PandoraPartyProject

幕間

日々のかけら

関連キャラクター:ニル

贅沢プリン・ア・ラ・モード

「ニル、食堂車に寄ってから帰らない?」
 星海鉄道『ニグラ・カト号』に宿泊をした、その翌日。チェックアウトを済ませて同行者と別れたニルを見つけた雨泽は近寄ってそう告げ、ニグラ・カト号へと再び『乗車』した。ホテルだから宿泊しなくとも、食堂車(ラウンジ)での食事は可能なのだ。
「雨泽様は、今日のメニューではどれが『おいしい』と思いますか?」
「うーん、僕の気分はプリン・ア・ラ・モード」
「プリン・ア・ラ・モード」
 プリン、は知っている。卵と砂糖と牛乳で出来た、黄色でプルプルのあまいお菓子。
 では、アラモードとはなんだろうか。
「アラモードって言うのは、プリンに、フルーツやアイスクリームを付け合せたもののことだよ」
 復唱して首を傾げたニルに、雨泽はメニューに描かれていたイラストを指さした。このホテルのプリン・ア・ラ・モードに添えられる果物は、季節やその日の仕入れに左右される。給仕係を呼び止めて尋ねてみると、今日の果物は無花果とシャインマスカットとのことだった。
「練達の人曰く、日本って国の料理名なんだって」
 だから他国にはないのかもしれないね。

「これが、プリン・ア・ラ・モード」
「すごく豪華だね」
 銀色の平たくて細長い足つきの皿の中央にドーンとプルプルなプリンが鎮座し、その周囲を果実や生クリーム、ウエハース等が美しく飾っている。
「これはもう食べなくても美味しいって解るやつだよ」
「そうなのですね!」
「僕、プリンって大好き」
 またひとつ雨泽の好きな食べ物が知れて、ニルはうれしくなった。
(雨泽様はプリンがお好き。プリンはおいしい)
 おいしいは嬉しくて、それから――
「雨泽様はプリンを食べると元気になれますか?」
「そうだね、元気にもなれるよ。食欲が無い時でもプリンは食べれるし、プリン・ア・ラ・モードだったらもっと元気になれるかも」
 そうなんですねと目を細めてから、アッとニルは荷物からお守りを取り出した。
「雨泽様これ、もらってください」
 ニルが『元気になぁれ』のおまじないをたくさん込めました。
 ニコニコ笑っていた雨泽の瞳が丸くなって、指先がお守りへと伸びた。
「……心配させちゃってごめんね。もう大丈夫だよ。でもこれはご利益がありそうだし貰っておくね」
「ニルは、雨泽様に元気でいてほしいです」
「うん、ありがとう。僕もニルに元気でいてほしいな」
 お守りも持ち歩くねと約束をして、ホッとした表情を見せたニルに雨泽が笑う。
「お守りのお礼に、お土産のお菓子を買ってあげるね」
「良いのですか?」
「勿論。何がいい? 猫のクッキーが人気らしいけど色々あるよ」
「では――」
 雨泽様がおいしいと思うものを。
執筆:壱花
ドキドキキャッチャー

 ――練達、希望ヶ浜。
「それじゃあ、またね」
「はい、雨泽様。お気をつけてお帰りください」
 手を振って別れた雨泽の背が見えなくなってから、ニルも背を向けた。ビルの大きなウインドウが視界の端に入って視線が勝手に向くのは、今日のコーデがボーイッシュなものだから。朝から甘味と……ついでに服も見たいとともに店を巡った雨泽が選んでくれた装いだ。
 ニルにはどの装いがすごく良いとかは解らないけれど、雨泽が選んでくれたのだからこれは似合いの服装だと解る。
 誰かに見せにいこうかな、なんてそんな気持ちになって口の端を持ち上げて――
(……あれ?)
 見知った姿がウィンドウの向こう――ゲームセンターの中に見えたものだから、ニルは目を瞬かせた。

