PandoraPartyProject

幕間

再現性アーカム

関連キャラクター:ロジャーズ=L=ナイア

美女と死臭
 ぶくぶくと嗤い始めた地面が、ぼこぼこと、逸脱したかの如くに腕を伸ばした。色欲の明るさに、薄っすらとしたピンクに惹かれたのか、異常なまでの量の『死』が腐れて異る。果たして、わたしはどうして、こんな場所にいるのかと、頭をぐるりと回したところで理解出来る筈もない。きっと、玉虫色な御伽噺に手を取られ、覚束ない袋小路にでも引き摺り込まれてしまったのだ。嘲るかのように陥没していた頭蓋がケタケタとヒトサマのフリをして逆撫でてくる。いや、こんなにも囲まれて掴まれて、弄ばれたら、遅延性の地獄も早期に起こるものだ。こっちにおいで、と、ゴルゴ―かモルモーかも解せない、真っ赤な足跡が見えて仕方がない――誰が駒鳥を殺したのかって? わたしよぉ、おなかがすいたもの。空腹を訴えているクセに胃酸が騒々しいのは何故だろうか。混沌め、嗚呼、混沌め。グツグツと煮え滾った棺の底へと翼を重ねて、暈ねて往く――アミュレットでも隠し持っていたのか、オマエ、塞がれた……。
 おや――貴殿でしたか。顔色が悪いようですね、まだ、オオコウモリの死骸にはなっていないようです。ヤケに重たい瞼を如何にか開けたところに『男』の貌。やわらぐ事の無い表情を視認し、オマエは『男』を『この街に関係している』ものだと直感で咀嚼した。残念ですが私と一緒に行くには早いようです。例のアイツが来る前に帰った方が良いですよ。伸びてきたのか、広がったのか、まったく解せない『腕』を支えにオマエは如何にか立位を保てた。出口まで私が案内しましょう。大丈夫です、アイツにはしっかりと地獄を見せておきますので――ピクニック気分で死臭を塗りたくられた。お名前は……。
 私はシャーラッシュ=ホーと申します。
 メリーノよぉ、メリーノ・アリテンシア……。
執筆:にゃあら
お父様
「お姉様!!!」
「貴様か、如何した」
「その、さっきからお父様が名状し難い寝返りを!!!」
「今直ぐ止めるのだ。やめさせろ。ここは混沌世界で不在証明が働いている筈だ」
「お父様! 困りますお父様! あー! 困りますお父様! 起きてはいけませんお父様!!!」
「何をしているのですか?」
「貴様か、丁度良い。貴様も手伝え、魔王のご乱心だ」
「あー! お父様! それに触れてはなりませんお父様! 困ります! 触れてはいけませ――」
 病的かつ禍々しい混沌とした極光――!
「今夜は姉妹の死骸丼と言うワケですね」
執筆:にゃあら
テイスティング
 赤と白と黄色と、その他の色で塗りたくられた、忌まわしいほどに綺麗なシリンダーを目にしていた。シャッガイからの昆虫etcが集ってくる前にサッサと始末をつけなければ成らない。宙返りしてもアノマロカリスはアノマロカリスの儘だが、いや、ハイドラ探しには十分な撒き餌と考えられる。代物が肝心だと何処かで出会った夜妖は嗤っていたが、そんな戯言に耳を傾けている暇などない。何故ならば、鮮度が落ちてしまったら勿体ないのだから。それじゃあ始めていくけど、カンちゃん、痛かったら教えてね。何を宣っているのかと思えば、オマエ、目隠しした状態で舌を伸ばすなんて狂っている……。
 今更、匙加減など確かめている場合ではなかった。テキトウなストローを突っ込んで、ぐちゃぐちゃと吸い易いように撹拌していく。この柔らかさは……うん……違う。呑み込む所以も無く別人だ。これは足掻いても藻掻いてもハイドラでしかない、これは触れても嗅いでも彼女ではない。次だ、次のシリンダーを持ってこい。ソケットは全部取り外して、だ。
 愛情を確かめる最上の方法は口腔で転がす事なのだと俺は絶対的に理解している。しかし、先程から一向に『彼女の柔らかさ』に辿り着けない。まさか、連中、僕の願いを無碍にしてくれたのか――不意に襲い来る衝撃、罅入り、割れたような意識の喪失……。
 ――かみさまは。
 ――かみさまは、ね。
 ――しーちゃん。
 一緒になることをねだっているんだよ。
 落ち込んだ、墜ちていった暗闇からの、暗澹からの覚醒は悦びと共に始まり、終わっていたのだ。ぼんやりとしている頭が、成程、露出している事だけはシッカリと把握出来ている。カンちゃん、縛らなくったって、騙さなくったって、欲しいなら、そう、笑ってくれれば良かったのに。ぷつぷつとつついてくるストローの甘さ、とろける松果のトプトプ……。死んでいるものが、味覚を有するなんて思うなよ……。

