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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

希望が浜日常記

関連キャラクター:山本 雄斗

誰かのためのヒーロー。或いは、僕は君のために死ねるだろうか…
●ヒーロー
 戦う力を持つ者には、それ相応の責任が伴う。
 無意味に暴力を振るわず、己の力に酔うことは無く、傷つくことを厭わず、死を恐れず、勇気があって、そして誰かのために戦う。
 それがヒーローの在り方だ。
 
 ある晴れた日。
 練達。
 再現性東京。
 雲ひとつ無い空を見上げて、山本 雄斗はため息を零す。
「僕は、君のために死ねるだろうか」
 そう呟いて、左手首の時計を撫でた。
 イレギュラーズとなって、戦う力を手に入れた。仲間たちと共に幾度もの死線を超えた。人を不幸にする存在を、これまで多く倒して来た。それと同じかそれ以上に、救えなかった誰かの命が指の間を零れていった。
 あの時、命を捨てる覚悟で飛び出していれば、どこかの誰かは救われただろうか。
 否、きっとそうはならなかった。
 過去は変えられない。
 過ぎた時間は戻らない。
 だから、この話はこれでお終いだ。
 お終いなのに、思考は巡る。
 救えなかった誰かの顔が、地面を濡らす赤い血が、記憶の隅にこびり付いて離れない。
 こうして時間が空いてしまえば、空を見上げて考える。
 自分に何が出来るのか。
 あの時、何が出来たのか。
 僕は、君のために死ねるだろうか。
 失われた命のことを「それが彼の運命だった」と、そんな風に言う者がいる。
 “運命”なんて一言で、人の死を処理して良いのだろうか。
 なんて、自問自答を繰り返す。
 繰り返して、何度も何度も繰り返して、それでも未だに答えは見つけられないでいる。
 そもそもからして、この世界には“不幸”な出来事が多すぎる。
 事故で、事件で、盗賊によって、夜妖によって、魔物によって、魔種によって、今日もどこかで誰かが泣いて、命を落とす。
 そのすべてを救えるなんて、雄斗だって思っていない。
 それでも、誰かが泣くのなら……誰かが苦しい思いをするというのなら。
 そして、その誰かが雄斗の手が届く距離にいるのなら。
 ヒーローとして、それを助けなくてはならない。
 それが戦う力を持つ者の責任だ。
 ならば、戦う。
 戦わなければ、それは“ヒーロー”などでは無いと断言できる。
 雄斗の至った答えがそれだ。
 否、答えと呼ぶにはあまりに未熟。
 答えへ至るための道の半ばに立つにすぎない雄斗であるが、未だ至らぬヒーローであるが、それでも、そんな自分にも、救える命があることを、取ってやれる手があることを知っている。

『誰か! 誰か助けて!』
 
 どこか遠くで悲鳴が聞こえた。
 女性の悲鳴だ。
 どこの誰で、何を助けてほしいのかさえ分からない。
 しかし、それでも雄斗は行くのだ。
「……変身!」
 考えるより先に、体が勝手に動くのだ。
 鞄を投げ捨て、声のした方向へと走り出す。
 閃光が散って、雄斗の身体をナノメタル粒子が包む。
 そうして彼は、その身を1つの“暴風”と化した。
執筆:病み月

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