幕間
希望が浜日常記
希望が浜日常記
関連キャラクター:山本 雄斗
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- 声なき悲鳴!ヒーローの勇気を見せよ
- 「フォーム、チェンジ!暴風」
ナノメタル粒子が肌の上を巡り、ヒーロースーツを構成していく。疾く風の如く滑らかに装着が成され、雄斗は『人助けセンサー』の反応を辿り駆けだしていた。
事件現場は通行者の多い交差点。センサーの反応は一つを中心に、逃げる様に散り散りに移動していた。
(移動している人達は、きっと何かから逃げているんだね。動けない人はいない様だし、それなら僕は騒ぎの中心へ――!)
アスファルトが割け、ガードレールはひん曲がり、切れた電線がショートしている。
足場の悪さをものともせず雄斗が現場に到着すると、そこに居るのは――たったひとりの少年だった。
「君! 大丈夫かい?」
「ちっ、近寄らないで!」
雄斗の接近に気づくなり、少年は怯えた様子で叫んだ。それに呼応するかの様に雨あられと石のつぶてが降り注ぎ、雄斗へと襲い来る!
「――ッ、雷霆!」
右手に雷撃が爆ぜた。自身に当たる石だけを無力化しようと撥ね退けて、雄斗は気づく。
(この子、夜妖憑きだけど……自我を失ってはいないんだ!)
「これ以上踏み込んで来たら、もっと酷い事に……えっ?」
脅そうとする少年の前で、雄斗はマスクのフェイスシートを解いてみせた。自殺行為ともとれるそれに、少年は目を見開く。
「僕の名前は山本 雄斗。君を助けに来たんだ」
「助けにって、どうして。これ全部、僕がやったんだよ?」
昨日も石を投げられた。いじめのきっかけが何だったかは、もう覚えてない。
先生は見て見ぬふりで、父さん母さんにもがっかりされたくない。そんな時に、不思議な力が僕に振った。
ひとつ石を投げられたら百倍にして返せる様に。怒りのままに新しい力をぶちまけたら――取返しがつかなくなって。
「こんな事をしたのには、理由があるんだよね?」
……嗚呼、そうだ。
「ヒーローは、困っている子の味方だよ」
本当に欲しかったのは、仕返しのための力じゃなくて。
「ひっ、ぐ……ぐすっ…お兄ちゃん、助けて」
僕の目を見て、話しかけてくれる人だったんだ。 - 執筆:芳董
- 誰かのためのヒーロー。或いは、僕は君のために死ねるだろうか…
- ●ヒーロー
戦う力を持つ者には、それ相応の責任が伴う。
無意味に暴力を振るわず、己の力に酔うことは無く、傷つくことを厭わず、死を恐れず、勇気があって、そして誰かのために戦う。
それがヒーローの在り方だ。
ある晴れた日。
練達。
再現性東京。
雲ひとつ無い空を見上げて、山本 雄斗はため息を零す。
「僕は、君のために死ねるだろうか」
そう呟いて、左手首の時計を撫でた。
イレギュラーズとなって、戦う力を手に入れた。仲間たちと共に幾度もの死線を超えた。人を不幸にする存在を、これまで多く倒して来た。それと同じかそれ以上に、救えなかった誰かの命が指の間を零れていった。
あの時、命を捨てる覚悟で飛び出していれば、どこかの誰かは救われただろうか。
否、きっとそうはならなかった。
過去は変えられない。
過ぎた時間は戻らない。
だから、この話はこれでお終いだ。
お終いなのに、思考は巡る。
救えなかった誰かの顔が、地面を濡らす赤い血が、記憶の隅にこびり付いて離れない。
こうして時間が空いてしまえば、空を見上げて考える。
自分に何が出来るのか。
あの時、何が出来たのか。
僕は、君のために死ねるだろうか。
失われた命のことを「それが彼の運命だった」と、そんな風に言う者がいる。
“運命”なんて一言で、人の死を処理して良いのだろうか。
なんて、自問自答を繰り返す。
繰り返して、何度も何度も繰り返して、それでも未だに答えは見つけられないでいる。
そもそもからして、この世界には“不幸”な出来事が多すぎる。
事故で、事件で、盗賊によって、夜妖によって、魔物によって、魔種によって、今日もどこかで誰かが泣いて、命を落とす。
そのすべてを救えるなんて、雄斗だって思っていない。
それでも、誰かが泣くのなら……誰かが苦しい思いをするというのなら。
そして、その誰かが雄斗の手が届く距離にいるのなら。
ヒーローとして、それを助けなくてはならない。
それが戦う力を持つ者の責任だ。
ならば、戦う。
戦わなければ、それは“ヒーロー”などでは無いと断言できる。
雄斗の至った答えがそれだ。
否、答えと呼ぶにはあまりに未熟。
答えへ至るための道の半ばに立つにすぎない雄斗であるが、未だ至らぬヒーローであるが、それでも、そんな自分にも、救える命があることを、取ってやれる手があることを知っている。
『誰か! 誰か助けて!』
どこか遠くで悲鳴が聞こえた。
女性の悲鳴だ。
どこの誰で、何を助けてほしいのかさえ分からない。
しかし、それでも雄斗は行くのだ。
「……変身!」
考えるより先に、体が勝手に動くのだ。
鞄を投げ捨て、声のした方向へと走り出す。
閃光が散って、雄斗の身体をナノメタル粒子が包む。
そうして彼は、その身を1つの“暴風”と化した。
- 執筆:病み月
- 無貌のヒーロー
