」
 モルグスがペオの服をはぎ取り、ジャガーノートがさらにペオに猿轡を噛ませる。
「次したら首狩り白兎の名に懸けて首狩るからね!」
「く、首……!?」
 その間、数十秒といったところか。
 不意に、近くでガラスの割れる音がした。
「あれは……本物が来てしまったか」
 蠍が、来た。

●騙る
「オレが蠍だ。掛かってこいよ……かかったな」
 次郎が言うや否や、ヤカルの曲刀が素早く弧を描く。ディフェンドオーダーで防御を固めたのが幸いし、チェインメイルがぎりぎり刃を受け止めた。
「……本物か、ヤレヤレだ」
 だが、強い。かなりの強者であることは確かだ。
「ほーう? 生きてたかぁ?」
 ヤカルは面白そうに次郎を眺めた。
「そっちじゃないだろ? ニセモノが、こんなに強いわきゃねェさ。行きな、坊ちゃん。こいつの相手は俺だ」
 もう一つ、小屋から飛び出した影がある。
「糞がッ! 何でイレギュラーズがここに……!」
 マクドランら、複数の蠍がそちらを追いかける。ペオの服を着たモルグスだ。
「俺を誰だと思ってやがる! 俺は砂蠍の……だ、誰だテメェら……? ま、まさか本物の砂蠍か?」
 蠍を前に、モルグスは不敵に笑った。
「ククク、ツキが回って来たな。砂蠍共! 俺をスカウトしに来たんなら早く助けろ!」
「呑気なことを……」
 マクドランは弓を引き絞り、狙いを定める。
「……え? 違う? 殺しに来た?」
 モルグスはおびえたような表情を浮かべ、矢を避けた。マクドランはその動きに僅かに違和感を覚えるが、毒矢から逃れたのは偶然だろうと断じる。
 相手は、盾すら身に着けていない素人だ。
「馬鹿、下がってろ」
 威降が駆け寄り、モルグスの隣に陣取る。モルグスは加勢に意外そうな顔を浮かべる。
「おいテメェ! 俺を助けろ!」
「なんだと?」
「共闘と行こうじゃねぇか。どうせ俺を死なせたら、あんたらもまずいんだろ?」
「……わかった」
「ま、蠍はとりあえず倒さなくちゃな!」
 ジャガーノートが、手近な蠍をその武器で吹き飛ばした。
「やっぱりやって来やがったか! 吹っ飛ばしてやるからかかってきな!」
「チッ……厄介なことになったな」
「どうしやす?」
「なぶり殺せ」
 マクドランは言った。
 どちらにせよ、戦いは避けられないようだった。

●木蛇のヤカル
「ぐああ!」
 死角から戦場に躍り出たヴェノムが、すれ違いざまに一体の蠍をシールドバッシュでなぎ倒した。
 砂蠍の一人が姿勢を崩し、ヴェノムの接近を許す。
(己の欲望を他人に委ねるから奪われる。馬鹿すねぇ。ぺオてのもマクドランてのも。ま、どうでもいい。「坊や」に興味はない)
 ヴェノムが求めるのは、強者との戦い。
 武器が打ち合い、派手な金属音を奏でる。
「その武器、木蛇のヤカル……っすね」
「ああ?」
「蛇蠍犬とか属性盛りすぎスよ。恥ずかしくないすか?」
「イヌだと? 誰と間違えてやがる」
「だって貴族サマの狗っころでしょ」
「テメェ!」
 曲刀での斬撃が降ってくる。重い一撃だ。だが、軽減させることはできる。
「それはそれとしてアンタの得物くれ」
「ああ?」
(大丈夫。僕は「どうぞ」って言わせるやり方を知ってるから)
 ヴェノムは攻撃をあえて受けとめ、いったん退いた。
「以前、蠍の幹部クラスとやりあったがその時は死にかけたんだよな」
 黒羽はふう、と息をつく。
「だが、てめぇ等はその辺とチンピラと変わらねぇな。大して強くもなさそうだ」
「んだと?」
 砂蠍の攻撃を、黒羽はかわす。
 ヤカルの攻撃を、次郎が無言で立ちはだかり防ぐ。
「固い。固いねぇ。何食べたらそんなに固くなるんだ? 守ってばかりじゃ勝てないんじゃねぇのか?」
「一人ならな」
  次郎は攻撃を受け、盾を構えて後ろに下がる。ヴェノムがリッターブリッツを放った。
 暗闇に閃光が轟き、蠍の一人がその場に倒れた。
「使えねえなあ、オイ!」
 ヤカルが無慈悲に武器を振るう。部下を巻き込むのもいとわない斬撃。しかしそれは、黒羽によって防がれる。
「ああ?」
 黒羽は無意識のうちに、攻撃をかますヤカルの斬撃の間に身を投じていた。
 打算と言われれば、そうかもしれない。
(改心してほしいとか情報が欲しいってのもあるが、俺は誰かが死ぬのは見たくねぇんだ。例えそれが敵だろうが味方関係なくな)
「テメェ、ずいぶんと余裕じゃねぇか」
「甘いか? まぁ、糞みてぇな甘ちゃんだよな。だけどそれが俺だもんよ」
 不倒の闘気を身にまとい、黒羽は立っていた。
「仲間を殺せるんならこの俺も殺してみせろや。まぁ、俺はチンピラ程度には殺されねぇがな」
 それは静かな挑発だ。
「ハ、ハハ……舐められたもんだ」
「よそ見してる場合っすかね?」
 ヴェノムのオーラキャノンが、ヤカルへと攻撃を定める。
 盗賊たちが叫び、イレギュラーズへと攻撃をしかける。ヤカルが周囲に斬撃を繰り出すが、むしろ、ヴェノムはその攻撃を利用して守りを固めてくる。
 次郎がシールドを持つ手に力を籠めて押し返す。
 守る、衛る、護る。
 黒羽は退かない。

