PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

おいしいはなし

関連キャラクター:ニル

大切なものだから
 それは街中で迷子の子を見つけたのがきっかけだった。大切そうに鞄を抱えて泣きべそをかきながら歩いているその子をニルは見過ごせなかった。
 手を差し出し、声をかけて両親を探しに行く。ニルの見た目もあってかその子は素直についてきてくれた。

「ありがとうございました!」
 迷子の子の両親は思ってたよりあっさり見つかった。そこまで離れていない公園で声を上げて探す大人の男女の姿かあったからだ。
「無事にお父さんとお母さんに会えてよかったです」
「あの、えっと、おにいちゃん? おねえちゃん?」
 ぎゅっと母親に泣きついていた子供が顔を上げて改めてニルを見て問うた。
「ニルはニルでいいですよ」
「じゃあ、ニル。これ、あげる」
 ごそごそとずっと大切そうに抱えていた鞄からその子が取り出したのはお菓子だった。丸い形の中にアイシングでかわいい見た目のデコレーションのされた大きめのクッキーだ。
 それを見て両親が不思議そうに首を傾げた。
「それはお前が帰ったら大事に食べるんだと言っていたクッキーじゃないか。いいのかい?」
「いいの、ニルは助けてくれたから」
「そう、だったら私たちは何も言わないわ。ニルさん、受け取ってくださる?」
 ここまで言われてしまえば大事なものだとしてもいらないとは言いにくかった。差し出されたクッキーを受け取る。
 食べてと目で訴える子供。少しだけ迷ってから袋を開けてニルはそれを口にした。サクッとした触感が伝わってくる。ほんのりと甘い、だがそれはあくまでもクッキーの情報でしかなく。
 それよりなによりニルにとって大事だったのは、
「おいしい?」
 心配と期待を込めた目で自分を見る迷子だった子の視線。それを微笑ましい目で見るその子の両親。クッキーが感謝の気持ちを込めて自分に与えられたのだということ。
「ああ、これは……『おいしい』のです」
 やったー! と喜ぶ子供を見て感じるあたたかかなもの。
 ふわりとニルの顔に浮かんだ微笑みは喜びと幸せで満ちていた。
執筆:心音マリ

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