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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

祓い屋の日常

関連キャラクター:燈堂 廻

《ある青い春》図書館の思い出
 高校に入学してから人月が経過した。五月になってからも心咲は変わることなく詩織と共に過ごしている。
「春の遠足って、しおりんは何処に行った?」
 菓子を囓りながら心咲はそう言った。堂々と座っているが、此処は図書室。菓子を食べるのは厳禁である。
「えー……何処だったかな。大きな公園に散歩したってイメージ……」
「美術館と公園でオリエンテーションだっただろうに」
 呆れた顔をした暁月に「そうだった!」と詩織は朗らかに笑みを浮かべて頷いた。
 5月には春の遠足と称してオリエンテーションが開催される。先輩後輩である詩織と心咲は同行することは出来ないが、先輩であるからこそ『前は何したの?』を聞きに来たのだろう。
 読書をしていた暁月の隣で堂々とチョコレートを摘まんでいる詩織は「美術館、行ったっけ?」とぱちくりと瞬いている。
「……行った」
「覚えてないかも」
 美術館で散々楽しんだ後、公園で思い切り走り回っていたのだからそうした感想が出るだろうと暁月はため息を吐く。何だかんだで、クラスメイトにも人望の厚い詩織はイベント毎が盛りだくさんなのだ。
「美術館かー。特別展って何か遣ってたかなあ。あー……んー……掛け軸……?」
「え、面白そう。どう思いますか? 実況解説の暁月さん」
「どうして実況解説なのかは分からないけど、面白そう。今度行こうか?」
 やったーと手を上げて喜ぶ詩織に暁月が『図書館ではお静かに』を指差した。詩織と心咲は慌てたように口を噤んで笑う。
「これならはるひめも好きそう。あ、でも、今年の一年って同じ場所に行くの?」
「さあ……違う場所でも休日に一緒に行けば良いだろうし、考えなくて良いんじゃないかな」
「流石、実況解説の暁月さん」
 だからどうして、と言い掛けた暁月ははっと顔を上げてから『自分は何も悪くはない』と言いたげに首を振った。
「どうしたの? あかつっきー先輩」
「暁月?」
 顔を見合わせた詩織と心咲は暁月の視線を辿ってから――はっと息を呑んだ。
 表情筋はそれ程動いていないがその雰囲気から『うるせえ!』と言う怒りが滲み出ている晴陽が立っている。
「はるちゃん……」
「はるひめ……?」
 どうにも怒り心頭の晴陽は「お静かに」ととげとげとした声音を投げ掛けた。
「どうしてはるちゃんが図書委員みたいなことして……」
「あ、夜善のせいかも」
 詩織は思い出す。隣のクラスに居る晴陽の元婚約者だという彼は図書委員だ。朗らかで明るい彼は性格で誤解されるが其れなりに勉強が出来る。
 晴陽が先日、元婚約者に勉強を教わりに来ていた事を思い出した。曰く、『使える者は使うべき。中間テストの過去問題を寄越せ』との事だった。
「しおりんはそういうの残して無さそう」
「暁月に頼ってるから」
「……」
 どうして、と言いたげな暁月に心咲が腹を抱えて笑った――そして晴陽の冷たい視線がもう一度寄越される。
「はるひめは真面目だからなあ」
「まあ、はるちゃん、学年一位じゃないと腹切りそうだしね」
「確かに……」
 楽しげに笑っている二人を見詰めながら暁月は『本棚の裏から此方を見ている』晴陽に気付いてから後が怖いなあ等と考えて居たのであった。
執筆:夏あかね

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