PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

再現性アーカム

関連キャラクター:ロジャーズ=L=ナイア

一番幸せなサボテン。或いは、脳髄にお洒落をさせてあげよう…。
●脳髄におしゃれをさせてあげよう
「こっちはアンテナ。これは猫のテブクロ」
 ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)の言うことには、それらは“脳髄”を幾らかきれいにお洒落させてやるために、どこかの誰かが遥か昔にせっせと時間をかけて用意したものらしい。
「それから、あそこに見えるのは“一番幸せなサボテン”」
 黒い腕が虚空を泳ぐ。だが、指さした先には何も見えない。ただ、薄暗い夜の空だけがあった。
「やぁ、あれが葬列者から聞いた“一番幸せなサボテン”。見るのは初めてですが、なるほど、素晴らしいものです」
 何もない薄暗い夜空を眺めて、何の特徴も無い男……シャーラッシュ=ホー(p3p009832)は首肯する。ロジャーズも満足そうに頷くと、人の気配のない大通りを奥へ向かって歩み始めた。
 見えている景色が全てではないのだ。その証拠に、ロジャーズやホーは前へ前へと歩いているのに、周囲の景色は、立ち並ぶ建物は何も変わらない。
 そのことに多少の違和を感じる寒櫻院・史之(p3p002233)と水天宮 妙見子(p3p010644)は、知らず知らずのうちに映画の半券を握り絞めた。
 映画のタイトルは無い。上映時刻も記されていない。ただの白くて小さな紙だが、それは紛れもなく映画のチケットなのである。そして、チケットは既に半分に切られているのだから、なるほど2人は劇場の門を潜った後で、ともするとここは映画の中であるのかもしれない。
「えぇ~……ここって本当に大丈夫なんですか? 妙見子たち無事に帰れます? こういうことをする手合いは、元居た世界にもいましたけど碌な奴じゃなかったですよ?」
 無言のまま先を進むロジャーズとホーを追いかけながら、妙見子は隣の史之へと問うた。不安な気持ちを吐露するのなら、史之が適任であると考えたからだ。
 だが、悲しいかな史之はと言えば童子のように目を輝かせて、何もない虚空を凝視していた。それでいて足だけは、先を行く2人に置いて行かれないよう前へ進んでいるのだから、まったく器用と言う他ない。
「史之様? 何処かへ行っておられますか? 帰って来て!?」
「帰って来て? 何を言っているんだい? 帰って来たんだ。今、ここに! ほら、すこぉし眩しいかも知れないけど、見えない? “一番幸せなサボテン”が俺たちを迎えてくれているのが!」
「ひぇ」
 史之の目はぐるぐると回っていた。もうだめかもしれない。
「“一番幸せなサボテン”はお客人を迎えるのがお好きなようですね。おや? 妙見子さんにはまだ見えませんか?」
 くるり、と顔だけを妙見子の方へと向けて、ホーは薄い笑みを浮かべた。否、ホーは元々、薄い笑みを浮かべていて、それはここに来る前から、今までずっと仮面のように当たり前にその細面に張り付いているものだ。
 そのことに妙見子は今、はじめて気が付いた。
 気が付いたから、何と言うわけでも無いのだが。
「もしかすると脳内物質の分泌量が足りないのかもしれない。アンテナを足すか? それとも、そうだ、カブトムシの方がいいか? 脳髄をお洒落に着飾れば、きっとふわふわしてくるはずだ」
 ロジャーズも足を止めて、近くの家屋の壁へと黒い腕を伸ばした。壁からロジャーズが摘まみあげたのは、黒くて不定形のぐにゃぐにゃとした何かである。それがきっとカブトムシなのだろうが、妙見子の知るカブトムシとは似ても似つかない。
「ひょぇ」
 変な声が口から零れた。狐の耳もへにゃんと頭に伏せている。
「そうだよ、妙見子さん。脳髄を飾ろう! ここはこんなに綺麗なのに、勿体ない!」
「……これ、元に戻るんですか?」
 史之を指さし、やっとのことでそんな問いを口にした。
「Nyahahahaha!!!」
「ははははは!」
「あっははは!」
 答えは返って来なかった。
執筆:病み月

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