●復讐者
「あらよっと!」
 ジャガーノートは恵まれた体躯から、蠍に向かって連撃を繰り出す。軌道の読めない喧嘩殺法。受け止めた蠍の武器がへし折れ手首も嫌な音を立てた。
「こ、こいつ……強えぞ!」
「蠍野郎め! くたばりやがれってんだ!」
 続けて繰り出したのは、技ですらないただの攻撃。だが、シンプルな一撃が、相手を思い切り打ちのめす。
「このゴーグル……使い方これでいいのか? どうも俺にはわからんぜ……」
 暗闇が若干見えてはいるが、どちらかというと勘に頼っている節がある。
「いいんじゃねぇか? 攻撃当たってるし」
 モルグスが一体の姿勢を崩した。
 後方へ下がる敵へ向かって、沙愛那のマジ狩る★首狩り包丁が閃いた。
「うおっ……」
「首は外しましたね……」
 だが、重傷だ。
「おまえは……」
 マクドランは一瞬目を見張るが、黙ってモルグスに向かって弓を引き絞る。
「また貴方達なのですか! ……どうしてこんな悪い事するんですか!」
「……」
 マクドランは、それに対する答えを持たないような気がした。ただ、モルグスに向かって弓をひく。
 モルグスは飛翔斬を放ち、距離をとった。
「良い動きだ。本当に素人か?」
「へっ」
「蠍にスカウトするのも悪くないかもな」
 そうは言いつつ、二射目を放つ。
「ぐ、ごほっ!」
 大毒霧によって、盗賊の一人が動きを止めた。
「奇襲か!」
 暗闇から現れたコゼットは、蠍を挟み撃ちにする。
「陣形を立て直せ!」
 身をかがめたコゼットのスーサイドアタック。
 薄氷のナイフが敵を斬り、瞬く間に砕け散る。しめた、と思った盗賊は、次の攻撃でやられていた。氷の欠片がきらきらと、松明に照らされて煌めいた。
(あの人、前にもいた盗賊、だ……なんか元気ない、ね)
 蠍を相手取りながら、コゼットはマクドランを観察する。
 どこか捨て身の攻撃だ。
(前に側近の人が死んだあとも、おかしかった、し。奪うのは慣れてても、奪われるのには、慣れてないの、かな)
 けれど、奪われる痛みを知り、なおも奪う側に回るというなら。
「手加減、しない、よ」
 騒ぎを聞きつけてか、住宅街のあちこちで明かりがついた。
「離れて!」
 威降が声をあげる。
 声より速いと考えて、コゼットはわざと派手な音を立てる。人々は慌てて避難していく。
 それでいい。助ける暇はない。
「悪いけど、危ない場所に近づくのが、悪い、よ」
「ペオを守る事が仕事で、最優先だからね……」
 威降がほっとした表情を浮かべる。
 いざとなれば斬るのも致し方なし。その覚悟はあった。
「行くよ!」
 威降が前に進み出ると、豪嵐牙を構えて紫電一閃を放つ。迸る紫電にごうごうとした風が加わり、蠍たちの守る一帯に穴が開く。
「ぐっ……」
 爆風から矢が飛んでくる。だが、モルグスは怯まなかった。戦場神。何かが、モルグスに味方している。右手に力を集中させ、爆裂する一撃を放った。
「お前、本当にペオか?」
 最初は大したことなさそうに見えた男は、今は明らかに戦場を掌握しきっている。
「気が付いても遅い。ペオはとっくにこの場にいねぇよ」
 ハッタリだった。だが、時間は稼ぎ切った。
「すると、まんまと嵌められたわけか」
 マクドランは自嘲した。
「おうおう、いくぞ!」
 ジャガーノートが、シンプルに一体の敵を倒した。

