PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

日日是好日

女性が大好き夏子ちゃんと
夏子が大好きタイムちゃんの
愛とか恋とか捻くれ曲がっちゃって
されどソレなりにかけがえのない大切な日々の情景


関連キャラクター:タイム

初夏の喫茶店にて
「ねぇ、夏子さん」
「何、タイムちゃん」
 躑躅の花が散り始めて、だんだん太陽が顔を出している時間が長引いてきた初夏の頃。
 涼しい風が窓から入ってくる喫茶店で、タイムと夏子は過ごしていた。
 カラン、と少し溶けた氷がグラスの中で動いて音を立てる。
 ミルクセーキをくるくるとストローでかき混ぜながら、タイムはむすりと膨れていた。
「さっきウエイトレスさんにデレデレしてたでしょ」
「ええ~? そうかなぁ? そうかもなぁ?」
「もう!」
 頭を掻きながらでへへと締まりのない顔をしている夏子の足先を軽く蹴る。
 痛くもない癖に「いてて」と大袈裟に足を擦っているのがちょっとだけ腹立たしい。
「だってね、タイムちゃん。綺麗な女性を口説くというのはもう男に生まれたからには最低限の礼儀でありまして」
「そんな礼儀聞いたことないわよ」
 呆れたように溜息を吐いた。このやり取りも一度や二度の事ではない。
 目の前の夏子という男が生粋の女好きで、よく破廉恥な妄想をしては笑みを浮かべるくらい助平なのはタイムもよく知っている。知ってはいるが。
「よりによって、私の目の前でするかしらね~、普通~!」
「つまり、目の前でなければ口説いても構わない……?」
「閃いた! みたいな顔しないでよ、もう!」
「ごめんごめん、冗談だよ」
「……」
「あ、あり? もしかしてぇ、俺信用されてない感じぃ~? 夏子傷ついちゃう~~」
「……」
「あ、待って、もしかしてマジで怒ってる?」
 おどけた態度から一転し、あわあわと慌てだした夏子があんまりにも可笑しいのでタイムは耐え切れず吹き出してしまった。
「ああっ、真剣に謝ってるのにぃ~!」
「ふふ、ごめんなさいね。でもちょっと怒ったのは本当よ?」
 ミルクセーキの優しい甘さにタイムは目を細める。

 だって、わたしはあなたのことが好きなんだもの。
 他の女の子に目を向けられて、ましてや口説くなんて。面白くないにも程がある。
 もっとも夏子の『好き』は全ての女性に等しく囁かれ与えられるもので。
 自分の『好き』は一人に捧げられるもので大きな違いがあるのだ。
 夏子がそれに気づくのはまだまだ屹度先の話。

(あーあ、何でこの人の事好きになっちゃったのかなあ)
 心の内のボヤキとは裏腹に、タイムは微笑みを浮かべていた。

「タイムちゃん?」
「ううん、何でもないわ。ねぇ、夏子さんこれ食べたいな」
「レディのお望みと在れば如何様にも。すみませ~ん」
 再度テーブルへ来たウエイトレスにメニューを指さしながら注文をする夏子の顔をタイムは眺めていた。
 相変わらずデレデレしていたので、さっきより強めに足先を蹴ってやった。 
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