PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

メイメイと。

関連キャラクター:メイメイ・ルー

食堂車の誘惑

「メイメイ様」
 呼び掛けられて振り向けば、『いつもと違う』アラーイスがそこにいた。
「アラーイスさま」
 装いも違うし、練達だからと耳と尾を変化で隠してしまっている。だから少しだけ知らない人のように思え、メイメイは少しどきりとした。被るクローシェ帽に合わせた色のレトロなワンピースは彼女によく似合っているけれど、メイメイの知る彼女はいつもラサの装いだったから。
「良ければわたくしと食堂車へ参りませんか?」
 けれどアラーイスは口を開けばいつもとかわらず、甘味を食べませんかと誘う甘い言葉。
 はいと返せば窓の外の星を溶かしたような瞳が穏やかに細められて、トンと一歩だけ跳ねるようにしてメイメイの隣へと並んだ。
「メイメイ様は『女学生さん』、ですか? よくお似合いですわ」
「めぇ。えへへ……ありがとうござい、ます。アラーイスさまは……」
 なんというのだろう。洋装ではあるが、『大正ロマン』というコンセプトに合わせた呼び方があるのだろうかとメイメイは首を傾げた。
「モガ、と言うのだそうです」
「モガ」
「コーヒーみたいですわよね」
 濁点を付けない、モカ。同じことを想像して、ふたりはくすくすと笑いながら食堂車へと向かった。

 ガタンゴトンと揺れる室内に、レストランみたいなテーブル。
 そして横を向けば大きな窓と暗闇にちかちか光るお星様。
 それが何だかとても不思議な心地がして、つい視線を向けていたら「メイメイ様」と呼ばれた。
「注文は決まりまして?」
 ショーの時間はそれなりに遅い時間でもあったから、少し背徳感がありますわよね。なんて言いながらも甘味のメニューを眺めていたアラーイスが問うた。
「わたしはプリンにします」
 実はもう、列車に乗る前から決めていたのだ。
「アラーイスさまは?」
「わたくしは珈琲のアフォガードを頂こうかと」
「……モガだから、です?」
「ふふ、バレてしまいました?」
 季節のフルーツが贅沢に乗ったプリン・ア・ラ・モードにしようかとも悩んだけれど、先刻のやり取りでアラーイスの気持ちはアフォガードへと傾いてしまったのだ。
 くすくすとまた少女らしい笑みが重なって、注文した甘味が届くまでもあっという間。
 メイメイの前に置かれたプリン・ア・ラ・モードには無花果とシャインマスカットがキラキラと輝くように愛らしく、アラーイスの前に置かれたアフォガードはバニラアイスが白くキラキラと輝いて。添えられている熱い珈琲をとろりと掛けるのを、メイメイはつい見守ってしまった。
「先に口にされてよろしかったのに」
「いえ、……あの。いっしょに『おいしい』を言いたくて……」
「あら」
 最初の一口目が同じタイミングだと、その瞬間の『美味しい』もきっと同じタイミングだ。
「メイメイ様は本当に愛らしいことを仰られますわね」
 メイメイは子供っぽかっただろうかと恥ずかしくなるが、アラーイスの言葉が好意に溢れていると感じていた。
「では、お待たせいたしました」
「はい、では」
 ――いただきます。
 同じタイミングでスプーンを動かして、同じタイミングで口へと運ぶ。
 そうして一緒に表情をほころばせ、少女たちはおいしいとともに笑い合うのだった。
 ああなんて、幸福なひとときなのでしょう。
執筆:壱花

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