PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

メイメイと。

関連キャラクター:メイメイ・ルー

背伸びはヒールの高さまで

 10月の終わりの日。その日から、混沌世界には不思議な魔法がかかる。
 古い、古い御伽噺(フェアリーテイル)に謳われる、不思議な不思議な魔法。
 その夜から凡そ3日間、人々は『なりたい』姿になれるのだ。
 故にその3日間の1日。2日目でも3日目でもいいので空いていますかしら? とアラーイスはメイメイへ手紙を送っていた。恋仲となった御仁と過ごすのは解っている。けれども仕事が忙しい人のようでもあるし、3日間ずぅっとメイメイを独占する訳では無いはずだ、と踏んで。
「……めぇ」
 そうして訪れたファントムナイトの何れかの日。メイメイは少し困ったような声を零した。アラーイスからの手紙にはこう記されていたのだ。『サプライズがしたいので、わたくしが良いと言うまで目を閉じてお待ち下さい』と。勿論、待ち合わせ場所の場所は安全面のためにもアラーイスの店の客間だ。サラ特有の砂っぽさはないし、ふわりと品よく香りは甘く、ソファもクッションもふかふか。目を閉じていても困りはしないのだが――メイメイの世話を頼まれたのであろう使用人たちに困っていた。彼等は目を閉じているメイメイのためにお菓子を口元へと運んでくれたり、飲み物も添えてくれたりとする。それがどうにもメイメイの肩身を狭くしていた。
 シャラ、と音がなった。美しい珠を連ねた珠暖簾が動いたということはアラーイスが来たのだろうか。メイメイが瞳を開けないように気をつけながら顎を上向ければ、つ、と顎に指がかかった。
「メイメイ様は本当に良い子ですのね。お待たせして申し訳ありません。もう開けても大丈夫ですわ」
「こんにちは、アラーイスさ――」
「ごきげんよう、メイメイ様」
 素直に瞳を開けて、さあどんなお姿を! と思ったメイメイが目をパチクリとして固まった。その姿が面白かったのか、サプライズ成功ですわとアラーイスがくすくすと咲う。
「アラーイスさま、そのお姿は……」
「メイメイ様、こちらへ来て」
 ソファに腰掛けたメイメイの手を引いて立ち上がらせると、アラーイスは姿見の前までメイメイをつれていく。
「見て下さいな、ほら。こうして映るとわたくしたち、姉妹のようでしょう?」
 アラーイスの頭上には三角の耳がなく、腰にはふかふかの尻尾もない。代わりにあるのはメイメイとお揃いの尾と尻尾、それから角。肉食獣の爪も吸血鬼の牙も持たない、草食動物の特徴のみ。
 そして――
「アラーイスさまも、大人に……?」
「わたくしは普段から大人ですわよ?」
「そうですけれど、そうではなくて、あの」
 ええ、とアラーイスが『同じ高さの瞳』を柔らかに細める。瞳孔も、メイメイと同じように横たわっていた。
「わたくし、『大人のわたくし』は嫌いですけれど……『メイメイ様と同じわたくし』は悪くないと思いましたの」
 羊の少女の成長した姿を初めて見た時『いいな』と思ったことを告げるアラーイスは、半分の本当で残りの半分を隠す。本当は置いていかれたようで少しだけ寂しさを覚えた自身に気付いていても、決して口にはしない。あれは祝福すべきことで、それ以外を外野が何かを思うことではないのだから。
「以前、『双子コーデ』をしたのをおぼえていらっしゃいますか?」
「勿論です、アラーイスさま。あっ、今日はもしかして」
「はい。メイメイ様がよろしければ、わたくしはこの姿でそうしたいのですわ」
 同じコーデの衣服を纏えば、同じ羊の特徴と同じ身長のふたりは本当の姉妹のように見えることだろう。
 ダメ? と伺うようにアラーイスに首を傾げられると、メイメイは大抵のことはOKしてしまう自覚があった。でも友人が自分との時間とともに楽しくいたいという要望を断ることなどできようか。
「ええ、アラーイスさま。どんなお揃いにしましょうか?」
「ありがとうございます、メイメイ様。言質をいただきましたわ」
「え?」
 言うが早いか、アラーイスが高らかに二度手を叩いた。
 それを合図に室内へ大勢の人がなだれ込んでくる。手には絹織物や繊細なレース、キラキラ輝く宝飾にシャラリと鳴る装飾のついた薄絹たち。
「……えっ?」
 メイメイが驚いている間にも出入りを繰り返し、あっという間にメイメイの眼前にはたくさんの衣装や装飾がこれでもかと用意された。
「あの、アラーイスさま?」
「わたくし、この姿を他の人に見られたくありませんの」
 吸血鬼になる前のことを思い出すのですとアラーイスが悲しげに眉を下げた。今にも涙が零れそうな表情だったから、メイメイは心配になる。
「ですから今日は商人たちを呼びましたの。不都合でしたでしょうか?」
「いいえ、そんなことは……。でもアラーイスさま、もしかして、これは」
「メイメイ様は聡明でいらっしゃって、たすかります」
 悲しげな表情は一転。きりと上がった眉に、上機嫌に輝く瞳が笑みをたたえて細められる。勿論、気になった衣装は全て試す気である。コレ! と決まるまで着せ替え人形となるのか、それともそこで終わってくれるのかはわからない。
 けれども間近でアラーイスが――メイメイと同じ羊の姿と見た目年齢を望んだアラーイスが、お揃いにしたいと望んでいるのだ。
「お揃いになってくださるのでしょう?」
 楽しげな友人の姿に、メイメイも覚悟を決めたのだった。
 ――来年は先にメイメイが衣装を用意しておくのも手かもしれない、と思いながら。
執筆:壱花

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