PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

日々のかけら

関連キャラクター:ニル

師と子

 ――ハーミル・ロットは『駒』である。
 真白の世界に埋もれていたところを俺が救い、拾った。
 死にそうな魂へと囁やいたら簡単に転がり落ちて来た、単純な子供。
「どうすれば僕は『かみさま』の役に立てますか?」
「……良ければ他の方々のように『先生』と呼んでください。役に立とうとしなくとも良いのですよ。神が新たな世界を創造される」
「先生。でも僕は」
「では、世界を救う手助けをしてください。体を癒やし、健康になり、戦えるようになりなさい。傲慢でありなさい。何者にも君の命を侵すことを許してはいけません」
「えっと」
「よく食べ、よく眠り、よく動きなさい、と言うことです」
「がんばります!」
 地頭は賢いとは言えない。けれど物覚えは良かった。
 心を病んだ信徒たちにも彼は好評で、様々な教えを受け、成長していった。

 ――ハーミル・ロットは『駒』である。
 遂行者の装束が似合わず、俺が用意する羽目になった。
 毎日騒々しく騒ぎ、信者達の良い潤滑剤となり便利で、元気な子供。
「先生! コーラスを作ってくれてありがとう!」
「君が喜んでくれて、俺も嬉しいです」
 俺を生きる理由にする者たちが多い。けれどそれは正直重い。俺は俺の願いを叶えるのに忙しいから、これ以上の荷物はいらない。だから、『俺を生きる理由にしないための理由』を与えた。
 彼だけの家族。コーラスを守るためなら、きっと彼はどんなことだってする。良い『神の駒』となってくれるだろう。崇高なるあの方は、きっとそれを望まれる。

 ――ハーミル・ロットは『駒』である。
 俺が拾った子供はすっかり元気になり、『救われた』。
 よく笑い、よく食べ、『家族』を大切にする、何処にでもいる子供。
「先生はお肉が嫌いなの?」
「俺に好き嫌いはありませんよ」
 そんなことはない。豊穣の料理とかけ離れた物は苦手だ。
 けれども偏食をしないようにと気を使ってやらねばならない。面倒な子供だ。
「でも、そうですね。俺は刃物が扱えなくて」
「お肉を切るのが苦手なの? それじゃあ僕が食べさせてあげる!」
 承諾を待たず、口にステーキ肉を詰め込まれた。……信徒たちが甘やかしすぎなのだと思う。
「先生、嬉しい?」
「はい、分けてくれてありがとう」
 望んではいないから別段嬉しくはないが、これが『正しい』。
「皆にも分けてあげようっと」
「君の分がなくなりますよ」
 馬鹿なことを。
「いいんだ。分けられるってことは『分けられるくらい有る』ってことだから」
 俺が救ってくれたからできると、彼は笑う。
 きっと彼は己の最後までそうするのだろう。
 彼の両親がそうしてくれたように。



 ハーミル・ロットは――

 ハーミル・ロットは――

 ――ハーミル・ロットは『同志』である。
執筆:壱花

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