●仇
 コゼットのスーサイドアタックが、蠍の一体を倒す。その隙を狙ってマクドランが剣を振るうが、切っ先は空しく空を切る。
 コゼットは素早い。
 隙ができた。
 だが、コゼットは自身で追撃せず、仲間に任せる。
「はああ!」
 ジャガーノートが降ってくる。
 棘鉄棒に闘気を宿し、まっすぐに標的を見据えて。まるで粗っぽい隕石だ。マクドランは剣を構えるが、反撃されるのは織り込みなのだろう。
 地面がへこんだ。
 マクドランは膝をついた。その隙を逃さず、モルグスが斬身でマクドランを引き裂く。とめどなく血が流れる。
「私が憎いですか?」
 マクドランに沙愛那が問うた。
「……ああ! 憎い、憎いさ!」
 沙愛那は、マクドランと刃を交わす。
 ぎりぎりと抑えた憎悪。懐に踏み込まれ、斬りつける。
 首狩り兎に毒は効かない。
 マクドランは斬撃を繰り返すが、沙愛那は一撃に力を籠める。
 不意に、モルグスの幻打が決まった。
 虚を突かれ、マクドランが姿勢を崩した。
(何より彼にとっては私は大事な部下の仇……部下さんの首を狩った責任がある身として…私があの人に引導を渡さなきゃいけないのです)
 首を狙った大振りの攻撃。
「その憎しみは甘んじて受けましょう…ですが、悪い人の首狩るのが首狩り白兎なのです!」
 それが、首狩り白兎の矜持。
「だから……アハハ! その首で罪を償ってください!」
 狂気が浮かび、マクドランに一撃を食らわせる。思わず左手で庇った。
「大丈夫、部下さんの元に私がちゃんと送ってあげます!」
「俺は、まだ死ぬわけには……」
 マクドランは左腕を押さえる。左腕はかろうじてつながっていたが、だらりと垂れ下がっている。

●執着
 ヤカルの斬撃で、ヴェノムが戦線を退いたかに見えた。
 次郎が盾を叩きつけ、一体の蠍を昏倒させる。そして素早く距離を詰めると、ひたすらに耐える。
 じりじりとした攻防だ。ヴェノムの触腕が、死角から伸びる。
 双剣を振り上げたヤカルに、ヴェノムがシールドバッシュを食らわせる。
「さっきので殺したと、思ったがなぁ。ちい、これがイレギュラーズ、ってか?」
「僕はしつこいスよ?」
 ヴェノムはなおも攻撃をしかける。死角からの攻撃に、不意を衝かれる。
「蠍も蛇も目じゃないくらいには。僕は己の欲望を他人に委ねたりはしない。奪う。堕とす。踏みにじる。惜しむモノなど何もない」
「気に入ったぜ……違う形で会えたら、いや、こんな出会いも悪くねぇ、そうだろ? だから、死ね」
「奪う」
 ヤカルは、ぞくりと背筋が震えるのを感じた。懐に踏み込まれて一撃。片方の曲刀を取り落とした。
 初めての事だった。
 ヴェノムが刃を踏みつけ、こちらを見る。
「いいねえ、いっそどっちかが沈むまで……」
「そうはいかない、加勢する」
 威降をはじめとして、そしてマクドランを相手取っていた仲間たちが集まってくる。
「アハハハ!」
「へっ……へっ、負けか、撤退だ、野郎ども!」
 ヤカルが口笛を吹き、駆け去っていく。
「時間切れか……」
「その首は沙愛那達ローレットが頂くから首洗って待ってろです!」
 蠍が、最後に足止めのために火矢を放った。ほとんど狙いは定まってなかったが、巻き込まれて小屋が燃える。
「あらよっと!」
 倒れそうになる柱を、ルウが支えた。
「行け!」
 次郎が叫ぶ。
 黒羽が建物の中へと駆けて行った。小屋が炎に包まれる。

●帰還
「生きていたですか……そっちも」
 戻ってきたイレギュラーズを見て、ユリーカがほっとした表情を浮かべる。蠍の襲撃があったと聞いて、ギルドで待っていたようだ。
「自分を偽るような嘘をついてツケが回ってきたな、おっさん!」
 ジャガーノートが豪快に簀巻きになったペオを担いで引き渡す。何人か捕縛した男たちもいる。一人は、黒羽がヤカルから庇った男だ。
「良かったら、手当してやってくれ」
 そう言うが、黒羽はギルドの床に崩れ落ちる。次郎が慌てて肩を貸すが、次郎もまた立ち上がる体力はない。一緒に座り込んで、笑った。死線を潜り抜けた者同士だ。
「生きててよかったな、互いに」
「ああ」
 夜はゆっくりと明けていた。

成否

成功

MVP

Morgux(p3p004514)
暴牛

状態異常

ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)[重傷]
大悪食
銀城 黒羽(p3p000505)[重傷]
有馬 次郎(p3p005171)[重傷]
鉄壁防御騎士

あとがき

急な蠍の撃退依頼、お疲れ様でした!
イレギュラーズたちの作戦により、ニセモノの蠍は無事に助け出され、住宅街にも目立った被害はなかったようです。
いずれはまた刃を交える時が来るのでしょう。またお会いできましたら!

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