PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

聖教国物語

関連キャラクター:スティア・エイル・ヴァークライト

なりゆき当主
●奇しくも
 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が年若くしてヴァークライト家の跡を継ぐ事になったのは数奇な事情が絡んでいる。
 かつての天義動乱――冥刻のイクリプスは彼女にとっても特別な事件であり、その結末はそれ相応の苦味を、痛みを噛み締めずにはいられないものだった。
 長らく養育してくれた叔母との関係は良好であり、スティアはヴァークライト家を背負わねばならぬ身ながら、貴族的な、政治的な実務の方には殆ど触れていない。
 スティアの主だった活躍場所はあくまでローレットであり、特異運命座標としての活動は今の所、故国の政治参加や統治よりはずっと優先順位の高いものになっていた。如何せん『神意により特異運命座標に選ばれた』事は取り分け宗教色の強い聖教国においては重要な事実であり、その強力なカードが父母の件で『大変な問題』を有していたヴァークライト家のお取り潰しを回避した面もあるのだから、その辺りはかえって好都合だったと言えるかも知れないのだが。
「……でもなぁ」
 スティアは顎に指を当てて考える。
 彼女の脳裏を過ぎったのは親友であるサクラ(p3p005004)の顔である。
 スティアと同じく名門ロウライト家に生まれた彼女ではあるが、彼女は一粒種ではない。
 未だ意気軒昂な『最高権力者』ゲツガ・ロウライトに加え、顔が良く出来も良い兄が二人も居た事をスティアも知っている。
 陰惨な過去から自分が継ぐ以外の方法が事実上無かったスティアと異なり、あの奔放な『サクラちゃん』は殆ど家を継ぐ事など考えてこなかったに違いない。
(……うーん、だからこそ多分びっくりしてるよねぇ)
 ロウライトの兄二人が政争に破れ出奔した事は天義のちょっとしたニュースになっていた。
 巻き込まれたサクラが疲れた顔で「大丈夫」と言っていた事を思い出す。
 スティアは知っているのだ。サクラがそんな顔で「大丈夫」な時は、大抵大丈夫ではない時だという事を。
 まったく世の中は奇妙なものだ。
 縁とは時に不思議な繋がり方をするものだ。
 スティアのみならずサクラまでにも似たような境遇を望むとは――
「……」
 スティアは暫しの沈思黙考で出来る事を考えた。
 頑張り屋のサクラは弱音を見せないに違いない。
 ならこんな時に自分がしてあげられる事といったら――
「……よし、ケーキを焼いてあげよう!」
 ――普通に接してあげる事位しか思いつかない。
 本当に駄目ならきっと頼ってくれる。親友を信じるのはそういう事だ。
 だから、スティアはふわふわのケーキを焼くのだ。
 柔らかいスポンジに特別なメレンゲを立てて、フルーツで飾ってみようと思う。
「うん!」
 スティアが次に脳裏に描いたサクラの顔は――満開の笑顔だった。
執筆:YAMIDEITEI

PAGETOPPAGEBOTTOM