PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

日日是好日

女性が大好き夏子ちゃんと
夏子が大好きタイムちゃんの
愛とか恋とか捻くれ曲がっちゃって
されどソレなりにかけがえのない大切な日々の情景


関連キャラクター:タイム

一足早い夏の訪れ
 ――みんみんみんみん。
 ――ジジッ! ジジジジジジッ!
 陽炎揺れるアスファルトに手を伸ばせば、じんわりと濡れている様にも見える。追いかけども追いつけぬ其れは幾ら掴んでも消えてしまう逃げ水であり、木陰の合間から顔を覗かせた蝉が此方を笑っているようだ。
「暑いねぇ〜。もう帰ろうかぁ〜」
「出かけようって言ったのは夏子さんじゃない」
 珍しく何処か行こうよなんて言うものだから張り切って着る物を選んだり、変な所は無いか姿見で念入りに見直したり、兎に角ぎりぎりまで粘って整えたのにこうだ。
「いやぁ、まさかこんな暑いと思ってなくてですね〜。ちょっと? かなり? 滅入っちゃって……」
 あぁ、分かっている。理解している。夏子はこういう男なんだと。だけど、それでもだ。
「楽しみにしてたんだもん……」
 幾ら月日を重ねていたとしても、この男からの誘いは特別で、甘い甘い呼び水で。
 他では味わえない蜜なのだ。
「あれあれ! ごめんて! そんな顔しないでさぁ〜。大丈夫大丈夫、冗談だから、さ! もうちょっと休憩したら、行こう行こう〜」
 思わず吹き出しそうになる笑みをなんとか抑えた自分を褒めてあげたい。ちょっとした冗談のつもりで拗ねてみたものの、思ったより慌てさせてしまったようだ。
「本当? 帰らない?」
「ほんとうだってっ、僕がタイムちゃんを悲しませる筈ないじゃないかぁ」
 これは本当。怒ったり拗ねたり忙しいタイムも此処は信じている。彼は優しい人だって知っている。それが自分だけにではない事に少し嫉妬してしまうのだけれど。
「ん……」
 見上げればきっと此方の顔を見て話しているのだろうが、今は少し恥ずかしい。幾年経とうが自分の女の部分を認識するのは何処か恥ずかしさがある。
「そう言えば何処に行くって聞いてなかったけど」
 誤魔化す様に話を振れば、夏子がふにゃっとした笑顔で乗ってくれる。
「もうすぐ夏でしょ? ほら、海と言えばわかるでしょ? ほらほら、あれっ、わからない? 買うものあるじゃん? 水ぎ……」
 先程の高鳴りは何処へやら、楽しそうに欲望を出す夏子にため息をつく。私を見てくれていると喜んでいる自分も大概ではあるが。
「さ、休憩は終わり! 行きましょ夏子さん!」
 答えない代わりに彼の手を取って先を進む。
「あっ、ちょっと待ってもう少し〜」
 ただ試されている女にはなりたくないから。
 貴方の手を自信持って取れる乙女でいたいのだ。
執筆:胡狼蛙

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