PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

日日是好日

女性が大好き夏子ちゃんと
夏子が大好きタイムちゃんの
愛とか恋とか捻くれ曲がっちゃって
されどソレなりにかけがえのない大切な日々の情景


関連キャラクター:タイム

わたしが灰になったら
 冷房なんてないラサの夜は暑く、じんわりと肌が汗ばんでくる。
 その汗を拭う時間さえ惜しく、酷く億劫だった。
 肌触りの良い濃紺のシルクは夜空の様で、縁取られた装飾は光を反射し煌めいている星の様で、どこかで読んだ熱砂の国の盗賊と姫の御伽噺の一幕の様な空間。
 非日常溢れるこの時を、夏子とタイムは愉しんでいた。

「ね、タイムちゃん。今どんな気分?」
 いつもより、低く甘く擦れた声で夏子は膝の上のタイムへ囁いた。
 擽ったそうに身を捩ったタイムは、自分を囲っている夏子の方を向いた。
「さぁ、どうかしらね?」
 いつもの微笑みが優しい陽光なら、今のタイムは月光の様に蠱惑的で妖艶な笑みを浮かべていた。
 タイムが振り返った際に肌に触れた金の髪に、今度は夏子が擽ったそうに目元を緩めた。
 
 本物よりずっと小さい夜の帳の中に、タイムと夏子は身を隠していた。
 普段は見せることのない、二人だけが知っている秘密の表情。
 それを誰にも見せたくなかった。

 互いが身を寄せれば唇と唇が触れてしまいそうな距離だった。
 けれど、なんだか勿体なくてこうして二人、炎に照らされ互いの顔を見つめあっている。
 
 ああ、熱帯夜とはよく言ったものだ。
 こんなにも暑くて、熱いのだから。
 決して気温だけの所為ではない。
 胸の奥で燻っていた火種が、この人といるだけで燃え上がって、この身を燃やし尽くしてしまいそうだから、こんなに暑くて、熱いのだ。

(わたし、どうなっちゃうのかしら)
 熱に浮かされて。
 溶けて、解けて、融けてしまって。
 境目も何もわからなくなって。
 朝日が昇る頃には、まっさらな灰になってしまうのだろうか。
 でも屹度、そんな姿になっても、きっとこの男は優しく丁寧に灰を掬い上げて。

「大好きだよ、タイムちゃん」

 なんて、平気な顔で言って掌の中の灰に口づけるのだろう。
 その言葉の儘に、恋や愛の詩(うた)を歌うこともしないで。
 風に舞いあがったそれを見送ったら、振り返ることもしないで前を向いて歩くのだ。

(あなたは、そういう人だものね)

「……タイムちゃん?」
「ふふ、ごめんなさいね、ちょっと考え事してたわ」
「酷いなぁ、こんな色男を放っておいて考え事なんて」
「ふふ、ごめんなさいね。……ねぇ、夏子さん」
「なぁに?」
「――なんでもないわ、呼んでみただけ」
 だから、絶対に教えてやらないのだ。
「えっ、何? 真面目に気になるんだけど……?」
「ふふ、教えてあげないわ」

 屹度、彼が恋愛という物を理解できるまでこの答えにはたどり着けない。

 わたしが灰になって、風に吹かれて彼に纏わりついて。
 あなたが一生私の事しか想えなくなればいいのにと思っているの、なんて。

 絶対に教えてやらないのだ。
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