幕間
好きな人達
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関連キャラクター:耀 英司
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- 楽しい一夜。或いは、その後の話…。
- ●夢の後々
砂漠の夜はよく冷える。
真っ暗な空に、ぽっかりと浮いた白い月。
白い光に照らされて、砂漠の真ん中に転がる頭。
否、それは頭だけ出して埋められた3人の男女の姿であった。
「……おいおい。助けを呼ぶ声が聞こえたと思えば、お前ら一体、なにやってんだ?」
そう言って松元 聖霊は溜め息を1つ。
視線の先には、地面に埋められた耀 英司とコルネリア=フライフォーゲル、そして李 黒龍の姿が……というより、頭があった。
「おう、聖霊! いいところに来た! 早くこっから出してくれ! 息苦しくって適わねぇ!」
マスクを被った頭を振って、英司が「早く!」と声をあげる。
息苦しいのは、マスクを被っているせいなのではなかろうか。
そんな彼の左右には、ぐったりとしたコルネリアと、飄々と空を見上げる黒龍がいた。
「待て待て。俺ぁ“なにやってんだ”って聞いたんだ。なんだってお前ら、3人揃って砂漠に埋まってる?」
新種のサボテンかと思ったぜ。
なんて、呆れたように聖霊はため息を零す。
「あいつら絶対イカサマしてたのだわ。さもなきゃ、素寒貧になるまで負けが込むなんてことあり得ないもの」
ぐったりとしたまま、コルネリアが不満気な声をあげる。
彼女の話はこうだ。
ラサの砂漠を耐えず移動する違法カジノで、3人は偶然に顔を合わせた。
美味い酒に、飛び交う紙幣、ダイスやコインの転がる音と、ほんのり甘い香の煙。
「すごく楽しい時間であったね。途中までは勝ってたあるよ。吾輩、日銭を稼ぐのは得意ね」
呵々と笑う黒龍だが、そこまで聞けばオチはある程度想像できる。
つまり3人はギャンブルに大金をつぎ込んだ挙句、いいカモとしてありったけ毟り取られたのだろう。
「あの香……思えば、気分を高揚させる類の薬だったのかもしれないのだわ。あぁ、もっと早くに気付いていれば」
「気付いてりゃどうした? 早々に撤退したか?」
「まさか。何本かくすねて、売っ払えばいい金になったかもしれないのに、って話なのだわ!」
「そりゃいい考えだ。よし、次はそうしよう!」
地面から顔だけ出した状態で、コルネリアと英司は笑い合う。
きっとまだ、薬の効果が消えていないのだ。
「……お前らすげぇな。そんなザマを晒しておいて、もう1回行こうって考えに至るか普通。呆れを通り越して感心さえするぜ」
「修羅場鉄火場は慣れたものある。ささ、疾く掘り起すよろし」
疾く疾く、と首を左右へ揺らしながら、歌うような調子でもって黒龍は言った。
自業自得とはいえ、3人とも顔見知りの仲間である。
夜の砂漠に放置して帰路につくわけにもいかず、聖霊は砂を掘り返し始めた。
「英司……あんた、分かってるのだわ? やられっぱなしじゃいられないのだわ」
「もちろんだ。次はプランBで行こう。今度は負けねぇ」
男の誓いだ。
英司の言葉には、確かな覚悟が込められている。
「プランB? そんなのあったあるか?」
「いや、カジノに着いてから決めりゃいいかなって」
なんて。
なんとも懲りない3人のやり取りを聞きながら、聖霊は1つの決意を固めた。
家に帰ったら“愚か者に効く薬”の開発に着手してみよう、と。 - 執筆:病み月
- 月の無い夜。或いは、人知れずもたらされる平穏…。
- ●静かで、そして月のない夜
幻想。
王都メフ・メフィート郊外のある街での出来事だ。
住人たちも寝静まった真夜中。
月明かりを遮る、厚い雲が空を隙間なく覆っている。
「見つけたでありますよ!」
しわぶき一つも聞こえない、静かな夜に声が響いた。
一条の閃光が、夜空を横切る。
一閃。
手には輝くレーザー警棒。
振り抜いた先には、全身を黒い衣服で包んだ男の姿。
「っと、随分なご挨拶だな! この辺りの挨拶はそんななのか?」
転がるように後退しながら、黒づくめの男……耀 英司は、両手の刀で警棒を受け止める。
バチ、と暗闇に紫電が爆ぜた。
一瞬、暗い路地裏が真白に染まる。
警棒を振るったのは、白い全身スーツを着込んだ少年だ。ムサシ・セルブライトは軽い音を立てて地面に着地。
胸の前で、斜めに得物を構えて見せた。
「ムサシ・セルブライト、只今着任したであります! さぁ、神妙にお縄につくでありますよ!」
名乗りをあげて、腰を落とした。
地面を蹴って、駆け出す構えだ。
