PandoraPartyProject

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お花見ボイスリプレイⅣ


●並木道はいつも静かで
 桜の散る風景を、ひとり静かに歩くベルナルド=ヴァレンティーノ (p3p002941)
「桜色の絵具をこんなに沢山混ぜ合わせるのは、一年の中じゃ今ぐらいなもんだ。
 儚さと美しさを兼ね備えた繊細な桜の絵は、人々の心に切なさを運ぶ。
 後はそこに、フィクションをひとつまみ…よし、いい一枚に仕上がりそうだ」

 指を四角形に翳して画角を作ると、ベルナルドは微笑む。
 この場所できっと、誰かのドラマが描かれるのだろう……と。

「今年もまた、綺麗に咲いておるな。
 境界の依頼で一度目にする事はあったが、これほどに格別な物であるとは思わなんだ。
 この風景を一目でもあの子達と一緒に見る事が出来たのならば、等と歳のせいじゃかのう」

 バク=エルナンデス (p3p009253)は舞い散る桜の中で立ち止まり、ぼんやりと古い記憶を思い出す。
 そして、道ばたのベンチに自分と『あの子達』が並んで座るさまを一瞬だけ幻視した。
 フッ――と小さく笑い。歩き出す。今を生きるというのは、こういうことなのかもしれないと思いつつ。

 オウェード=ランドマスター (p3p009184)はひとり、ベンチに座り何かを呟いていた。誰かにむける言葉の練習だろうか。 「賑やかな花見もいいが、静かな花見も悪くないじゃろう…
 さてと相変わらず桜は美しいのう…まあリーゼロッテ様の美しさに到底勝てないが…  …勇者選挙からもうすぐ一年じゃな…
 落ちぶれていたワシはリーゼロッテ様のお陰で立ち上がり、勇者となった…
 リーゼロッテ様にはとても感謝している…授かった称号もとても誇りに思っているのう…
 少しベンチに座ろうかね…この桜紅茶を飲みながら聞いて欲しい…
 貴族としてのお仕事、お疲れ様じゃろう…実はまたプレゼントを渡そうと思って…
 このネックレスと蒼薔薇じゃな…喜んでくれたら何よりじゃが…
 ど…どうかね…?
 今日もありがとうございますじゃよ…
 もし良かったら、またこうして一緒に花見をしよう」


 ときに、想像してみてほしい。
 ベンチに座ったココロ=Bliss=Solitude (p3p000323)と、あなたが並んで座って居る主観の風景を。
「……で、そろそろ何に悩んでいるか教えてくれませんか?
 あ~、そりゃあわかりますよ、わたしでも。だって顔に書いてあるし」
 ココロはそう切り出すと、苦笑してあなたの話を聞き始めた。
「……なるほど、それはイレギュラーズがよくかかる病気ですね。
 専門用語では「五月病」って言うんですよ」
 ぴっと指を立て、自分の頭をつつくようにしてみせる。
「あなたは最初何を望んでいましたか。まずはそれを思い出してください。
 色々できるようになってきて欲がでてきた? それは地力がついたってことですよね。
 ここまで走ってきて後ろを振り返りましたか? 誰かがあなたの背中を追いかけてきてるかもしれませんよ。
 ……そうですよ。どうせ自分はここまでと勝手に一人で限界作っちゃってるだけだと思います」
 ねっ、と手を合わせ、ココロは花が咲くような笑顔を浮かべた。
「……はい! また来年も、この並木道を一緒に歩きましょう。約束ですよ。約束しましたからね!」


