PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

日々のかけら

関連キャラクター:ニル

ドキドキキャッチャー

 ――練達、希望ヶ浜。
「それじゃあ、またね」
「はい、雨泽様。お気をつけてお帰りください」
 手を振って別れた雨泽の背が見えなくなってから、ニルも背を向けた。ビルの大きなウインドウが視界の端に入って視線が勝手に向くのは、今日のコーデがボーイッシュなものだから。朝から甘味と……ついでに服も見たいとともに店を巡った雨泽が選んでくれた装いだ。
 ニルにはどの装いがすごく良いとかは解らないけれど、雨泽が選んでくれたのだからこれは似合いの服装だと解る。
 誰かに見せにいこうかな、なんてそんな気持ちになって口の端を持ち上げて――
(……あれ?)
 見知った姿がウィンドウの向こう――ゲームセンターの中に見えたものだから、ニルは目を瞬かせた。

「うーーん、えいっ! いけそ……あー、ダメだー。次! 次!」
 帽子を被ったミルクティ色の髪の少年がクレーンゲーム機の前で一喜一憂している。練達だからか黒豹は連れていないし、白い聖歌隊めいた上衣を着ていないが、彼は――
「……ハーミル様?」
「ん? あれっ。あっ! えっと、ニルだっけ。あっ、ちょっと待ってちょっと待って」
 ボタンをポチポチと押して操作をして、投入したクレジット分を使いきり――ハーミルはガックリと肩を落とした。
「……僕には才能がない……」
「えっと、人には向き不向きがあるそうです」
「……先生はなんだって出来るもん」
「先……氷聖様は大人だから、かもしれません」
「大人……そっか! そうだよね! 先生や皆は大人で、僕はまだ子どもだから!」
 パッと顔を上げたハーミルの表情は生き生きとしていて、ニルはホッとした。誰かの『かなしい』は嫌だから。
「ハーミル様はここで何をしているのですか?」
 どう見てもクレーンゲームで遊んでいるが、もしかして……が拭いきれないのが遂行者だ。一応聞いてみる。
「何って……ひとりで遊んでる?」
 それ以外に見えるのだろうかと疑問の籠った視線も至極当然だ。
「このね、ぬいぐるみが欲しくて!」
「……クロヒョウ、ですか?」
「うん! コーラスみたいでしょ?」
 ナイトプールでもだけれど、こうして見るハーミルはただの普通の男の子で、ニルは複雑な気持ちになる。
「ニルはこういうの得意?」
「ニルは……わかりません」
「そっかぁ」
(ハーミル様は……どうして遂行者なのでしょう)
 言葉を交わせば、関われば、ひとには『情』というものが増えていく。敵、という存在の背景を気にしない方が良いことは解っていながら――けれどどうしても、いつもニルは気になってしまう。
 ――誰もが悲しまない世界がいい。
「先生なら取れるのかなぁ。今度お願いしてみようかな」
 ハーミルは明るく笑って、ニルの心に足跡を残して帰っていった。
執筆:壱花

PAGETOPPAGEBOTTOM