幕間
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メイメイと。
メイメイと。
関連キャラクター:メイメイ・ルー
- 影に咲く花
- ●可惜夜に
はあ、と物憂げな溜め息が溢れた。
こんなに美しい夜に溜め息を零すなど、吸血鬼(ヴァンピーア)失格だ。されど零さずにはいられない理由がいくつか、アラーイス・アル・ニールにはあったのだ。
アラーイスはイレギュラーズに対し、幾つもの秘密を抱えている。己が吸血鬼であることを隠していることを始めに、幾つも、幾つも……指折り数えられる程に。
本当は――悔しいことではあるが――さっさと姿をくらましてやるつもりだった。けれどアラーイスにはそれが出来ない理由があり、『仲良しごっこ』を続けることにした。
隙があれば、食らってやるつもりでいた。
イレギュラーズたちは吸血鬼から『月』を奪った敵なのだ。――それが女王の望みだと頭の片隅では理解しても、心の奥底には沸々と沸き立つ怒りもあった。
幸いにしてアラーイスは老獪で腹芸は得意であったから、全てを笑みに隠すことができていた。女王を奪った憎い仇。いつかその寝首を掻いて――
はあ、とまた溜め息が溢れた。それは僅かに艶めいた、少女らしい見目にあわぬもの。
牙が抜かれていくような感覚を覚えていた。闇に生きる者として、よくないことだ。
「……メイメイ様」
愛らしい、羊の娘。
誰からも愛されていそうな、庇護欲をそそる娘。
愛されたことのない『妾』へ友愛をくれる娘。
彼女と過ごす時間はとても楽しい。味わったことのない『少女時代の楽しさ』を味わえる。何も知らず、幸せに、愛し愛されていたら、こんな生活を送っていたのだろうか、と。
――彼女以外、他にも幾つかの顔を思い浮かべた。
彼女たちが笑って接してくれるのは、アラーイスがしたことを知らないからだ。仲良くなって、全てのタネを明かすつもりで居た。騙したのかと、苦しみ歪むその顔が見たかった。
(その、はずなのに)
知ってしまったらきっと、今の関係には戻れない。
知られることを、断罪されることを、アラーイスは恐れてしまった。
……けれどアラーイスには護らねばならないものがある。護れぬのなら、いっそのこと――。
「ひい様、『妾』はどうするのがよいのでございましょうや?」
へりくだった一人称、それが吸血鬼としてのアラーイスの一面。
最愛の月は、もう応えてはくれない。
「……メイメイ様は」
愛らしく優しい、羊の娘。
光の中で微笑んでいるのがお似合いの娘。
彼女がいる陽だまりに、アラーイスの居場所はない。
「いつかわたくしを殺してくれるでしょうか」
優しいあなたは、わたくしのために手を血に染めてくれますか?
わたくしのために、涙を零してくださいますか?
ねえ、メイメイ様。 - 執筆:壱花