PandoraPartyProject

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Re: 果てよりの手紙(メッセージ)

 人々が『絶望の青』と呼ぶ外洋は、人智及ばぬ摩訶不思議なる海域である。
 絶望の青に安息は無く、よしんばあったとしてもそれは束の間の例外に過ぎない。
 その苛烈にも太平にも再現性は無く、一帯は再び『意志を持つ嵐』に覆われんとしていた。あたかも自らの手中より逃れんとする一隻の小船を渇望し、自らの領域の内に捉えんとするように。
 しかし――まるで嵐と小船との間に立ちはだからんが如く、より大型の船が航海を開始した。舵は、東の空より迫る嵐に向けて。帆の髑髏のようで蛸の図柄を、まるで勝ち誇ったかのように揚々と掲げ。

 ――ああ兄弟。これで俺たちの悲願は『必ず達成される』。

 歯向かう者全てを打ちのめす不穏な風の中、戦場のどこか不気味さと禍々しさを感じさせる鎧の人物はこの場にそぐわぬ聖剣を甲板に突き刺したまま、微動たりともさせられない。怒ったかのような巨大な三角波が現れて、船を木の葉のように翻弄せんとすれども、この海への勝利を渇望する強欲の魔種は、その憤怒をすらも逆に呑み込んでしまう。
 船長――オクト・クラケーンの歓喜に当てられたかのように、嵐の海はぶくぶくぶくぶくと泡立った。
 不意に船の周囲に黒々とした影が浮かび上がって、『それ』は嬉しそうに海中から船の上へと呼び掛ける。
「兄弟……oレタchi、イkkkkkるンダna? ゼtttぼウノaおno、むコoooo……」
 すると船長も応えてくかかと笑い、そうだ、と応えの言葉を発する。
「その通りだ、奴らなら必ずや成し遂げてくれると俺は信じてるさ。俺とお前とを引き裂いて、お前をこれほどまでの苦しみで苛んだ元凶の元凶、『冠位嫉妬』アルバニアをぶち殺して俺たちに『絶望の青』の向こうを見せてくれるってなぁ!」
 オクトは一度だけ西の水平線に目を遣って、つい先程まで彼の船に舫われていたはずの、『紅鷹丸』改の姿を探そうとした。しかし海賊船の周囲は猛り狂う雨風と高波に遮られ、小船を見つけることは叶わない。
 お人好しどもめ。
 オクトの口の奥で言葉が出かかって、それからすぐに飲み込まれていった。
(俺は、お人好しゆえの途方も無い夢物語を忘れちまった……か。馬鹿どもめ、そんな訳がないだろうに)
 探すべき等見つかるはずもない水平線に目を凝らしたままで、船長は言葉にならぬ言葉を脳裏に想起した。
(兄弟は取る。友人も取る。それが強欲の魔種としての俺の選択だ。
 ああ、俺はあいつらのことを、片時も忘れたことなんてないんだ……あいつらとも今後も上手くやろうと思ったら、“こっちに来て貰う”しかないってだけでな)
 そこまで思考した所で彼は、再び前方――嵐吹く絶望の海域へと目を戻し、静かに片手を挙げて船を操る骸骨船員たちに合図した。海中に巨大な影を伴う海賊船は、嵐を切り裂いて『絶望の青』へと乗り出してゆく。
 もう一度、オクトは名残惜しそうに、兜の奥の両目を細めて思案した。
(だが残念ながら俺たちには、そうするための時間が残されていない……『あいつらを一人一人“呼ぶ”』時間も、『あいつらの遣り方に合わせる』時間も。俺は何もかもを忘れて『損得勘定であいつらを動かした』ことにするのが、今は一番スムーズに事を進められるんだ。
 それに、そうしなけりゃお互い別れを惜しみきれんだろうしな!)
 嵐の中に消えていった海賊船の上で、オクトは、二度と西の海を振り返りはしなかった。
 瞼の裏に、知らぬ間に立派に育っていた息子、今なお変わること無き友人たち――それから、初めて出会った、あるいはこれから出会う、ひとつ違えば友になりえたかもしれぬ者たちの姿を浮かべたままで。
(嗚呼――)
 温い、温過ぎると。自嘲するオクトは無意識の内に笑っていた。
 彼は海賊。今も、昔も。きっと或る意味で何処までもオクト・クラケーンの侭だった――


魔種オクト・クラケーンから重要な情報がもたらされました!

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