PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

日日是好日

女性が大好き夏子ちゃんと
夏子が大好きタイムちゃんの
愛とか恋とか捻くれ曲がっちゃって
されどソレなりにかけがえのない大切な日々の情景


関連キャラクター:タイム

覚えていて欲しい、それだけなの
 ぐつぐつと沸騰するお湯に切り分けたブロッコリーと塩を入れて茹でる。
 蓮根と南瓜を素揚げし、油から上げて更に炒め火を通す。
 三分程置いたブロッコリーを一口齧ってみれば、柔らかい房と仄かに甘く程よい歯応えの茎が口内で混ざる。
「えぇと、ちょっと熱を取らないと」
 器に移して冷ましている内に、炒めた蓮根と南瓜に塩コショウと甘辛いたれで味付けを加えればシャキシャキ蓮根とほっこり南瓜の甘辛炒めの完成だ。
「……うん、こんなもの、かな……?」
 火と油を使ったキッチンの中はじっとりと熱が籠る。額に浮かび上がった汗が滴り落ちる前に腕で拭う。
 後ろで縛った髪は纏められ、ゆらゆら揺れる金色は馬の尻尾のようにしなやかに流動している。
 アルミ製のお弁当箱が二つ、タイムには大きいであろう物ともう一回り小さいサイズのそれに先程作った野菜達を敷き詰める。
「崩れないように、しなくちゃ」
 お箸でも取りやすいようにぎゅうぎゅう詰めにはせず、ふんわりと隙間を無くしていく。詰めている途中でハッと気づくと、脇に置いておいたアスパラの肉巻きを一口大に切り分け、二切れずつ余ったスペースに詰め込む。
 指に着いた醤油ソースを誰も居ないからと指で舐めとり、なんだかこそばゆい気分になって流水で洗い流す。誰の目も無い今、頬を紅くする必要も無いと分かっているのに、眼前のお弁当箱を通してからかわれている様で恥ずかしくなった。
 誰かに喜んで貰いたくて、美味しいと言って貰いたくて、笑顔を自分に向けたくて。
 彼の為と言いながら己の欲を満たしたいと理解している。
 好きだからわたしを見て欲しい。
 貴方が誰かに縛られる人では無いと分かっていても。
 迷いが心に靄を纏わせても、あなたがわたしの手を取ってくれれば|そんなの関係なくなるだと《共に迷ってくれるのだろうと》。
 野菜を中心としたメニューを考えたのも、夏子の出身を考えた時に慣れ親しんだ味を予想したもの。
 どこまでもずるい、彼を捕まえる為なら得手とは言えない料理だって頑張ってしまう。
 でも理解している、分かってしまう。美味しいと言われたのなら、こんな思考全て吹き飛んで嬉しくなってしまうのだと。
「お願いします……」
 どうか下さいな。
 あなたの美味しいをわたしに独り占めさせてください。

「あ、夏子さん! 今日の夜、ご飯食べていかない? ちょっと作りすぎちゃって……」
 嘘だ。ちゃんと二人分考えて作った。
「た、大したものじゃないよ? この間お弁当美味しいって言ってくれたから練習したの」
 嘘だ。これだけは自分でも記憶に無いはずなのに、誰かに習った覚えもないのに体が作り方を覚えていた。
「えぇと、シチュー……どう、かな?」
 意地悪だけど優しい彼は来てくれるだろう。言葉に出さない、自分でも気づかない想いをあなたに。
 ずっと忘れないで。
 わたしの味を。
 わたしのことを。
執筆:胡狼蛙

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