PandoraPartyProject

幕間

冒険譚の寄り道に

関連キャラクター:ネーヴェ

スパークル

 モンスターの討伐の依頼。冒険者である彼――ルドラスは、夜の森へと足を進めていた。
 もうすぐ開催されるのだという祭に向けて、被害者がひとりも出ないようにという願いを込めて。もう村の自警団である程度は対峙したのだとは言うけれど、万が一があっては困る。だからこそ、こうしてルドラスが駆り出されたというわけだ。
(さて……今日はどんな冒険になるだろう)
 きっとまだ彼女に会うことは無いだろうけれど。あの子があの檻のような部屋から少しでも外(せかい)を知る手段があればいいと、非力で無力ながらも願っている。
 そうして見聞きして、己が眼に焼き付いた世界を語るとき、彼女は嬉しそうに頬を染めるのだ。病弱でましろい肌をしたあの子が、唯一楽し気に笑う瞬間。その瞬間の為だけに、今日も頑張ろうと思えるのだ。
 今日の依頼は往々にして良好、かつ順調に終了。
「おにいさん、ちょっとおいでよ」「今日の依頼の報酬さ!」なんて声をかけられたからよってみれば、あれよあれよという間にもてなされアルコールを口に含む。緩やかに回っていく酔い。人々の賑わいに目を細めた。
(これはネーヴェが喜ぶ冒険譚になっているのかな……)
 ただ、穏やかに笑う人々を見れば。己が冒険をしているのはただのエゴでもなんでもなく、正しいことなのだと感じることが出来る。そんな瞬間をルドラスは、嬉しく思わずにはいられないのだ。

 ――ネーヴェへ。
 今日は幻想某所の村にやってきたよ。
 星を信仰するその村では、年に一度星祭りと呼ばれる祭りがあるのだそうだ。
 今日は運よくその星祭りの運営に携わることが出来たんだ。また帰ったら話をするよ。
 目を閉じて、窓の外を見た時。美しい星空が広がっているだろう?
 その星をなぞって――いつか、色んなところへと往ける橋をかけてあげたいな。
 そうしたら、二人で。どこか遠くへと、冒険に往こう。
執筆:
拝啓、イエローの丘よりきみへ
 その村――海洋王国中央島リッツパークの外れにある小高い丘の花畑で、ルドラスは幼い少年少女に囲まれていた。
「やだー! ルドラスにーちゃんは次オレとチャンバラするんだ!」
「ぼくに木登りを教えてくれるって言ったもん!」
「ルドラスだって疲れてるのよ! わたしとおままごとするの!」
 両の手を少年に引かれ、腰には少女がしがみ付く。振り解くことも出来ず困ったように笑うルドラスに、「おいおい」と男の声が飛んできた。
「ルドラスも困ってるだろ、まずは一回お茶にしないか。丁度パイが焼けたってビアンカ叔母さんが呼んでるぞ」
 子供達にとっては、焼きたてのパイに勝る言葉はなく――やったぁ、と駆けていく背中を見送り、ルドラスは声の主へ向き直る。
「助かったよジュリオ、みんな本当に元気だから……」
「悪いな、またこうして花畑で遊べるのが嬉しいみたいで……本当にありがとう、ルドラス」
「いや、いいんだ。こんなに美しい場所なんだから、この光景を守れてよかった――きみも、力を貸してくれてありがとう」

 ――あんた、冒険者か。俺の村を守ってほしい。

 ルドラスがリッツパークの酒場で、汗まみれで肩で息をするジュリオに声を掛けられたのは一昨日のこと。
 彼の住む村に凶暴化した獣が住み着いたのだと言えば――ルドラスは二つ返事で頷き、ジュリオと共に事態を解決したのだった。
 一面の菜の花は美しく、多少踏み荒らされた形跡はあれどすぐに復活するのだと村の者達は話していた。

「ほら、俺達もパイ食いに行こうぜ。早くしないと全部食われちまう!」
「ああ、そうだな」
 歩き出せば――甘く、香ばしい香りが鼻腔をくすぐった。

 ――ネーヴェへ。
 今日は海洋で、獣が襲う村を助けて来たよ。
 菜の花の咲く花畑はとても綺麗で――なんだかきみの御屋敷の庭を思い出したんだ。
 俺が転寝をしていると、きみは横でたんぽぽとシロツメクサの花冠を作ってくれていたね。
 村の人から美味しいパイの作り方を聞いたんだ。次に帰ったら、一緒に作ってみよう。
 俺はお菓子作りなんてしたことないけれど――きみとならば、きっと美味しく作れる。
 そう、思ったんだ。

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