PandoraPartyProject
帰還、そして――
獏馬の結界での戦い。
暗闇の中で匂いを追い、糸を紡ぎ。
燈堂廻の魂を取り戻す作戦は無事に成功した。
「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
深々と頭を下げる廻。
寝間着から学生服へと着替え、改めてこの場に居るイレギュラーズ達に謝罪する。
自分が敵に捕らわれたせいで、多くの人達の手を煩わせてしまった。
助けに来てくれた仲間。その間に迫り来る夜妖から、眠っている自分達を守ってくれた人々。
どれだけ迷惑を掛けてしまったのだろう。自責の念は拭えないと思い詰める廻。
廻の体調は恋屍・愛無から生命力を貰ったとはいえ、病み上がりのようなものだ。
普段より顔色が良くない廻に「大丈夫だから」と頭を上げさせるイレギュラーズ。
「ありがとうございます……」
感謝の言葉と、長く息を吐いた廻に時尾 鈴が温かいお茶を差し出す。
口の中を潤す水分に、喉が渇いて居たのだと気付いた。
「私からも……、皆、廻を救い出してくれてありがとう」
頭を下げた燈堂暁月の黒髪が一束流れ落ちる。
「そして、お願いがある。今後の獏馬と龍成についてだ」
呆気ない程に、簡単に身を引いた獏馬には何か思惑があるに違いない。
空腹を満たすだけなら、見つからぬように隠れ、一般人から生命力を奪う方が効率が良いだろう。
自らが優位に立つ結界の中とはいえ、自分自身や宿主である澄原龍成を危険に晒す恐れのある直接的な戦いを是としたのは、他に考えがあったのではないか。
「恐らく、近いうちに獏馬は此処、燈堂家へ攻めてくるだろう」
暁月の言葉にイレギュラーズは気を引き締める。
「……しかし、彼は命を奪わないと言っていました」
ボディ・ダクレは夢の中での戦いを思い出していた。
熾烈なる剣檄が交わされる最中、澄原龍成から告げられた獏馬との契約の内容。
彼が獏馬に生命力を分け与えること。
それが叶わないのなら他人から生命力を奪うこと。
その代わり龍成に強さを与えること。
そして、最後に命を――『奪わない』こと。
龍成の姉、澄原晴陽は人の命を救う医者だ。
その姉の事を尊敬している龍成が自らの手で他者の命を奪う事を良しとするはずがない。
己と契約を交すからには、命を奪わないという事が絶対的な条件なのだと龍成は言い放つ。
「だが、それを獏馬が『本当』に守っているかは分からない故に」
愛無はボディの言葉を聞いた上で、他の可能性を示唆する。
今まで見てきた怪異は人間とは異なる考えを持つ者も多かった。
龍成が獏馬に提示した条件を悪性怪異たる獏馬が守るのか。答えは不明瞭なままだ。
たとえ、龍成が命を奪う事を頑なに拒絶してもだ。
「じゃあ、他に何か考えがあるのかなぁ?」
シルキィは唇に指を当てて考え込む。獏馬の思惑とは。
愛無は獏馬が語った言葉を頭の中で反芻していた。自分にも痛い程に分かる心の焦燥。
龍成を『大切』だと思う獏馬の心を愛無は知っていた。
「それでも、獏馬が此処へ来る事は必然だろう。不安定な今の状況より、あまねと同化する方が本来の強さを取り戻せるのだから」
元は同じ存在だった獏馬とあまね。ある日を境に別たれた存在だが。
それでも元に戻ろうとする力は働くのだろう。
「まぁ、今は考えても仕方ないわぁ。今日の所はゆっくり傷を癒しましょ、ね?」
アーリア・スピリッツの声にほっと息を吐く一同。緊張感が安堵に変わる。
夜妖から燈堂家を守ってくれていたアーマデルやイーハトーヴもほっと胸を撫で下ろした。
されど。
「――――嫌、だっ!」
静まり返った和リビングに、突然廻の声が響き渡った。
首筋を押さえながら、走り出す廻。
「廻君!?」
「どうしたんだ? あ、待て、廻!」
浅蔵 竜真の手を振り払い、廻は和リビングから廊下へ飛び出した。
引き留めるイレギュラーズを置き去りに。
裸足で玄関を抜け、広い中庭へと飛び出す廻。
その表情は険しく悲痛に歪み――――
希望ヶ浜『祓い屋』燈堂一門で不穏な動きがあるようです。
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