「うーーん、えいっ! いけそ……あー、ダメだー。次! 次!」
 帽子を被ったミルクティ色の髪の少年がクレーンゲーム機の前で一喜一憂している。練達だからか黒豹は連れていないし、白い聖歌隊めいた上衣を着ていないが、彼は――
「……ハーミル様?」
「ん? あれっ。あっ! えっと、ニルだっけ。あっ、ちょっと待ってちょっと待って」
 ボタンをポチポチと押して操作をして、投入したクレジット分を使いきり――ハーミルはガックリと肩を落とした。
「……僕には才能がない……」
「えっと、人には向き不向きがあるそうです」
「……先生はなんだって出来るもん」
「先……氷聖様は大人だから、かもしれません」
「大人……そっか! そうだよね! 先生や皆は大人で、僕はまだ子どもだから!」
 パッと顔を上げたハーミルの表情は生き生きとしていて、ニルはホッとした。誰かの『かなしい』は嫌だから。
「ハーミル様はここで何をしているのですか?」
 どう見てもクレーンゲームで遊んでいるが、もしかして……が拭いきれないのが遂行者だ。一応聞いてみる。
「何って……ひとりで遊んでる?」
 それ以外に見えるのだろうかと疑問の籠った視線も至極当然だ。
「このね、ぬいぐるみが欲しくて!」
「……クロヒョウ、ですか?」
「うん! コーラスみたいでしょ?」
 ナイトプールでもだけれど、こうして見るハーミルはただの普通の男の子で、ニルは複雑な気持ちになる。
「ニルはこういうの得意?」
「ニルは……わかりません」
「そっかぁ」
(ハーミル様は……どうして遂行者なのでしょう)
 言葉を交わせば、関われば、ひとには『情』というものが増えていく。敵、という存在の背景を気にしない方が良いことは解っていながら――けれどどうしても、いつもニルは気になってしまう。
 ――誰もが悲しまない世界がいい。
「先生なら取れるのかなぁ。今度お願いしてみようかな」
 ハーミルは明るく笑って、ニルの心に足跡を残して帰っていった。
執筆:壱花
恋華の雫、幕間

「日持ちのするおかしはありますか?」
「それならこれはどう?」
 甘い香りにつられて覗いた屋台は、甘い甘い砂糖の香りに満ち満ちて。
 店主がどうかと勧めるのは――小さめの瓶に入った白い紙を捻って包んだお菓子。中身と紙が合わさって、ミルクティーのような色合いが見えた。
「キャラメル、ですか?」
「そうだよ。甘くて美味しいよ」
「では、一瓶ください」
 店主へと手を伸ばして対価を払おうとして、ニルは「あ」と手を止めた。
「……こちらの少し色の薄い方も一瓶、ください」
「こっちはミルク多めのだけれどいいかな?」
「はい、大丈夫です」
 ひとつはまだ遠出が出来ずに豊穣で安静にしている雨泽に。これを持ってまたお見舞いにいくのだ。明日からは12月だから、アドベントカレンダーの一個目を一緒に開けるのだっていい。楽しいことを考えると、コアがふわふわとする。悲しくない、楽しい気持ち。ニルは楽しいと嬉しいは大好きだ。
 もうひとつは――ミルクティー色がまなうらでピョンと元気に跳ねたから。
(きっとこれも『おいしい』です)
 ハーミルはお茶会で甘いものばかり口にしていたから、きっとこれも口にあうことだろう。
 渡す機会はないかもしれないが、機会はいつ巡ってくるかわからない。
「あ。そろそろ時間でしょうか」
 良かったら皆で合流して色々食べよう。そうサマーァが提案していたのだ。
 小さな小瓶をふたつ鞄に詰め、ニルは温かな明かりの下で駆け出した。皆とおいしいを楽しむために。
執筆:壱花
僕の『かみさま』

 世界の殆どは、白かった。
 ほんの僅かな春と夏には緑。けれど山々は白。秋と呼ばれる季節にはもう白い雪が空から降ってきて、あっという間に世界を白く染めてしまう。
 白い世界には食べ物を得るすべが無くなってしまうから、短い春から秋の間に何とか蓄える。干し肉やチーズと言った保存食を作り、細々と冬を過ごす。冬のための手伝いも沢山した。僕等は寒さには強い方だから、雪が降っても枝を集め、過ごしてきた。
 けれどもある年のことだった。『ききん』と呼ばれるものだと大人たちが言っていた。
 秋の実りが無く、あっという間に食べ物が尽きた。
 食べれるものは何だって食べた。木の皮も、根っこも……だから、燃やすものが無くなった。
 農具の柄も倉庫も家も、資材となった。弱っている人たちから倒れて行って、最初は埋めていたけれど、それもできなくなった。埋める穴を掘っている間に、自らの命も失いかねない。埋めることも燃やすこともできず、ただ外へ並べた。
 人が死んでいく。
 色んな感覚が死んでいく。
 悲しみも、どんどん薄れて……
 僕は父さんと母さんと…………
 ……地下に……隠れて…………
 …………食べ…………もう……
 …………………………
 ………………
「……?」
 ある日、光が、さした。
 眩しくて眩しくて、僅かに目を開けた。
「おや」
 眩い光とともに声が降りてきた。
 光の中から現れた黒い髪の『かみさま』は「もう大丈夫ですよ」と僕を温めてくれた。
執筆:壱花
師と子

