PandoraPartyProject
ホルスの子供達
ホルスの子供達
――ファルベライズ遺跡。
今まで発見されていたのは、所謂ならば『外郭』であった。
確かにファルベライズ遺跡の一角ではあるが中心には程遠い……大鴉盗賊団が狙ったのはその更に奥であり『内郭』とも言うべき地点。
ネフェルストに戦力の大部分を割いてでも邪魔を減らして侵入したかった地。
そこにあったのは――いや『居た』のは――
「君が――イヴ?」
世界を旅するキャラバン『パサジール・ルメス』が一人、レーヴェン・ルメスは己が目前に立つ少女へと言葉を紡ぐ。彼女は内郭へと続く道で発見された『扉』の奥より現れた存在である。
イヴと名乗りし彼女は自らを――土の精霊種の一人であると言った。
そしてこの地を見守りし守護者である、とも。
「でも、全ては崩れた」
嘗てこの地に訪れた『博士』なる存在によって。
「博士……?」
「彼が何者であったのか私は分からない。もしかしたら外にいた貴方達の方こそ、彼に詳しいかもしれない……ともあれ彼はある日、閉ざされていた扉を超えてこの領域にやって来た来訪者。そして――秘匿されていた色宝を用いて妙な研究を始めたの」
やはりこの扉の奥にはかつての御伽噺にも登場する大精霊。
『ファルベリヒト』が座していた地であるらしい。
この奥には外郭よりは純度が高く、そして大きい色宝が数多く眠っている。イヴはファルベリヒトが眠りについた後にこの地を穢す者がいないか守護していた一族にして、もう最後の一人らしいが……しかし『博士』の来訪により事態は徐々に崩れ始めたのだ。
彼はイヴの目を盗んで色宝を確保し、そして――
「貴方達も見た筈。土塊達が動いている様を……
あれは『ホルスの子供達』と呼ばれる――『博士』が生み出したモノ」
色宝に込められていた神秘を利用した『歪なる死者蘇生』と言うべきモノだ。
体自体は只の土塊――言うなればゴーレムの一種と思っていい。それ自体は物言わぬ正に土塊だが……錬金術師である『博士』は土塊の人形に『名を呼ばれた事を発動条件にし、願った相手の外見を転写する』事を、色宝を利用して可能にした。
そうして形を得た土塊達は願った相手にとってはよく知った顔になる訳である。
だが重要な事としてそれらは本人ではない。
あくまでも『願った相手の外見を転写した存在』であり、また彼らの言動もその人物が願った事を口にするだけの人形に過ぎないのだ。魂も記憶も存在せず、死者蘇生と言うより人形遊びの一種であると言っていいかもしれない。
だが、色宝の神秘によって動く彼らは素体となった色宝が巨大であればある程、同時に力も増した存在となる。
「……となると。ネフェルストには水晶竜っていうのが襲来したんだけれども、あれも……」
「私は見ていないけれど、間違いなく『ホルスの子供達』だと思う。
無数の色宝を一つの土塊に入れて創れば、相応の能力を持った者が出来上がるから」
土塊を入れ物として、『名前』で魂を与えたかのように見せる――ありきたりな方法であるが、それを是としたのがファルベリヒトの力の残滓であったと言うわけだ。
……それをどうやって大鴉盗賊団のコルボが手に入れたのかは分からない。
しかしコルボは『ホルスの子供達』の一つであった水晶竜を確かに先の戦いで投入している。と言う事は彼は知っていた筈だ――この先にあるものを。この先にある色宝と、それらによって齎される力を。
成程。もしもあのような駒をこれから幾つも手に入れる事が出来たなら想像を絶する力をコルボは手に入れる事になる。最終的に挽回できる可能性があるのならば、ネフェルストに大規模な戦力を割いた策も頷けるというものだ。
どれだけ戦力を消耗しても色宝を。そしてホルスの子供達を手に入れる事が出来るのならば……
「だからコルボは私を拉致してでも奥に進もうと……!
でもまだコルボは奥には到達していないんだよね。
なら……まだ間に合う筈!」
そう。レーヴェンの言う通りまだ手遅れではない。
先の戦いで大烏盗賊団は大きな被害が出ているのだ。
数を集めて強引に遺跡の最奥に進撃――ともいかないだろう。
なによりこの先には既に『博士』によって作り出された複数のホルスの子供達が闊歩しているという。彼らは最早制御下に置かれておらず、魔物と変わらないのだとか……イレギュラーズにしろ盗賊団にしろ襲ってくる事だろう。
「そういえば――その件の元凶というか『博士』はどこに?」
「……分からない。彼の存在に気付いた時には、もう姿がなかった。
遺跡のどこかにはいると思うけれど……妙な事にどれだけ探しても見つからなくて……」
――どこかに潜伏している、と言う事か?
現地人たるイヴにも見つからないとは相当巧妙なのか、何かトリックでもあるのか……
いずれにせよ盗賊団達の野望を阻止する為にも先に進む必要はありそうだ。
盗賊団達を撃退し、ホルスの子供達を撃破していけば探索可能な地域も広がるだろう。
ラサ商会からの探索依頼もその内、正式に出される筈だ――
「……私からもお願いしたい。
ファルベリヒトが眠り続けているこの地を……無法者の好きにはさせたくないの」
イヴが祈る様に跪いて、皆に助けを乞う。
最早この地は砂に沈んだ……滅びたような地ではあるが。
それでもかつて多くの民を救った大精霊が眠る地であるのだから。
見据える。
遺跡の奥で発見された扉の一つ。そこを開けば、広がっていたのは広大なる空間。
そして土に幾つもの光り輝く宝石が埋まっている地。
「うわぁ……これって……!」
そうここは。
幾千もの神秘と宝石が眠る――クリスタルの迷宮であった。
*ファルベライズ遺跡の奥で『クリスタルの迷宮』が発見されたようです!