 猫のような足音がする。走ってくる。
 杜里 ちぐさ (p3p010035)のものだと、ショウ (p3n000005)はすぐに気付いた。
 けれど、すぐには振り返らない。
「ショウ、探したにゃ。公園広場に居なかったから、この辺りかなって思ったのにゃ!」
 ぴょんと飛ぶように距離を詰め、肩を掴むちぐさ。
 ショウはやっと振り返り、フードの下で薄く笑った。
「ああ、ちぐさか。どうかしたのかい? オレを? 見つかっちゃったな」
 見回してみれば、他に人はいない。あるのは青空と、散る桜と、長い一本道。二人だけの世界だ。
「少し静かに桜を見ながら飲みたくなってね。……お見通しだったかな? ちぐさも隣で飲むかい?」
「いただくにゃ。みんなでワイワイも悪くないけどショウと一緒の花見酒は嬉しくておいしいのにゃ。あ、ユリーカに貰った唐揚げがあるのにゃ。おつまみに食べるにゃ?」
「ありがとう、いただこうか。束の間とはいえ、平和だね」

 二人は同じベンチに座り、広げた唐揚げとビールの缶を挟んで乾杯をした。

 一方こちらも、二人きりのベンチ。どっかりと座ってくつろぐディルク・レイス・エッフェンベルグ (p3n000071)の隣に、頭一つ分背の低いエルス・ティーネ (p3p007325)がちょこんと座って居た。
「花見……ね
 何? 不満かって? いや、不満はねぇけどよ
 これでもラサの狂犬で通ってるんでね
 ……つくづく。つくづく、俺に『そんな』なのはお嬢ちゃん位の物さ
 ま、いいや。折角だし? たっぷり『花見』しようかな?」
「ひぇ?! は、花弁…? うぅ……び、吃驚しましたよもう……」
 頬にかかった花びらをつまみあげるディルク。顔を真っ赤にしたエルスは頬に手を当てて目をきょろきょろとさせた。
「コ、コホン!
 そ、そうです! 折角の機会、ですよ?
 ほ、ほら…おお酒もお弁当も用意しているんですからっ
 お酌だってしますし…なんです? ア、アーンでもします!? …なんて、勿論冗談ですけど、ね!」
 むうっと頬を膨らませたエルス。なんとか話題を変えようと空をちらちら見て、パッと頭上に架空の豆電球を光らせた。
「まぁ、その、他国に来るのも珍しい事でしょう?
 今日を楽しむぐらい
 きっとイルナス様も許して下さります!
 …まぁ…その、何と言いますか
 許しを得て来はしたんです、けど、も…ねっ」
 話題を変えたのに全然情緒が回復していないエルスに、ディルクはおかしそうに笑った。
「くくっ、隙だらけってきっとそんな感じだな?
 また素直に赤くなっちゃって。
 本当にアンタは面白い――まったくこの上なく『お嬢ちゃん』だぜ。
 ……むくれるなよ。別に貶しちゃいねぇんだ。
 俺の周りはどうも食えない女も多くてね。
 アンタみたいなのもそれなりに新鮮で――面白いって寸法だ。
 ま、いいじゃねえか。これでも甘やかしてる方なんだ。
 お嬢ちゃん大いに結構。美女と野獣って言われる位に綺麗になんなよ。
 俺に相応しい位のお嬢ちゃんなら誰に笑われる事も無かろうさ。
 アンタは何時も笑ってな。そしたら俺も楽しいからさ」
「むぅ…私って素直なんです?
 甘やかして下さるのは…う、嬉しいですが…っ
 ぐぅ…そう余裕なのも今のうちなんですからね!」
 笑うディルクから目をそらし……自分に言いきかせるように呟く。
「きっと綺麗になってみせます…だって悔しいですもの
 息を飲むぐらい綺麗になってあなたをギャフンと言わせてやるんですから!
 楽しんでもらうのも嬉しいですが…私だって──」
 その時、ディルクの片眉が上がったのを、エルスは見ていなかった。
「私だってちゃんと。
 いつまでもお嬢ちゃんではなく『女』として見て欲しいんですから…。
 ……なんて」
 そしてようやくディルクへ視線をむけたエルスの瞳は、どこか魔性の輝きを帯びていた。
「……その時は、ちゃんと『私』を見て下さいよ?」
 二人の瞳は美女と野獣か。はたまた、野獣と野獣であったのか。それはもはや、二人にしか知り得ぬことであった。