 ――ハーミル・ロットは『駒』である。
 真白の世界に埋もれていたところを俺が救い、拾った。
 死にそうな魂へと囁やいたら簡単に転がり落ちて来た、単純な子供。
「どうすれば僕は『かみさま』の役に立てますか?」
「……良ければ他の方々のように『先生』と呼んでください。役に立とうとしなくとも良いのですよ。神が新たな世界を創造される」
「先生。でも僕は」
「では、世界を救う手助けをしてください。体を癒やし、健康になり、戦えるようになりなさい。傲慢でありなさい。何者にも君の命を侵すことを許してはいけません」
「えっと」
「よく食べ、よく眠り、よく動きなさい、と言うことです」
「がんばります!」
 地頭は賢いとは言えない。けれど物覚えは良かった。
 心を病んだ信徒たちにも彼は好評で、様々な教えを受け、成長していった。

 ――ハーミル・ロットは『駒』である。
 遂行者の装束が似合わず、俺が用意する羽目になった。
 毎日騒々しく騒ぎ、信者達の良い潤滑剤となり便利で、元気な子供。
「先生! コーラスを作ってくれてありがとう!」
「君が喜んでくれて、俺も嬉しいです」
 俺を生きる理由にする者たちが多い。けれどそれは正直重い。俺は俺の願いを叶えるのに忙しいから、これ以上の荷物はいらない。だから、『俺を生きる理由にしないための理由』を与えた。
 彼だけの家族。コーラスを守るためなら、きっと彼はどんなことだってする。良い『神の駒』となってくれるだろう。崇高なるあの方は、きっとそれを望まれる。

 ――ハーミル・ロットは『駒』である。
 俺が拾った子供はすっかり元気になり、『救われた』。
 よく笑い、よく食べ、『家族』を大切にする、何処にでもいる子供。
「先生はお肉が嫌いなの?」
「俺に好き嫌いはありませんよ」
 そんなことはない。豊穣の料理とかけ離れた物は苦手だ。
 けれども偏食をしないようにと気を使ってやらねばならない。面倒な子供だ。
「でも、そうですね。俺は刃物が扱えなくて」
「お肉を切るのが苦手なの? それじゃあ僕が食べさせてあげる!」
 承諾を待たず、口にステーキ肉を詰め込まれた。……信徒たちが甘やかしすぎなのだと思う。
「先生、嬉しい?」
「はい、分けてくれてありがとう」
 望んではいないから別段嬉しくはないが、これが『正しい』。
「皆にも分けてあげようっと」
「君の分がなくなりますよ」
 馬鹿なことを。
「いいんだ。分けられるってことは『分けられるくらい有る』ってことだから」
 俺が救ってくれたからできると、彼は笑う。
 きっと彼は己の最後までそうするのだろう。
 彼の両親がそうしてくれたように。



