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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

本を探して

関連キャラクター:マリエッタ・エーレイン

辞典専門店『Zwar』
 黝く燻んだ外壁、店名は疎か開いているのかすら判らず、注意深く見なければ風景の1ピースとして通り過ぎてしまいそうな程に小さな書店。
 本好きの中では有数の辞典専門店『Zwar』の鉄錆の浮いたドアノブを引けば、陽の差さない店内には天井までうんと高く背を伸ばした本棚に有りと有らゆる辞典が犇いていた。
 濃縮された洋墨の匂いと埃の匂い。
 高級板紙に立派な装飾の施された外函を纏って気高いデザイン辞典。
 マリエッタの小さな両掌でも事足りる様なころんと小さく愛らしい辞典。
 将又、子供の学習用の辞典まで用途に合わせて、此の広い様で狭い世界から蒐集された辞典の品揃えを前にすると、眸が眩く想い。

 世界の『五文字』と『七文字』の言葉。
 美しい宝石に、魔法道具。
 魔女の描いた薬草の事、御伽噺の歴史。
 怪異ガイドに、かみさまの話。

 日暮れ迄たっぷりと時間を掛けて選び抜いたのは天気の言葉が詰まったもの。
 本を読む時により情景が想像し易くなるし、手紙に小洒落た言い回しが出来る様になるだろう、と思っての事だ。
 会計を済まし外に出れば烟る様な細い雨に、早速辞典を捲る。『煙雨』、『糸雨』と名前を識れば憂鬱な雨も愉しくなるから不思議な心地!
 『青梅雨』を浴びる蛙が『ゲコ』と鳴きながら帰路に着く彼女を見送っていた。
執筆:しらね葵

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