PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

日々のかけら

関連キャラクター:ニル

栗はどれも『おいしい』

 ――そうだ、栗パーティをしよう!
 ある日、雨泽がローレットでそう言った。
「ほら去年、栗拾いをしたでしょ。僕はあれからニルに色んな栗を食べてもらいたいと思っていて。ニルの暇な日はいつ?」
「ニルは雨泽さまの都合に合わせられると思います」
 世界の情勢的には急に急務があるかもしれないけれど、基本的には調整がきくはずだ。そっかわかったと告げた雨泽はまた連絡するねとその日は切り上げた。

 後日、雨泽からニルの元へ手紙が届いた。場所と日時の記された、栗パーティのお誘いだ。
「ごめん、ください」
 場所はニルが来たことのある場所、鹿紫雲邸。以前、白水のためにチョコケーキを持参したり、雨泽のお見舞いに訪ったことのある豊穣にある刑部卿の邸宅だ。
「待ってたよ、ニル」
「雨泽様」
 以前のように刑部卿夫人たる陽紅が迎えに出てくると思いきや、出迎えたのは着物の袖をたすき掛けして三角巾を巻いた雨泽だった。
「僕の手伝いはもう不要みたいだから――案内するね」
 器用にたすきの紐と三角巾を解いてたたみ、懐へとしまった雨泽がこっちだよと先導する。玄関で靴を揃えて脱いで、艶々とした木板の廊下を歩んで奥へ。鳳凰の欄間の下の襖に手をかけると振り返り「ここだよ」と開けた。
「準備は出来ておりますよ」
 室内には着物に割烹着を纏う雨泽によく似た女性がいた。大きなひとつの木から作ったと思われる立派なローテーブルに運んできた器を乗せ、それで全てが終えたのだろう。お久しぶりでございますねとニルへと笑みを向けた。
「こんにちは、陽紅様。これはお土産です」
「ごきげんよう、ニル様。有り難く頂戴いたしますね」
 本当は今年も一緒に料理をと雨泽とニルは思っていたのだが、ふたりが作ってはいつ厨が空くか解らないと陽紅から横槍が入った。そのため『持ち寄り式栗パーティ』となり、豊穣で用意できる栗料理は陽紅が、練達で買える栗スイーツはニルが調達をすることとなった。
「栗のお料理、いっぱいですね」
「僕も手伝ったからねー」
「あなたは殆ど戦力外でしたでしょ」
 一言言いおいて陽紅が部屋を出ていく。ニルが購入してきたモンブランと栗マフィンを皿に移して持ってきてくれるのだろう。洋菓子箱にはニルと雨泽の分よりも多く菓子を用意してある。甘いものが好きな刑部卿が帰宅したら食べられるように、というニルの気持ちは菓子箱の重みですぐに陽紅には伝わったようだ。
「それじゃあニル、栗パーティを始めようか」
「はい、雨泽様。ニルは今日をとってもとっても楽しみにしていました!」
 ゴロゴロと大きな栗が目立つ栗ご飯、ご飯が進む濃いめの味付けの栗と鶏手羽の煮物、もちもち白玉と甘いあんこの栗金時、栗の形の昨年ふたりで作った栗きんとん。栗きんとんは綺麗に潰されたのと、ツブツブが残っているものがちゃんと用意されている。それから……栗入りのぜんざいやどら焼き、栗羊羹、渋皮煮。そこへすぐにニルが持ってきたモンブランとマフィンも仲間入りを果たした。
 食べ切れるか――の心配は、このふたりならば不要だろう。
 今日は栗パーティ。どれが一等美味しいかを決める集まりでもなく、ただ栗料理をひたすら楽しむための集まりだ。感想は『全部「おいしい」でした』で大丈夫。
 ニルと雨泽はワクワクとした瞳を合わせると手を合わせ、そうして同時に唱えた。
「「いただきます!」」
 甘くてコロコロにしてホクホクの秋の味覚は、来年もまたこのパーティをと思わせるほどの『おいしい』であった。
 仲良くたくさん食べて、今日も元気にごちそうさまを響かせよう。
 そうしてお腹いっぱい食べたニルは『錬達でもどうぞ』と栗ご飯おにぎりのお土産を手に、錬達でもまた『おいしい』ひとときを。
執筆:壱花

PAGETOPPAGEBOTTOM