PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

ジル誕! in 2023

関連キャラクター:ジルーシャ・グレイ

芳しい香りのあなた様へ
●أتمنّى لك كل السعادة بمناسبة عيد ميلادك.
「足を運ばせてしまって申し訳ありませんわ」
「アラ、いいのよそんなこと」
 顔を見た途端に眉を下げてアラーイスがそう口にしたものだから、ジルーシャは気にしないでと明るく笑った。
 イレギュラーズであるジルーシャは空中神殿を介して各国のローレット支部のポータルへと飛ぶことができるが、イレギュラーズではないアラーイスにはそれが出来ない。勿論ポータルから先の移動は常人を一緒だが、一瞬で遠く離れた異国への移動が叶うため『アシ』のある方が移動して当たり前だとジルーシャは思っている。
「イレギュラーズの皆様は本当に素敵ですわね」
 国と国との移動が出来ると知った時、アラーイスは神の御業かと思ったと正直に零した。常人からすれば、奇跡の領域だ。
「わたくしも移動が自由に出来れば良いのに」
「……アラーイスちゃん……」
 頭上の耳が垂れたから、ジルーシャはそっと気遣わしげに声を掛けた。
 だが。
「移動できれば販路が……もっと……」
 くぅっとアラーイスが悔しがる。
 如何に見目が愛らしかろうと、彼女は商売人なのである。悔しがる場所はそこなのかと、『らしい』と思える姿にジルーシャは小さく笑った。
「と、わたくしとしたことが。いけませんわね」
 先刻からシナモンを割り、カーダモンの種を砕いて……とアラーイスの手だけはせっせと動いている。煮立てたスパイスに茶葉を入れ、チャイが完成するとカップをジルーシャの前へと置いた。
「お口に合うとよろしいのですが」
「ありがと。以前頂いた時もとっても美味しかったわよ♪」
 にっこりと微笑み合い、茶器へと唇落とす。シナモンが上品に香り、カーダモンのすっとした爽やかさ、それから鼻から抜けるクローブのドライな香り。スパイスは直前に割ったり砕いた方が香りは格段に深くなる。それは香りに関わるふたりには当たり前のことで、時間や手間は増すが都度惜しまずにアラーイスはジルーシャをもてなしてくれていた。
 チャイを片手に歓談のひととき。最近の出来事等を話し、笑い、それからふと空気が緩んだ頃、アラーイスがジルーシャ様と彼の名を呼んだ。
「お手をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「手を?」
「ええ。正確には爪を」
 ふたりの間にあるテーブルの上に、アラーイスが小さな小箱を置いて。
「お誕生日と聞き及んでおります。おめでとうございます、ジルーシャ様」
 幼さの見える指先が器用に摘み上げるのは、ネイルポリッシュの愛らしい小瓶。
 ティル紫が閉じ込められたそれの色は濃く見えるが、パールが入ったそれは塗れば上品な光沢を放つのだとアラーイスは告げた。わたくしには少し大人びた感じになりますが、ジルーシャ様でしたらきっとお似合いになりますわ、と。
「折角ですもの、塗らせてくださいな」
 友人に「あなた様の指先を彩りたいのです」と告げられて、断る由などジルーシャにはない。
「勿論。可愛く飾ってちょうだいな♪」
 蕩けるように細められる金色に笑みを返し、ジルーシャは手を差し出した。

 指先に、彩りを。
 あなたの一年が、この彩りのように彩ある日々となりますように。
執筆:壱花

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