- 「キャアアアッ!」
学校帰り、女性のつんざくような悲鳴が、雄斗の耳に届いた。
ただごとではない声の聞こえたほうへ駆けつけると、工事用の巨大な鉄骨に下敷きになっている男性が……。
どうやら通りかかったビルの工事現場から落下してきたものらしい。
「お兄ちゃんしっかりして! お兄ちゃん!」
事故に巻き込まれた男性の妹と思われる女性が、必死の形相で鉄骨を持ち上げようとするが、もちろん重量のあるそれは女の細腕ではびくともしない。
「お兄ちゃん、死んじゃやだぁ!」
ボロボロと涙をこぼし、人目もはばからず泣きじゃくる女性。
下敷きになった男性は苦しそうにうめいている。とりあえず息はあるということだ。
周りの誰かが救急車を呼んでいるはずだが、まだ到着する気配がない。
雄斗はすぐに物陰に隠れた。
「――変身!」
彼の全身をナノメタル粒子が包み込み、ヒーロースーツが形成される。
それから、雄斗は兄妹のもとへと駆け寄った。
「大丈夫だよ、今助ける!」
雄斗が大きく重い鉄骨を片手で軽々と持ち上げ、下敷きになっていた男性をもう片方の手で引き上げると、被害者の妹は泣くのも忘れてぽかんとしている。
「あ、あなたは……?」
「名乗るほどのものじゃない。それよりも、早くお兄さんの手当てを!」
そこへ救急車も到着し、これで事故は解決かと思われた。
だが……。
救急車に男性が乗せられ、妹も付き添いで一緒に乗り込もうとしたところ、それを見守っていた雄斗の頭上で何かが崩れ落ちるような音がした。
バッと上を見上げると、突然工事現場からさらに他の鉄骨も次々と落ちてきたのである。
「まずい……!」
兄妹と雄斗のまわりには野次馬が集まっている。彼らにも鉄骨が降り注げば辺りはあわや大惨事になることだろう。
既に鉄骨に気付いた野次馬の一部がパニックになっている。
雄斗は彼らを守るため、ナノメタル粒子を両手に集める。
「ナノメタルソード! ファルケ! アードラー!」
鷹と鷲の名を冠した片手剣を両手に構え、ヒーロースーツ・烈風の機動力を活かして、野次馬に向かって落ちてきた鉄骨の前に立ちはだかって切り刻む。
鉄骨は救急車にも襲いかかっていた。雄斗の疾走はまさしく突風のごとく、鉄骨が救急車に接触する前に蹴り飛ばしていた。
「こ……っのぉ!」
吹っ飛ばした鉄骨はビルにめり込んでしまったが、正当防衛なので仕方あるまい。
雄斗の活躍を目の当たりにした野次馬たちは「お~」と気の抜けた声を上げて拍手している。おそらく、彼らにはことの重大さが分かっていないのだ。
(こんなに鉄骨が次々と落ちてくるなんて流石におかしい。これは誰かが起こしている『事件』なのでは……?)
雄斗はヒーロースーツを身にまとったまま、ビルの中に足を踏み入れた。
ビルは廃墟と化していて、建て替え工事のために鉄骨を積んでいたようだった。
当然ながらエレベーターは機能していなかったため、十階ほど階段で昇る羽目になったが、若く体力のある雄斗にとっては苦ではない。
――ビルの最上階。
(おそらく、この先に真犯人がいる……)
屋上の扉を開けると、キィ……と錆びた耳障りな金属音がする。
その音を聞いてか、ビクリと肩を震わせて雄斗を怯えた目で見る者がいる。女だった。
「鉄骨を落としたのは君?」
雄斗は穏やかな口調を心がけたが、女は「来ないで! それ以上近寄ると飛び降りるわよ!」と自らの命を人質に、ヒステリックな態度だった。
「わかった、君が飛び降りようとしない限りは近寄らない」
雄斗はうなずき、「どうしてこんなことをしたの?」と女に尋ねる。
犯人の言うことを要約すると、例の兄妹の兄の方に片思いしていたが相手にしてもらえず、最近彼女が出来たのを知って逆恨みから犯行に及んだようだった。
「あの人は今日、妹を連れてこのビルの下を通って恋人へのプレゼントを買うつもりだったの。許せなかった。この手で葬ってやろうと思ったの」
……兄妹のスケジュールを把握している様子を見るに、どうやらこの女にはストーカー気質があるらしい。
「ああ、でも……彼の心が手に入らないなら私は生きていても仕方ないわ……」
犯人の女は屋上の手すりに手をかけ、身を投げようとする。
しかし、ヒーロースーツ・烈風をまとっている雄斗はそれよりも素早く犯人を捕らえていた。
「放して! 近寄らないでって言ったでしょ!」
「君が飛び降りようとしない限りは近寄らない、って言ったんだ。罪はちゃんと償ってほしい」
そうして、雄斗は「ああ、でもまた階段を降りていくのは少し面倒かな」と犯人を横抱きしたままビルから飛び降りた。
「きゃああああああ!?」
「さっきまで飛び降りようとしてたのに元気だね。しっかりつかまっててね」
雄斗は地上にズシン……と着地した。ナノメタル粒子がしっかりと雄斗を守ってくれている。
かくして、事件は解決。
雄斗は警察に犯人の身柄を引き渡したのであった。
しかし、犯人は惚れっぽい性格で、今度は雄斗に惚れ込んだらしい。
雄斗は寒気を覚えながら、「ヒーロースーツのまま顔を出さなくてよかった」と心の底から安堵したという。 - 執筆:永久保セツナ
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