PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

好きな人達

関連キャラクター:耀 英司

月の無い夜。或いは、人知れずもたらされる平穏…。
●静かで、そして月のない夜
 幻想。
 王都メフ・メフィート郊外のある街での出来事だ。
 住人たちも寝静まった真夜中。
 月明かりを遮る、厚い雲が空を隙間なく覆っている。
「見つけたでありますよ!」
 しわぶき一つも聞こえない、静かな夜に声が響いた。
 一条の閃光が、夜空を横切る。
 一閃。
 手には輝くレーザー警棒。
 振り抜いた先には、全身を黒い衣服で包んだ男の姿。
「っと、随分なご挨拶だな! この辺りの挨拶はそんななのか?」
 転がるように後退しながら、黒づくめの男……耀 英司は、両手の刀で警棒を受け止める。
 バチ、と暗闇に紫電が爆ぜた。
 一瞬、暗い路地裏が真白に染まる。
 警棒を振るったのは、白い全身スーツを着込んだ少年だ。ムサシ・セルブライトは軽い音を立てて地面に着地。
 胸の前で、斜めに得物を構えて見せた。
「ムサシ・セルブライト、只今着任したであります! さぁ、神妙にお縄につくでありますよ!」
 名乗りをあげて、腰を落とした。
 地面を蹴って、駆け出す構えだ。
 しかし、英司はと言えば……ゆっくりと刀を鞘へと仕舞い、呆れたように顔の横で両手を広げた。
「それなりに恨みを買って来たんでな。夜道での襲撃にも慣れたもんだが……どこの鉄砲玉かと思えばムサシじゃねぇの。何やってんだ? 夜の散歩か?」
「え? あれ? 英司さん?」
 武器を下ろして、ムサシはヘルメットをあげる。
 何度見ても、目の前にいるのは既知の黒い怪人だ。
「自分、誰かの悲鳴が聞こえたって通報を受けて、ここまで飛んで来たでありますが……えぇっと」
「……まぁ、怪しいってのは間違いじゃねぇやな。マスクを被った黒づくめの男なんて、怪しい以外になんて形容すりゃいいんだって話だよ」
「自覚があるようで何よりであります」
「言っておくが、お前さんの恰好も大差ねぇからな?」
 黒い怪人と、白い正義のヒーローが、真夜中の路地で相対している。
 そして、雑談に興じているのだ。
 事情を知らない者から見れば、さぞや不思議な光景だろう。事情を知っている者が見ても、それなりに不思議な光景だ。
「しかし、悲鳴か……俺ぁ、血の臭いを辿ってここまで来たんだが」
「ということは、きっと目的は同じでありますね。英司さん、不躾なお願いなんですが、手を貸してもらっていいでしょうか?」
 怪しい男ではあるが、英司とてイレギュラーズの戦士である。
 その実力は折り紙付きだ。実戦経験も豊富とくれば、不審者の調査に際して十分な戦力として数えられる。
「あぁ、構わねぇよ。俺の方からも頼むわ」
 たぶん、この路地の先だからよ。
 そういって英司は、路地の奥の暗がりを顎で指し示す。

 血の臭いに導かれ、2人が辿り着いたのは、半壊した廃墟であった。
 天井や壁には大きな穴が空いており、そこが人の住めない環境であることは明白。手入れも施されていないのか、壁や屋根には蔦が這いまわっている。
 しかし、英司とムサシはそこが単なる空き家であるとは思わない。
 よくよく見れば、崩壊した壁の向こうに幾つもの足跡が残っているのが確認できる。1人や2人ではなく、また昨日今日に残ったものでもなさそうだ。
 日常的に、空き家へ出入りしている者が大勢いる。
 そして、その者たちはおそらく男性であろう。
「血の臭いはここの……地下か。誰ぞ殺っちまったか?」
「救えなかったことは悔やまれますが……せめて、1人残らず捕縛しましょう」
 英司は腰から双刀を、ムサシはレーザー警棒を抜いた。
 顔を見合わせ、頷きを交わす。
 戦闘の用意は万全だ。
 警戒も怠ることは無い。
 これまで幾つもの修羅場を潜り抜けて来た2人には分かるのだ。この先に、2人が脅威に感じるほどの者が待ち受けていることに。
 地下への入り口は空いていた。
 足音を殺し、階段を下りる。
 徐々に、しかし確実に血の臭いが濃くなった。
 それから、零れた臓物の匂いも。
「この先だ」
 いかにも硬そうな金属の扉。
 しっかりと閉められてはいない。扉と壁の隙間から、血の臭いが漏れていたのだ。
「カウントを開始するであります……3、2」
「1!」
 金属扉を蹴り飛ばす。
 部屋の中へ、ムサシが転がり込んでいく。
 次いで、英司も部屋へと入り視線を左右へ巡らせた。
「さぁ、手を上げろ」
「観念するであります!」
 部屋の中央にはテーブル。
 違法薬物らしき粉や、札束が積み上げられている。
 それから、床に散らばる無数の遺体。
 手足は捩じ切れ、白目を剥いて、血の泡を吹いた哀れな遺体だ。
 その数は実に7、8人。
 夥しい量の血が床を濡らしている。
 その真ん中には赤い影。
 否……白無垢を返り血で赤く濡らした女であった。
「あぁ? 澄恋?」
「……また知り合いでありますか」
 きょとん、とした顔で2人を見返していたのは既知の年中花嫁こと澄恋であった。
 その白い頬には、べったりと血が付いている。
「なにやってんの?」
 英司は問うた。
 澄恋は答える。
「無理やりに乱暴しようとしますので、少々お灸を」
「お灸……いや、悪因悪果といいますか」
 警棒を下ろし、ムサシは深いため息を1つ。
 初めに逢った、いかにも不審な男は英司であった。
 悲鳴が聞こえたというが、それはきっと澄恋にやられた悪漢たちの零したものだ。
 正義の味方を続けていれば、振り上げた拳を下ろす先が分からないということもある。
 例えば、この日、この場所がそうだ。
 なにはともあれ。
 事の顛末はどうであれ。
 この夜、街がほんの少しだけ平和になったことに違いはない。
 ならばそれで、良しとするべきなのだろう。
執筆:病み月

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