PandoraPartyProject

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燈堂家防衛戦

燈堂家防衛戦

 畳の匂いが鼻腔を擽る。窓の外はベンゴール・ブルーに染まり月が灰雲に隠れていた。
 希望ヶ浜南地区――『祓い屋』燈堂一門の本邸。
 集まったイレギュラーズの表情は硬い。
 イレギュラーズは視線を上げて、広いリビングの上に寝かされている『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)を見つめた。
 時折、苦しそうに眉を寄せ、涙を浮かべるが目覚める気配は無い。
 彼は悪性怪異『獏馬』によって、夢の中へ意識を連れ去られたのだ。
 意識と身体は繋がっている。
 こうして苦悶の表情を浮かべるということは、意識側に相当な負荷が掛かっているのだろう。

『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)は廻が獏馬の結界の中に囚われていると言葉を繰る。
 身体と意識が離れたままでは、やがて『廻の命が危ぶまれる』とも。
 早く助けに行かなければ――
 イレギュラーズは燻る胸の内に唇を噛みしめた。

 夢の中では獏馬を倒す事は出来ない。
「――だからこそ、現実世界へとおびき出す必要がある。それを成す為の『生き餌』だ」
 暁月は廻を『生き餌』と称した。獏馬をおびき出す為の餌だと。
 されど、それは何度も何度も獏馬と相対し、導き出した苦肉の策。苦渋の決断なのだ。
 守り導くべき大切な存在に、この決断を下すのが容易であるはずないのだから。
「必ず、現実世界であまねを取り返しにくる。しかし、廻の魂が夢に囚われたままでは獏馬を倒す事も出来ない。敵と共に消失してしまう。それだけは、避けねばならない。誰も死なせてはならない」
 廻を危険に晒す代わりに宿願を果たすという覚悟だ。

 月匂追い、糸廻り――
 夢の中を渡っていくことは容易ではない。
 されど、廻と想いを通わせた恋屍・愛無(p3p007296)とシルキィ(p3p008115)のギフトに強化の術式を掛けることで繋がる道筋。廻を奪還する作戦が始まる。

 ――――
 ――

「それで、君達には、この場を守って欲しいんだ」
 暁月は夢の中に潜る準備をする合間にイレギュラーズへ話しかける。
「この場に居る全員で、夢の中に潜れば其れだけ早くたどり着けるかもしれない。だが……」

 ――獏馬が『身体』側に、何も仕掛けて来ない筈がないのだ!

 霊脈の上に存在する燈堂家を守るように張り巡らされた結界は二つある。
『護蛇』白銀が内から外へ出て行く事を封じる結界。
『守狐』牡丹が外から内へ入って来る事を封じる結界。
「この二つの結界を、『あまね』を取り返しに来るであろう『獏馬』用に練り直す。けれど、その間は他の夜妖からの侵攻を受ける事になるだろう。だから、君達には此処を守って欲しい」
 暁月達が廻の意識を取り返しに行く間、燈堂の地を。
 そして、眠ってしまう仲間達の命を守る――それが、イレギュラーズに託された使命。
「こっちは任せたよ」
 差し出された暁月の手を握り、視線を上げる。


「怯むんじゃねえぞ! お前ら! くそっ、キリがねぇ」
 悪態を付く『番犬』黒曜の声が戦場に響いた。
 白銀と牡丹が結界を解いた瞬間、待ち構えていたように現れた夜妖。
 暁月が懸念した通り、獏馬は大量の夜妖を燈堂家に寄越したのだろう。
 燈堂の敷地内にある広大な中庭が夜妖で埋め尽くされている――

「私は、自分達の家が壊れるなんて嫌だからね!」
 銀髪を翻し、日本刀を抜き去る湖潤・仁巳。横薙ぎに払った夜妖の断末魔と血飛沫が上がる。
「そうそう。仁巳ちゃんの言うとおりだよ! 燈堂は……私達の大切なお家だもん!」
 煌星 夜空の手から放たれた星屑の術式が仁巳に襲いかかる夜妖を仕留めた。
 二人は燈堂一門の門下生。燈堂の家に住まう『家族』なのだ。

「あはは! めちゃいっぱい居るじゃん!」
 大量に現れた夜妖を指差して笑うのは剣崎・双葉だ。
「てめ、双葉こんな時に笑ってんじゃねぇ!」
「こんな時だから、だよ! 黒曜さん!」
 いつ暁月達が戻ってくるかも分からない状況。だが、自分達が耐え凌がねばならない。
 そうしなければ、この燈堂の敷地に住まう小さな子供達や善良な怪異たちが死んでしまう。
 笑い飛ばさなければ、折れてしまいそうだから。

 自分達、燈堂の門下生が死力を尽くすのは今なのだ。

「それに……私達にはイレギュラーズさんが付いてますから」
 仁巳の姉、湖潤・狸尾は傷付いた黒曜を癒しながら言葉を紡ぐ。
 イレギュラーズには関係の無い、一つの家の騒動なのに。
 心を砕き、優しい言葉を掛けてくれ、こうして共に戦ってくれる。
 これだけで、なんと心強いのだろうか。
「本当にありがとうございます。……もう、帰る家を失いたくないですから」
 この燈堂家に住まう者達には、帰る場所が無い。
 地を這い泥を啜り酷く傷付き、迷った先に差した一筋の光なのだ。
 燈堂を失いたくないと思うのは道理。

 ならば、取る途は、この地の死守だ。
 長い夜が始まる――



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