 桜並木の間をスキップして歩くフラーゴラ・トラモント (p3p008825)
「アトさん……桜綺麗だねえ…! わ、わ、花びら髪の毛にいっぱい付く…!」
 その横を、アト・サイン (p3p001394)がのんびりとした様子で歩いていた。
「アトさんからグラオクローネで貰った種、芽が出たんだあ……どんなお花が咲くだろうねえ?」
「ケバブというのは中東
 いや
 ラサ方面から伝わった食物だ
 カリカリに焼けた鶏肉を野菜と一緒にピタで包めば美味しいサンドの完成
 手軽さから今ではどの国でも見られると
 チリソースがまたいい味出してる」

 『ねー』のポーズで首をかしげて見せたフラーゴラを思い切り置いていく形で、アトは早口でケバブの説明をしていた。かじりつこうとしたケバブにおちた花びらをつまんでぺいっと投げ捨てる。
「花びら邪魔だなあ」
「ってアトさんは花より団子? あ、ワタシお団子食べたーい……」
 そんな状態でも全然イイらしく、フラーゴラは上機嫌MAXでぴょんぴょんはねはじめた。
 『一緒に過ごす』というのは、もしかしたらこういうことなのかもしれない。

 ローレットの情報屋、ギルオス・ホリス (p3n000016)がのんびりとした様子でベンチに腰掛けている。缶コーヒーのプルタブを苦労して開き、口をつけた。
「ここなら落ち着いて桜を眺められるね。
 皆と賑やかに過ごすのも好きだけど、静かに桜を見上げるのもとても良い。
 春が訪れてるからかな、此処は心地よいね」

 そんなふうに独り言をつぶやくギルオス。
 そこへ、ふらりとひとりのイレギュラーズがやってきた。
「この辺は人も少ないし、よく寝れそう。桜を眺めながらお昼寝しようかな……」
 ハリエット (p3p009025)だ。
「ああ、君か。良かったら一緒にどうだい? 陽射しも暖かく、風も気持ち良い」
 ハリエットの様子に気付いたギルオスは、座って居たベンチの端にずれると空いた部分をポンと叩いて見せた。
「あ、ギルオスさんこんにちは。一緒に? うん。喜んで」
 目をぱちくりとさせたハリエットだが、すぐにギルオスの隣へと座った。
 ギルオスは親しい家族へむけるような、慈しみのある温かい目でハリエットを見つめるとコーヒーを一旦横に置いた。
「ベンチから見上げたら、空と桜の色が綺麗だね。それに、風も気持ちいい」
 ハリエットが空を見上げ、つられてギルオスも見上げてみると、確かに静かな風を感じられた。
 ふああ、とあくびをするハリエット。
「あ、ごめんね。お日様がぽかぽかしてると、眠くなっちゃって」
「偶にはゆっくりとした時間も大切だね……眠たいなら眠ってもいいよ。起きるまで僕が傍にいるから」
「ギルオスさんが傍にいてくれるなら、安心できる…から、ちょっとだけ」
 ベンチに背を預け、目を瞑る。
「ギルオスさんこそ眠いなら眠ってね。私も、傍にいるから」
「僕? うん……そうだね。眠くなったら目を閉じるさ。君と一緒にね」
 そう言いながら、ギルオスももう目を閉じていた。
「ん…。ここは本当に暖かいね」
「あぁ暖かいね――とても」
 やがて二人は寝息をたてはじめ、ゆっくりと寄り添うように傾いた。

 澄恋 (p3p009412)耀 英司 (p3p009524)が並んで、桜並木を歩いている。
「よう、彼女。そのピアス似合ってるじゃねぇか。誰からの贈り物だい?」
 からかうように言って、手をかざすジェスチャーをする英司。
 澄恋は片眉をあげると、ピアスをアピールするように指先で揺らして見せた。
「良いでしょう、このぴあす!
 ちょっといじわるで、でも本当はとっても優しくて。
 今わたしの隣で一緒に歩いてくれている方がくれました。
 うふふ! 一生の宝物なのですよ!」

