PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

星空

関連キャラクター:ガイアドニス

前略、小さきものたちへ。或いは、いつかずっと遠い未来で…。
●さらさらと流れる
 やわらかな風が吹いている。
 ただ広い、永遠に果てなど見えないほどに広い広い草原に彼女は1人で立っていた。
 誰かが問う。
『君は何かを残せたのかな?』
 彼女はふわりと微笑んだ。
 それから、そっと目には見えない大切な何かを抱きしめるみたいに、胸の前で両の手を組む。祈るみたいにも見えるし、何かを掬っている風にも見えた。
 その白い手には、細かな傷が数えきれないほどに刻まれている。
「残したのではないわ。もらったの。大切なものを、たくさん、たくさん、もらったの」
 もらったものを、ほんの少しだけ返しただけと彼女は言った。
 それから、彼女は空を見上げる。
 雲の1つさえも見えない、どこまでも透き通るような青い空。まるで、空へと落ちていくかのように、目を閉じて、さらさらと吹く風に身を任せている。
『君のしたことは無意味だったかもしれない。君の死は無駄だったかもしれない。そんな風に思うことは無いかい?』
 再び、誰かが問いかけた。
 彼女は少しだけ、困ったような顔をした。
「分からないわ。でも、いいの。きっと皆なら、おねーさんの愛した儚くか弱い皆なら、きっと大丈夫だもの。きっと、何とかしてくれる。次に繋いでくれるはずよ」
『次? 次だって? 次なんて無いかも知れないよ?』
「あら、あなたが何を知っているの? 次はあるわ。絶対に。だって、ずっと、そうして次に繋いできたから、今があるのよ」
 意地が悪いわ、と。
 そんな風に、困った風に、彼女は笑う。
 彼女はずっと、笑っていた。
 少しだけ寂しそうに。もう、そこにはいない誰かの姿を探すみたいに遠くを見ながら、彼女はずっと笑っていた。
『そうかい。君がそう思うのなら、きっとそれが正解なんだろうね。それで、君はどこへ行く? この広い草原で1人、君はどこへ歩いていくんだい?』
「さぁ、これからどこへ行こうかしら。ずっと置いてかれてばっかりだったから……置いて行かれるのって、少し寂しいかもしれないわね」
 草原に1人。
 佇み続けるのは寂しいのだ。
「だから、もう少し待っていようかしら。この辺りをお散歩しながら、誰かが来たら、笑顔で迎えてあげなくちゃ」
『すぐに誰かが来ると思っているのかな?』
 意地の悪い問いかけだ。
 ガイアドニスは、首を振る。
「いいえ、いいえ。ずっと先よ。皆はゆっくり来るはずだもの。たくさんの人を助けて、やりたいことをたくさんやって、美味しいものを食べて、綺麗な景色をたくさん見て、笑い合って……」
 彼女は。
 ガイアドニスは、満面の笑顔で両手を広げて、言葉を紡ぐ。
「一生懸命に生きて、生きて、生き抜いて……そして少し疲れた頃に来るのではないかしら。その時はおねーさんが抱きしめてあげなくっちゃ」
 風が吹いた。
 さらさらと流れる暖かな風が、ガイアドニスの髪を揺らした。
「抱きしめてあげて、がんばったねって言ってあげて、それからおねーさんがいなくなった後の話を聞いて……そうして、たっぷり休んだら、背中を押してあげなくちゃ」
 命は巡る。
 レガシーゼロのガイアドニスは、本物の人生を生きたのだ。
 だから、これは単なる余談。
 誰も知る必要のない、ガイアドニスというただ1人の後日談。
執筆:病み月

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