PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

混沌一周一人めし

関連キャラクター:志屍 志

豊穣産幻想経由茸尽くし
 志屍 瑠璃は眼鏡を曇らせながら、鍋の中を見た。
「なるほど、茸尽くし、と」
 出てきた小型の土鍋には、地元で取れた茸、そして店主が育てた茸がみっしりと入っている。

 店主は豊穣から移住してきたという精霊種であり、様々な茸を育てることに関しては名人だと自負していた。小さな店は凝ったところのない内装で、飾りと言えば一輪の白い野ばらが飾られているのみ。村に住む職人や農夫がやってきては注文し、カウンター席にどんどんと酒や料理が増えていく。
「幻想でこういった豊穣風の味わいを楽しむのもまた一興、というところでしょうか……」
 一口すすれば、しっかりとした出汁に味噌をベースとしたまろやかな味わいが口に広がる。もう二口。
「おや」
 かりこりとした茸の食感に混じるとろっとした感覚と塩味は、チーズだろうか。
「悪くないですね……」
 もっちりとしたチーズと茸は相性がいい。そして茸と味噌の旨味もまた。味噌とチーズは? ――完璧だ。
 そもそも味噌と乳製品の相性がいいのは、味噌バターラーメンの昔から明らかではないか。
「ここの村では牛乳が良く取れましてね、それで貰ったチーズを試しに合わせたところ、これが大正解。あっという間に村の流行ですよ」
 にこにこと笑みながら、整った顔の店主がもう一品どうぞ、と渡す。
「はい、注文の辛茸水餃子です。練達から来た旅人さんに教えてもらった食べ方なんですけどね、これまた大正解。村の流行その二になって」
 瑠璃は餃子を酢につけてから、口に運ぶ。
 ぷりぷりとした生地の中には肉はなく、ただ、みじん切りにされたキャベツに、葱やニンニクをベースにした辛味噌で和えた茸のみじん切りがあるのみ。
 だが、それがめっぽう……いいのであった。
(肉汁ならぬ、茸汁がじんわりとしていますね。歯ごたえも肉とは違って面白いですし、味のある生地にさっぱりとした酢が合わさって、すいすいいけます。そうしているうちに辛味噌の味が後から来て……ふふ、お酒を飲む人でしたらここでごくごくと飲むのでしょうね)
「餃子、揚げたのや焼いたのもいけますよ」
 店主の誘うような声が、瑠璃の耳に心地よく響いた。
執筆:蔭沢 菫

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