PandoraPartyProject

幕間

砂塵行路

関連キャラクター:ラダ・ジグリ

楽園オアシス

「あら、ラダさん?」
「……エルスか。こんにちは」
「ええ、こんにちは。ラダさんも休憩かしら?」
「ああ、そんなところだ。長く歩いたものでな、少し涼もうかと思って」
「ふふ、どうぞごゆっくりなさってね。私はそろそろ行くけれど、ラダさんは忙しいだろうから」
「すまないな、エルス。ありがとう」
「どういたしまして!」
 エルスの隣、冷たい水に足を浸したラダはうんと伸びをして、ふぅ、と息を吐く。
 ちゃぷん、ちゃぷん、と尻尾が水面を揺らし、心地よい冷感が肌を伝った。
(……さて、)
 次はどこへ往こうか。
 砂塵舞い踊るラサの灼熱はどんな生き物にも等しく厳しく降り注ぐ。
 染み渡る冷感に目を細めたラダの道行きは、未だ長く、果てしなく。
執筆:
満天
 星々が、まるで合唱でもするかの様にギラリ、ギラリと光り異様な迄の存在感を放って居た。
 其の輝きは足元を照らし、夜には存在し得ない己の影すら知覚出来る。
 淑やかで嫋やか。母性の象徴であり、太陽が無ければ輝けない筈の月光が砂丘を照らし、まるで其れは、太陽の様に眩い。

「唖々、良かった。今日が満月だ」
 ぽつり、呟いた言葉は誰の耳に届く事なく、煌々とした星月とは裏腹に底冷えを覺える砂漠の夜の冷たく乾燥した空気へと溶けて行く。
 地平線近くの満月を望むるのが、ラダは好きだった。
 自分の商会を立ててからと云うもの、中々好き勝手にとはいかない。其れでも何だかんだと理由や商談を取りつけて――或いは衝動的に飛び出して――幾度も踏みしめた砂漠の途を辿り月との逢瀬を重ねて来たのだ。

 然して、其の恋路を邪魔立てする無粋な輩もいたもので――
 赫を吸って濡れたずしりと重いマントの一切合切が彼女の体液では無く、少し小高く積み上げて尻に敷いてみたりした盗賊達の亡骸であると物語っている。

「やれ、やれ。何とかは馬に蹴られて死んでしまえと云う言葉を識らなかったのかい」
 普段は手心を加えてやらない事もないが、燦々とした此の夜に、仇なす者には容赦はしない。
 焦がれた月へ手を伸ばせば、其の身姿の輪郭をなぞる様に色濃い影が落ちた。
執筆:しらね葵
砂漠横断
 砂漠。
 日中は気温が高く、紫外線が痛い。
 通常なら長袖を脱ぎ捨てたいだろうが、体中の水分が余計に奪われる。
 更に低温火傷を起こして命に係わる事がある。
 そして夜間。
 日中とは逆に気温が下がり、着こんでいないと耐えられない。
 ちなみになぜ寒暖差があるのかと言えば。
 太陽の光を遮るものがない、というのがひとつとしてあるらしい。
 昼は太陽が地面を熱し、熱くなる。
 夜は地面の熱がどんどん奪われて気温が下がる。
 他にも空気中の水分も関係しているようだが、その辺は割愛するとして。
 そんな砂漠の中にラダが一人、横断していた。
 砂漠はどこまでも同じ景色が広がり、生物も碌にいないように見える。
 が、意外と生物はいるものだ。
 目に留まったのは砂漠ワニ。
 体色が砂の色と同じであり、景色に溶け込みやすい特徴を持つ。
 ラダはラサ出身故に砂漠で獲物を探すのは得意である。
 銃を構える。狙いをつけ、弾を放つ。
 弾はワニの頭部を穿ち、苦しませずに命を奪う。
 獲物は食材に。
 所持している食材に余裕がない訳では無いが、たまには新鮮な肉が食べたい。
 余った肉は保存食にしてもいいし、他の生物の餌にもなる。