 ウッという表情をする英司。
 追撃でもするように、ギザついた歯を見せて笑う澄恋。英司は頬をかいて苦笑した。
 そのありさまを、澄恋はじっと見つめる。自分だけが、いまこのありさまを見ていられるのだと思いながら。
 ピアスにかけていた手をおろし、英司の手をこつんとノックした。
 手袋の外れた手に、指をすべらせるようにして手を繋ぐ。
 その時英司が小声で何かいったように聞こえて、澄恋は振り返った。

 桜が舞う風景を、カイト・シャルラハ (p3p000684)が肩にリリー・シャルラハ (p3p000955)を乗せて歩いていた。
「今日もよく晴れて花見日和だな、リリー。
 いつもより桜も空も近いだろ?俺の肩の上は大好きなリリーだけのものだ。
特等席で存分に近い青空と桜を楽しんでくれよな!」

「わぁ、綺麗な桜だねっ、カイトさんっ
 ……でもカイトさんも、それに負けないくらい……えへへ、なんでもないっ。
 特等席でお花見、楽しませてもらうねっ。大好きな、カイトさん」

 照れたように両手を頬にあて、カイトの肩の上でくねくねとするリリー。
 直球な言葉にカイトは頬をかき、照れ笑いを浮かべながら歩を進めた。
 花より団子のカイトだが、たまには『花』も……良いものだ。

「ちっと失礼するぜ」
「どないしたん?」
 十夜 縁 (p3p000099)がそっと蜻蛉 (p3p002599)の髪に触れ、桜の花びらをひとつつまみとった。
「あぁいや、髪に花びらがついていたんでな」
「ん……おおきに。花弁に好かれてしもた、んふふ」
 笑う蜻蛉がじっと桜が散るのを眺めている。十夜――いや縁は目を細め、散る桜に手を伸ばす。
「確か、桜の花弁が地面につく前に掴むと願いが叶うんだったか。折角だ、試してみようかね」
「願い事が叶うんやったら、そやね……来年も再来年もずっと、こやって二人で桜を見にこれますように」
 そう言っている間に、縁は桜の花びらを二つ、つかみ取った。
「先のことはわからんが……お前さんの願いが叶うようにってな」
「そやって捻くれた事しか言わんのやから……もう」

 二人並んで眺める桜は、ふしぎとゆっくり落ちている。
 燈堂 廻 (p3n000160)は横を歩くシルキィ(p3p008115)の横顔を優しく見つめた。
「この辺りは不思議と静かだねぇ……皆でわいわいするのも良いけれど、落ち着いて桜を見るのも良いよねぇ。
 ……ねぇ、廻君。
 お家でも、外でも。来年も、その先も。きっと、ずっと。一緒に、沢山綺麗な桜を見ようねぇ」

 ね? 振り向いたシルキィと廻の視線が交差した。
 未だじっと見つめる廻にきょとんとするが、廻はそんな彼女の目をみつめたまま、口を開いた。
「シルキィさん…
 僕も、シルキィさんと一緒に歩いて行きたいです
 この先の辛いことも、シルキィさんが隣で笑ってくれるだけで頑張れる
僕はシルキィさんが大好きです
 シルキィさんが思ってるよりも、多分ずっと大好きです」


「リースリットさん、ちょっと失礼。ああ、そのままそこに座っていてください」
 突然だが新田 寛治 (p3p005073)リースリット・エウリア・ファーレル (p3p001984)の膝へと頭を預けた。
「えっ、えええ~?
 そんな、急に膝枕なんて言われても…
 私、動けないじゃないですか…
 も、もう…」

「いやはや、膝枕から見る桜は最高ですね
 最近ちょっと忙しかったものですから
 日頃の仕事の疲れが、心から癒やされます」
 心から癒やされている様子の新田に、リースリットは困ったように……肩を落として笑った。
「本当に、仕方のない人ですね
 ちょっとだけ、ですよ?
 膝枕、だけですからね?」
 少しくらいはねぎらってあげてもいいのかもしれない。
 そんなフウにおもったのだろうか。
 リースリットはそっと耳に口を近づけた。
「お仕事、いつもお疲れ様です」

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