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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

砂塵行路

関連キャラクター:ラダ・ジグリ

満天
 星々が、まるで合唱でもするかの様にギラリ、ギラリと光り異様な迄の存在感を放って居た。
 其の輝きは足元を照らし、夜には存在し得ない己の影すら知覚出来る。
 淑やかで嫋やか。母性の象徴であり、太陽が無ければ輝けない筈の月光が砂丘を照らし、まるで其れは、太陽の様に眩い。

「唖々、良かった。今日が満月だ」
 ぽつり、呟いた言葉は誰の耳に届く事なく、煌々とした星月とは裏腹に底冷えを覺える砂漠の夜の冷たく乾燥した空気へと溶けて行く。
 地平線近くの満月を望むるのが、ラダは好きだった。
 自分の商会を立ててからと云うもの、中々好き勝手にとはいかない。其れでも何だかんだと理由や商談を取りつけて――或いは衝動的に飛び出して――幾度も踏みしめた砂漠の途を辿り月との逢瀬を重ねて来たのだ。

 然して、其の恋路を邪魔立てする無粋な輩もいたもので――
 赫を吸って濡れたずしりと重いマントの一切合切が彼女の体液では無く、少し小高く積み上げて尻に敷いてみたりした盗賊達の亡骸であると物語っている。

「やれ、やれ。何とかは馬に蹴られて死んでしまえと云う言葉を識らなかったのかい」
 普段は手心を加えてやらない事もないが、燦々とした此の夜に、仇なす者には容赦はしない。
 焦がれた月へ手を伸ばせば、其の身姿の輪郭をなぞる様に色濃い影が落ちた。
執筆:しらね葵

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