 何をしているのですか、死骸ではないものを食べるなんて、人間はおそろしい事をしますね。Nyahahahaha!!! 素晴らしい光景ではないか、展開ではないか、このグロテスクな美しさを、貴様は理解出来ないのか! 理解したくありません、ええ、お前の趣味が『良い』事は知ってはいるのですが――やはりお前はお前ですね、少しでも信じた私が愚かでした。
 そろそろご馳走様だ、見届け給えよ。
執筆:にゃあら
生ハムと手羽先、潮臭い邂逅
 繰り返す生ハムの奇跡――その塩加減は、成程、再現性インスマスに於いては貴重な代物だった。生ハムの原木を街に持ち込んだのは解・憂炎と称される、ひとりの亜竜種で在り、彼は自分でも理解出来ない儘『ここ』に滞在していたと謂う。おそらく、生えてきた鰓や鱗などは自らの妄想の類でしかなく、手遅れごっこが大好きな、クソッタレな神様の所業なのだと割り切る他になかったのだ。それにしても特異運命座標サマ、無限に喰えるなんて最高じゃあないか。しかし生ハムだけじゃ飽きてくる今日この頃、折角だ、アンタも『もう余所者じゃない』んだし、最近仕入れた貴重な肉でも食っていかねぇか? これか? これはだな。世にも珍しい鳥の手羽ってヤツさ。へえ、中々上質な部位だね。
 でも僕には生ハムの原木がある――なんて、断っても良かったのだが、如何にも、鼻腔を擽る、生臭い、血腥いものが、魅力的に映って仕方がなかったのだ。にじんでいる赤が滴って、ホントウに、旨そうで、美味そうで、我慢ならない。こいつはね、アンタ、そのまま齧るってのがツウな食べ方なのよ。悪魔の暗礁から来た連中も偶には魚以外の肉を貪りたいって時があんのさ。さあ、遠慮はいらねぇ、ガブリとやってくれ……。
 舌で踊ったぬかるみの喉越しと謂ったら、病的なほどにクセになるものだ。望んだ力の代償がひどくテキトウな狂気なのだとしたら、この程度の有り様など痛くも痒くもない。いや、真逆、知らなかったのか? 弱肉強食のピラミッドの頂点で指揮を執る……。

 メリーノ・アリテンシアが片翼を失くしたのは数日ほど前であった。所以に関しては彼女から直接『聞く』のが楽でよろしい。再現性アーカム、街中でアイスクリームを舐っていたその刹那だ。すれ違いのサマに嫌な『におい』を纏っていた、ひとつの男に目線がいく。お互いに会釈したところで、何故だろうか、思考よりも先に口が開いた。
「おくちにあったかしらねぇ……」
執筆:にゃあら
メリーノ・アリテンシアその他のアウトサイダー
 のたうつ文字列は私の『もしも』でしかない。
 結論として世の中には本当の人間など存在していないのだ。混沌だとか秩序だとか、悪だとか善だとか、こんなにも極まってくれた方が、まったく生易しいと謂うのに。もしや、考え事、悩まされているのは私だけなのかと虚空サマに問答を仕掛けてみる。勿論、答え、応えの類などなく、自らが這い寄る混沌だと謂う事を忘れて終うかの如く。嗚呼、俗に、有り体に文章を垂れ流すのだとすれば、現実――私はホイップクリームを吐き出せないほどに、吐き尽くした後だと謂う事だ。世間知らずの戯言だと読者諸君は、PL諸君は嗤うかもしれないが、テーマ・ソングを聞き逃している故だと私は決め付けておこう。塑うとも、奴は私の事を『おともだち』などと親しく接して微笑むが――姿見を最初から見ようともしていない。いや、貴様、確かに、我々の伽藍洞には鏡面が映っていたが、誰がカレイド・スコープを用意しろと告げた? 怪物の殺し方を連中は狂気の内に飼っていたのだよ……。
 ――ろーちゃん。どうしたのぉ。
 ――HA! 貴様の言動についての書き殴りだ。
 ――そういえばろーちゃん。ひとつだけ不満があるのよぉ。
 ――ほう?
 ――あのキャンディね。もうちょっと甘くてもいいと思うのよぉ。
 ――貴様は、最早、人間の真似なんぞ!
 やめて終え――と、吐き捨てる事は簡単だ。何せ、これ以上の吐き捨てなど言葉くらいでしか赦されていない。グルグルアイランドなどと愛らしい名称を改めて局外者に相応しい羅列とすべきだ。嗚呼、成程、虚れは私の妄想で在り、上位存在の、この、垂れ流しを垂れ流している者の人外への羨望の所為だが――キャラクターを大渦巻き、メイルシュトロームへと投げ込む所業は程々にし給え! 乾かしてからの、渇いてからの水分補給がヤケに速いではないか。私からすれば全てがマッチ・ポンプに思えて成らない。散らかっているのは詩なのか小説なのかワード・サラダのドレッシングなのか。アザトホースの如くに玉虫色でしかない。
 ――でもね、でもね。さいきん身体がかるいのよぉ。
 ――思っているよりカタバミちゃんもふれるし、なにより、常に、飛んでいる感じがするのよ。これってろーちゃんが言ってた『酔い』ってものかしらぁ。
 ――貴様がある意味で『眼を廻している』事は把握した。
 ――帰路も解せない千鳥足め!
 階段を上っているのか下りているのか、夢の中の別の『わたし』が踏み外しを願って幾数※。幻想を求める事がお上手な人々の足跡に則ってからっぽの器へと注がれる。仕方のない話だ。仕方のない御伽噺だ。シェアード・ワールド……ワード……。お呪いの類がお遊びの程度に思えてたまらない。もしかして私の科白そのものが遅延性のめまいとやらだったのか。少しだけ、ほんの少しだけ、私の所為、所業でも在るのだが……。
 ――だが、その前に。
 ――貴様、これを読んでいる貴様。
 ――デコピンだ。

