PandoraPartyProject

幕間

Interlude

関連キャラクター:チック・シュテル

波間の聲
(昨日は……悪いこと、しちゃった……な)
 岩場で聞いた歌声の主。せっかく伸びやかにしっとりと歌っていたのに、音を立てて邪魔をしてしまった。
 謝りたい気持ちで昨日と同じ岩場へと足を運んだが――歌は聞こえない。
 自然と溜息が溢れてしまうけれど、チックは頭を上げて気持ちを切り替える。
(おれが、謝りたくて……謝るために、会わなくちゃ……)
 チックは彼の歌をまた聞きたいと思っている。
 今日が駄目でも、また明日がある。明日が駄目でも、また次の日。
 彼に謝れるまで、時間が許す限りこの島に滞在しよう、とチックは決めたのだった。

 誰も居ない岩場に足を運んだ日を幾日も繰り返した頃、ようやっと彼が姿を現した。
 けれども緑を身に持つ彼は警戒心が強いのか、チックに気付けばすぐに身を翻してしまう。
「待って……!」
 謝れずに終わってしまう――!
 焦ったチックは口を開き、そして『歌った』。
 気持ちを篭めて歌えば、眼前の海種の青年の動きが止まる。暫く佇んだ後、肩越しにチックを視界に入れるその姿にチックは彼が逃げずに話を聞いてくれることを悟り、歌を止めた。
 まずは先日歌の邪魔をしてしまった非礼を詫び、君の歌をもっと聞きたいんだと語りかけて。
 慌てず彼の反応を待ち、微かに顎が引かれるのを待ってからチックは己の胸に手を当てた。
「おれ、は……チック。チック・シュテル。……君、は……?」
「チック。……よい響きの名だね。私は千歳。珠海の家の者だよ」
 歌がふたりを紡ぎ、名を告げあい、そうしてふたりは友達となった。
 珠海という家はその島を治める家であること、そしてそれに連なる悩みが千歳にあること。それはまた、幾度も時間と歌を重ねた後にチックは知ることとなる。

 昨日と同じ岩場に足を運ぶ。
 今日も、歌が聞こえていた。
執筆:壱花
langsam

「……ふぁ、ふ」
 大きくこぼれた欠伸は両の手で塞ぎ、うん、と伸びをして。
 カーテンの隙間から差し込む陽光をその身で受け止めんと、カーテンの爪先をそっと壁へと連れていく。
 お行儀よく爪先を揃えたカーテンは、リボンでくるりと一纏めにして。青い空がチックの瞳の太陽を照らした。
「ん……寝すぎた、かも」
 ちく、たく、ちく、たく。秒針の音が聞こえる。ゆるやかにリズムを刻む拍動は秒針なんかお構いなしにマイペースだ。
「朝御飯、何にしよう、かな……」
 昨日買ってきたフランスパンにベーコンエッグを添えても良いし、大きく切り込みをいれてお手軽サンドイッチにしてもいい。甘く味付けたたまごのシロップで浸してフレンチトーストなんかも良いだろう。
(まずは……冷蔵庫と相談、しなきゃ……)
 もう一度ぐぐっと空に手を伸ばし。今日を始める支度のその最初に、朝御飯を作ることにしよう。
 ちょっぴり冷えた床に揃えたスリッパを引き寄せて、寝ぼけ眼を擦りながら。チックはキッチンへと足を進めた。
執筆:

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