幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
なんでもいいですよ
なんでもいいですよ
関連キャラクター:すずな
- もてなしの心
- たん、たん……たたん。
夕焼けの空、硬い石で塗装された道が紅く染まっている。
たたん、たたたたた。
その影が、姿が見えれば我慢できずに足が前へと、彼女達の方へと向かってしまう。
「小夜さん! フィーネさん!」
声を上げて名を呼ぶと二人共顔を綻ばせてくれるのが理解って、待ち遠しかった心が漏れてしまった事が知られてしまった事に頬が夕陽色に彩られていく。無かった事にはならないのだ。もういいやと二人の前まで駆け寄ると早速黒髪の彼女は微笑みながら声を掛ける。
「すずな……お店までの道は貴女が教えてくれたのでしょう。どうしてここまで?」
意地悪だ。盲目の彼女は時折こんな意地悪をする。わかっているだろうに、知っているだろうにこの人はこんな風に意地悪を言う。
「ちょ、ちょっと迷ってないか……心配になった、だけですし……」
心中を見透かされたかと焦り、恥ずかしくて言い訳の語尾も弱くなってしまう。しかし、そんな言葉と感情を向けられるに焦がれているのもまた事実。誤魔化す様にフィーネの方に顔を向ければ此方は純粋な笑顔を向けてくれる。
「すずなさん、お仕事、お疲れ様です」
「フィーネさんもわざわざありがとうございます」
お仕事着も、似合ってますね。とフィーネの言葉に何故か照れが隠せない。
今のすずなは親友であるマリア・レイシスが切り盛りしている串カツ屋の制服姿。休憩中に迎えに行ってもいいかとマリアにお願いし、笑顔で送り出された所であった。
「はっ……! 休憩時間! じゃ、じゃあ行きましょうか、案内しますね」
ここで話していたい気持ちも無くはないがもう少しで戻らなければ自由時間も減ってしまう。この後は貸切にしてもらったが、それでも働いている者達に任せっきりにする訳にもいかない。
「ゼファーさんは先に店で待ってます、ここまで来たらもう近いのでもう少し頑張りましょう」
かつんかつん、小夜の杖が鳴る。
たん、たたん、フィーネとすずなが大事な彼女の速さに合わせ歩く。
「ふふ……こんなに近いなら店で待っていても良かったのよ、すずな?」
「も、もう! いいじゃないですか!」
「串カツ……」
「大丈夫ですよ、揚げ物以外もありますから」
刃を振るわない日があっても良い。
剣を振るう代わりに誰かを饗す日があっても良い。
この時間もすずなにとって、大事な一時であることに違いない。
扉を開けば聞き慣れた声がする。
「先に頂いてますよぉ」
「いらっしゃい! 小夜くん、フィーネくん! 先ずは飲み物から注文いいかな!」
手を洗い、制服を整え二人を席まで案内する。そして満面の笑顔を向けながら。
「串カツマリ屋にようこそ、ご注文は何にしましょう!」 - 執筆:胡狼蛙