PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

日日是好日

女性が大好き夏子ちゃんと
夏子が大好きタイムちゃんの
愛とか恋とか捻くれ曲がっちゃって
されどソレなりにかけがえのない大切な日々の情景


関連キャラクター:タイム

七夕のねがいごと

「何もこんな七夕の日まで、律儀に出て来る事ないのにねぇ。本当、嫌な怪異だよ」
 同行している旅人が、エネミースキャンを展開しながらげんなり顔で呻いた。
 再現性東京。怪異出現の情報を元にローレットは即席パーティを現地へ派遣した。
 タイムそのうちの一人だが、どうにも頭の中で一つの単語が引っかかる。

――七夕。

 豊穣で暮らしていれば、行事の名前くらいは耳にする。
 愛し合う織姫と彦星が、一年の中でたった一度、再会を許される日。
 国をまたいで恋仲にあるお貴族様だって、こんなにハードな遠距離恋愛はしないだろう。
 aPhoneみたいにSNSで繋がれる訳でもなく、手紙すら送れずに一年、ずっと会えない人の事を想い続けるなんて!
 もしも自分が織姫の立場なら、天の川の対岸をぼんやり見つめる日が続くに違いない。妄想の中で彦星が振り向いた。
 その顔はとても、夏子そっくりで。

(~~っ、だめ! 一年も放っておいたら夏子さん、ぜったい他の女の子に余所見しちゃうわ!)

「タイムさん、aPhone握りしめて、どうかしたの?」
「ぇ、あっ! な、なんでもないっ……かな!」
「もしかして、SNSで怪異の情報を調べてくれてた? そういえば最初の目撃情報、ネットの掲示板からだったらしいね」

 仲間の証言に助けられ、コクコクと頷き話題を逸らすタイム。
 危ないと密かにため息をついたのも束の間、今度は別の方から驚きの声が上がった。

「ねぇ! ネットに繋がってるはずなのに、掲示板に投稿できない!」
 これも怪異の仕業だろうか。スマホの表示に電波のマークはあるが、通じないと仲間達が口々に言う。
 タイムも慌ててaPhoneを操作し、SNSを立ち上げる。
 開いたのは夏子と二人だけのトークルーム。ここには短冊も笹の葉もないけれど、せっかくの七夕だから。
(いいよね。どうせ投稿できないなら、わがまま書いても許されるよね)

『会いたいです』

――届いて。
――届かないで。

 指先が震える。トン、と投稿ボタンを押して待つこと数秒。
 再投稿を促すマークが表示されるだけで、送られた様子はない。
 どっと疲れが押し寄せて、緊張していた事に気付く。
 いつ怪異に襲われるかも分からない状況だから、当然ではあるのだけれど……怪異よりもメッセージひとつに感情がぐちゃぐちゃになるなんて。

「――っ、タイムさん!」
「!!」

 仲間が叫ぶ。反射的にタイムは魔術の構成を脳内で編み出した。
 勇気を込めた光の奔流が周囲を薙ぎ、間近に迫った黒い影を打ち払う!
 一匹やられたのを皮切りに、複数の影が姿を現した。怪異だ!

「回復は任せてね。出来る限り支援します!」

 敵に包囲された不利な状態でも、タイムは勝利を確信する。
 モヤモヤした気持ちをぶつけられる相手が来たのだ。手加減する道理はない!


 最後の一撃で怪異が沈み、灰となって消え去る。
「あんなに大量の怪異、倒しきれるか不安だったけど…何とかなったね」
「タイムさんの回復が凄かったからじゃない?」
「そんな事ないよ。皆で力を合わせたから――」

 ピロン、と音がしたのは緊張の糸が切れた直前だった。
「良かった、ネットも回復してるね」
「さっきエラー出てた投稿もちゃんと反映されてる!」

「……え?」

 反 映 さ れ て る?

 呼吸が止まりそうになる。
 トークルームには通知がひとつ。お願いごとに既読がついて、彼の返事が――
執筆:芳董

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