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リーグルの唄
リーグルの唄
とある異邦の神の話である――
王(リーグ)は語る。奴隷、農民、貴族。三つの階級を。
王侯(ヤルル)の苦悩に、奴隷(スレール)の境遇に、器用な女(エルナ)の思惑になど構うことなく、物語は進んでゆく。
幻想王国にて『奴隷』を中心とした人身販売が大規模に開催された事で、『我らが王』は困惑しているようであった。
勇気と智慧を抱いた建国の王、勇者王とも称された彼ならば目を覆った事であろう。その正当なる血族であるフォルデルマン三世閣下は自身の目の届かぬ場所でその様なことが横行していた事に心を痛めているのだという。どれだけ世間知らずなのだと誹る声も聞こえてくるが、彼はこの通り『無垢なる王』である。
掌を血に染め、殺人を称号に輝かせる何処ぞの薔薇の姫君や芸術にばかり注力し穏健派等と然したる影響力も持たぬ文化人よりも尚、悪い。
父王の崩御で即位することとなった教育も受けぬ若き王子が広い視野を持ち、政に切り込むなど有り得やしない話だ。そも、そうさせなかったのが『貴族』なのだから。
「……如何なさいましょうか、幻想元老院の方針は?」
近衛騎士でる麗しき花は困り顔であった。王が「如何したら良いんだい? そんな、人間を売り払うだなんて!」と騒ぎ始めた尻拭いをさせられているのだろう。
「どうしようもこうしようもないだろうに。わざわざ、このアタシを『こんな場所』に呼び出してんだ。
中央大教会がお怒りで、囚人の手も借りたいって? これを知った方が王様は赤子みたいにぴぃぴぃ泣くんじゃないのかい? なあ、シャルロッテ」
「……あまり意地の悪いことを仰らないで下さい。ベルナデット様」
ソファーに深く腰掛けていた金髪の女は溜息を吐いた。薔薇の刺青をその身に刻み込んだ彼女は重たい鎖を腕にぶら下げて居る以外は仕立ての良いドレスを身に纏った何処ぞの貴族を思わせる風貌をして居る。
「あまり花の騎士を困らせるでない」
「……意地悪の一つでも言いたくなるでしょうよ。ええ、それで? 罪人には罪人をぶつけようって?」
女はローザミスティカ――レイガルテ・フォン・フィッツバルディの姪たる女・ベルナデット・クロエ・モンティセリ元辺境伯夫人――は恨めしいとでも告げるかのように鋭い目付きでシャルロッテ・ド・レーヌを睨め付けた。
「いいえ。そも、奴隷の購入に関して王国では法があるわけではありません。人身売買とて、正式に禁じられた行いではありません。
人道的に酷、というだけ。奴隷商人も其れを購入する側とて何かの法に触れるわけではありません。ですから――」
「だから、お前のような罪人を使うのだ。貴族殺しのベルナデット」
眉を潜めたローザミスティカは「そういうことね」と呟いた。
「端た貴族達が奴隷を買い集めて勢力を増して困るのは我々だ。そして、都合の良いことに『王は心を痛めている』。
今までは見て見ぬ振りをしていた王が世情に興味を持ち、悪逆非道なる人身売買なる行いを咎めている――と、幸いにしてこの国は王政だ。
王がそう言うならば、『こちらも其れを掲げて』動くことが出来る。が、余計な火種を生みたくないのは中央大教会も三大貴族も同じだ」
「……それで?」
「『便利な者共』に依頼をする用意をしている」
「……用意している時点で余計に力を付けたクソ貴族が生まれた事は察しましたけれどね。それで? 『ローレット』を使って何をしたいのですか、叔父上」
「余計な力を付けた者共から表だって奴隷を奪うことが出来なければ?」
「悪人のフリして、奪うしかない? それでアタシら囚人に『一時的な解放』なんざチラつかせて直接取引をしてきたと。
どうせ、手酷い事が起こるんでしょうに。そんなのにノっていそいそ出掛けていったヤツらが帰ってくる訳がないでしょうよ。ええ、ええ、『死んで』お終いだわ」
貴族なんてそうした事を行う事に手慣れている存在ばかりなのだとローザミスティカは言った。
レイガルテは、そして、シャルロッテは何か胸騒ぎを感じているのだろう。それは領内の確認を執り行ったというアーベントロート家の令嬢も同じだ。
この場合は端役、舞台に上るべき役者ですらないローザミスティカは此れから国内で何かが起これば死しても良いと尻尾を切られる囚人達を思って溜息を吐く。
(奴隷商人ねぇ……。人種も何も関係なく厄介払いやら『人捜し』にゃあ打って付けだ。
王が悲しんだ、貴族が力を付けた以外に余計な事が起こらなけりゃいいけれどね――まあ、そんな事、有り得ないか)
これまでの再現性東京
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