PandoraPartyProject
帝より「 」を込めて
――拝命致しました。必ず、ご期待に沿って見せます。
エッダ・フロールリジ(p3p006270)――正しくはエーデルガルト・フロールリジは手紙の最後をそう締めくくった。
書くべき事。あるいは書きたくなるような事は山のようにある。
彼女が作り上げた鋼の心臓に込めた『 』だとか。『 』だとか。あるいは『 』だとか。
そうでなくとも、ジーク・エーデルガルト遺跡にて厳重にロックされた扉より発見された『紅冠の矢』なる大きな棒状物体の存在。
特務派の暗躍がパトリック特務大佐の反転と暴走という形で崩壊し、今やアーカーシュに派遣された鉄帝軍は名前のつけがたいひとつの群れへと統合されつつあること。
他にも考えるべきことは山のようにある。
例えばアーカーシュのシステムのひとつであった『黒冠のセレンディ』なる神霊が味方についたこと。彼女がアーカーシュの盾であるなら、対となる槍あるいは矢にあたる存在があるはずだということ。
古代より目覚めた魔王クローンを倒したことで魔王城をローレットが手に入れ、ローレット支部とすべく改修工事が急ピッチで進んでいること。
「陛下は全てご存じなのでしょうか。知った上で、私にアーカーシュ派遣軍全軍の指揮権を委ねたのでしょうか」
狙いの真意は読み切れない。だが『彼』のことだ。ゼシュテル鉄帝国という、強者だけが正義であり勝者のみが歴史であった国を、ある意味でバランスのとれた国家に仕立て上げた傑物のすることだ。おそらく、意味があるはずだ。
それはきっと、この浮島のうえだけの要素に留まらないだろう。現在鉄帝国と重要な貿易関係にある海洋王国、豊穣郷。そしてその三国が交わるシレンツィオ(フェデリア島)の情勢は非常に安定しているという。
ラサを通じて多少の交流がある深緑は茨の呪いが解け、今は復興の最中だ。
天義もかつての冠位魔種による傷跡をいやし、練達もまたジャバーウォックはじめ六竜災害をまともにくらったばかりである。
このような情勢下――鉄帝陸軍大佐にしてローレット・イレギュラーズという二つの顔を持つ自分こそが、バランスをとりえる――の、だろうか。
「いや、とらねばならないのでしょう」
タンポポの種が自然と平野に広がるように、雲がいずれ形を変えるように、この浮島の事件もなるようになるだろう。だが、そこに必ず人為は宿る。
今最も、この状況を左右しうる存在が何かと言えば――責任者が反転し軍務派のもとへと下る形になった鉄帝軍特務派閥でもなければ、そうした人員を抱え統率をとりかねている軍務派たちでもなく、ながきに渡り探索をせずただ生きてきたレリッカ村の住民では勿論ない。
トップの不在ゆえに暫定的な責任者であった『歯車卿』エフィム・ネストロヴィチ・ベルヴェノフとて、あくまで政治家。彼は各派閥と本国の間をとることが仕事であり、浮島の責任をとるのは仕事ではない。
で、あるならば。
「この島を隅々まで探索し、閉ざされた門を開き、嵐の空域を越え、神霊と味方につけ、魔王すら倒した……ローレットこそが。この島を左右しうる『人為』そのものか」
手紙を封筒にいれ、蝋印をおす。
そばに控えていた文官が手紙を受け取り、一度エッダの横顔を見た。
「大佐。作戦名を」
やるべきことは多い。
だが、極論すればただ一つだけだ。
魔種を倒し、世界の平和を護ること。
「そうだな――」
※アーカーシュに駐留する鉄帝軍の指揮権がエッダ氏に委ねられました