 ハーミル・ロットは――

 ハーミル・ロットは――

 ――ハーミル・ロットは『同志』である。
執筆:壱花
年末年始のおいしい

「雨泽様」
「あれ、ニル。依頼の帰り?」
「はい。雨泽様と練達でお会いするのはめずらしい、ですね」
「そうだね。僕は買い出しに来たんだ」
「買い出し、ですか?」
「うん。練達ってすごく便利だからね」
 口元までマフラーで覆っていた雨泽が話しやすいように少し下げ、持っていた紙袋の中身を見せた。包装紙に包まれているため解らないが、「瓶詰めだよ」と教えてくれた。
「瓶……お菓子やジャムですか?」
「両方違うけど、甘いもの」
 瓶の中身は、甘い栗と甘い豆。じっくりと煮含められた名店の味は年始の贅沢にぴったりなのだ。
「あ、そうだ。これあげるよ」
「え……雨泽様、良いのですか?」
「うん、アドベントカレンダー貰ったし」
 注意されてから、ちゃんと最終日まで一個ずつ開けたよと報告もして。店は近いからもう一セット買ってくればいいだけだと、手にしていた紙袋をそのままニルへと差し出した。
「栗は甘露煮だよ。一緒に拾って食べた栗よりすごく大きいから吃驚しちゃうかも」
 秋に食べたものとまた違う栗を食べて欲しいと笑まれれば、ニルもありがとうございますと受け取った。
「ニルの大切な人たちと食べて。それで新年に感想を聞かせてよ」
「はい、皆様といただきますね」
「それじゃあ、ニル。よいお年を」
「はい! 雨泽様もよいお年を」
執筆:壱花
特別賞!
●キラキラをみんなへ
 キラキラ大会は、歓声とともに幕を閉じた。
「どうしたの、ニル」
 それなのに何故だかニルが元気がないように思えた雨泽は、元気がないねとニルへ声をかけた。あんなに美味しそうにご飯を食べてたのに、どうしたの?
「雨泽様、ニルは……」
 目的通り、ちゃんとイレギュラーズが優勝した。
 けれどもニルはと視線を向けるのは、大会の運営テント。
 いやー、盛況だったね。皆楽しんでくれてよかったね。そんなことを笑顔で話す運営側の人たち。ひとつのことをやり遂げた彼等の笑顔はキラキラだ。
「みんなキラキラじゃ、だめなのでしょうか……?」
 雨泽には辛かったけどニルにはおいしかった料理を作ってくれた人も、皆が楽しめるようにと盛り上げてくれた司会の人も、計画して場を整えてくれた大会の人も、みんなみんなキラキラだとニルは思うのだ。
 ニルの視線を追った雨泽がそうだねぇと相槌を打った。
「それじゃあニル。みんなにキラキラニル賞をあげない?」
「キラキラニルしょう、ですか?」
「ニルがキラキラだと思う人にあげるの」
 折り紙は折れる? 折れなくても教えてあげると、雨泽が手招いた。

 まずは練達へ行く。
 そこで金色の折り紙を沢山買って、キラキラ光るお星さまを折るのだ。
 雨泽が丁寧に折り方を教えれば、ニルは懸命に彼の手元を覗き込んで色紙を折った。最初はちょっとぐんにゃりしたり角が綺麗じゃなかったけれど、『誰かにあげるもの』とニル心を籠めて何度も挑戦した。
「できました!」
 金色の折り紙で折った、キラキラでピカピカのお星さま。練習の甲斐があってか、ニルはとても満足だ。お星さまの裏へリボンをつけて首から下げれるようにしたキラキラニル賞の賞品を掲げたニルへ、雨泽からも「上手上手」と拍手が送られる。
 リボンの色はそれぞれ違う。渡す相手に好きな色を選んでもらうのだ。ニルらしい優しい気遣いだねと雨泽に褒められて、ニルは嬉しくなった。
「……よろこんでくださるでしょうか」
「あれ。不安になってきちゃった?」
 みんなにキラキラを贈りたいという気持ちは本物だ。
 けれど、でも……なんて思ってしまう。
「大丈夫だよ、ニル。ニルが用意したキラキラをきっと喜んでくれるよ」
 そうだと閃いた雨泽が「最初はご飯を作ってくれた人と食材を提供してくれた人のところへ行こうよ」と提案をする。ニルはパッと顔を輝かせる。『おいしい』ご飯を作ってくれた人たちへ、お礼を言いたい!
「行こう」
「はい、雨泽様!」
 ニルはたくさんのキラキラのお星さまを抱え、地を蹴った。
 キラキラの笑顔とともに、みんなへキラキラを贈るために。

 ――――
 ――

「あれ、ひとつ残っちゃった?」
 キラキラニル賞のお星さまを配り終えたけれど、ニルの手にはひとつお星さまが残っていた。
 けれど、いいえと雨泽へ首を振る。
「これはニルのたいせつでだいすきなともだちにあげるのです」
 大切で大好きな友達も、勿論キラキラだ。
 キラキラすぎる、ニルの一等星。
 いつも感謝と大好きな気持ちを伝えているけれど、もっともっと伝えたくて。だからこそこれも、とニルは思うのだ。
「よろこんでくれるでしょうか……?」
 ニルの問いへ、雨泽は会場では見せなかったような笑顔を返した。
 だってそんなの、考えるまでもないことじゃない?
執筆:壱花

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