 ――どこ見てるのぉ? ろーちゃん?
執筆:にゃあら
一番幸せなサボテン。或いは、脳髄にお洒落をさせてあげよう…。
●脳髄におしゃれをさせてあげよう
「こっちはアンテナ。これは猫のテブクロ」
 ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)の言うことには、それらは“脳髄”を幾らかきれいにお洒落させてやるために、どこかの誰かが遥か昔にせっせと時間をかけて用意したものらしい。
「それから、あそこに見えるのは“一番幸せなサボテン”」
 黒い腕が虚空を泳ぐ。だが、指さした先には何も見えない。ただ、薄暗い夜の空だけがあった。
「やぁ、あれが葬列者から聞いた“一番幸せなサボテン”。見るのは初めてですが、なるほど、素晴らしいものです」
 何もない薄暗い夜空を眺めて、何の特徴も無い男……シャーラッシュ=ホー(p3p009832)は首肯する。ロジャーズも満足そうに頷くと、人の気配のない大通りを奥へ向かって歩み始めた。
 見えている景色が全てではないのだ。その証拠に、ロジャーズやホーは前へ前へと歩いているのに、周囲の景色は、立ち並ぶ建物は何も変わらない。
 そのことに多少の違和を感じる寒櫻院・史之(p3p002233)と水天宮 妙見子(p3p010644)は、知らず知らずのうちに映画の半券を握り絞めた。
 映画のタイトルは無い。上映時刻も記されていない。ただの白くて小さな紙だが、それは紛れもなく映画のチケットなのである。そして、チケットは既に半分に切られているのだから、なるほど2人は劇場の門を潜った後で、ともするとここは映画の中であるのかもしれない。
「えぇ~……ここって本当に大丈夫なんですか? 妙見子たち無事に帰れます? こういうことをする手合いは、元居た世界にもいましたけど碌な奴じゃなかったですよ?」
 無言のまま先を進むロジャーズとホーを追いかけながら、妙見子は隣の史之へと問うた。不安な気持ちを吐露するのなら、史之が適任であると考えたからだ。
 だが、悲しいかな史之はと言えば童子のように目を輝かせて、何もない虚空を凝視していた。それでいて足だけは、先を行く2人に置いて行かれないよう前へ進んでいるのだから、まったく器用と言う他ない。
「史之様? 何処かへ行っておられますか? 帰って来て!?」
「帰って来て? 何を言っているんだい? 帰って来たんだ。今、ここに! ほら、すこぉし眩しいかも知れないけど、見えない? “一番幸せなサボテン”が俺たちを迎えてくれているのが!」
「ひぇ」
 史之の目はぐるぐると回っていた。もうだめかもしれない。
「“一番幸せなサボテン”はお客人を迎えるのがお好きなようですね。おや? 妙見子さんにはまだ見えませんか?」
 くるり、と顔だけを妙見子の方へと向けて、ホーは薄い笑みを浮かべた。否、ホーは元々、薄い笑みを浮かべていて、それはここに来る前から、今までずっと仮面のように当たり前にその細面に張り付いているものだ。
 そのことに妙見子は今、はじめて気が付いた。
 気が付いたから、何と言うわけでも無いのだが。
「もしかすると脳内物質の分泌量が足りないのかもしれない。アンテナを足すか? それとも、そうだ、カブトムシの方がいいか? 脳髄をお洒落に着飾れば、きっとふわふわしてくるはずだ」
 ロジャーズも足を止めて、近くの家屋の壁へと黒い腕を伸ばした。壁からロジャーズが摘まみあげたのは、黒くて不定形のぐにゃぐにゃとした何かである。それがきっとカブトムシなのだろうが、妙見子の知るカブトムシとは似ても似つかない。
「ひょぇ」
 変な声が口から零れた。狐の耳もへにゃんと頭に伏せている。
「そうだよ、妙見子さん。脳髄を飾ろう! ここはこんなに綺麗なのに、勿体ない!」
「……これ、元に戻るんですか?」
 史之を指さし、やっとのことでそんな問いを口にした。
「Nyahahahaha!!!」
「ははははは!」
「あっははは!」
 答えは返って来なかった。
執筆:病み月

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