PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

メイメイと。

関連キャラクター:メイメイ・ルー

陽に咲初めた花
●独白
 想いが実ったのだと、イードルホッブであなたが教えてくださった。
 お揃いのブレスレットを作ろうと石を選んでいるその時でした。恥ずかしげに何かを告げようとしてくださっているあなたはとても愛らしくて、何でも聞こうと頭上の耳を傾けていたわたくしへ届いた言葉。その威力がどれほどのものだったか、きっとあなたは存じ得ない。わたくしの目からは勝手に涙が溢れていて……さぞあなたを驚かせてしまったことでしょう。
 周囲の音が遠ざかって、あなたしか見えなくなりました。息をするのも忘れてしまいそうになりながら、何とか言葉を紡ぎました。「おめでとう」の言葉をちゃんと伝えられていたのか、わかりません。けれどあなたが抱きしめてくれたから、きっとわたくしの気持ちは正しく伝わったのでしょう。
 大好きです、メイメイ様。あなたがお友達になってくださって、わたくしはこんなにも幸せなのに、それ以上の幸せを頂けるだなんてわたくしは知りませんでした。
 ……でもわたくし、わたくしの涙をあなたがこっそりとブレスレットに仕込んでいたことは見ておりましたから、ね? まったく、メイメイ様ったら。見る度にわたくしが恥ずかしくなるからやめてほしいですわ。……けれどわたくしの涙がメイメイ様にとっての『美しいもの』であるのは、とても嬉しく思います。





 家族を奪われた。
 名前を奪われた。
 自由を奪われた。
 人権を奪われた。
 尊厳を奪われた。
 ああ、なんて。なんて人は醜い生き物なのだろう。
 皮の中に詰まった血と肉と欲。幼い娘に下卑た笑みを向ける男たち。自分はそれ以下の存在なのだと知らしめられる度に心が死んで、ついには何も感じなくなった。
 それがわたくしの一度目の死。

 死ぬことすら許されず、ただ言いなりになって生命活動だけを続ける日々。
 光さす場所には決して行けず、浮上する思考は『どうすれば暴力を回避出来るか』、ただそれだけ。媚びて、縋って、決して抗う意思を見せず、言いなりになって、ただ、ただ、ただ――この命が尽きて暗闇で休める時を願った。
 一度死んで空っぽな『私』も、死を願った。けれどそれは許されない。奴隷印を焼き付けられた者は『物』で、物には感情も思考もいらない。
 ずっとずっと、ずっと、ただ死を望む。楽になれる日を、開放される日をひたすらに望む日々だけが無意味に続いていく。
 その苦しみに満ちた世界に、ある日、あの方が現れた。あの方は容易く『私』を苦しめていた男をただの肉塊にし、美しく微笑んだ。今まで見た誰よりも美しいその笑顔を見て、生から開放される。
 そう思っていたのに、あの方は救ってくださった。
 ただのか弱い獣種の女から、あの方は生まれ変わらせてくださった。
 それがわたくしの二度目の死。

 強さを得たわたくしは血を糧とせねばならなかった。太陽も不快で……でも、『私』は陽の光など浴びれぬ場所に押し込められていたから、何も変わらない。
 子供を拾った。わたくしと同じ、哀れな娘。ひとり、ふたり、さんにん、よにん。力なき女子供を拾っては新しい生を与えた。生きる術を教え、与え――今度はヒトに虐げられない生を歩めるように。
 拠点を夢の都とし、上手く潜んで生きてきたと思う。騒ぎとなった時も見つからず、『王宮』からの命令どおり手引をし、鍋をかき混ぜるように騒がせ、娘たちにも好きなように振る舞わせた。ある者は騒ぎに乗じて憎い男を殺したようだ。ある者は愛を求めて動いたようだ。
 三度目の生は上手くいっていた。押し込められ虐げられてきたわたくしたちは――相変わらず日陰者だけれども、それでも今までよりも自由を得ていた。
 そんな折に、あの方が身罷られた。
 絶望した。後を追おうとした。
 けれども『月』を奪った者たちをそのままにしておけるだろうか。それがあの方の望みだと頭の片隅では理解していても、この悲しみと憎しみをぶつける受け皿がほしかった。
 幸いにもわたくしの動きはは知られてなかったから、『仲良しごっこ』は容易であった。
 それなのに今では全てが変わってしまった。

 ――いつかわたくしを殺してくれるでしょうか。
 優しいあなたは、わたくしのために手を血に染めてくれますか?
 わたくしのために、涙を零してくださいますか?

 その時がわたくしの三度目の死――と、なるはずだった。
 あなたは、わたくしを受け止めてくださった。
 手を握って、生きて欲しいと願ってくださった。
 暗がりを生きるしか無かったわたくしには太陽(ひかり)が与えられ、あなたという眩しい笑顔(ひかり)も得た。
 幼い頃に絶たれてしまった楽しみを、成長したあなたとともに行う喜び。これがどれほどわたくしが嬉しいか、あなたは知らないでしょう?
 わたくしの三度目の生はこれまでと変わらないはずだったのに――こんなにも幸せで良いのだろうかと思えるものとなった。





 長生きをして欲しいと、わたくしはあなたに願いました。
 一緒に居てくれると言ってくれたけれど、寿命差のせいで……あなたは必ずわたくしを置いていきます。ですがあなたの恋が実って――いずれ子を授かるならば、わたくしはあなたが残したあなたにどこか似た子たちを見守っていくことが叶います。
 あの時弾けたわたくしの喜びは、そういう類のものでした。
 わたくしは本当に、自分のことばかり。あなたが報われたのもとても嬉しくて幸福なのに、その先の先に自分の幸福も見ているのです。
 あなたに幸せになってほしい。
 そしてわたくしを幸せにしてほしい。
 あなたの幸せが、今のわたくしの希望なのです。

●開戦
「それじゃあ、アタシは行くね」
 気付けばジッとブレスレットに視線を落としてしまっていたアラーイスは、サマーァの声でハッと顔を上げた。
「アラーイスも気をつけて」
「ええ。わたくしたちもわたくしたちの出来る戦いをしましょう」
 商人ではあるが情報屋のサマーァは、ローレットで。
 夢の都に住まう商人のアラーイスは、商人仲間たちと声掛けあい、戦いに赴く者たちへの物資や食料の支援を。
 そしてイレギュラーズたち冒険者たちは――
(……メイメイ様)
 ラサの南部砂漠地帯『コンシレラ』。更にその西方――影の領域。アラーイスの大切な友人は、そこへ赴くのだろう。
(出立前に会わなくて良かったです)
 きっと顔を見ていたら両手を握って縋り、「いかないで」と我が儘を言ってしまっていたと思う。そうしていたらメイメイは困ったことだろう。けれどもあの娘は真っ直ぐに瞳を覗き込み、優しい紫色を細めて「必ず帰ってきます」と告げてくる娘だ。どんなにアラーイスが我が儘を言ったって、こればかりは止められない。
(――無事に帰ってきてくださらないと、わたくし泣いちゃいますから)
 苦しい時に救ってくれなかった神様なんて存在になんて祈りはしないから、アラーイスはただメイメイの無事を祈った。
 長生きをして欲しいとお願いをした。
 生涯の幸せを願っている。
 だから、どうか。
(どうか。どうか、ご無事で)
執筆:壱花

PAGETOPPAGEBOTTOM