 夜のオアシス。
 テントを張り、火を起こす。
 昼間に狩ったワニの肉をスパイスを使い焼く。
 香ばしい匂いが鼻腔をつく。
 食欲をそそる。
 完成が待ち遠しいラダであった。
執筆:アルク
敗戦の宴。或いは、砂漠の商人…。
●干々砂路
「よぉ、ラダ。酒がたんまり余ってただろ。あれ、全部出しちまおうよ」
 砂漠のどこか。
 古い遺跡の真ん中で、焚火を囲む女が3人。
 そのうち1人、鋭い目つきのカウガール風な女が告げた。
 名をアン・バゼット。元盗賊の商会員だ。
「余っているわけじゃない。あれは売り物だ。少しならともかく、全部を出せるはずがないだろ」
 薪を片手に、ラダ・ジグリは呆れたような溜め息を零す。
 冷淡な眼差しをアンへと向けるが、その表情は少々暗い。
 そんなラダの様子を見て、もう1人の女がくすくすと笑い声を零した。
「アレが売り物? 混ざり物だらけの安酒を誰が買うと?」
 そう言って彼女、メアリー・バゼットは口元を手で覆い隠した。
 若干、ムッとした顔をしながらラダは肩を竦めてみせる。アンとメアリーの言っている酒とは、つい数時間前にラダが仕入れたものである。
 もっとも、その品質は“劣悪”に過ぎた。
 混ざり物の多い安酒。
 味は悪く、酒精だけが馬鹿に高い。
「たしかにあれは売れないな……飲んでもいいが悪酔いするぞ」
 荷馬車の鍵を放り渡して、ラダはがくりと肩を落とした。
 安酒を買い付けたのはラダのミスだ。
「何言ってんだ。お前も一緒に飲むんだよ」
「敗戦の苦汁は酒で洗い流しましょう」
 なんて。
 嬉々として荷馬車へ走る盗賊姉妹の後ろ姿を、ラダは黙って見送った。
執筆:病み月
駱駝。或いは、創意工夫の砂漠の旅人…。
●奇妙な来訪者
 駱駝であった。
 ところはラサのとある都市。街の外の砂漠を一望できる小さな喫茶店。
 任務の帰りに顔を合わせて、何とはなしにチャイを飲みに来たラダ・ジグリとエルス・ティーネは、そこで奇妙なものを見た。
「あれは……何だ?」
 生姜の香りを楽しみながら、ラダは砂漠の果てを見る。
 一口、チャイを口に含んでエルスは目を丸くした。
「何って、駱駝だわ。コブは幾つあるかしら?」
「コブは2つあるな」
「では、フタコブ駱駝よ」
「……それはそうだが」
 駱駝であることに間違いは無い。ひと目見れば、その程度のことは分かる。
 問題は、件の駱駝の荷物……というか、装備であった。
「背負っているのは何に見える? 私の目には鉄板のような物を背負っているように見えているが?」
「そうね。鉄板、というか……ソーラーパネルという物ではないかしら? ほら、錬達の方で使われているっていう」
「あぁ、あれか。太陽光を動力に変えるとかいう」
 それを駱駝が背負っているのだ。
 元々、駱駝は力の強い生き物だ。足は遅いが体力がある。重たい荷物を背負って歩く、砂漠の旅の良き供である。
「胴にかけられているのは、もしかしてクーラーなのか?」
「ソーラーパネルで得たエネルギーで、飲み物を冷やしているのね」
 なんて。
 2人の静かなティータイムは、そんな風に過ぎていく。
執筆:病み月
新しい可能性。或いは、砂漠の旅…。
●太陽の光
「解せぬ( ‘ᾥ’ )」
 熱い砂の上に伏し、リコリス・ウォルハント・ローアはそう呟いた。
 その背中には、1枚の大きなソーラーパネル。太陽の光をエネルギーに変えるという練達の発明品であり、つい先日、伝手を使ってラダが仕入れたものである。
 とはいえ、ラダが手に入れたソーラーパネルは型落ちの安物。相応に重たく、さっそく背負ってみようとしたリコリスは、支えきれずに地面に倒れ込んでいるのだ。
「リコリスには無理だろうな。私はソーラーパネルなら背負えたが、クーラーボックスまでセットとなると厳しいものがある」
 そう言ってラダも、背中に背負ったソーラーパネルを地面に降ろす。
 用意できたのは、ソーラーパネルが3枚と、ソーラーパネルで得た電力により稼働するベルト付きのクーラーボックスが2つ。ソーラーパネルとクーラーボックスを背負って砂漠を移動するのなら、いつでも冷えた飲料が飲めるし、新鮮な肉も運べるようになると踏んだが、そう上手くはいかないらしい。
「お肉も飲み物も無駄になっちゃうね。食べちゃおう?」
「まぁ、待て。まだ一縷の望みが残っている」
 と、そう言ってラダは視線を右へと向ける。
 そこにいたのは黒き四肢だ。太い四肢に、筋肉質な立派な体躯。ルナ・ファ・ディールはさも軽そうにソーラーパネルを獅子の下半身に背負い、それからクーラーボックスを人の上半身に担いだ。
「お、おぉ? 動いてる動いてる。背中が冷たくなってきた」
 何の負担も無いといった様子で、ルナはそのまま周囲をぐるりと歩いて回る。その間にもソーラーパネルは電力を作り、クーラーボックスの内部を冷やす。
「どうだ? 重たくは無いか? そのまま1日、砂漠を歩くことはできそうか?」
「あー、まぁ、重いっちゃ重いが歩けはするな。1日か2日ならどうとでもなるが……」
 と、そこでルナは首を傾げた。
「どこかに肉を運ぶなら、俺が走った方が速ぇな」
 ルナの言葉を聞いたラダは、がくりと肩を落とすのだった。
執筆:病み月

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