しかし、英司はと言えば……ゆっくりと刀を鞘へと仕舞い、呆れたように顔の横で両手を広げた。
「それなりに恨みを買って来たんでな。夜道での襲撃にも慣れたもんだが……どこの鉄砲玉かと思えばムサシじゃねぇの。何やってんだ? 夜の散歩か?」
「え? あれ? 英司さん?」
武器を下ろして、ムサシはヘルメットをあげる。
何度見ても、目の前にいるのは既知の黒い怪人だ。
「自分、誰かの悲鳴が聞こえたって通報を受けて、ここまで飛んで来たでありますが……えぇっと」
「……まぁ、怪しいってのは間違いじゃねぇやな。マスクを被った黒づくめの男なんて、怪しい以外になんて形容すりゃいいんだって話だよ」
「自覚があるようで何よりであります」
「言っておくが、お前さんの恰好も大差ねぇからな?」
黒い怪人と、白い正義のヒーローが、真夜中の路地で相対している。
そして、雑談に興じているのだ。
事情を知らない者から見れば、さぞや不思議な光景だろう。事情を知っている者が見ても、それなりに不思議な光景だ。
「しかし、悲鳴か……俺ぁ、血の臭いを辿ってここまで来たんだが」
「ということは、きっと目的は同じでありますね。英司さん、不躾なお願いなんですが、手を貸してもらっていいでしょうか?」
怪しい男ではあるが、英司とてイレギュラーズの戦士である。
その実力は折り紙付きだ。実戦経験も豊富とくれば、不審者の調査に際して十分な戦力として数えられる。
「あぁ、構わねぇよ。俺の方からも頼むわ」
たぶん、この路地の先だからよ。
そういって英司は、路地の奥の暗がりを顎で指し示す。
血の臭いに導かれ、2人が辿り着いたのは、半壊した廃墟であった。
天井や壁には大きな穴が空いており、そこが人の住めない環境であることは明白。手入れも施されていないのか、壁や屋根には蔦が這いまわっている。
しかし、英司とムサシはそこが単なる空き家であるとは思わない。
よくよく見れば、崩壊した壁の向こうに幾つもの足跡が残っているのが確認できる。1人や2人ではなく、また昨日今日に残ったものでもなさそうだ。
日常的に、空き家へ出入りしている者が大勢いる。
そして、その者たちはおそらく男性であろう。
「血の臭いはここの……地下か。誰ぞ殺っちまったか?」
「救えなかったことは悔やまれますが……せめて、1人残らず捕縛しましょう」
英司は腰から双刀を、ムサシはレーザー警棒を抜いた。
顔を見合わせ、頷きを交わす。
戦闘の用意は万全だ。
警戒も怠ることは無い。
これまで幾つもの修羅場を潜り抜けて来た2人には分かるのだ。この先に、2人が脅威に感じるほどの者が待ち受けていることに。
地下への入り口は空いていた。
足音を殺し、階段を下りる。
徐々に、しかし確実に血の臭いが濃くなった。
それから、零れた臓物の匂いも。
「この先だ」
いかにも硬そうな金属の扉。
しっかりと閉められてはいない。扉と壁の隙間から、血の臭いが漏れていたのだ。
「カウントを開始するであります……3、2」
「1!」
金属扉を蹴り飛ばす。
部屋の中へ、ムサシが転がり込んでいく。
次いで、英司も部屋へと入り視線を左右へ巡らせた。
「さぁ、手を上げろ」
「観念するであります!」
部屋の中央にはテーブル。
違法薬物らしき粉や、札束が積み上げられている。
それから、床に散らばる無数の遺体。
手足は捩じ切れ、白目を剥いて、血の泡を吹いた哀れな遺体だ。
その数は実に7、8人。
夥しい量の血が床を濡らしている。
その真ん中には赤い影。
否……白無垢を返り血で赤く濡らした女であった。
「あぁ? 澄恋?」
「……また知り合いでありますか」
きょとん、とした顔で2人を見返していたのは既知の年中花嫁こと澄恋であった。
その白い頬には、べったりと血が付いている。
「なにやってんの?」
英司は問うた。
澄恋は答える。
「無理やりに乱暴しようとしますので、少々お灸を」
「お灸……いや、悪因悪果といいますか」
警棒を下ろし、ムサシは深いため息を1つ。
初めに逢った、いかにも不審な男は英司であった。
悲鳴が聞こえたというが、それはきっと澄恋にやられた悪漢たちの零したものだ。
正義の味方を続けていれば、振り上げた拳を下ろす先が分からないということもある。
例えば、この日、この場所がそうだ。
なにはともあれ。
事の顛末はどうであれ。
この夜、街がほんの少しだけ平和になったことに違いはない。
ならばそれで、良しとするべきなのだろう。 - 執筆:病み月
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